進む保守分裂・自民の亀裂と衰退
対立軸鮮明にできず対決構造をつくれなかった野党
本誌編集長 山本 正治
統一地方選挙と衆院補選が終わった。地方の疲弊と地域住民の苦難を打開するために自治体政治の刷新と安倍政権打倒をめざして奮闘されたすべての皆さん、まことにお疲れさまでした。
広範な国民連合も、これまでになく多くの推薦候補者を決めて支援し全国で奮闘しました。沖縄3区衆院補選で圧勝された屋良朝博さんと地方選で当選された皆さん! おめでとうございます。残念だった皆さんにはこれからも一緒に前進しましょうと申し上げ、健闘をたたえたいと思います。
この結果と経験は当面する参院選にも生かすだけでなく、各自治体と全国で安倍政権と闘う戦線を形成するために生かされなくてはならない。また、国民諸階層の政治意識や政治行動の変化もある程度は読み取ることも可能で、それは国民運動と戦線形成を促進するために必要なことである。
一連の選挙結果でも、揺らぐ安倍政権の政治的主導性は辛うじて維持された。
この政治戦で野党各党は、「対立軸」を鮮明にできず「政治的対決構造」をつくれず戦略的弱さを露呈させた。これが一つの特徴であろう。野党の奮起を期待する。だがもう一つ、全国での保守分裂、自民党の亀裂・分裂も大きな政治的特徴である。
自民党は、二つの衆院補選で「2敗」となったように決して強いわけではなく、衰退を早めている。公明党が国民から見放された自民党政権を支えているが、この党も今回「常勝関西」でかつてない敗北を喫した。本来、安倍政権と闘うチャンスである。
しかし、反自民の野党勢力は全体として振るわなかった。
こうした中で沖縄3区衆院補選ではオール沖縄の屋良朝博さんが自民候補に圧勝した。また、北海道知事選は11知事選で唯一自民党候補との対決構造を実現した。奮闘された皆さんに改めて心から敬意を表するとともに、全国がこの経験、教訓に学ばなくてはならないと思う。
沖縄での前進と北海道の奮闘、この日本列島の南と北の政治状況はわれわれの展望である。
戦略なき野党。自民党政治に憤る有権者に応え得なかった
知事選は地方政治最大の政治戦である。
今回、11道府県知事選が争われたが与野党対決は北海道だけだった。その北海道を含めて8道県知事を自公与党が制した。
自民分裂の福岡は現職小川知事が自民推薦を破って再選、島根では自民党県議らが支援した新人が現職を破った。だが、いずれも保守県政の継続には違いがない。大阪府知事選では大阪維新の会候補が自民党候補を寄せ付けなかった。維新は自民党以上に反動的な「改革」保守勢力であり、安倍官邸は憲法改悪のために維新勢力との連携を望み「敗北」とはとらえない。
野党は北海道を除いて対決構造をつくれなかった。共産党が8県に独自候補を擁立したが実質的な政治的争いにはならず、自党の宣伝にとどまった。
自民分裂の有利な政治状況の4県ですらも野党は対抗できなかった。対抗できないどころか、自民候補を推薦した野党や実質支持した野党もあった。
10府県の有権者は住民大多数のための知事を選ぶ選択肢をそもそも持てなかったのである。野党は野党としての責任を果たせなかった。こうして財界中心の対米従属政権に追随しそれを支え、地域の一部企業だけが利益を独占する地方自治体政治は本質的に暴露されなかった。
大阪と沖縄の違いは特徴的だった。
沖縄は衆院補選で、新基地建設反対・「建白書」実現の明確な県民意思、県民運動に根差した旗印のもとに「オール沖縄勢力」が一丸となって、「自民党公認+公明、維新の会推薦の陣営」に圧勝した。他方、大阪では知事選、市長選で「反維新」ということで共産党など野党も自民党候補を応援し完敗、衆院補選も「維新」の圧勝を許した。
