外交で東アジアの平和と安定めざす

3月、沖縄県民の注目すべき前進

『日本の進路』編集部

 台湾有事が叫ばれ大軍拡予算が成立、政府では抑止力という軍事力強化だけが目立つ。こうした中で沖縄は3月、県議会の意見書採択など、東アジアの平和と安定をめざして外交で事態を打開しようとする画期的前進が見られた。玉城デニー知事が中国を訪問する計画も言われる。2月26日には「沖縄を平和発信の場に」と全国に共同の努力を呼びかける緊急集会も開かれていた。県民、県知事、県議会が一体となって動き始めた。


 「軍事要塞化」が進み、再び戦場とされる危機に直面して沖縄県民は島ぐるみで立ち上がり始めている。努力されている皆さまに心から敬意を表します。
 一方、林芳正外相が訪中し、3年ぶりに北京で日中会談がもたれた。しかし、衰退するアメリカは興隆する中国を抑え込もうと敵視包囲戦略を強めている。岸田政権の安保関連3文書とそれに基づく大軍拡路線は拍車がかかる。
 自主的な平和外交で東アジアの平和と安定へ、この沖縄の呼びかけに応え、全国に広げ、中国敵視ではなく自主外交で平和構築をめざす国民世論を実現しよう。

平和構築を求め玉城県政と県民の協働

 沖縄県議会は3月30日、「沖縄を再び戦場にしないよう求める」意見書を採択、日本政府に「日中両国において確認された諸原則を遵守し外交努力」を求めた。
 同日、照屋義実副知事は駐日中国大使と面談、玉城デニー知事訪中の意向を伝え協力を要請した。
 それに先だって玉城知事は3月6日から訪米し、改めて辺野古基地建設反対を米政府に伝え、平和的な外交、対話による緊張緩和を訴えた。県は新年度から地域外交室を立ち上げ、近隣諸国との信頼醸成、平和構築の自治体外交の独自展開に乗り出している。
 また、国境である石垣市の議会も3月20日、「日中両国間の諸問題について外交的解決を求める意見書」を採択し、抑止力強化一辺倒に懸念を表明、「原点に立ち返り平和友好関係を堅持していく冷静な対応」を求めた。同議会は、思惑もあるのだろうが自民党会派の提案で「知事自ら中国に出向き、平和外交を積極的に展開すること」を求める意見書も採択している。
 県議会意見書の採択に賛成したのは、玉城知事与党会派だけではなかった。中立的立場をとってきた「無所属の会」が賛成、自民党を離党した元同党県連会長で現県議会副議長も事実上賛成し、さらに公明党会派も「退席」するなど、採択に呼応した。広範な県民の願いを反映した採択結果となった。沖縄で歴史的と言える県民政治意識の変化が窺える。
 この状況は戦争ではなく平和、アジアの共生を求める全国的な国民意識の兆しに違いない。それに政党が応えようとすれば政治状況にも変化が避けられないし、それを促す積極的努力が求められる。

意見書は的確な提言だ

 県議会意見書は、まず政府が閣議決定した安保関連3文書に触れて、いわゆる「反撃能力の保有」など「沖縄の軍事的負担」が強化され、本島と八重山諸島にミサイルが配備されるなど沖縄県の軍事要塞化も進んで「沖縄が再び『標的』とされるとの不安が県民の中に広がっている」と危機感を表明している。当然である。
 その上で、「軍事能力の増強による抑止力の強化がかえって緊張を高め」ることを指摘する。過酷な地上戦を体験した沖縄県民は、「皇軍」に死を強制された教訓も含めて軍事力によっては住民は守られないことを知っている。そして今日、政府やマスコミが煽り与野党問わずほぼ疑問を挟まない、「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増している」との状況認識について、「と言われる」と正しくも懐疑的である。
 誰が緊張を激化させているか。「抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずる」と指摘する。むしろ軍事力強化で「危険性が増す」と懸念する。
 したがって安保3文書が、「中国の対外的な姿勢や軍事動向等を国際社会の平和と安定への最大の戦略的な挑戦と位置づけて」、中国を事実上敵扱いすることに疑義を呈する。これまた正当で当然な見解である。
 「一方」と意見書は、1972年の「日中共同声明」をはじめ、「日中平和友好条約」「日中共同宣言」「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」、及び2014年の谷内正太郎国家安全保障局長と中国の楊潔篪国務委員との会談合意文書「日中関係の改善に向けた話合い」などを明記し、これらに貫かれた「日中両国において確認された諸原則を遵守」し、日本政府に、「平和的に問題を解決すること」を求めている。この「諸原則」の核心は「台湾は中国の不可分の一部」の原則である。その「遵守」と「平和的に問題解決」は、両国間を安定・発展させる上で極めて重要である。また、14年の「話合い」は、尖閣問題の事実上の棚上げを再確認したものだ。日中関係を維持発展させる上でいささかも曖昧にしてはならない原則を再確認した。
 意見書はさらに、中国脅威論の否定にとどまらず、むしろ「中国は日本にとって最大の経済パートナー」「お互いに必要不可欠な関係」と両国関係を見る。
 したがって日本政府に対し、抑止力ではなく、対話と外交による平和構築へ積極的役割を果たすこと、そのためにも「日中両国において確認された諸原則を遵守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題を解決すること」を申し入れている。
 歴史を踏まえた沖縄の積極的な提言である。

画期的な沖縄県自治体外交

 先だって玉城デニー知事は県議会での県政運営方針で、安保3文書に関して「国民的な議論や地元に対する説明がないまま、南西地域を『第一線』とする安保関連3文書が策定されたことは、熾烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせる」と憂慮を表明した。その上で政府に、「平和的な外交、対話による緊張緩和と信頼醸成」を求めるとともに、沖縄県独自の自治体外交を提起した。「平和構築に貢献する独自の地域外交を展開するため、知事公室内に地域外交室を設置する」と述べた。
 沖縄県はこれまでも米軍基地の負担軽減など、あるいは、中国・福建省や台湾との経済交流を目指して自治体外交を進め対応してきた。
 「外交・防衛は国の専権事項」とも言われる。だが、政府が日米安保体制に基づく基地負担を一方的に沖縄に押しつけ、しかも県民の苦悩を一顧だにしないもとで、県が独自の外交で問題打開をめざすのは必然だ。今や事態はそれにとどまらない戦争の危機だ。
 こうした中で玉城知事は県政課題に独自の自治体外交、「平和構築への貢献」という目標を設定した。知事は、訪米に続いて、中国を訪問する意向だという。米中戦争となれば戦場化が避けられない沖縄の知事として当然の外交努力であり、断固支持する。
 状況が危機的なだけに迫られてもいるが、沖縄は、歴史的にも地理的にも、その持つソフトパワーを生かした自治体外交によってアジア太平洋地域の緊張緩和に寄与できるポテンシャルを有している。沖縄はアジア太平洋の平和のハブにならなくてはならないし、なることができる。知事はその具体化の先頭に立とうとしている。
 岸田政権が、アメリカの世界戦略に縛られて、対中国包囲網形成で大軍拡に乗り出す中で、それを阻止するために全国で住民の命と生活に責任を負う地方自治体と広範な国民の「戦争を止める」外交努力が必要である。
 「万国津梁(架け橋)」の沖縄に期待する。全国の地方自治体は応えようではないか。民間の平和交流を進めようではないか。