謎の権力構造の正体– 「日米合同委員会」

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真の主権回復と主権在民の実現が課題

『「日米合同委員会」の研究』の著者・吉田敏浩さんに聞く

 日米合同委員会は隔週の木曜日に、都心のニューサンノー米軍センターや外務省で会合を開いている。外務省北米局長が日本側代表に、法務省、農林水産省、防衛省、財務省などの高級官僚が代表代理(2016年10月現在)になっています。米側は在日米軍副司令官が代表で、在日米大使館公使を除いてほかは全員軍人です。こんな会合が何十年も密室で開かれて、米軍優位の日米地位協定の解釈や運用について協議している。そこでは米軍の要求が通っているのが実態です。
 日米合同委員会について本格的に調べ始めたきっかけは、民主党中心の鳩山由紀夫連立政権が、沖縄県民の怒りを受けて普天間基地の移設先は「せめて県外」と主張したんですが、米国政府の圧力とその意を受けた外務官僚や防衛官僚などの抵抗を受けて挫折した。あの時からです、これは何だと。
 日本の総理大臣よりも、米軍との関係をより重視した外務、防衛などの高級官僚が中心となった官僚機構が、一種のサボタージュをしたといいますか、米軍の権益を優先し守る、日米同盟を重視した。「日米同盟が日本にとっていちばん重要なんだ」という官僚機構につぶされた。戦後、日本の官僚機構の中に形成されてきた考え方に基づいて、かれらが鳩山政権の方針に従わないで虚偽の情報を流したりしてつぶした。
 最近、少しずつ表に出てきていますが、日本の政治家さえも知らないところで、日本の高級官僚が米国政府、米軍と協議している。その不透明さ、これが日本の進路にも大きく影響している。その中で、日米合同委員会という存在が、いろんな形で報じられるようになってきた。そして、人びとから関心をもたれるようになってきた。
 私は08年に、初めは日米間の「密約問題」の取材を始めた。日米政府がいかに密約についてさまざまな情報を隠蔽しているか、核密約などに関心をもって取材をしていたなかで、核密約だけでなく、日米地位協定に関する日米間の秘密の取り決めがあることを知った。米兵犯罪の裁判権の問題一つでも、非常に起訴率が低い背景に、日本にとって著しく重要な事件以外は裁判権を行使しない、という密約があるらしい、ということを調べていて、それで日米地位協定の密約問題について関心をもって、日米合同委員会についても調べるようになったのです。

官僚機構の中に密約を維持する「裏マニュアル」

 その過程で、最近出版した『「日米合同委員会」の研究』のなかで紹介していますが、日本の官僚機構の中に日米合同委員会での密約にかかわる一連のマニュアルがあることが分かった。例えば、法務省刑事局の「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」、最高裁事務総局の「日米行政協定に伴う民事及び刑事特別法関係資料」、警察庁の「地位協定と刑事特別法」、外務省の「日米地位協定の考え方」など、官僚機構の中に秘密資料・部外秘資料があって、その中で日米地位協定の条文について、米軍に有利になるような解釈をして、それに基づいて地位協定の運用をしている。しかもそれが国会議員にも、国民にもまったく知らされない形で情報隠蔽され、ずーっと秘密の運用がされていることを知ったんです。
 米軍優位の日米地位協定がいかに不平等な取り決めであるのかは、かなり知られています。しかし、地位協定を実際に細かいところまで解釈する過程で、米軍に有利になるように、官僚機構の中でマニュアル化された「裏マニュアル」があり、実際に米軍に有利な運用がされてきていることが、これらの秘密資料・部外秘資料から分かって、私も驚いた。
 米軍関係者の犯罪で起訴率が低い問題のほかにも、横田空域や岩国空域の問題がある。日本の空であるにもかかわらず、米軍が航空管制権をにぎっている。横田空域でいえば、厚木基地にやってくる米空母艦載機が横田空域を通って群馬県の渋川市周辺の上空に行って、低空飛行訓練をして爆音や墜落の危険をまき散らしている。日本各地で行われている米軍の低空飛行訓練を日本政府は規制できない。横田、厚木、嘉手納、普天間などの米軍機騒音訴訟でも、米軍機が騒音公害の発生源で、騒音は違法だと認められ、損害賠償も認められていながら、米軍機の飛行差し止めは認められない。米軍の軍事活動に日本政府の管理権が及ばないから、差し止めはできないというのが、裁判所の判断なのです。地方自治体も対策が打てない。結局、米軍に対して日本の司法権も行政権も及ばない。事実上の治外法権です。