野党勢力に自民党政権を打倒する一貫した戦略があったとは思えない。自民党の側には少なくとも政治権力維持のためには何でもする「戦略」があった。
こうした中で北海道では連合北海道と北海道農民連盟、それに野党の共同戦線を構築し自民党道政を打ち破るために奮闘した。今回は自民党道政の継続を許したが、こうした努力が長期に有権者の政治的認識と政治的力を前進させ、政治変革を進める上で重要な意味を持つのは間違いない。それだけになぜ勝てなかったのか、さらに前進するための検討が望まれる。
自民党は基盤を強化したわけではない
マスコミは道府県議選結果について「自民党は議席占有率で5割を超えた」など強調する。しかし、自民党政治への強い不満、批判はこの選挙結果にも出ている。マスコミなどに振り回されない、できるだけ全面的で正確な評価が必要である。
夏に参院選を控え都道府県議会議員は政党の基礎力量を示すといわれ注目される中の選挙で、自民党は辛うじて現有議席を5議席だが上回った(しかし、与党公明党が3議席減で自公与党ではほぼ現状維持である)。
だが、それは有権者の政治意識を必ずしも意味してはいないし、政党の力関係の全体をも意味しない。
道府県議選で自民党は議席数は維持したが、得票数を見ると全国で82万票近く減らし、1099万票弱だった。1980年代末の自民党単独政権のころには都道府県議選での支持者はおよそ2000万人だった。選挙のたびに減らし、今や1000万人余である。しかも最近の支持の中には公明党支持層の票が何百万か含まれている。本来の自民党支持層はもっとずっと少ないのである。
その公明党は自民党政権の最大の支柱だが、今回「常勝関西」だけでなく川崎や名古屋のような大都市でも市議の議席を減らした。公明党への支持層の批判、離反が沖縄だけでなく全国に広がっているのである。さらに新手の自民別動隊である維新勢力は大阪と近畿一円では衰退に歯止めをかけたが、近畿を除く道府県議選では壊滅である。
6政令市長選が行われたが、そこには自民党退潮の状況が明瞭に出ている。野党は知事選同様に対決構造をつくれなかったが、自民党はさんざんな結果である。
大阪市長選では大阪維新の会が自民推薦候補に圧勝した。官邸は府知事選同様に「敗北」と見ていないだろうが、府議・市議を大幅に減らした大阪自民党にとっては大打撃である。
札幌市で自民党は野党系の現職市長に相乗りし「敗北」を免れた。相模原市は自民党系現職が野党系新人に、浜松市では自民推薦候補が現職に敗れた。文字通りの自民党系市長は静岡市と広島市だけである(この2市で自民党候補を推薦した野党があったがどういうことか)。
「自民、基盤強化」などとは正確にはどこから見ても言えない。全国のそれぞれの地域で見るともっと生き生きと闘いの条件に気づかされるに違いない。
野党の無気力と弱さが自民の強さに
投票率は道府県議選で44・08%と過去最低、知事選も47・72%で過去2番目の低さである。後半の一般市区町村選でも同様だった。実に有権者の56%(道府県議選)が投票に行かない、行けない。自民党政治への批判はますます高まっているが、自分が支持する候補者を見つけきれないのである。野党の弱さの反映である
こうした中で自民党は22道府県議選で前回に比べ議席を増やした。低投票率は自民など保守系に有利に働く。しかも、無投票選挙が3分の1強もあり島根では実に56・8%、半分以上が選挙なしで当選した。その6割強が自民党ないし保守系であり、自民党が約430人で突出している(立憲民主党が約30人、国民民主党は約20人、等々)。自民党が道府県議の半数を制したというが4割は無投票当選なのである。野党の無気力で自民党は「棚ぼた」!
