「対中国外交の転換を求める」問題提起 西原 春夫

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「対立超克理論」の提唱

早稲田大学名誉教授(元総長) 西原 春夫

 ご紹介をいただきました西原でございます。
 私どもは、「東アジア不戦宣言」というプロジェクトを進めております。『日本の進路』誌の2020年9月号に詳しく紹介されています。この行動の背景には、実は私ども独特の考え方があります。その考え方には、ひょっとすると皆さまにとって参考になるところがあるかもしれません。そこで、この背景となる考え方についてまず話をさせていただきます。それは「対立超克の理論」です。


国家間の「対立」は解決が難しいことが多い

 戦争が起こるのは、国同士の政策とか利害とか意見とかが対立しているからでしょう。したがって戦争を防ぐには対立を何とか解消、緩和、解決しなければならない。こういうことになるわけですね。これは皆さんそのようにお考えだと思います。
 ところが世の中の対立というのは、その原因が複雑で、感情に左右されたり、建前とかメンツとかが絡んだりして、とても解決ができないことが多い。これも皆さまご経験のとおりです。尖閣の問題、北方領土の問題、日韓の間の徴用工や慰安婦の問題、いずれも解決がほとんど難しい、こういう状況でございます。
 戦争の原因となる対立は解決困難だ、だが、戦争は絶対に防がなければならない。どうします。そこに出てくるのが私の「対立超克の理論」なのです。つまり、解決できない対立はひとまず「解決」を棚上げにして、その対立を「超克」しよう。そういう考え方でございます。
 超克の方法を一口で申しますと、対立しているものの次元の一つ上の、一段高い次元に立とうということです。対立している次元ではどうしようもないから一つ上の次元に立とう。
 一つ高い次元に立つ。そのためには、対立しているものの両方を含む共通の分母をつくり出せばよい、できれば「共通の利益」をつくり出せば両方は仲良くなる。場合によっては仮想敵をつくる必要があるかもしれない。仮想敵をつくってでも共通の利益、共通の分母をつくり上げる。こういう考え方を私どもは「対立超克の理論」と名付けております。
 鳩山元総理はそのような表現はとっておられませんが、戦争回避のためにアジア共同体をつくろうというご構想の中には、似た考え方が横たわっているのではないかと、私どもは見ております。

「超克」の形としての東アジア不戦宣言

 この超克の理論の実践として、つまり、この対立超克の理論をもって本日の集会のテーマとの関係で私どもが何をやっているのか。ここでは二つのことを紹介しようと思います。
 第一は「東アジア不戦推進プロジェクト」です。2022年2月22日22時22分22秒、「2」が12重なる時というのは千年に1度しか来ません。その特異な時点を期して、東アジアという地域を構成する全ての国の首脳が、共同で、または単独同時に、「東アジアを戦争のない地域にする」という宣言を発することを究極の目的とする。
 それを、戦争時代を直接体験して戦争の何たるかを表から裏までを知り尽くしている日本の「長老」が提言する。今で言いますと87歳以上にあたる方々18人が集まってくださいまして、その長老が今申したような共同宣言の提案をする。これが私どものプロジェクトでありまして、昨年の夏にこれを発表いたしました。
 このプロジェクトに中国も参加していただく。これが最大の狙いでございます。困難なことは言うまでもありません。多くの人がそんなことはできるはずがないと思われている。しかし、世の中は動いています。ひょっとしたら、秋から年末にかけて大きな動きがあるかもしれません。その点は皆さまご注目ください。

「敵をつくらない」が国際政治・外交の本旨

 実践の第二は、国際政治・外交の本旨について独特の提案をしていることです。安全保障の本旨は、「敵が攻めてきたときにどうやって国を守るか」、これが安全保障の本旨であると誰もが考えていると思われます。現在の国際情勢からすればこれは当然のことであって、このテーゼを否定することはできません。私も否定するつもりはございません。
 しかし、実はそこに問題の根源が横たわっていることに気付かなければいけない。このことをここで強調したいと思います。理由は簡単です。
 第一にその場合、敵とされた国は当然いい気持ちがしません。したがってその国と友好関係を結ぶことがとても難しくなってきます。第二に、かえって敵の武力を増進させる結果を招きやすい、こういう問題点があります。そして第三に、それがわが国にも跳ね返って、そのような敵から国を守るためにはこちらも武力を増強させようという、その傾向をどうしても消すことができません。昨日も新総理の施政方針演説がありましたが、そこにもそんな傾向が表れていました。
 このように見ますと、本日の集会の根拠となった皆さん方の懸念も、実は本をただせばこの安全保障テーゼにあることが分かってきます。私どもはそこから出発しなければなりません。
 私どもはこう考えております。紹介した対立超克理論に立って見ますと、違った考え方になってまいります。元来、国際政治・外交の本旨は「敵が攻めてこないようにする」、そこにあるのではないでしょうか。ただ、「敵」と言うと問題がありますので、言い換えますと、「どこの国も攻めてこないようにする」ほうが、本来、国際政治・外交の本旨にふさわしいのではないでしょうか。不思議なことに、それも誰も否定できないし、反対できないと思います。
 ただ、反論はあり得ると私は考えております。どういうものか。この考え方を言うためには「敵が攻めてくることが100%ない」と言い切れなければならない。そうでないと主張する意味がない。しかし、100%他国が攻めてくることがないなんてことは人間生活の上ではあり得ないのだから、これはもう理想論であり、夢物語であり、問題にするに値しない、そういう反論がすぐ考えられます。
 しかし、私は思うのです。100%攻めてこないと言えなければならないのだろうか、もっと柔らかく考えていいのではないか。谷野元大使は今日の話の中では触れられませんでしたが、事前に提出された論説の中で引用されていた「ドイツとフランスの関係」、これに思いを馳せていただきたい。
 ドイツとフランスは何百年も戦争を重ねに重ねてきた。だが、第二次世界大戦が終わった時、谷野元大使がご紹介なさったように、ドイツとフランスはどうしたら仲良くなれるのかを話し合い、そこからヨーロッパ統合が始まった。EUができて、EUの中に収まって、そこでは経済が複雑に入り組んで、今ではもうドイツとフランスが戦争をするなどということは現実にはあり得ない、そういうところまで到達したのではないでしょうか。観念的にはまたドイツが攻めてくることはないとは言えない。100%ないとは言えない。でも、もう現実にはそんなことはない。こういう状態になったのではないでしょうか。
 国際政治・外交は「どこの国も攻めてこないようにする」ことが本旨なんだと言い切れる、そういう時代がすでに来ている、そう私は考えております。

平和国家日本の世界的使命

 こういうことで、この二つの具体策は誰も反対できないところに特色がございます。敵が攻めてきたときにどう国を守るかではなくて、どこの国も攻めてこないようにする。これを国際政治・外交の本旨とする。どの国もそのように努力をする。この考え方を世界に向けて主張し、その普及に努力をすることが平和国家日本の世界的使命ではないだろうか。そのように考えていることを申し上げて話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

 

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