「『日米合同委員会』の研究」から

 そういったことが続いている背景には米軍優位の地位協定がありますが、地位協定の具体的な解釈・運用面について、日米合同委員会で在日米軍高官と日本の高級官僚が密室で秘密協議をして、そこで米軍に有利な合意が蓄積されてきているという根本的な問題がある。日米合同委員会の議事録や合意文書は原則として非公開です。情報公開法に基づく文書開示請求をしても、黒塗りの不開示とされる。合意の一部は要旨が外務省のホームページに出ているが、法務省などの秘密資料や最高裁の部外秘資料などと照らし合わせると、合意文書の重要な部分を削除したり、書き換えたりして、あたかも日米対等であるかのように装っているのが分かる。実態は米軍に有利な不平等なものです。
 主権在民の下で、国民の選択によって政治が行われるというのが憲法の原理なんですが、政府・行政機関が事実を公開していない。説明責任を果たしていない。主権在民という憲法の規定が大きく空洞化されている。骨抜きにされている。いわば闇の領域に覆われているということがしだいに明らかになってきた。米軍上層部から見れば、日米合同委員会は日本における米軍の特権を維持するためのリモコン装置のようなものと言えます。占領時代からのフリーハンドの基地使用・軍事活動の特権を維持するとともに、変化する時代状況に応じて新たな特権を確保していくためのリモコン装置です。そのような政治上の装置が、日本政府の機構の中枢に埋め込まれているのです。
 実際に存在する資料に基づいて、米軍の事実上の治外法権を維持する日米合同委員会の密室協議があることを明らかにして、日米関係、日本の政治のあり方はこれでいいのかということを社会に問うために、取材してきた。
 この問題に何一つ手をつけないで、どうして「日本を取り戻す」などと言えるでしょうか。日本の主権を損ない米軍の特権を認める密約などは廃棄すべきです。日米安保など日米関係についていろいろな意見があっても、少なくとも日米地位協定の抜本改定と日米合同員会の廃止が必要です。「真の主権回復と主権在民の実現」。この国が戦後70年余り抱えている課題の解決に向けて迫っていきたい。

今も米軍に支配される日本の空

 分かりやすい例として、米軍が航空管制をする横田空域の問題、首都圏の上空を日本の飛行機が自由に飛べない、日本の空の主権が奪われている問題があります。
 これは、最近、東京オリンピックに向けた羽田空港の増便問題と関連してメディアでも取り上げられ、大きな関心が持たれている。外務省、国土交通省などは、横田空域は日米地位協定にもとづくと説明し、メディアは鵜(う)のみにして報じている。
 しかし、どういう法的根拠で米軍にそうした特権が与えられているのか。
 私は情報公開法にもとづき、横田空域の航空管制を米軍がおこなっている法的根拠は何かと文書開示請求をしてみました。すると国土交通省は、「文書は日米の合意がないと公開されない。公開すると米国との信頼関係が損なわれる。だから不開示」と。これだけ問題になっていることの法的根拠を開示しないということは、主権在民に基づく行政のあり方ではないと、誰でも思いますね。
 この問題の本質に迫る手掛かりとなるのは、外務省の「秘 無期限」の機密文書、「日米地位協定の考え方」です。これは「琉球新報」がスクープし、本にもなっています。その中の航空管制に関する日米地位協定の第6条の解釈をめぐって、外務省は「管制業務を米軍に行わせている我が国内法上の根拠が問題となるが、(地位協定第6条を受けた)合同委員会の合意のみしかなく、航空法上積極的な根拠規定はない」と言い切っている。そして、「管制業務を協定第6条の『趣旨』により『事実上』委任した」という程度の意味だと。横田空域は「(米軍が航空管制を)事実行為として行うことを日米間で認めている区域にすぎない」と明確に書いています。自衛隊が航空基地周辺で航空管制をするのは航空法に根拠がある。ところが米軍の場合は、そうした法的根拠はなく、日米合同委員会の合意により「事実上、委任している」と。戦後、日本占領時代に米軍がやっていたことを既成事実として認めているわけです。米軍は横田空域を、戦闘機などの訓練飛行や輸送機の出入りなどに使っている。輸送機はグアムやハワイなど海外の米軍基地から横田基地へ飛んできて、そこをハブ(中継)にして、沖縄や韓国などの基地へ向っている。
 米軍は訓練飛行と輸送機などの日本列島への出入りを最優先させるため、航空管制権をにぎって手放さない。その法的根拠は日米地位協定に規定されていない。ただ日米合同委員会の秘密合意によって「事実上、委任」されておこなっているというわけです。「日米地位協定の考え方」では、「米軍による管制は、厳密な航空法の解釈としては、航空法上の意味がないので、我が国民は、これに従う法的義務はないものと考えられる」とまでご丁寧に念押ししているほどです。
 しかし、実際は、日米合同委員会の合意で、外部に公表されない「実施細則」という取り決めが日米両政府を拘束しているわけです。それが、航空管制権という空の主権が侵害されている現実を招いている。そして、米軍機の騒音被害や墜落の危険による人権侵害にもつながっている。

