「抑止一辺倒を越えて」を提言して

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日本は嬉々として米国陣営の「雄」となり、「熱戦」の道を進むのか

NPO「新外交イニシアティブ(ND)」

代表・弁護士 猿田 佐世

 米中対立は激しさを増す一方であり、このままでは「新冷戦」にとどまらず、この地域で「熱戦」が起き、日本も戦場になりかねない。世界も米ブロックと中国ブロックに二分されていく。この状況下で日本には、軍事力強化の声しか存在しないかのような空気である。筆者が代表を務める新外交イニシアティブ(ND)では、この事態を強く懸念し、安全保障についての政策提言書「抑止一辺倒を越えて~時代の転換点における日本の安全保障戦略」を発表した。ぜひ、ご注目いただきたい。

激化する一方の米中対立

 4月、バイデン政権となって初の日米首脳会談が行われたが、共同声明で半世紀ぶりに「台湾」への言及がなされるなどその対立は増している。6月のG7サミットの共同宣言でも初めて「台湾」への言及がなされた。

 トランプ政権時から米中の対立は急速に悪化したが、バイデン新政権もその就任当初から、対中強硬路線を維持する方針をとった。その対立ぶりは当初から顕著であり、3月に行われた米中の外交担当トップ会談では、米国が、「ルールに基づいた秩序の代わりにあるのは、勝者が総取りするような世界であり、それは世界の人々にとって暴力的で不安定な世界となるだろう」と言えば、中国側も「米国が上からものを言う資格はない」と反発。両者の対立は極めて深刻なレベルに達していることを世界に知らしめる結果となった。

 相対的に力を落とす米新政権の対中戦略の主軸は「同盟国との連携」である。米国の外交・安保エスタブリッシュメントからは、「日本が重要だ」「日本は米国と対等だ」との声が、日々、耳に飛び込んでくるようになった。これに対して国内からは、例えばNHKが、日米を「対等」と謳った第5次「アーミテージ報告書」について「国際社会での日本の存在感が高まったことを意味します」と解説するなど、「日本尊重の流れ」として喜ぶ声が漏れ聞こえてくる。

 これは大きな誤りである。とても、喜ぶべき状況にはない。確かにこの報告書の新しい点は、日本にいろいろと押し付けてきた感のある「知日派」が、日本を「対等」と呼ぶ点である。しかし、それは日本が国際社会で存在感を高めたからではない。彼らが、米国だけでは中国に対抗できないと強く意識し、日本を巻き込まねばとしているだけのことである。中国への焦りがワシントンを覆っている。

 日本政府は常に米国を必要としてきたのであって、米国が日本に力を借りねばならなくなり始めたということのみが新しい。そこには「安定した(方向を決して変えない)」日本を「対等」と持ち上げ、他国(日本)を頼って既存の秩序を維持しようともがいている米国がある。このままいけば日本政府は嬉々として、「同盟国の力を使いながら中国を封じ込める」方向に沿って、米国陣営の「雄」として軍事力強化の道をひたすら突き進んでいくだろう。

 米中対立が進む中、一歩間違えば、日本が米中戦争の「戦場」になる可能性があるというのが現実である。米国の同盟国を総動員して米国ブロックを固める姿勢に対し、中国は強く反発し、3月上旬に行われた全人代(全国人民代表大会)でも国防費を去年に比べて6・8%増にすると表明。日米2+2における中国への懸念表明に対しても、「喜んで米国の戦略的属国となり、信義に背いて中日関係を破壊した」と、強く反発した。

 対立構造が固定化し、一方の軍事力強化を受けて、さらに他方も軍事力をエスカレートする「安全保障のジレンマ」が続いている。

政策提言 「抑止一辺倒を越えて」

 新外交イニシアティブ(ND)では、この事態を強く懸念し、安全保障についての政策提言「抑止一辺倒を越えて」を発表した(インターネットリンクは国民連合HPに)。筆者は、柳澤協二氏(ND評議員・元内閣官房副長官補)、半田滋氏(元東京新聞論説委員兼編集委員)、佐道明広氏(中京大学教授)、そして、私の4人である。

 そこでは、本来の「安全保障」は軍事のみで成り立つものではなく、広角的視野および説明責任とともになければならないとし、日本が、世界の架け橋として、対立から協調に導く役割を果たす必要があると訴え、軍事面では、米中対立が戦争に至らないようにすることが喫緊の課題であるとした。また、「日本政府は、この間、『抑止力の強化』という言葉を使えばどんな政策変更でも許されるかのような姿勢にあるが、抑止力を高める一方で、抑止を安定化させるための『安心供与』と、信頼醸成・多国間協力を通じた対立の管理を『車の両輪』として機能させなければ平和は実現できない」、という強いメッセージを送っている。

米中対立における前線国としての課題

 その上で、「提言」では、短期的な政治課題として、「米中対立のなかで、防衛努力は重要であるが、戦争となった場合の日本の被害が甚大となることへの思慮も不可欠である。米国の戦略に協力する場合には、『戦争に巻き込まれない』心構えが必要である。米中の架け橋として、また、地域の架け橋としての役割を追求すべきである」と、以下の6点を提案した。

・米軍の中距離ミサイルの配備など、日本をミサイル軍拡の場とする政策に反対すべき。

・自衛隊ミサイルの長射程化や艦艇のプレゼンスなどがかえって地域の緊張を招くことがないように配慮すべきであり、「敵基地攻撃の禁止」など自衛隊の運用に関する新たな「歯止め」を設けるべき。

・沖縄への過重な基地負担は、日米同盟の最大の不安要素。膨大な経費を必要とする辺野古新基地の建設は、取りやめるべき。また、米軍基地の県外への分散を進めるとともに、日米地位協定の改定を目指すべき。

・日中の紛争要因である尖閣については、力だけで守り切ることが困難なことを踏まえ、海上保安庁の態勢を強化し、加えて、日中間の政治的危機管理体制を構築すべき。

・在日米軍駐留経費負担については、コロナ禍で財政がひっ迫するなか、合理的根拠に基づかない安易な増額をすべきではない。

・「インド太平洋」諸国との連携を進めるべきである。その際、対中封じ込めと軍事協力一辺倒ではなく、地域の協調関係を推進するためのアジェンダの包括性と当事者の多様性を追求すべき。

一歩立ち止まって考える契機に

 最後は、「日本の発信力の源泉としての『唯一の戦争被爆国』であること、憲法第9条を持つ『非戦の国』であることを活かし、多国間枠組みの創設とその活性化を目指すべきである。また、核兵器禁止条約締約国会議に積極的に参加し、地域の信頼関係を醸成すべく核廃絶に向けた主導的役割を担うべきである」と締めくくっている。

 この数年は、米中対立の行方が混沌とし、極めて不安定な国際情勢が続くと考えられる。政治だけを見ていると選択肢は軍事力強化一色とも思えるが、それで日本が安全になる保障はなく、むしろ、それを繰り返してきた結果が今のリスクの高い状況であるという現実がある。

 一歩立ち止まって考える契機になれば、と思って急遽とりまとめた提言である。ぜひ一度手に取ってご覧いただきたい。

政策提言「抑止一辺倒を越えて~時代の転換点における日本の安全保障戦略」 新外交イニシアティブ(ND)

 

 

 

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