[コロナ危機どう闘うか] 力の転換は必然的に戦争を呼ぶ(下)

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いかに安定と繁栄をつくるか? 夢は必ずかなう、もし諦めなければ!

青山学院大学教授 羽場 久美子

はば・くみこ 1952年生まれ。青山学院大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋副会長、ハーバード大学客員研究員、京都大学プロジェクト教授。専門は国際関係論、国際政治学。著書に『グローバル時代のアジア地域統合』(岩波書店)、『アジアの地域共同―未来のために』『アジアの地域協力―危機をどう乗り切るか』(いずれも明石書店)他多数。

 新型コロナウイルスが猛威を振るっています。中でもアメリカは、感染者82・3万人、死者4・5万人(4月22日現在)、世界の「トップ」です。にもかかわらず新聞は、アメリカの感染のひどさがトランプ政権の「人命より経済重視」からきていること、対策のまずさをほとんど報道しません。逆にトランプの「中国ウイルスだ」「WHOは中国寄りだ」などというフェイクニュースのような暴言を好んで取り上げています。
 アメリカの世紀は終わりを迎えつつありますが、それでも日本はアメリカ批判ができないまま、中国に対する軍事費を増強させようとしています。今必要なのは、冷静さ、世界との共同、弱者への共感。恐怖が近隣国との対立を生み出さないよう、心を律しよう!

衰退のアメリカと発展の中国

 コロナが中国・武漢で広がったとき、米欧は初め内心ほっとしたのではないでしょうか。感染が8万にも広がったとき、これで中国経済はストップする、米欧の時代は持ち直す、と考えた。しかし歴史は残酷です。新興国有利の時の流れは、リーマン・ショックでも、コロナウイルスでも止まらなかった。中国も大きくマイナスに割り込みましたが、アメリカ、欧州、日本という先進国の頭打ちはコロナでも広がっている。日本は何とか持ちこたえて、それでも感染者1万人を突破し、まだ増えます。
 先日、EUの代表部の方に講演をお願いしたのですが、「もうアメリカは許せない」と憤懣やるかたない状況でした。「トランプに直接、『EUは敵だ』と言われた」「欧州とアメリカとの関係で『敵』呼ばわりされたのは初めてだ」と非常に怒っていました。
 日本はどうすべきか。この間のアメリカのさまざまな言動を見ても、日米同盟一辺倒から、欧州やアジアとの連携に、多国間の協力関係に移行していかなければならない時期がますます到来している、と思います。

 びっくりしたことがあります。この上のカリカチュアを見てください。米中貿易戦争の関税をかけ合う応酬の中身です。私は、何回も「これ、違うのかな。逆かな」と思って見直したんですけど、間違いではない。アメリカは原料と農産物の輸出国になってしまっている。「ロシア化」しているんですね。中国がアメリカに売っているのは半導体製品とか先進国の物資なんですね。もう、経済内容がすっかり入れ替わっています。
 今回のコロナもそうです。最初に爆発的に感染したのは中国ですが、隔離をやり、毒性を抜き、早めの対応で2カ月半で新規感染者ゼロ近くに終息した。アメリカはあれよあれよという間に世界トップを爆走している。
 こうした状況なので軍事力や国力はまだアメリカが勝っているかもしれないですが、本気で経済を立て直し、何より倫理を立て直さないと、危ない。
 そもそも関税のかけ合いだったのですが、IMF(国際通貨基金)や世界銀行や日本の経済アナリストもこぞって、これはアメリカに損だと言っています。アメリカが安い値段で中国に作らせている、いわば自分の半導体や情報機器の製品に高い関税をかけているのですから。このままでは、アメリカ企業が衰退する、アメリカ経済が没落するという状況です。コロナはそれを促進している。それをトランプは中国のせい、と言っているが、中国のせいではない。自壊、自滅なのです。

