要塞化された琉球列島の島々 高橋 愛

市内勝連分屯地にミサイル配備

沖縄県うるま市(30代) 高橋 愛

 まずは、〝言いたいことがありすぎる〟に尽きます。列挙させていただくと――、
 ミサイルに税金を使わないでほしい。もっと私たちの暮らしに身近な社会保障を実現してほしい。「私のお金でミサイル買うな、軍事よりも生活」
 どうせ、アメリカが使用・製造中止して持て余している格落ち戦闘機を買うのだろう。この手のアメリカによる日本の軍事支配政治、沖縄県内での事故多発をいつまで繰り返すのだろう。
 「戦争を起こさないための軍拡」って矛盾していないのだろうか。
 アメリカが戦争を始めたら日本も参戦するのだろう。そして沖縄が最前線になり、一般市民が犠牲になるのだろう。その際、軍拡に賛同していた人々は「こんなはずじゃなかった」と言うのだろう。
 日本国憲法前文の決意表明を思い出してほしい(NHK連続テレビ小説『虎に翼』がブームなので)。日本は、武力行使をあんなに悔いていたじゃないか。
 ロシア-ウクライナやパレスチナの戦争で無防備な子どもたちが一番の犠牲になっている現実に心が痛む。軍拡に賛同している人々は自分の子どもに「どうしてこんな世の中にしたの」って問われる覚悟があるのか?
 気候変動への対策が喫緊の課題とされる時代に戦争や軍拡で資源破壊をしている場合なのか?

思い出される〝捨て石〟になった過去

 〝沖縄県うるま市勝連にある自衛隊施設にミサイルが配備される〟というニュースを目にしたのは2022年11月だ。私は、夫と息子の3人家族で、その予兆に気づかず平穏に生活していた。〝ミサイル配備〟の文字から率直にイメージされるのは〝物騒〟だ。ミサイルを保有するとは、有事の際には真っ先にここが狙われるということじゃないか。
 それとも、例に漏れず〝世界一政治に無関心な日本国民〟の一人である私は、時代の流れにアップデートできていないだけで、現代の共通見解として軍備は当然なのか。だが、「自国を守るための軍拡」という声には、沖縄戦の歴史が頭をよぎる。再び沖縄が犠牲になるのだろう。
 一方、他国への軍事侵略・軍事支配を行わずとも経済発展を成立させている国々もあるという。日本もその立場をとれないのだろうか。

自然を破壊して軍備増強の違和感

 うるま市勝連陸上自衛隊の部隊拡大とミサイル配備の過程で判明したさまざまな問題のひとつが保安林違法開発だ。保安林とは、森林法に基づき、水源の涵養、土砂の崩壊、暴風その他の災害の防備、生活環境の保全等、特定の公益目的を達成するため、農林水産大臣または都道府県知事によって指定された森林のことだ。
 勝連分屯地敷地内には、保安林に指定された大規模な区域がある。
 元々、米軍基地であったこの区域は北上田毅氏によると、日本に返還された後も自治体からの要請を無視し森林法に違反した形で伐採されて自衛隊基地施設が進められている。保安林区域に指定されるのは、天災に備えてその土地の形質が重要な機能を果たすということであり、現にこの土地の森林が回復されない過去50年の間に風害が報告されている(2023年8月4日「沖縄タイムス」)。
 保安林という地球上の共有資源が、「防衛」のために破壊されている皮肉な現実に対して冷笑してしまう。経済思想学者・斎藤幸平氏の思想に魅了された私の浅慮な意見を言わせていただくと、グローバルサウスの国々(先述の「他国への軍事侵略・軍事支配を行わずとも経済発展を成立させている国々」を指すことがある)を手本に、自然環境を破壊する軍拡はやめて、潤沢なコミュニズムを保った世界を次世代に渡したい。

歪められる歴史、
分断される市民

 沖縄で生まれ育った私は、幼少期から米軍基地や戦争の話題に触れている。しかし近年の「戦争を起こさないための防衛」という名目で軍事増強が加速する状況には違和感を抱いている。なぜならば、それと同時に、歴史教科書の記述も〝修正〟されてきているからだ。沖縄戦時の集団自決の記述は歪められ、従軍慰安婦の事実も否定されるようになった。
 そして南西諸島の軍事要塞化が地域住民同士の亀裂を生みながら進められている。沖縄戦においても日本軍と米軍に翻弄された地元住民は亀裂を生んでいった。「あいつはスパイではないか」と不信が煽られ団結できなかった。
 現在の軍拡の波も、政治的側面で地元住民の亀裂を生み、そして何より多くの無関心層の存在が沖縄の軍事要塞化断念の声を縮小させている。私の体験としても、「ミサイル配備反対」の声を上げる層の中でも若者とされる私だが、同世代にはこの考えが受け入れられていない。話題を避けられる。そうして声を上げる人が自爆していく。政府にとって都合のいい構図だろう。
 「平和」という言葉に薄っぺらささえ感じさせるような風潮は、人々が、再び戦争になる可能性を受け入れているということなのか。近年の教育課程でそのような価値観が形成されているのか。大阪の中学校社会科教諭・平井美津子氏の言う、「社会科教諭の使命のひとつは、戦争をよしとしない人を生み出すこと」が忘れられない。
 戦争経験者が強く訴えるメッセージ「戦争は絶対ダメ」の重みをこれから生きる人々でどう共有していけるのか。非常に重要な課題だと思う。それを考えさせられる機会が沖縄には日々あふれている。今日も明日も明後日もミサイル配備阻止に向けて声を上げる人々を街で目にするのだ。