<シリーズ・日本の進路を考える>
世界の政治も経済も危機は深まり、わが国を亡国に導く対米従属の安倍政権による軍事大国化の道に代わる、危機打開の進路が切実に求められている。
本誌では、各方面の識者の方々に「日本の進路」について語ってもらい、随時掲載する。(編集部)
企業課税の公正化で年間9兆4065億円の財源
中央大学名誉教授・商学博士 富岡 幸雄
世界の首脳らの税逃れが暴露 —– リークされた「パナマ文書」の激震
中米のパナマのある法律事務所の何十年間にも及ぶデータが、なぜか表に出ました。ロシアのプーチン大統領、イギリスのキャメロン首相、中国の習近平主席とかの偉い人たちの名前が出ました。親族とか身内の子分の名前で膨大な資産を租税回避地(タックス・ヘイブン)に蓄積しているわけです。世界の政治指導者が私利私欲をはかっているのです。毎日の生活追われる国民から見ると何のことか、どこの国、どこの世界のことかと、みな狐につままれています。
しかし、こうした税金がないとか安い国で、しかも秘密保持をしているタックス・ヘイブンが世界中あちこちにあります。パナマや英領バージン諸島、ケイマン諸島などが有名でヨーロッパにもあります。
タックス・ヘイブンが問題になっているのは最近のことではありません。50年も前からです。膨大な暗闇があるのです。伏魔殿のようになっているわけですが、今回その一部がバラされて出ただけ、こんなのは氷山の一角です。
不思議なのは、アメリカと日本の偉い人たちの名前が出ないことです。5月になると、約21万4000社の企業名や株主、役員などの企業データベースが公表されるので、いくらかは出るかもしれません。しかし、膨大な、2600年分の新聞の量と言われるデータです。読み取ることは至難の業、出てもほんの一部でしょう。今回のも、1年前にデータは出ていましたが、400人もの記者が調べてやっと少しのあの記事になった程度です。本人の名前でやっていることなどないのですから、まず、肝心なのは分からないでしょう。掘り出すのは容易でない。何十年かかっても掘り出す必要はありますが。
だから私に言わせると、なぜ今ごろになって騒ぐか、おかしいわけです。昔から分かっていたことだからです。
私は、税の実務と研究を1946年から70年間やってきました。
学徒出陣で陸軍現地兵として戦争に行って、帰ってきてからずっとです。海外にまで戦争に行きました。国を守るのだと言ってですね。しかし、外国まで攻めていって、なんで国を守るというのかと、不思議に思いました。しかし、国を守るために死ぬのだと、覚悟を決めていたのでした。
戦争が終わって帰ってきました。日本中が焼け野原です。そして国税庁に入りました。
こんな悲惨な戦争を2度と起こさないためにも、国の財政や経済の弱さを解決して日本を内側から強くしなくてはいけない。そうでなければ戦争で亡くなった人たちに申し訳ない。こんな決意もありました。
1960年まで国税庁にいました。その後、大学で、税の問題を学問として研究してきました。90年には、タックス・ヘイブンの問題を論文にし発表しました。いまから26年も前のことです。日本の企業も、この当時以前から、タックス・ヘイブンを利用して、税逃れ、所得隠しをどんどんやっていたわけです。私は日本で初めて、そうしたことを問題にしてきたのです。だから、今回の問題は分かっていたことで、驚くには値しないのです。
燃え盛る世界税金戦争の炎—- 「人類最後の戦争」の深刻化
問題は、金融や経済の動きはグローバリゼーションで、国境がなくなっています。経済取引や金融、カネの動き、企業行動は、ボーダレスです。
しかし、地政学的には国境があり、国民国家としての主権国家があります。国家の権力、国権の最高のものは課税権で、租税高権と言います。
独立国が、どのような法律をつくろうが自由です。税金のない国をつくっても自由です。西インド諸島のバハマは完全に税金のない国にして、世界中の大会社や大銀行の子会社ができて繁盛しています。そういう政策をとっている国が世界のあちこちにあります。
私は今、人類最後の戦争、タックス・ウォーという本を書いています。最後の戦争は世界税金戦争です。日ロ戦争は散弾銃で、第1次大戦では戦車が出てきて、第2次大戦は原爆が出てきた。しかし、いまや原爆・水爆は使えない。つかったら人類滅亡です。
税金戦争は国家間で税の奪い合い、税の競争です。法人税を下げる競争は、その典型です。法人税を下げて、よその国の企業を誘致する。企業植民地政策であり、企業誘致戦争です。タックス・ヘイブンも、その税の戦争の一環です。課税ベースの縮小もそうです。
こうしたことを手段にして、各国が自由勝手に法律を作っています。世界は無政府状態です。国連が何かをできるわけではありません。G7とかG20とかいって集まって会議をしていますが、「協調しましょう」などとポーズをとり抽象的な決議を上げるだけで、実効性には疑いがあります。泥棒の親分が泥棒を捕まえる話をしているようなものです。
多国籍企業や超富裕層の行動は、国家の枠を超えており、「企業」と「国家」の〝乖(かい)離〟があり〝相剋〟さえも生じているのです。