帝国は内部から崩壊する

 今の米中の貿易関係もそうですが、力の転換が大きく歯車を前に進めている。でも、私たちの頭の中はまだ、「20世紀の最後の頭」だと思います。この20年間でものすごくドラスティックな転換が起こっているんですね。世界をリードしてきたアメリカの力がどんどん落ちてきている。日本もそうですね。衰退したイギリスも、EUから離脱する、そして、EU自身も力が落ちてきている。
 そうした中で新興国がどんどん上がってきている。皮肉なことにコロナもこれを助けています。紙面の都合で理由を列挙することができませんが、コロナは近代資本主義に乗っかって出てきている。グローバル化、人の移動、豊かさ、競争、集中、密集、すべてコロナが爆発的に増える条件になります。今後コロナが、第2波、第3波、第4波と出てくる可能性があるなか、最も重要なことは隔離を続けることではなくワクチンや治療薬を早く開発すること、そして恐れから互いに対立を生み出さずに、信頼と連帯のネットワークを広げることです。
 現代の状況は、第一次世界大戦前夜にすごく似ているとヨーロッパの研究者たちは言っています。今、それは実感としてわかる。第一次大戦で帝国が衰退に向かう。4大帝国(ロシア帝国、ドイツ帝国、ハプスブルク帝国、オスマン帝国)は衰退して、滅びてしまいましたよね。そして、帝国解体の中から、新興国、ポーランドや、セルビアとかクロアチアとか、小さな国々がどんどん力をつけてきて、第一次世界大戦後、それらの国はすべて独立していくのです。
 もう一つ、ショッキングなことは、4大帝国は戦争で敗れて崩れたのではありません。負けて崩れたのではなくて、自壊したんですね。ロシアはロシア革命です。民主主義の革命が起こり帝政が倒れ、その後社会主義の波が民主主義体制も崩していく。ドイツも同じで、革命が起こって倒れ、皇帝は民衆の蜂起を避けて逃れていきます。ハプスブルク帝国は、諸民族が独立して、倒壊する。
 外からのミサイルや軍事力によってではなく、自国が内部から自壊していく。これが歴史的な体制転換なのです。
 今アメリカで起こっていること、イギリスで起こっていること、誰も外から攻撃していません。自らが崩れているという状況があるのではないかと思います。
 もし、日本が「ジャパナイゼーション」(緩やかに衰退していく)という汚名を超えようとするのであれば、日本は「先進国の一員」でもありますが、「アジアの一員」でもあります。勤勉な労働によって、経済によって、国を発展させてきた国でもあります。そういう意味では、まさに経済力とか、文化力とか、市民の力でもう一度国を立て直すということが今いちばん求められていることなのではないかと思います。

同盟なのでアメリカが守ってくれるは「甘い」

 非常に不安定な中、いちばん私たちが強調しなければならないことは、東アジアで戦争をさせない、もちろん、中東でもさせてはいけませんが、中東のことは中東の人たちがやっていく。私たちは東アジアの対立をこれ以上拡大させないということを本気で考えていかなければならないと思います。
 日本は日米軍事同盟で戦争になれば「アメリカが守る」というふうに教わってきました。ところが、今年1月19日の新聞にありましたが、17年に韓国にいたビンセント・ブルックスという米軍司令官の証言です。北朝鮮の核ミサイルが開発されたとき、アメリカは数十万人の在韓米軍の家族たちに撤退命令を出そうとした。つまり、戦争を起こそうとしたときには韓国にいる米軍の家族に撤退命令を出そうとした。その戦争を止めたのがこの司令官だったということです。戦争が起こるときにはアメリカ軍はみな帰るんですね。撤退するんです。
 誰も守ってくれません。当たり前ですがアメリカ人にとっていちばん大事なのはアメリカ国民の命を一人でも守ることです。これはいい意味では自国の国民の命を守る。悪く言えば、自国の国民の命と、他国の国民の命は全然重さが違うということです。
 日本はアメリカに原爆を落とされました。コロナが拡大したときにもこれはパールハーバーと同じだと言われた。同盟国でありながら、信頼していない。
 おそらく、米軍が去っていったら、日本も韓国も北朝鮮や中国と仲良くすると思うんですね。米軍が残っているから分断が継続されているのではないか。
 日米同盟を解消するのはきわめて難しいことで、それを今私は言おうとは思わない。しかし、東アジアで戦争をしようとする意図がある流れを避ける、そのためには隣国に不信感をもつのではなくて、不信感を払拭して、手を握り合うということがきわめて大事だと思います。

