[コロナ危機どう闘うか] 今こそ辺野古移設計画の見直しを

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「米軍基地問題に関する万国津梁会議の提言」の意義

沖縄国際大学准教授 野添 文彬

 3月27日、玉城デニー知事の諮問会議「米軍基地問題に関する万国津梁会議」は、「在沖米軍基地の整理・縮小についての提言書」を知事に提出した。この会議は、安全保障や外交の専門家である委員(筆者もそのメンバーの一人である)が「在日米軍基地の整理・縮小」をテーマに提言を行うために設置されたものである。
 提言書は、玉城知事がこの会議で述べたように、沖縄の側から国際情勢や米軍の戦略を踏まえた上で作成されたという点で「画期的」なものであった。しかし、提言発表後、コロナウイルスの全国的な感染拡大によって、沖縄県や本会議も十分に動けなくなり、提言書についても他のニュースに埋もれてしまったことは否めない。
 その一方で、コロナウイルスに伴う世界的危機の状況であればこそ、提言書の内容は、ますます重要になっている。以下、本稿ではこの点について論じたい。

日本政府と沖縄県の対立

 近年、沖縄県宜野湾市の普天間飛行場の辺野古移設を強行しようとする日本政府とこれに反対する沖縄県は鋭く対立してきた。さらに、沖縄には在日米軍の専用施設の約7割が集中し、過重な基地負担が存在していることが長年にわたって問題視されている。
 2018年の就任以来、沖縄県の玉城デニー知事は、辺野古新基地建設阻止を掲げ、「対話」による解決を訴え続けている。また昨年2月には、辺野古移設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票が行われ、投票数の約7割が「反対」の意思を示した。一方、日本政府は、辺野古移設を「唯一の解決策」と繰り返すのみで沖縄県や県民の要求を無視し、工事を強行してきた。
 ところが最近になって、新基地建設予定地である辺野古の大浦湾には、66‌haの巨大な軟弱地盤が存在することが明らかになった。建設のための地盤改良のためには、海底に砂ぐいなど7万1000本を打ち込むことが必要であり、昨年12月には、政府は新基地の米軍使用開始まで12年、総経費は9300億円かかることを公表した。しかし、この問題について、政府は十分な説明をせずに工事を進めている。

提言の内容

 万国津梁会議の提言書は、辺野古新基地建設予定地における軟弱地盤の存在とともに、中国の台頭をはじめとした国際情勢の変化を踏まえてまとめられたものである。万国津梁会議の提言書の最大のメッセージは、辺野古新基地計画を見直し、本来の目的である普天間飛行場の危険性除去と運用停止を早急に実現するとともに沖縄への米軍基地の集中を是正することは、日本や日米同盟にとってむしろ合理的であり、だからこそそのための対話を日本全国、日米間で開始するべきだというものである(本文は、沖縄県庁知事公室基地対策課のHPで参照できる)。
 そもそも、軟弱地盤の存在が明らかになり、政府の説明でも新基地完成まで12年かかる見通しであるという時点で、政府による「普天間飛行場の早期の危険性除去のための辺野古移設」という大義はすでに揺らいでいる。政府の説明通りに工事が進んでも、普天間飛行場周辺の住民の危険性を12年間放置することになる。増大した工費も、日本政府、ひいては日本国民にとって大きな財政的負担となる。辺野古移設に政府が固執する結果、政府と沖縄県の対立のみならず、日本本土と沖縄の溝を深めてしまうことは、日本社会全体にとって不幸なことである。
 提言書は、「喫緊の課題」、「中期的な課題」、「長期的な課題」という時間軸に沿った三部構成になっており、取り組むべき課題について論点整理をしながら、以下のような提言を行っている。

 〇 喫緊の課題として、普天間飛行場移設のための辺野古新基地建設計画は、軟弱地盤の存在などから「技術的にも財政的にも困難であることが明白になっている」ので、「本来の目的である普天間飛行場の速やかな危険性除去と運用停止を可能にする方策」を日本政府は、米国政府や沖縄県とともに早急に具体化すべきである。
 その上で、普天間飛行場の危険性除去と運用停止のため、すでに実施されている同飛行場の海兵隊航空部隊の訓練の県外移転といった方策をさらに進めることを含め、その方策の具体化のために日本政府、米国政府、沖縄県がかかわる専門家会合の設置を提案している。
 〇 中期的な課題として、沖縄米軍基地の抜本的な整理縮小に取り組むべきである。近年、中国の短距離ミサイルや巡航ミサイルといった接近阻止・領域拒否(A2AD)能力の向上によって西太平洋の米軍基地が脆弱になっており、これを受けて海兵隊を含めた米軍も戦略を見直しつつある。こうした戦略環境の変化を踏まえた上で、上記の専門家会合でも検討しながら、沖縄に駐留する海兵隊の日本本土の自衛隊基地やアジア各地への分散移転・ローテーション配備といった方策を進めるべきである。
 また、日本本土の地方自治体と米軍基地や日米地位協定についての連携を強化し、これらの問題が日本全体の問題であるという気運を高めていくべきだと沖縄県に求めている。
 〇 長期的な課題として、沖縄米軍基地の一層の縮小を可能にするためには、アジア太平洋地域において緊張緩和と信頼醸成が必要である。そもそも、アジア太平洋地域は、安全保障面では緊張関係にある一方で、経済面では緊密に結びつくという二つの側面を併せもっている。
 それゆえ、地域の緊張緩和や信頼醸成を進めるため、地理的・歴史的な特性を活かし、沖縄県はアジア太平洋における地域協力の「ハブ」になるべきである。具体的には、域内対話のための会議の開催やそのための研究機関の設置、自治体外交の推進などを求めている。