日本のマスコミも堕落して、本当のことを書かない。一番悪いですね。国を危うくしています。かつては戦争を煽ったが、今は庶民増税を煽っています。消費税は公平な税金だと煽っています。ご褒美に日刊新聞は「軽減税率」を認めてもらいました。安倍政権とマスコミはグルです。国を悪くしてきた張本人は何人もいますが、マスコミもその一人です。
タックス・ヘイブンは違法でなく、合法なのです。使うのも自由なのです。日本ではそれほどでもありませんが、アメリカの場合は企業が「節税」できるのにしなかったら経営者は斬首になります。株主は、そうやって利益を増やして配当を増やすように要求します。ですから、タックス・ヘイブンをつかって節税をすることは経営者の義務なのです。
強欲資本主義で、儲けるためには手段を選ばずです。日本の企業経営者も最近はそうなっています。
納税者がタックス・ヘイブンを利用して所得隠しや税逃れすることが問題なのです。課税情報を不透明化しているのです。
日本を悪くしたのは何か—- 諸悪の根源は米国の年次改革要望書で作られた会社法
日本を悪くしたのは何か。私は、経済の面で言いますが、会社法です。2005年に会社法ができたことによって悪くなりました。アメリカナイズされた企業経営者がつくられました。
アメリカの年次改革要望書(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」)の指示に従って会社法がつくられました。日本の社会が骨抜きになったのは会社法の制定からです。
資本金が1円でも、実質ゼロの会社もできることになっています。7人必要だった発起人も不要、いまは株主1人でもよくて、取締役会もいらない。勝手に会社ができるわけです。利益がなくても株主に配当してよい、自社の株を自社で買って株価操作もできるのです。
アメリカの企業が日本に来て商売をしやすくするためでした。金融、保険、弁護士とか、仕事をしやすくした。日本を経済植民地化したのです。アメリカ人が日本に来て、儲けられるようにしたのです。
わけのわからない会社がいっぱいできて税金逃れに悪用されています。
労働規制の緩和、改悪もひどいですね。年次改革要望書に沿って1999年に 労働者派遣法が改正され、人材派遣が自由化されるなどしました。安倍さんが、「雇用が改善した」と言いますが、増えたのは多くは非正規雇用です。4割を超えています。立派な大学を出た人が、非正規雇用で、アルバイトです。給与は正社員の3分の1です。これで安定した国が成り立ちますか。
企業活動の憲法は会社法です。日本は、企業社会で企業活動の活発化で繁栄してきた国です。その企業活動の憲法である会社法の改悪が、諸悪の根源です。日本の企業社会はガタガタにされました。
いま、環太平洋経済連携協定(TPP)も同じです。それを成長戦略の決め手などとウソをつく、なんですかね。
アベノミクスですが、良いことは何もなかったですね。出てきたのは副作用だけです。中間層の分解が進み、格差の拡大が急速に進みました。中間層が下層に、下層が最下層の貧困に転落しました。上層が少しだけですが増えました。安倍政権で経済格差と社会格差が急拡大しました。
政治とは税の取り方と使い方 —-安倍政権で著しく悪化
政治とは、税の取り方と使い方です。だから、税制は政治の顔であると言います。私は、70年間以上税制とかかわってきたのですが、税制改正の歴史は、改悪の歴史です。
税と社会保障の改悪で、格差が拡大しました。
時間がないので社会保障の問題は触れられません。しかし、最近の高齢者優遇で若者が犠牲になっているという、世代間対立を煽るやり方には賛成できません。高齢者は必死になって働き、戦後復興から成長期と、日本を支えてきたのです。
税の歪みもひどいですが、使い方もひどいですね。1000兆円を超える国家財政の借金ができています。なぜ、こんなひどいことになったか。私は、消費税が導入されたからだと思っています。消費税という取りやすい安易な税制ができたからいけないのです。政治家が消費税に寄りかかってしまっています。
消費税は、福祉に回っていません。法人税減税に回っただけです。
1%で3兆円近くが入る。消費税は、日本中の事業者が税務署の役人になって、8%取っている。徴税官になっている、タックスマシーンなのです。消費税を税金だと思ったらいけないのです。それは何か。物価、モノの値段なのです。生活必需品にかかる、生活にかかる税金ですから生活税なのです。人間が生きていることにより税金を取られる、生存にかかる税金なのです。
これは本来の税金ではないのです。税金とは何か。税金とは、応能負担です。所得に応じてのはずです。負担能力に応じて払うのが税金です。力の強い人は重い荷物を担ぎ、普通の人は普通に中間の荷物を担ぐ、力の弱い人は軽い荷物を、力のない人は担がない、これが税金のあり方です。給料10数万円の人が買うパンも108円、年何千万円も稼いでいる重役さんが買うパンも108円。これが平等ですか。これが公平ですか。悪平等であり、不公正です。
税は負担能力に応じて払うものです。ところが日本の場合は逆な仕組みです。
