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広範な国民連合第25回全国総会 ■ 農業問題 鎌谷 一也

壊滅しかねない日本酪農、破綻する水稲経営
農畜産業の2本柱の再構築なくして、日本の食料安保はない!

全日農会長代行、農事組合法人八頭船岡農場組合長、㈱みんなの農場会長 鎌谷 一也

 農民運動に関わりながらも、現場では260ヘクタールの農事組合法人の組合長、そして畜産では農事組合法人の繁殖経営のほかに、1100頭規模(搾乳牛は530頭)規模の酪農経営を行う酪農法人の会長を務めている。今、日本農業の2本柱である米と牛乳が最大の危機を迎えている。


 賀川豊彦のいう「乳と蜜の流るる郷」づくりを目指してきたオヤジの頃から、乳と米は国民の食糧の基礎・柱であった。オヤジの頃には米価闘争に乳価闘争が激しく展開されてきた。米価は生産者米価に消費者米価と二重米価、また乳価は不足払制度が勝ち取られ、南北戦争(乳価をめぐる北海道と本土の酪農家同士の対立)も回避されていた時代のことである。
 米の価格保証制度の変遷を見ても、二重米価はもちろんのこと、戸別所得補償制度の廃止、生産調整の廃止、そして昨年来の米価暴落である。再生産どころか、物財費も出ない米価に兼業農家のみならず米作農家の経営危機がいよいよ顕在化している。農水省の米の生産費調査を見ても、50ヘクタール規模の農家経営までが赤字となる。

わが農場では……

 農事組合法人であるわが農場は、水田面積、構成員とも旧町全体の75%を占め、面積260ヘクタール、農家の構成員545人で、職員は17人抱える。260ヘクタールの筆数は2200筆、1枚の平均面積は約12アール、中山間地域直接支払いの対象は、約800筆117ヘクタールに及び、水田規模の非常に小さい純然たる中山間地域の農業地帯だ。260ヘクタールのうち、食用米は134ヘクタール、飼料稲・飼料米、特にソフトグレインサイレージ(SGS)を中心に飼料作物は60ヘクタール、キャベツ3・5ヘクタール、白ねぎ6ヘクタールなどを栽培。また二毛作として小麦を7ヘクタール栽培、和牛繁殖も成牛24頭で、放牧も実施しながら経営している。
 昨年、米の売り渡しの概算金は2割程度減少した。実際、構成員の米の出荷状況は、2020年と21年では、表のようになっている。昨年11月の精算時では、19・1%の下落だ。
 2割で60キロ2400円の下落とした場合、全国の農家レベルで見ると、昨年の米生産量700万トンで換算すれば、実に2800億円の所得が吹っ飛んだ規模になる。水田活用の直接支払交付金が3300億円といわれているが、そのレベルの農家の減収である。いったいその分を誰が儲けたのか得したのか、と昨年は怒りのデモもした。
 地域によっては8俵もとれない中山間地域なので、実際の収量は少ないわけだが、反収500キロとして計算すると、10アール8万1700円の販売額となり、農水省の令和元年度の米の生産費の11万2700円から計算すると、約3万1000円の赤字となる。
 中山間地域の農家・構成員は小規模のため、農協のカントリー等を利用するが、乾燥利用料等3割が控除となるので手取りは5万7000円。ほかに刈り取りの委託、田植えの委託料も発生。さらに肥料・農薬となれば、とてもやっておられない赤字となる。実際、昨年の秋は、米代を振り込むどころか、肥料代や作業委託料等が払えない農家が続出し、500万円ほど引き落としができないという事態も発生した。

