最大の課題は「台湾有事は日本有事」にさせないこと
元自民党副総裁・山崎 拓 氏 語る
自民党総裁選挙は紆余曲折がありましたが石破茂さんが逆転勝利しました。小泉純一郎元総理が「息子は出さない」と言ったのは、3月7日と5月14日でした。もしそうであれば、石破さんの勝利はかなり堅いというふうに判断した時期もありました。しかし実際には小泉進次郎さんが出馬したために、大混戦になったという経過なんですね。
奇跡的な総裁選勝利
ところがギリギリの決選投票のときに、小泉進次郎さんじゃなくて、高市早苗さんが出てきた。それで勝てたんですね。小泉さんが決選投票に残ったら、石破さんは勝てなかったかもしれない。
高市さんは「日本会議」の力で決選投票に残った。麻生太郎さんが最終日に高市さんを推すと言ったんだけど、それは逆にこちらにプラスになったわけです。
石破さんが逆転勝利となったのは、小泉さんが残らず高市さんとの決選投票になったからですね。高市さんでは外交は駄目だという声は自民党の過半数ですから。党員においては日本会議が主力で高市さんはかなり有利な展開をしたけども、衆参の国会議員になると高市さんは右寄りの姿勢が極端だからみんな警戒してね。高市さんよりも石破さんがいいという判断が働いて、奇跡的な逆転勝利だった。
背景には国民の期待が
生活に苦しむ国民は石破さんに非常に期待していると思います。世論調査では石破さんが一番上ですからね。経済に関しても福祉に関しても、あるいは地方創生に関しても、石破さんであれば非常に安定した政治運営をやる、政策遂行をするとの期待です。とりわけ農林漁業者たちの石破さんに対する期待は非常に高い。
それから特に国際関係についても石破さんがやっぱり安定感があると。出るとこ出たらちゃんと言うと、そういう期待が国民にあると思います。
とにかく「台湾は中国の一部」
日本での、「台湾有事は日本有事である」という言い方には飛躍があります。台湾有事が起これば日本有事に発展する「可能性」はありますけど、イコールではない。ところが最近、自民党右派の有力者が盛んにそうした表現を使うということには、非常に危機感を覚えるわけです。
それは中国を不用意に刺激しますからね。
台湾有事を日本有事に発展させないためには、中国が武力による台湾解放というもの、何としてもしないでもらいたいということを中国に伝えることが必要だと考えます。日本外交の一番の課題はそこにある。
米中を戦わせないようにしないといけない。中国が台湾の武力解放に行けば、必ず米国が出てきますから。米国が出てくれば米中戦争になる。その場合の米軍の拠点はどうしても沖縄ということになるからね。
沖縄は日本の領土、一部ですから日本が「台湾有事」に含まれるということになってしまう。日本の領土に対する攻撃が起こることになる。尖閣を含めて、南方諸島を含めて、広域に攻撃が発生する可能性がある。そういう事態になるのをどうやって防ぐかということが外交として大事なんですね。
そういう意味合いにおいて、石破政権は日中首脳外交をやって日中対立、米中対立を抑える働きをしなくてはならない。すぐにできなければ、日中友好議員連盟などで友好関係を深める。二階俊博さんが引退しましたから新しい体制で議員外交を進めてもらうことが重要です。
中国にも慎重な対応を求める必要があります。また、米国に対しても、何としても中国と戦わないような米中外交を展開するように求めなきゃならない。そういうふうに思います。
日本にとっても対中国関係がもちろん大変重要です。とにかくここで軍事衝突を起こさせない。もちろん中国の対台湾解放に対してアメリカ抜きに日本の自衛隊が出ていくということは100%ありえない。
自衛隊は日本の領土、その上での国民を守るということしかやれない。専守防衛です。心情的には台湾の民主主義を守りたいという方は多いと思いますよ、私もそうです。
しかし、とにかく台湾は中国の一部であるという主張を理解し尊重することを日中国交回復のときに約束し、日中平和友好条約でもキチンと確認していることです。
その上で、平和的に統一するなら内政干渉しないけれども、武力行使は絶対それはしてもらっちゃ困るというのを堂々と伝える必要があると思います。
日米地位協定改定と沖縄
石破さんは日米地位協定改定やアジア版NATOについて言いました。地位協定の改定、それはばっちり取り組んでほしい。また、沖縄問題で沖縄振興予算を増やすということはもちろん大事です。それ以外には辺野古の問題でいくら頑張ってもね、これは難しい。代案がない。地位協定の問題でアメリカに譲歩を迫るということは、これは臆せずにやってもらいたいと思っています。
だけど地位協定については米国大統領がトランプになるかハリスになるかでだいぶ違うと思いますよ。トランプになるとちょっと厄介だなと思います。
アジア版NATOは、すぐには無理です。当面、クアッドでいくしかない。NATOは集団安全保障の協定です。加盟国の個別的な集団的自衛権を積み重ねたものが集団安全保障ですから。日本が集団的自衛権の行使ができるのは限定的に同盟国アメリカだけですからね。他は、同志国とか友好国です。
そういう意味において、網の目のような集団的自衛権の重なりの中の集団安全保障となるアジア版NATOなんていうのは、構想としてはなかなかいいようですが、難しいですね。それから、ASEANを入れないと全く意味ないですね。しかし、フィリピン以外は入らないですよ。
政界再編の可能性を含む展開か
高市さんが党分裂のリーダーシップを発揮するということは無理だと思いますね。例えば角福戦争みたいなことはできないと思う。そういうリーダーシップっていうのは相当の大物じゃないと出てこない、派閥の長になるような人じゃないとね。「高市派」っていうのはそう簡単にできないんですね。安倍さんがバックにいたときは高市さんはダミーみたいになったけど、安倍派自体が崩壊しちゃったらダミーでもなくなったからね。
安倍派は裏金議員の集団ですからね。そこが難点ですよね。総選挙に入っちゃったから、裏金議員の処遇ですよね。一気に始末される可能性もあるんですよ。
心配はこの選挙で仮に自公で過半数を割るようなことがあればね、政権が終わりです。選挙に勝たなきゃならないから裏金議員の処遇というのは非常に大きかったと思います。
それでも自民・公明で過半数を順当に取るということも、かなりの困難性を伴った選挙になると思います。
自公で過半数割れとなれば政界再編以外に道はない。
その時点で合従連衡が起こると思います。政治に大きなハレーションが起こると思うんですよ。
石破さんの早期解散が吉と出るか凶と出るかですね。
(本稿は10月1日に収録した)