大金持ちはタックス・ヘイブンを使って税金逃れをする、株の配当とか利息とか、株の値上がり益のキャピタルゲインの税金は非常に少ない。サラリーマンだけは源泉徴収できちんと取られる。最高45%まで取られるが、株を売って儲けても20%だけで済む。おかしいですね。
ところが消費税は、所得税も払わなくてよい、ましてや住民税も払わなくてよいような庶民からも取る。生活費にかかる、おかしいですね。
消費税はなくしたい—-大企業に適正に税金を払ってもらえば9兆4065億円の財源
私は、消費税はなくせと言っています。8%を10%にするのに反対するのではなく、逆に5%に戻せと。さらになくすのが理想です。
では、そのための財源はどうするのか。財源を誰も言っていない。
(図1)は、企業規模別の法人所得総合平均実効税負担率です。法人税と法人住民税及び法人事業税を合わせた実効税負担率です。法定税率は38.01%ですが、全国の有所得の全企業規模平均で、外国税額(外国で税金を払ったので差し引かれ、日本では払わない税額)を入れても12年には24・74%、13年には22・72%です。前回の著作で話題になりましたが、実効税率は個別企業で例えば三井住友フィナンシャルグループは0・002%、ソフトバンクは0・006%です。これを暴露したものだから大騒ぎになった。これはミクロの分析ですね。
このグラフはマクロの分析の話です。資本金規模別にみると、中堅中小企業が非常に割高です。日本が企業社会と言っても中小企業社会で、経済と地域を支えています。そこが虐められています。
100億円超の大企業や連結法人の実質税負担は限りなく少ないのです。100億円超は20・28%です。しかも、外国に払った税金まで入れてこの数字です。
高いのは、法定税率であって、実効税率ではない。実効税率は法定税率の6割程度に過ぎない。実効税率とは、実際の納税額を分子に、企業利益を分母にしたものです。
負担能力のある巨大企業の税金が極めて低い。零細企業よりも低いこの実態をどう見るかです。
これを直せばどの程度の税金が入るか。
法人課税に存在する巨大な欠陥を是正し、課税ベースの歪みを正常化することにより9兆4065億円の推定増収想定額が試算でき、新規の財源を発掘できます。(図2)
試算結果では、連結法人の納税正常化で約3兆8858億円、資本金規模100億円超の巨大企業で約3兆1967億円の増収が想定できます。
これだけで8%の消費税を5%に戻すことができます。
問題は、国内総生産(GDP)でみると安倍政権の3年で民主党政権時と比べて当時よりも低いということです。アベノミクスというのは日本経済にとって何もなかったということです。効果がなかっただけならいいが、弊害として格差が拡大したのです。
それに、大企業優遇が、会社法や労働の規制緩和とか、税制の歪みとか、あらゆる方面でやられている。結論として、大企業から税金を取りたくない政治、取らない政治をやっています。アベノミクスとは、「巨大企業から税金を取らない税制」を構築している政策でした。
多くは触れられませんが、租税特別措置の適用による政策減税実額は、2012年度の1兆3218億円から14年度は2兆6748億円に、安倍政権下で大きく増えています。企業規模別でみると、とくに巨大企業と連結法人で激増しています。
経済再生の決め手—-法人税減税ではなく「消費税減税」による内需の拡大
いまこそ国のあり様を正さなくてはなりません。。
国の屋台骨が折れそうなのです。バックボーン(背骨)としての税制、その背骨の歪みを直さないといけません。
ところが、「税制改革」というと消費税の話しか出てこない。なぜか、法人税は出てこない。しかし、法人税減税をしても、日本経済は良くならなかったのであり、トリクルダウンにより富が下に滴り落ちてこない。全部、大企業の内部留保とタックス・ヘイブンに隠蔽されているのです。
経済再生の決め手は、法人税減税ではなく消費税減税による内需の拡大です。
日本経済の問題は、需要不足での需給ギャップです。GDPの6割は国内消費ですが、それが沈滞しているのです。これを直すには、企業は労働分配率を増やし労賃を上げろということです。同時に、社会保障など所得再配分です。政府は消費税を下げることです。
大企業は、政治によってさんざん甘やかされてきたのですから、法人税を少しぐらいまともに払ってもらいたい。増税ではありません。
これだけでも今回の九州の地震災害復旧や、遅れている東日本大震災復興、子どもや青年の貧困対策、社会保障の充実をはじめ、国民生活の充実は可能となります。
平和で公正な安定した文化の薫り高い国にするため「税制公正化の魂の覚醒」を促したいのです。
(富岡幸雄さん 1925年生まれ。中央大学名誉教授、商学博士、税務会計研究学会顧問。国税庁の大蔵事務官、国税実査官をへて、1965年中央大学商学部教授。税務会計学を創始。著書に「背信の税制」「歪んだ税を斬る」「税制再改革の基本構想」「税務会計学原理」「税務会計学講義」など多数。14年刊の「税金を払わない巨大企業」(文藝春秋)は大評判になった。 なお、本稿は、インタビューを基に、編集部が整理したものです。見出しも含めて文責編集部。)