経済的力関係の激変

 時間があまりありませんがグラフを見てください。これを見るときわめて長期的な歴史の波動が明らかになる。つまり西暦ゼロ年から1700年くらいまで世界の経済や文明を担っていたのはインドや中国で、アメリカが世界経済の統計上に現れたのはまだたった200~300年くらいしかないのです。
 しかし私たちの頭の中は、数千年の歴史が入っているのではなく、ここ100年、ひょっとしたら50年くらいです。2030年には再び中国やインドが世界経済のトップになってきている。近代200年というのは長い歴史の中では、ほんの一瞬のことだと、統計が教えています。2010年に名目GDPで中国が日本を抜きました。PPP(購買力平価)GDPでは14年に中国はアメリカを抜き、日本はインドに抜かれています。私たちの先進国や文明国の理念や価値は、本当に短いスパンでしか考えていないということです。今回のコロナ災は、この経済傾向をさらに加速させる可能性があります。


 中国や韓国が伸びて、先進国が衰退しているということと、並行して、中国やロシアには戦略もあるのだと思います。今、「自国中心主義」を先進国アメリカやイギリスではやっているのに対して、中国などは周りの国に支援を与え、共同してやっていこうという路線を取っていることです。「一帯一路」もそうですし、ロシアは「ユーラシア地域同盟」を掲げています。インドも一国で14億人もいながら、だからこそ、一国主義は取らず、周りの国々と南アジア地域連合というものをつくり、また共同でやっていく国を可能な限り拡大しようとしています。
 このように、自国がどれほどの経済力を持っていようとも、おごらず、地域が結びつくということ、地域で戦争をしないということが、地域を繁栄させることになる。

地域が結びつく、市民が交流する

 アジアの人々の結びつき、それを日本もぜひやっていってほしいと思います。
 どうすればよいか。対話・協調、そして、アジアに欠けているのは地域の制度化と安定です。EUのようにとは申しませんけど、例えばASEAN諸国は互いに国境問題で対立する国もありますが、ASEAN地域連合という、共同で発展しようとする、話し合いと共同発展の場があります。
 東アジアにも対立もあるけれども、話し合いを続けるという場を私たちはつくりたいと思います。「外交は外交官だけがやるのではなくて、市民がやる」、パブリックディプロマシー(市民外交)ですね。
 そのために市民間の協力を進めていきたいと思います。
 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」――この言葉が今ほど重要なときはありません。もし、私たちが愚者であれば、経験として戦争を知らない世代が圧倒的多数を占めるとき、戦争は容易に起こります。そうではなくて、歴史に学び、どれほど悲惨な歴史があったのか、戦争はどういうときに起き、どこが勝利するのかということを本気で考えていけば、日本からむざむざと隣の国に戦争を仕掛けることはないと思います。
 「市民が市民同士で交流する」。市民の交流のいいところは、政府同士が対立していても、協力関係の絆は切れないことです。たとえ戦争が始まっても。その意味では、市民が交流する、大学同士が交流する、地域と交流する、企業同士が結びつくというのは、非常に重要なパイプになっていきます。戦争は起こっても、つないだ手が離せないような関係を私たちは隣国とつくっていきたいと思っています。
 力の転換は必然的に戦争を呼びます。それをよく認識して、転換点である現在に、隣の国と戦争をやらせない、という協力関係を私たちはつくっていきたいと思います。また、東アジアの国々がお互いに、何があっても話し合いを継続していくというパイプをつくっていくということが、重要だと思います。