憲法体系を無視した米軍優位の「密約体系」

 このように憲法体系を無視して、米軍に有利な「密約体系」が裏にある。航空管制の密約も「氷山の一角」で、「裁判権放棄」密約とか、さまざまな密約があり、それらが「密約体系」となって憲法体系を侵食している。
 例えば横田空域の問題にしても、米兵犯罪の問題にしても、米軍に有利な不平等な取り決めがあるということを、文書を公開して国会で、公開された場で審議すれば、大きな問題になるじゃないですか。しかし、日米合同委員会の合意文書を非公開にして、大問題にさせないように覆い隠している。
 基地の提供についても、日米合同委員会の密室で合意して決めています。今、辺野古の海を埋め立てて新基地を建設しようとしているが、どこを基地にするか、いつ、どこに、どんな施設をつくって、どんな手続きを行うかも日米合同委員会で決めている。国土の一部を、領土・領海・領空を基地・演習場などとして米軍に提供するという、主権にかかわる重大な問題に、国会が関与できないというおかしな仕組みになっているのです。
 国民の代表である議員が一切タッチできないところで、日米合同委員会の密室協議を通じて、日本の高級官僚と在日米軍高官によって基地の提供が決められてきた。日米安保条約と日米行政協定(現地位協定)が1952年4月28日に発効すると同時に、日米合同委員会が設置され、基地の提供や米軍の軍事活動にかかわる地位協定の運用に国会議員が一切タッチできない仕組みが制度化された。主権侵害の出発点です。主権在民・憲法を空洞化させる仕組みが日本政府の、国家の中枢に埋め込まれた。
 日米合同委員会に出席する在日米軍高官らは、上部組織である米太平洋軍司令部や統合参謀本部に、日米合同委員会での協議内容について、日本側に何を要求するかなど、常に連絡・報告しながら、米太平洋軍司令部、統合参謀本部からの指示に基づいて交渉しているわけです。
 占領軍だった米軍はその後、安保条約の下で駐留軍に変わった。しかし米軍は、在日米軍基地、日本の領土・領海・領空、日本全土を米軍に有利なように利用するために、日本の官僚を直接コントロールすべく、密室協議機関として日米合同委員会という仕組みをつくったというのが、歴史の真相です。そうすることで日本をコントロールできるのだといえます。そういう制度が日本の国家中枢に埋め込まれて、今日まで続いている。これが実態です。
 この実態を明らかにしなければなりません。主権者である国民の目も手も届かない日米合同委員会の密室で、基地の提供や地位協定の解釈・運用など主権にかかわる問題、人権にかかわる問題が、米軍優位の不平等な状態で取り決められていることを、より多くの人が知って、本当にこんな状態でいいのかを考えてほしいです。戦後70年以上過ぎて、まだこんな状態を放置したままでいいのかということですね。

