「沖縄をまもりたい」ため立候補を決意

今年生まれる子どもが成人するまで
完成見込めぬ新基地

屋良 朝博さん(ジャーナリスト)に聞く

 衆院沖縄3区補欠選挙(4月21日投開票)に新基地建設反対のオール沖縄勢力から立候補が予定されている屋良朝博さんに問題意識や決意などを伺った。(見出しも含め文責編集部)

 政府は辺野古新基地建設の埋め立て予定地域で地盤改良工事に向けた設計変更を余儀なくされました。これまでも沖縄が「マヨネーズ状地盤で基地建設は不可能」と指摘してきた海底です。政府はついに認めざるを得えなくなった。
 県は工事にこれまでもおよそ13年はかかると予測していました。この設計変更でさらにプラス5年で20年近く工事は終わらないことになる。今年生まれる子どもが成人を迎えるまで完成しない基地建設。その時どんな安全保障環境になっているか誰もわからない。
 こんな基地建設に合理性があるのか、私はまず、厳しく問うてゆきたい。

■「日本の進路」というキャンバスに沖縄の未来描きたい

 僕は地元紙「沖縄タイムス」の新聞記者として24年やってきました。そのなかの多くの時間を米軍基地問題の取材に費やしてきました。
 新聞社をやめて沖縄の米軍基地問題の解決に向けて、4年前にシンクタンクである「新外交イニシアチブ」で柳澤協二さんや、「東京新聞」の半田滋さんたちと共同研究を始めました。沖縄の米軍基地のほとんどを占めているのが海兵隊で、基地面積の7割を占有しています。普天間飛行場や、東村の高江のヘリパッド施設も海兵隊のものです。だから、海兵隊を沖縄からどこかへ移すということは、沖縄の基地問題を考える上で、重要なファクターになるわけです。
 しかし、そうした具体的な問題点を分析、明確にしてその解決策を模索しようという議論の素地が日本にはほぼありません。
 沖縄の米軍基地について、例えば、「中国や北朝鮮抑止に役立つ」という議論しかないですね。沖縄にどんな役割や任務をもった部隊がどのような機能をもって駐留しているから、基地が必要だという議論がない。あるいはそういった機能であれば沖縄にある必要はないのではという議論もありません。
 ですから、沖縄の「基地問題」という4文字で語られていますが、その一つひとつの中身について議論が本当にほとんどされていません。要は沖縄から海兵隊を動かせば、沖縄の基地問題というのは大きく前進します。しかし、そうした議論がほとんどない。議論の幅もなければ、細やかさもない。将来展望もあまり語られない。
 そうしたなか、この共同研究で、専門家たちと一生懸命議論して、海兵隊を沖縄から動かすシナリオをつくり発表しました。この試みというのは日本では初めてです。
 しかしながら、政党などの勉強会に招かれて、私たちがつくったシナリオを説明することはできましたが、現状から一歩でも踏み出そうとする議論は起こりませんでした。海兵隊が沖縄にある必要がなければ、グアム、ハワイ、あるいはカリフォルニアの東海岸にも米軍基地がありますから、そこにもっていくことが可能なのかということを議論すればいいんですよ。そういう具体的なことがまったく行われないですね。沖縄の米軍基地問題というのがいつも表面的な評価で、イエス、ノーを決められています。そこに民主主義はないと思います。
 民主主義というのは、賛成、反対含めて、いろんな意見を出し合い、そのなかでベスト、あるいはベターな選択肢を選んでいくというのが恐らく基本だと思うんですね。その役割を担っていくのが政治です。軍事問題について最終決定権をもっているのは政治です。政治がその作業をやらず放棄しているわけです。
「政治の中に飛び込んで問題を提起したい」
 そういう状況にあって、今回知事になった玉城デニーさんの後継として、衆院選への立候補の話をいただきました。
 もしかしたら、政治のなかで、僕がずっと関わり、主張してきたことを国会内外で訴えるチャンスをつかむことが仮にできることになればという気持ちになったんですね。玉城知事からも直接のお言葉かけもありました。
 今、沖縄県は非常に厳しい状況にあります。なぜなら今説明したように、根本的な議論がないからです。「辺野古も沖縄県が吞めば丸く収まるだろう」ということでは許されないわけです。
 この国は民主主義国家とはいえ、三権分立も機能していません。基地問題について司法は「統治行為論」に逃げ込んでしまい、政治もそこに踏み込まないわけですね。「モノ言えば唇寒し」なのか、辺野古の新基地建設に反対したらもしかしたら自分のところに飛び火してこないかと思っているんでしょうか。そんなの許されないですよ。
 だから、これはもう政治のなかに飛び込んで、与党も野党もなく、「皆さん、基地問題どう考えるんですか?」「日本のこれからの進路をどう考えるんですか?」という大きなキャンバスのなかで沖縄の基地問題の解決策を描いていくという作業をしないとだめだと思いました。このままだと日本にとってよくありません。
 未来を見据え、21世紀の日本の生き方として、アジアのなかでどのような役割、主張をもって生きていくのかという問いかけです。

