酪農・畜産・コメ・農業危機突破、食料安全保障推進

百姓一揆の気概で
農業危機突破・食料安全保障の確立に向け運動を

北海道農民連盟委員長 大久保 明義

ウクライナ侵攻や円安などで燃油・飼料・肥料など生産資材は高騰、農業はかつてない危機に直面している。最大の食料生産地である北海道で、果敢に闘い続けている北海道農民連盟の大久保明義委員長に、北海道農業の現状と課題、農業危機突破・食料自給率向上、 食料安全保障確立などについてお話を伺った。(見出しも含めて文責編集部)


 私は山形県天童市にある穀物乾燥機などのメーカーで21年間サラリーマンをやっていました。父親の病気の関係で、これからの農業は北海道だということで、空知地域の栗山町にUターンで農業を始めました。規模は13ヘクタールくらい。10ヘクタールの水稲、転作の小麦、カボチャ、長芋、それに若干の野菜を作っています。息子もやっていますので今後は規模拡大をしたいと思っています。
 昔、北海道の米は「やっかい道米」と言われましたが、「きらら397」に始まり、「ななつぼし」「ゆめぴりか」と全国的にもおいしいブランド米になってきました。空知地域は米の生産量が北海道の半分を誇っているところです。
 しかし、私の南空知は減反率が高いところです。栗山町の減反率は約64%、隣の長沼町は減反率80%です。まさに国の減反政策に協力してやってきました。

北海道農業の現状と課題

 昨年は水田活用の直接支払交付金の見直し、燃油・飼料・肥料等の生産資材高騰問題、コロナの影響もあり米・砂糖・牛乳の消費減少など、北海道農業は課題を抱えています。
 まず水田活用の直接支払交付金(水活)見直し問題。主食用米の消費減少の中で生産調整に協力し、水田で麦・大豆・ソバなどの転作作物を作れば交付金が給付されていました。
 ところが一昨年10月に「過去5年間、水張りをやっていない所は交付対象から除外する」という見直し内容が報道されました。交付金の対象から外れると大幅な収入減となり、転作作物の継続が難しくなり離農や耕作放棄になりかねません。北海道は米の減反率が高く、「水活」の総額は約530億円(2019年度)です。私の地元・栗山町でも9億円。水張りをするためには水路や畦の整備が必要です。何億円もの交付金が切られれば、地域にとっても死活問題です。国の政策に協力してきたのに、ハシゴを外されたと、現場の農民は怒り、大騒ぎになりました。
 自給率向上のためには、畑作の麦・大豆などの国内生産を奨励すべきなのに、畑作を続けると交付金対象から除外すると。つまり交付金を継続するには米を作れという矛盾だらけの政策です。
 急きょ上京し、複数の与野党国会議員に「国の減反政策に協力してきた北海道としては、今回の見直し案に到底納得できない」と訴えた結果、「今後5年間」に猶予されることになりました。
 「水活」に関して農水省にはリモートも含めて何度も要請しましたが、なかなか状況が改善しないため、主要農業関係議員への直接要請に変えていくしかないと判断しました。

 最終的に昨年9月15日にオール北海道として、北海道の農政部長を筆頭に、JA道中央会、道農連などの関係団体で与党の国会議員や北海道選出国会議員に要請しました。農家だけでなく地域経済にとっても深刻な問題だと訴えました。自民党は10月いっぱいで一定の結論を出していきたいとの回答で、少し手応えを感じました。
 そして11月末に、麦・大豆・ソバなどの畑作物による畑地化支援交付金が10アール当たり10・5万円から14万円に拡充され、さらに5年間×2万円を出すという新たな政策が出ました。また「今後5年間に水稲を作らなければ交付金の対象から除外」から「水稲を作らなくても1カ月の水張りでも可能」に変更、そうすれば従来通りの交付金が継続できることになりました。