日本政府の上に君臨する闇の権力構造

 日米合同委員会に象徴されるように、日米関係の情報は官僚機構がにぎっています。米国政府・米軍との間に太いパイプを築いている。だから、外務省北米局を中心として、米国側と常に密接に協議している官僚たちが政治家に、「米国との取り決めはこうなっているんだから、こうしなくてはならない」と報告・進言すれば、詳しい内容までよく分からない政治家は従わざるを得ないのが実情でしょう。結局、官僚機構がお膳立てした通りに、米国との関係を結ばざるを得ない。
 つまり、官僚機構が米国との太いパイプをにぎることで、日本の政治家をコントロールできる。日米関係に関して官僚機構が実質的に権力をにぎる構造になっている。そして、米軍が日米合同委員会を通じて日本の官僚機構をコントロールし、米国優位の日米地位協定の下での権力構造を維持している。その維持装置が日米合同委員会なのです。そのような隠された二重の構造になっている。
 官僚の方が「米軍の運用に日本は口出しできない取り決めになっている」と言えば政治家もそう思い込んでしまう。例えば、2012年のオスプレイ配備の時も、時の野田佳彦首相は「配備はアメリカ政府の方針であり、どうこうしろという話ではない」と言い、森本敏防衛大臣も「安保条約上、日本に権限はない」と言明した。米軍に対しては日本政府の権力、規制が及ばないと認めている。米軍のフリーハンドの軍事特権を容認している。裁判所もそうです。
 日本の憲法体系、それだけでなく、立法・行政・司法という「三権分立」という、憲法の民主主義の原理を根幹のところで腐食させる闇の仕掛けが、日本国家の官僚機構の中枢に埋め込まれている。日本政府の上に君臨し、日本の主権を侵害する「闇の権力構造」があると言わざるを得ないわけです。
 トランプ政権になって、日本政府に対してますます、軍事的・政治的・経済的に「米国第一」で、米国の利益を最優先する要求をさらに突き付けてくる時代です。これまでもこれだけ不平等な実態があるわけですから、このまま放置しておけばさらに日本の主権や平和、人権が侵害される事態がより深刻になっていくことは、目に見えている。日米合同委員会に象徴される不平等な構造の事実を明らかにして、変えていかなければならない。

日本の空の主権を取り返せ

 例えば羽田の新ルート問題では、民間機が大田区、品川区の上空を通過することになるので、騒音問題などで地元では反対運動が起きている。これも実は横田空域の問題とつながりがある。これまで民間機が通れなかった横田空域の中を低空で通って、羽田に離着陸する計画がある。日米合同委員会ではどう協議されているのかと、国土交通省航空局に問い合わせたら、「日米合同委員会の民間航空分科委員会で、民間機の一部が新ルートで横田空域の端を通れるように協議していて、最終決定ではないが、米軍側も内諾している。だが、詳しい協議内容は公表できない」と言う。
 このように、在日米軍高官と国土交通省の高級官僚が日米合同委員会の密室で話し合っている。そこで米軍の「お許し」が出るので通れますよと。国会議員も地方議員もタッチできない、主権者の手が届かないところで、国民不在のままで、秘密裏に話が進んでいる。そのこと自体が大きな問題だ。横田空域の航空管制権を取り戻し、もっと情報をオープンにして、ルート問題や騒音対策など国会などの場で話し合える状況にして、どういう解決策があるかは分からないが、地元と話し合えば騒音や危険性がないような飛行ルートをつくれるのではないか。国土交通省が日本の航空法に基づいて日本の空を全面的に航空管制するのであれば、どのような新ルートを設けるべきなのか、どうすればよいのか、もっと開かれた場で、あらゆる情報を公開し、話し合い、決定できる場がつくられるはずだ。ところが、横田空域を米軍が管理しているので、国民がまったくタッチできないところで決められてしまう。これが根本的な問題です。
 だから、このままでいいのかという問題意識を多くの人にもってもらいたい。
 国会でも党派を超えて、日本の主権にかかわる問題、主権在民という国会の存在意義にかかわる問題なので議論してほしい。国会が行政を監視するという役割を高めるべきです。国権の最高機関は、憲法では国会になっていますから、本来は国政調査権を行使して、日米合同委員会の合意文書や議事録を国会の審議の場に提供させ、こういう状況でよいのかとオープンに議論する必要がある。一部官僚にこうした重大な問題を「白紙委任」していていいのか、国会議員の存在意義が問われている。
 国民世論を盛り上げて、政府に迫る必要がある。

よしだ としひろ
1957年、大分県生まれ。
ジャーナリスト。96年、『森の回廊』(NHK出版)で大宅壮一ノンフィクション大賞受賞。著書に『沖縄 日本で最も戦場に近い場所』(毎日新聞社)『検証・法治国家崩壊』(創元社)など多数。最近著が『「日米合同委員会」の研究』創元社、「戦後再発見」双書⑤、定価1620円(税込)

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