しかし、野党の無気力と弱さだけでない問題がある。政令市議選も含めてとくに町村長や町村議会選挙などで無投票選挙が急増している。地域経済が限界を超えて衰退し、人びとはメシが食えなくなって地域社会が崩壊している。人びとは余裕を失って、地域の「民主主義」が形式的にも成り立たなくなっている。
保守層が分裂し自民党に亀裂が走っている
福岡県など4知事選は文字通りの自民党分裂の選挙となったが、保守分裂は全国いたるところに見られた。
北海道知事選をめぐっても自民党と保守層に大きな亀裂が走った。北海道議会自民党と地元財界や農協は、当選した元夕張市長の鈴木氏とは別の候補を準備していた。しかし、安倍政権・菅官房長官が強引に鈴木氏を自民党の候補者に据えた。
その背景を十勝地域の首長が語っている。「現道政による海外農畜産物の輸入増が見込まれるTPPや日欧EPA、JR北海道問題への対応に不満がある。役場に『石川(野党候補)頑張れ』の横断幕を掲げたいというのが本音で、市町村側が従来通り選挙で動く空気はなかった」(毎日新聞北海道版4月11日)。安倍政権が強引に推し進める多国籍大企業のための対米従属政治への保守層の中にある怒りが率直に出ている。自民党の亀裂、ここでは政権中枢と北海道との矛盾として噴出した。自民党は地方では政治的支持基盤をほぼ失ってきているのである。
この「空気」を引き付ける野党側の政策と運動、戦略的な闘いが問われている。
地域の諸困難が生み出す保守分裂、中央政治・官邸と地方の矛盾のいっそうの激化は不可避だからである。地方の疲弊は深刻で、自民党の基盤である保守層、とくに農民層や地域の商工業者・建設業者などはぎりぎりの限界的な困難に直面している。だから、自治体財政を誰が握るかは死活的な闘争とならざるを得ない。自民党執行部が「処分」をちらつかせても事態を抑え込むのは容易でない。
自民党安倍政権を打倒する戦略的な闘いには、この農民や商工業者、建設業者など保守層の動向は決定的に重要である。われわれはこの人びとの経済的要求に心を配らなくてはならない。
壮大な戦線構築の客観的条件は広がっている
自民党政治がもたらした地方の疲弊と貧困が限界にきた中での統一地方選挙だった。
しかし野党は、安倍政権の「地方創生」政策の破綻をほとんど暴露できず争点化できなかったし、家族農業つぶしで農林漁業への民間資本導入を進める自民党政治と闘えなかった。大企業と資産家たちのためのアベノミクスと、「東京を世界一企業活動がしやすい都市にする」という多国籍化した大企業・金融資本のための東京一極集中・グローバリズム路線は暴露されなかった。
地方は疲弊し農林漁業、それと結びついた地域商工業者や建設業者の衰退は限界に達している。政治は複雑だが保守分裂の背景にはこの深刻な状況がある。
経済政策、財政政策をめぐる闘争はいっそうの激化が避けられない。平和や憲法問題、原発、社会保障だけでなく農林漁業の再生を中心に地域経済発展のための要求に心を配ることが重要である。
今後、自民党のさまざまな亀裂はいっそう進むだろう。地域と国の政治の方向・政策を鮮明にして安倍政権に代表されるような一部売国的勢力と闘う戦線構築のチャンスである。広範な保守層、自民党支持層の中にも、自民党の国会議員やリーダーの中にすらも地方の貧困と国の行き詰まりに直面して、打開をめざそうとするいわば「国士」ともいえる人びとが目立つようになってきた。特に地方では顕著である。地方での「自民分裂」はその反映である。
自民党政権と闘おうとする労働運動や市民勢力は、この農山漁村を背景とする地方の勢力、この国の将来に関心を寄せる保守勢力と手を握り安倍政権と闘うことができる。選挙での共同はなかなか難しいにしても、県知事や市町村長など首長を住民大多数のものに取り換える闘いでは可能で、全国にいくつも経験がある。
国民運動を共同して発展させることは最も必要なことである。野党の選挙協力は必要だが、それだけではどうにもならないことを4月の一連の選挙戦は如実に示していた。明確な戦略的な対抗軸を持った全国民的な闘いが求められている。そうした方向と結びつければ、選挙でも野党は自民党勢力に対抗できる。
国際情勢の荒波 「アメリカ第一」に翻弄される日本
日本を取り巻く国際環境は厳しく予断を許さない。世界的な金融危機の接近が盛んに取りざたされ、貿易戦争の激化は世界経済を揺さぶっている。米中対立も米欧対立も激しさを増し、アメリカは強国化する中国を許さず抑え込み覇権的なドル支配を維持しようと必死である。次世代通信網5Gをめぐる技術覇権争奪も熾烈を極める。
AIの利用では日本は3周遅れとわが国財界には危機感が高い。朝鮮半島や台湾海峡など東アジアの緊張激化が進んでいるが、対米従属のわが国安倍政権は中国包囲の最前線で危険な役割を買って出ている。大国化した隣国・中国と敵対してはやっていけないと広く経済界に動揺が広がっている。
半導体や自動車の輸出や農畜産物輸入などで地域経済にも、沖縄での新基地建設や迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」基地建設など安全保障問題でも地域に重大な影響が出ている。とくに沖縄には多国籍大企業のための対米従属政治の矛盾が集中的に噴出している。
中国敵視の日米同盟強化路線に反対し自主・平和の国の進路をめざす課題と地方・地域の課題、国民諸階層の経済的要求、生活課題とを結びつけ、政策的対抗軸を鮮明にして壮大な国民的戦線をめざす時である。