ナラシ対策では不十分

 最終的には、米のナラシ対策(収入減少影響緩和交付金)に入っていたので、実質10アール当たり1万2700円の補塡と、町の次期対策で5000円、計1万7700円の補塡があり、減収分がほぼカバーできたものの、なければ完全にアウトだ。しかし、ナラシ対策の対象にならない農家をはじめ、特に中山間地域では生産コストはさらに高く収量は少ないため、廃業が加速的に進むことが懸念される。農場の組合長の立場からすると、言うことはできないが、本当に米作りをやめた方がよいという状況にある。
 そして今年のわが地域の米の概算金はわずか60キロ当たり300円の引き上げだ。昨年を2割、2000円以上下がっていることを考えると到底経営できる水準ではないし、肥料の高騰により引き上げ分は吹っ飛んでしまう。政府は肥料高騰対策で、市町村を含め9割の補塡と言っているが、自己努力部分の削減対策は容易でなく結局農家の負担増となり、値上がり幅の35%が農家負担となる。また、ナラシ対策は、再生産補償制度ではなく、市場価格の過去の平均との差額補塡のため、低米価が継続すれば、補塡はなくなる。
 もはや、兼業農家や小規模農家だけでなく、政府が進めてきた集落営農法人や担い手も、米中心の経営体は破綻しかねない。特に集落営農法人は、赤字になれば個人と違って構成員に配当ができない、組織自体がもたないという問題がある。
 一方、政府は低米価はそのままにして、転作についても畑地への転換を促し、転作奨励金を廃止する方向を強めている。飼料稲・飼料米の交付金すら、削減を狙ってきている。米価は安く、資材は高い、転作奨励金は削減狙いという、まさに前門の虎に後門の狼状態だ。さらに、インボイス制度で、税制から網をかけてきている。従事配当の扱いで消費税の還付が多かった集落営農法人であるが、逆に支払いが増加する結果となる。
 いったん集落営農法人に農地を集積させたのはいいが、ハシゴを外す。まるで法人つぶしでしかない。この結果、企業が、経営悪化の法人や集積している農地を狙うことになりかねない。

わが酪農経営は……

 平成28年、新規に畜産クラスター事業で成牛600頭規模の酪農団地をつくった。減少する乳量、進む酪農家の高齢化と戸数の減少に危機感をもち、地域の生産基盤と後継者の確保、現状120ヘクタール分のSGSを利用する耕畜連携、バイオマス発電と堆肥や消化液の還元等に取り組んでおり、若い役職員17人が頑張っている。
 牛の導入も含め、新規事業として25億円で着手、借金は18億円でスタートした。今年単年度は黒字になる予定が、飼料高騰等により1億円近い赤字となりそうだ。借金は元に戻り、累損の解消は順調にいっても10年先となりそうである。
 配合飼料の価格上昇によって、わが経営だけでなく、全国の酪農家の経営はどういう状況となっているか。まさに、現状の制度・対策だけでは壊滅しかねないと言わざるを得ない。
 令和2年の配合飼料価格と比較し、現在は1・5倍となっている。餌基金の補塡があるものの実質の餌コストは増嵩し、令和2年度の収支をトントンとして試算すると、現在でも乳価に占める労賃部分17円/キロ相当はゼロとなり、耐え難い経営と生活を強いられている。これに、餌基金の補塡がなくなるであろう1年先は34円の値上げが必要となる。11月の乳価10円値上げだけでは、経営は成り立たない。
 さらに、34円以上の値上げが必要な要因として、①粗飼料いわゆる輸入している餌としての草は配合飼料以上に負担が大きいこと、②これまで順調であった子牛等の副産物収入が急減していること、③クラスターに乗っかって拡大した経営の借金の金利等、が挙げられる。
 酪農家が相当数倒産しても、現状の制度では、乳価は34円以上値上げにならなければ、すべての経営がもたないという状況にある。

米も、生乳も、価格保証・所得補償政策の確立を……

 むろん、消費者に飲み支えていただく、食べていただくことも重要である。しかし、牛乳をみても、生産者の手取り乳価の約2倍が牛乳の価格となる。34円上がると牛乳は70円の値上げだ。消費も減退し、優良なタンパク供給源としての対策も考えなければ、子供たちは牛乳が飲めなくなる。そのため、生産者にとっても、消費者にとっても、酪農の生産基盤を守り、経営を継続できる価格保証、不足払い制度等のセーフティーネットの確立は不可欠である。
 米の消費拡大と併せ、長期的な水田の基盤を守ることは、食料安保の上でも環境保全の上でも重要な課題である。乳と米、生産者・消費者共同の願いとして、安心して生産し続けられ、食べ続けられる制度の確立を願うものである。
 今こそが絶好のチャンスである。