■「真の安全保障」とは

 日本における安全保障の概念というのは、ものすごいシンプル・ストーリーで成り立っています。「中国、北朝鮮怖い」「だから、アメリカの助けが必要なんだ」ということです。なにかいつもアメリカが日本の味方をしていて、暴走しそうな中国を抑え込んでいるのだという、とっても単純な構造のなかに自分たちの思考を閉じ込めているわけです。それ以外は何も見ようとはしないわけですね。それはやっぱり、おかしいのです。これがまさに日本の安全保障における思考停止なんですよ。
 中国と日本は歴史問題などがありますが、経済はしっかりつながっているという現実がある。それを無視して、ただ「怖い」と言っている。中国に対するステレオタイプの見方ですよね。それは日本にとっても不幸ですよ。もう少し思考を解き放して、アジアのなかでの沖縄、日本の役割について真剣に考えるときです。これまではずっと、冷戦時代の古典的な安全保障の理解のまま、自分たちをどうやって守ろうかということだけです。これは姑息ですよ。アジアのことなんて考えていない。自分たちはアメリカが守ってくれるというシステムにしがみついているだけです。そうではなくて、もっと、アジアの人たちと一緒にどうやって安定した環境を築いていこうかということを話し合って、信頼関係をもっと高めていく努力をしなくてはいけないわけですよね。
 安全保障という概念は軍事だけはありません。人的・文化的交流も大事です。ある国が災害で大変な目に遭っているときに皆で助け合うという災害救援や人道支援活動、これも大事な安全保障です。ただ軍事力を強めて、相手を威嚇するだけが安全保障ではありません。国家制度や歴史認識の違いなどで韓国とか中国などと政治的に対立する場面もあるでしょう。だけど、それは時間をかけて話し合えばいいわけです。もっと直面する私たちの課題があるはずです。それについて議論をして、協力関係を深めていく。こっちの方が本来の意味での安全保障だと思います。そういった考え方を選挙中に訴えることができるだけでも楽しみだと思っています。

■保革超えた「沖縄のアイデンティティ」掲げて

 今回、県民投票の問題があって、この投票を妨害しようという動きに対する反発はものすごく強いと思います。こうした県民の怒りは自民党系の首長を推している人たちの間でも広がっています。
 翁長知事が「沖縄のアイデンティティ」ということを強調していました。これについては保守・革新問わず脈々と続いているものです。
 沖縄では1950年代に「島ぐるみ闘争」という土地を守る闘いがありました。本土の反基地運動によって追い出された海兵隊が沖縄にやってきたため、米軍は新たな基地を確保するため、住民を追い出して用地を確保しました。本土の政治的問題を沖縄に押し付けたというのが沖縄の基地問題が深刻化した最大の原因なんですね。
 米軍の強権的な土地強奪があったころ、本土では高度経済成長が始まろうとしていました。当時の経済企画庁が出した『経済白書』で「もはや戦後ではない」と書いたのが56年です。同じ年に海兵隊が沖縄にやってきたんです。
 後に自民党から推されて県知事になった西銘順治さんはそんな状況を目にして、勤めていた外務省を退官して、本土でのエリートコースを捨てて沖縄に帰ってきました。そして、「沖縄ヘラルド」という新聞社を立ち上げ、当時の自民党の立法議員について、「何も勉強しない」と鋭い指摘をしました。また現在の沖縄市長である桑江朝千夫さんのお父さんの朝幸さんの存在も大きいですね。朝幸さんは、米軍に土地を奪われた地主さんたちを組織化し、米軍に対して、土地代の請求や、権利の補償を求める闘いの先頭に立った人です。あまりにやりすぎで、米軍に目をつけられて、拘束されたこともある人です。この人も保守です。
 米軍を相手にした沖縄の闘いについて、一般的に革新側である瀬長亀次郎さん(当時の沖縄人民党委員長、元那覇市長)が有名ですけど、実はこうした闘いに保守も革新もありませんでした。
 土地を守る闘いというのは私たちの生きていく生産の基盤を守ることです。ですから、人間が生きていく上で守るべきことを主張しているというのが沖縄の米軍基地をめぐる闘いです。「沖縄のアイデンティティ」とはすなわち、「沖縄を守る」ということなんです。
 ですから、私も選挙戦のなかで、この「沖縄のアイデンティティ」に基づいて、「沖縄を守る」というのをキャッチフレーズにしようと思っています。この「守る」のなかには人権や、文化、歴史、これからの未来などが含まれています。
 そして、経済的な課題については、私は記者会見のときに、「アジアのダイナミズムを取り入れる」と主張しました。もう本土復帰して47年間たっているのに、沖縄の貧困率は全国平均をずっと上回っているし、失業率は高く、県民の所得は低いままですよ。
 現在、Eコマース(電子商取引)が盛んになっていますが、沖縄はそこで立地が生きてくるわけですよ。中国とアメリカとアジア、そして日本本土のこの四方の結節点となり得るわけです。沖縄で物流ハブ、トランジット・ハブが仮にできるとすれば、それは産業として大きく成り立つだろうと思っています。こうしたことも選挙のなかで訴えていきたい。

辺野古埋め立て問題の県民投票事務を拒否している5市の首長に参加を求めハンガーストライキ中の元山仁士郎さん(「辺野古県民投票の会」代表)を激励する屋良朝博さん(左)。1月18日、宜野湾市役所前。

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