部落解放同盟中央執行委員長 組坂 繁之
昨年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって、私たちの生活はもちろんのこと、人権や平和の確立を求める闘いにも、多くの制限や制約があるなかでの取り組みになりました。
何よりもこれまでの医療制度の改悪、福祉や社会保障関係予算を削減してきたことが、医療崩壊を生み出している点では、まさに経済優先をすすめてきた政治による「人災」であるといえます。さらに安倍政権を継承するとした菅政権も、いっそうの経済優先政策をすすめることで、全国的な感染拡大の状況が続いています。
感染症の世界的流行(パンデミック)は、各国の政治や経済の混乱を生み出し、社会不安を増大させてきました。とくに、米国のトランプ大統領がすすめてきた自国第一主義による対立的な国際情勢によって、感染症拡大防止に向けた共同の対策がすすまず、各国では、医療崩壊とともに、貧困や格差、差別の問題を顕在化させ、分断と対立が生み出されてきました。こうした分断と対立は、トランプ大統領が敗北したとはいえ解消することなく、米中対立、EU諸国の不統一、中東や朝鮮半島情勢など、国際情勢を政治的にも経済的にもより不安定にしています。
一方、菅政権は、当時の安倍首相による「桜を見る会」での事務所負担問題での偽証答弁について、安倍政権で官房長官として同様の答弁を繰り返してきたことへの説明責任を放棄したままです。さらに、日本学術会議会員任命拒否問題でも、学問や研究の自由への介入、異論と多様性の排除に対して抗議が強まっていますが、具体的な説明を拒否するなど、安倍政権以上の強権的な政治がすすめられています。また、沖縄県の民意を無視した辺野古新基地建設をあくまでも強行する姿勢であるとともに、軍事予算は過去最大となっています。しかも「敵基地攻撃力」の保持を検討するなど、これまで以上に米国に追従し、憲法違反の戦争推進政策をすすめ、その軍事力を背景にしながら、中国や韓国との対立を激化させ、アジアでの覇権をめざしています。
私たちは、この間、差別と戦争に反対する闘いを全国的にとりくみ、感染症が拡大するなかでも、国会前での抗議行動や全国各地での戦争反対の共同の闘いをすすめてきました。今後とも、菅政権の憲法改悪策動を許さず、人権と平和、民主主義の確立に向けた活動を強化することが求められています。
今日の日本社会は、新自由主義政策のもと、貧困と格差が拡大、固定化しています。感染症拡大の中で、社会不安や不満を背景にして、インターネット上の差別情報の氾濫やヘイトスピーチのように差別と暴力が公然と扇動され、政治的にはこの差別排外主義勢力が今日の菅政権を支えています。憲法改悪を絶対に阻止するためにも、人権と平和を確立するための闘いは、ますます重要な課題となっています。さらに、本年1月には「核兵器禁止条約」がようやく発効します。核兵器廃絶にむけた大きな前進です。私たちは、核抑止力を安全保障の基本にしている今日の日本政府が、この条約に反対していることを許さず、被爆国の責務として批准を強力に求めていかなければなりません。
「部落差別解消推進法」や「ヘイトスピーチ解消法」「障害者差別解消法」「アイヌ施策推進法」などの実現は、自民党政権のもとにあっても、なお厳しい差別の実態を訴えてきたそれぞれの当事者の奮闘と、より広範な共同の闘いの成果です。私たちは、こうした共同の取り組みの成果をふまえ、部落差別撤廃と、あらゆる差別に対する人権侵害被害救済制度の確立、狭山再審闘争の勝利、天皇制の強化に反対する闘いなど、反差別共同闘争の力を総結集して闘います。来年は、全国水平社創立100周年です。多くの先達たちの苦闘に想いを重ね、闘いの勝利にむけてともに奮闘しましょう。