食料環境が激変。生産資材の高騰で危機的状況

 昨年2月のウクライナ侵攻で、世界の食料環境が激変しました。それ以前から燃料が高騰していたところに、円安も重なり、輸入に頼っている飼料や肥料など生産資材が高騰、酪農・畜産を中心に危機的な状況になっています。
 この問題では、5月に上京したときにも要請しています。7月3日には「生産資材高騰対策等緊急全道農民代表者集会」を開きました。水田活用交付金見直し問題を抱える水田、畑作、とくに酪農・畜産は危機的な状況であることを訴えました。また12月6日の各地区委員長会議でも、資材高騰は深刻で、とくに酪農畜産は危機的で、主産地である道東では3月ごろに多くの酪農家が離農するのではないかという切羽詰まった状況が報告されました。国の対策は不十分であり即効性のある対策を求めること確認しました。
 肥料は水田・畑作全般に深刻な影響があります。東大の鈴木宣弘教授は説得力のある数字も挙げて訴えていただいているので、農家にとっては心強い応援団です。飼料の高騰は酪農・畜産にとっては大打撃。とくに酪農は本当に大変です。「乳搾るな」「牛を処分しろ」という政策に協力したが、もう限界だと。さらに酪農家の経営の重要な副収入の一つが、ぬれ子(ホルスタイン種の生後2カ月までの雄子牛)の販売価格ですが、2021年には1頭10万円以上だったのが、昨年8月には平均で1万円を下回り、半分は値段がつかず「持ち帰り」という異常事態で、現在でも回復せず依然として低水準で推移しています。
 ホクレンの取引乳価は、飲用向け等が昨年10月から1キロ当たり10円上がり、今年4月からは乳製品向けも10円上がりますが、生産資材の高騰にとても追いつかない状況です。また水田や畑作の昨年の収穫はおおむね豊作で、単価は低いですがなんとか乗り切りました。肥料等高騰が続いており、今年はさらに危機感が強まっています。
 日本農業は農畜産物自由化の中で、家族農業は衰退。農水省の指導は規模拡大でした。稲作や畑作、酪農・畜産も大規模化が進みました。北海道農業はその典型で、とくに酪農の投資金額は何億円規模です。大規模化を指導しておいて、「乳搾るな」の政策で収入減、飼料等高騰で支出が大幅増加で、まさに倒産の危機。国は知らんでは済まされません。

自給率向上で、食料安全保障の確立を

 昨年は、輸入食料が高騰し国民全体に食料への関心が高まったと思います。一番はロシアのウクライナ侵攻が一日も早く終わって安定してほしい。中国は食料や生産資材を爆買いするなど、食料自給に着々と手を打っています。
 「国際物流停止による餓死者が日本に集中する」という衝撃的な研究結果をアメリカの大学の研究者が発表しました。局地的な核戦争が勃発した場合、「核の冬」による食料生産の減少と物流停止で、餓死者が食料自給率の低い日本に集中、世界全体で2・55億人のうち約3割の7200万人が日本の餓死者と推定しました。
 日本の食料自給率38%(21年)は異常で、「自国の食料は自国で賄う」という食料安全保障政策の確立が求められています。「食料・農業・農村基本計画」で掲げる目標達成、とくに食料自給率の向上の政策が急務です。
 鈴木教授が言われるように1機100億円以上もするオスプレイをたくさん買うより、その分を農業予算に回して国内農業生産振興・自給率向上につなげてほしい。農業には展望があるという中長期的な政策がなければ若い人たちが就農しません。これほどの生産資材の高騰などもあり、北海道でも親世代が息子に自信をもって農業を継げと言いにくい状態です。
 NHK「混迷の世紀」〈世界フードショック〉で、経済学者ジャック・アタリ氏が「豊かさの象徴としての食から、いま生きる土台としての食」「もし私たちがすぐに行動しなければ、人類史上最大の食料危機となるかもしれません。異常気象で、食料が底を突きかねない状況の中、今回の戦争が駄目押しとなりました」と述べています。また元農林水産事務次官の方は「お金があって海外から食料を買える世界から、そうでない世界に変わっている」と。反省も込めた発言だと感じました。
 私自身もウクライナ侵攻があるとは思いませんでした。それを契機に食料の争奪戦が始まっています。食料をめぐる環境が激変しました。

おやじの時代には、むしろ旗を立てて闘って米価が上がった

 自国の食料は自国で賄う、生きる土台としての食。国民を飢えさせないためにも、輸入依存から国内生産へシフトしてもらいたい。それが食料安全保障政策だと思います。「海外から食料を買える時代ではなくなった」わけで、食料・農業へもっと予算を投入すべきです。財務省・経産省主導の農業軽視を転換しなければ自給率は向上しません。岐路に立っています。国民の食料ですから国民的な議論をすべきです。
 また、遺伝子組み換えやゲノム編集の食品等が出回っています。とくに子どもたちの食の安全は重要で、発ガン性の疑いのあるグリホサートが残留した小麦を食べさせてはいけません。残留農薬の規制や表示義務の実施など食の安全に関する制度を厳格化すべきです。
 酪農をはじめ農業は深刻な危機ですから、私は「百姓一揆」をするしかないと思っています。北海道農民連盟はそういう組織だし、やらなければいけないと思っています。おやじの時代に、むしろ旗を立てて闘って米価が上がった。おやじは「この組織は大事だ」と常々言っていました。農民連盟があって北海道農業は経営が安定してきたんだという自負があります。
 北海道は日本の食料基地、国民の安全安心の食料生産を今後も継続したい。そのためには農家が生活できる持続可能な政策、具体的には戸別所得補償するかは別にして直接支払制度だと思います。農業は国の基、決して諦めることなく全力で運動展開していきたい。全国の皆さんと連携して頑張りたいと思います。


「農民一揆だ!」と、のぼり旗を掲げて(生産資材高騰対策等緊急全道農民代表者集会 2022年7月3日、札幌市)