権力を監視し質し続けていきたい
立憲民主党参議院議員 小島 とも子

1、国家情報会議の意義とは何か?
国家情報会議設置法案は、衆議院では2026年(令和8年)4月23日の本会議で可決、参議院では5月27日の本会議において可決・成立し、国家情報会議設置法が6月3日に公布された。7月31日には国家情報局が約730人体制で発足した。
「十分な情報をもとに、政府が正確な判断や意思決定を行うことは、国民の安全と国益を守り、外交力、防衛力等を強化するために不可欠。厳しい内外情勢の下、政府全体を俯瞰し、戦略的に情報を収集・集約・分析する能力を向上させるため、その司令塔機能を強化することがこの法律の狙い」とその意義が明らかにされている。
2、主な問題点は?
所属する立憲民主党はこの法案に反対した。さまざまな論点があるが、問題点について整理しておきたい。国会における政府答弁において透明性が確保されたとは言いがたい。例えば、官房長官は「各省庁の情報活動は(中略)これまでと変わらない所掌事務や権限に基づいて適切に行われるものであり、このことに何ら変更を加えるものでないため、国会による統制や独立した第三者による仕組みを本法案に設けることはしていない」と答弁している。しかし、これまで多くの人権侵害等の不適切な事案が起こってきたことは事実であり、その解決に向けての道筋が審議の中では見えなかった。
①民主的統制と行政監視の不足
情報機関の活動は当然のことながら秘密性を伴い、通常の行政監視だけでは実態や課題を十分に把握することができない。「重要情報活動」と「外国情報活動への対処」に関する重要事項を「調査審議」する機関とされているが、具体的にどのような対象を、どのような方法・要件・限界の下で調査審議するのかは法文上ほとんど明らかにされていない。
また、情報が集約されるほど、国会や第三者機関による監視の必要性は当然高まるが、それが不十分であると情報活動の政治利用や権限濫用を防げなくなってしまう。現段階では監視について特に言及されていないし、既存の仕組みについての強化も行われていない。
②プライバシー権等の保障に関する不安と市民活動の萎縮効果
国家情報局は、内閣情報調査室(内調)を「格上げ」した機関であると説明されてきた。戦後日本において特異な位置を占めてきたと言える内調の活動実態や問題点については、十分な情報公開や検証が行われていない。このままの方向に進むことは、課題を内包したまま権限拡大へとつながる恐れがある。過去の事案の検証なく、政府の「法を守る」という答弁だけを信じることには到底無理がある。
国民にとっては「さまざまな機関に見られているかもしれない」と感じ、市民活動、報道、研究、表現などに関し、萎縮効果を生じさせる可能性がある。この萎縮は自由権の保障と深く関係し、民主主義にとって大きな問題である。
③差別的運用の危険性
特定の民族、宗教や政治的立場、外国人などが「危険」と見なされ、重点的に監視されるような事態が生じると(生じているかどうかがそもそもわからないのだが)、憲法における平等権や、各種条約における差別禁止原則に反することになる。
3、今後の法案提出など政治動向において予想されること
①今後、提案されると予想される法案等
自民党と日本維新の会の連立政権合意書には、この国家情報局設置に関する記述以外に、「2027年度末までに独立した対外情報庁(仮称)を創設」「同年度末までに、情報要員養成機関を創設」「インテリジェンス・スパイ防止関連法制の速やかな成立」とある。外国勢力の日本での情報収集や干渉を抑えるための「スパイ防止法」の制定をめざし、有識者会議で論点整理を行う予定であるとも報じられている。8月5日付で自民党インテリジェンス戦略本部による第2次提言が出されており、そこにも法整備や情報収集のための能力強化に関してさまざまな内容が見て取れる。
27年度末を区切りとする内容もあり、すべて密接に関連しているので全体像を注視する必要がある。衆議院における圧倒的多数をもって十分な審議なしに参議院に送られてくることも想像に難くない。
②国会における審議は?
国会審議において、情報の収集に際し、個人情報やプライバシー保護に十分配慮するよう求める附帯決議を行っている。政府はこの点に関し、枠組みを強化するだけなので法案にはなじまないといって、法文に書き込むことを否定し続けた。
2014年(平成26年)、衆参両院に情報監視審査会設置のための国会法改正が行われており、その改正附則第3項に、「対外情報庁等設置により監視のあり方についての検討とその結果に基づく必要な措置」についての言及がある。
国家安全保障会議(NSC)の議事録は特定秘密に準じた扱いとなっており、30年を目途として公開されることになっていて、その間も国会の情報監視審査会の監視対象になる。国家情報会議の議事録も特定秘密に指定されると、同審査会の監視対象になるのではないか。情報機関に対する監視について、審査会の権限がチェックするに十分であるか、どういう改正が必要であるか議論し、措置を講ずることが必要になると考える。
また、スパイ防止法制に関し、その対象範囲が問題となるのではないか。外国政府のために国家機密を取得、漏洩する行為と限定するのなら目的は明らかになる。しかし、研究、報道、さまざまな市民活動にまで及ぶような内容になれば、憲法上保障されている表現の自由や学問、報道の自由などとの衝突が起きる。現に公安調査庁などによる行き過ぎた監視活動がプライバシーを侵害したとされる事案によって、損害賠償請求を命じた判決が令和6年に出されるなど、いまだ懸念が残る。対象行為の限定をどうするか、適正な手続きとは何か、人権侵害が起きた場合の救済をどうするか、など丁寧な審議が必要になる。
4、最後に
「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」という枕詞をよく耳にする。国家的なインテリジェンス機能強化が絶対必要であるなら、その民主的統制もまた保障されなければならない。
インテリジェンス機能の強化のために、憲法に保障された権利や自由を差し出すことはできない。折しもトランプ政権が国際刑事裁判所の赤根智子所長らを制裁対象にと明らかにしたが、高市総理の反応は非常に弱いと言わざるを得ない。
これからも、一人ひとりの人権が保障され、安全に安心して暮らせる社会を作るために、権力を監視し質し続けていきたい。