秩序をアジアからつくる

 さらにもう一つ進んで、アメリカ後の世界を、アメリカ後の国際秩序を、アジアからつくっていくべきだと思っています。
 欧州とアメリカの時代はゆっくりですけれども、終わりつつあります。21世紀もどこかの時点で戦争の時代になるかもしれませんが、隣国と手を携えてアジアの平和の時代をつくっていく。中東は中東の平和を、欧州は欧州の平和を、それぞれの責任においてつくっていく。重要なことは隣国に対して疑心暗鬼にならないということです。
 アジアが優れているのは、私は「和」ということ、それから「勤勉さ」ということ、そして、それに基づく経済の発展と繁栄が、市民一人一人が勤勉でまじめであるがゆえに、著しいということだと思います。
 今、アメリカで、アジア人嫌いが起こっているのを知っていますか。白人だけでなく、黒人やヒスパニックなどマイノリティの人々も、白人と一緒になってアジア人蔑視が始まっている。それはアジア人が勤勉すぎるからです。
 現在、欧州では、ムスリムの間に、ユダヤ人嫌いが始まっていて、白人以上にユダヤ人を攻撃するのだそうです。それを、若干新しい言葉ですが、「インターマイノリティ・レイシズム」(少数民族間の、人種差別主義)と言われています。
 アジア人は、人数が少ないのに勤勉で、底辺にとどまらずに上昇志向がある。それに対して黒人やヒスパニックは我慢ならないのだとも言われます。「中国コロナ」でアジア人批判が強まっていることにも警戒しなければなりません。
 東アジアで局地戦争を起こさせない。戦争が起こって荒廃すれば、悲しむのは私たちの家族、親戚、共同体です。アジアの経済成長が止まり、中国の発展が止まって、漁夫の利を得るのは欧米です。日本ではありません。
 東アジアがもう一度不幸になる選択を私たちは行わない!
 日中韓は、何があっても対立しない。共同で東アジアを安定させ、その力で世界を繁栄、発展させる。
 「6者協議」といわれる朝鮮の核をチェックする機関がありました。この6カ国というのは、アメリカ、中国、日本、ロシア、韓国、北朝鮮です。この、世界全体の国際政治から見ても、重要な6カ国が、対立しないできちんとまとまっていく必要がある。政権が戦争を仕掛けようとするなら、市民間で止めていかねばなりません。この6カ国の話し合いを続けながら、安定した東アジアをつくる。日本はその6者協議の一員に復帰しなくてはなりません(今、6カ国の話し合いの中で、最も孤立しているのは日本ですから)。
 それを政府に任せないで、経済、学術、文化、音楽、スポーツ、食などの市民交流を進めていくことが重要なのだと思います。

結論と提言

 最後に「結論と提言」です。「歴史を学ぶとは、平和をつくる」ということです。経験だけに依拠しない、歴史を学び、現代の国際政治を見据え、日本の近代の戦争史を学ぶと、われわれが今何をすべきかが見えてくると思います。日本が今、戦争を仕掛ければ、必ず負けます。われわれは歴史の新興国ではなく、衰退しつつある先進国の一員だからです。歴史は輪廻のように進んでいきます。
 負ける戦争を仕掛けるということは、どの軍事家でもやろうとしないはずです。負ける戦争をせずに、近隣国の友人とともに平和と安定をつくり発展していく。それが、日本にとって最も賢い選択だと思います。ヨーロッパがいかにして完全に荒廃した欧州から、最大の敵同士である独仏和解を遂げ、そして、ヨーロッパの平和と安定をつくったかということを今こそ学ぶべきだと思います。
 皆さんの夢を高く掲げて、そして、自分ができる範囲で、音楽でもいいし、踊りでもいいし、スポーツでも、メディアでも、そして政治でもいい、自分が打ち込めるものをもって、近隣国と、また考えの異なる人々と平和と協力をつくっていけば夢は必ずかなうと思います。
 どうも長時間、ご清聴、ありがとうございました。皆さまの夢がかないますように!(拍手)

本稿は広範な国民連合・東京第17回総会記念講演を基に筆者が加筆したものである。見出しも含めて文責は編集部

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