 軟弱地盤の存在によって普天間飛行場の辺野古新基地工事が極めて困難になっているのは明らかであり、他方では、中国のミサイル能力の向上とともに米軍の戦略も兵力の分散化を重視する方向で見直しが進められている。こうした情勢を踏まえて、日米両政府、そして日本全体で、本来の目的である普天間飛行場の早期の危険性除去と運用停止、さらには中長期的には沖縄の米軍基地の抜本的な整理縮小を進めるべきだというのが提言書の主張である。
 提言書発表後、その内容は沖縄の地元紙や全国紙でも好意的に報じられたり論じられたりした。「朝日新聞」4月11日社説は、「基地縮小提言 『沖縄発』受け止めよう」と題して、その内容を紹介し、「この提起をしっかり受け止めたい」と論じた。「毎日新聞」4月22日社説も、提言書に触れつつ、政府に対し「今の計画に『唯一の解決策』と繰り返すだけでなく、普天間の危険性を速やかに取り除くという原点に立ち戻り、考え直すべきだ」と訴えたのである。

コロナ危機の最中での設計変更申請

 もっとも、河野太郎防衛相が3月27日の記者会見で提言書について「この問題はもう、日米でいろいろと検討して詰めて」いると述べたように、日本政府の対応はそっけないものであった。しかもその後、コロナウイルスの感染拡大で日本全国が新型コロナウイルスへの対応に追われる中、4月21日、沖縄防衛局は、軟弱地盤の改良工事のための設計変更を沖縄県に申請した。この時期、沖縄県は4月20日に独自の緊急事態宣言を出し、さらに22日には休業要請などを出す予定であった。こうした中で21日、沖縄防衛局は突然、設計変更を申請したのである。しかも、辺野古移設工事に携わる業者の従業員がコロナウイルスに感染したことから、17日以降、工事は中断されていた。
 コロナウイルスという「国難」、さらには世界的危機のさなか、政府や自治体は、まずはその対応に専念すべきである。そうした中での突然の申請に対し、沖縄県は強く反発したのである。
 政府はなぜこの時期にあえて設計変更申請を行ったのだろうか。
 設計変更申請を行う上で、政府が重視していたと考えられるのが、6月7日投開票の沖縄県議会選挙である。現在、沖縄県議会は、玉城知事を支える「オール沖縄」勢力が多数を占めており、自民党や公明党は、多数派の奪還を目指している。政府・自民党は、県民の反発が県議会選挙に影響するのを避けるため、選挙の期日と申請日をできるだけ離したかったというのである。これはこれで辺野古移設を選挙の争点から避けたいという政府・自民党の思惑には大きな問題がある。
 また防衛省幹部は、「移転がこれ以上遅れれば、日米同盟の維持強化に悪影響となる」ことを懸念しているという(「毎日新聞」デジタル2020年4月21日)。確かにこのコロナ危機の中、中国は海洋進出を活発化させ、周辺諸国の警戒感を高めている。4月28日には中国の空母が沖縄本島と宮古島の間の海域を通過し、これまでで初めてこの海域を往復した。5月8日には、尖閣諸島周辺の日本領海に中国公船が侵入し、日本漁船を追尾するという出来事が起こっている。日米両国がともにこうした中国の動きに対し警戒する必要があることは理解できる。
 しかし、普天間飛行場の辺野古移設が遅れれば日米同盟に悪影響を及ぼすという説明は説得的ではない。軟弱地盤があることから、政府の説明でも完成まで12年かかるという辺野古新基地建設を進めることがどのように日米同盟強化に関係があるのだろうか。ましてや、辺野古新基地の滑走路は1500mで、普天間飛行場の滑走路2700mと比べて短く、有事の際には使用できないことが米国会計監査院から指摘されている。普天間飛行場の辺野古移設は日米同盟の強化、ましてや直近の尖閣問題や中国の海洋進出とは別問題として捉えなければならない。

コロナ危機の中でこそ

 今日、コロナウイルスによって世界は危機的状況にあり、日本の経済財政状況もさらに悪化することが予想されている。また、コロナ危機の中での中国の動きも注視する必要がある。
 しかし、そうであればこそ、万国津梁会議の提言書の重要性はますます高くなっている。財政悪化が予想される中、「辺野古新基地建設にかかる莫大な費用を、別の用途のために使用した方が、日本の政治や経済、さらには安全保障にとってはるかに有益であろう」という提言書の指摘は、コロナ危機においてより説得的なものになっている。また、中国の台頭もにらみつつ、提言書は「日米同盟が安定的に維持されるためにも、沖縄への米軍基地の集中を是正し、日本全体・アジア全体の視野に立って安全保障の負担のあり方を見直すべきである」と訴えている。コロナ危機のさなかにおいて、辺野古新基地建設に莫大な費用を投じたり、日本政府と沖縄県が対立したりしている場合ではない。
 何よりも、今日の危機においてこそ私たちは、日本や世界のあり方を再考する必要がある。こうした中で、この提言書が、沖縄の基地問題を通して日本の外交・安全保障や日米同盟、さらには地域秩序のあり方についての議論を活性化させるための土台になることを期待したい。さらに、このような時期だからこそ、沖縄県も、全国的な議論を喚起するための効果的な発信方法について真剣に検討するべきであろう。

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