土地規制法(土地利用規制法)とは

戦争準備の国民監視・弾圧法

弁護士(土地規制法廃止アクション) 仲松 正人

 「土地規制法」(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律)は、国が国民を監視し、弾圧する法律である。何のためか。戦争準備を行うためである。要するに、自衛隊や在日米軍の基地等が、有事の際に何らかの妨害行為を受けて十分な機能を発揮することができなくなる事態を避けるため、平時から、基地等の妨害行為を行う可能性があると政府が認定する人物を洗い出して監視し、活動を規制し、あるいは基地等の周辺から排除して、戦争準備に邁進できるようにする、というものである。


 「国家安全保障戦略」がそれを明言している。曰く「自衛隊、米軍等の円滑な活動の確保のために、……民間施設等によって自衛隊の施設や活動に否定的な影響が及ばないようにするための措置をとる。……武力攻撃事態のほか、それには至らない様々な態様・段階の危機にも切れ目なく的確に対処できるようにする」と。
 今、日本が戦争状態になるとすれば、それは中国が台湾に軍事侵攻するという「台湾有事」が発生した場合に、米軍が介入し、それに自衛隊が協力するという事態である。
 その場合、まず戦場となるのは沖縄である。米軍が介入すれば中国はそれを阻止しなければならない。中国が米軍を攻撃すれば、日本政府がその事態を「存立危機事態」と認定し、自衛隊は集団的自衛権を行使し、米軍と共に中国を攻撃する。中国は日本を攻撃していないのに日本が中国を攻撃すれば、国際法が禁じる先制攻撃である。あるいは中国は、最初に嘉手納、横田、三沢、岩国や横須賀をはじめとする在日米軍基地を攻撃する。また、第1列島線に位置する与那国、石垣、宮古、沖縄、奄美、馬毛島のミサイル基地や補給施設、飛行場や港湾を攻撃する。それ自体、わが国国土に対する攻撃であって武力攻撃事態であり、自衛隊は中国を攻撃する。
 政府は、「台湾有事は日本有事」だと煽りつつ、43兆円を投入して世界第3位の軍事大国を実現すべく、自衛隊を米軍の統制下に組み込み、スタンド・オフ・ミサイルを調達し、武器を爆買いし、兵器産業の育成と殺傷兵器の輸出に道を開き、自衛隊基地の強靱化や国民保護の名の下で住民を排除する。そして土地規制法で沖縄や全国の米軍基地や自衛隊基地がいつ有事になろうとも十分に機能する態勢をとるべく、規制対象となる区域の指定を重ね、全国で583カ所が指定される。

正当性の説明もできず、近代法の体もなさない
欠陥法

 政府は、法案を国会に提出した際、自衛隊施設近隣土地を外国資本が購入しているため周辺住民が安全保障上の懸念を抱いていると説明した(ここでいう「外国」とは、欧米ではなく、中国と韓国である。当時は韓国との関係は悪化していた時期であるが、この法律にはヘイト臭が漂っている)。しかし、国会審議の中で地元からはそのような懸念は出ていないことが明らかにされた。さらには、これまで自衛隊基地周辺では、外国資本が土地を取得する例も含め、基地機能に不安を与えるような事例は生じていないことも明らかになった。こうして政府は、立法事実は存在しないことを認めざるを得なかった。
 この法律は、区域指定の基準、調査の対象や方法、利用制限が加えられる行為(阻害行為)の内容や禁止方法など、法律の骨格を全て内閣総理大臣に委ねている。国民の権利制限を伴うことは国民の代表である国会で法律の形で決め、行政はその法に従って行われなければならないという「法治主義」に反している。また、ある行為が処罰対象となるためには、国民があらかじめそれを知っておく必要がある。どのようなことをすれば罪となり、どれだけの罰を受けるのかということをあらかじめ法律で明確にする必要があり、これを罪刑法定主義と呼び、近代刑罰法規の大原則である。しかし土地規制法は、何が機能阻害行為となるのかについて法律に明記していないため全く分からない。内閣総理大臣が決めた基本方針を読んでも分からない。罪刑法定主義に違反しているのである。このように、土地規制法は近代法の体をなしていない。

誰を調査するのか

 対象は、区域内の土地等(土地や建物)の所有者や利用者、さらに「その他の関係者」である。土地等の所有者や利用者は対象が明確である。では「その他の関係者」とは誰か。基本方針では、①土地等の利用者が法人である場合はその役員、②土地等の利用者との契約によりその土地等の工事をしている請負事業者を挙げる。
 しかし実はこの二つに限らない。土地等の利用者の家族や友人・知人は、その関係性だけでは対象にはならないが、土地等の利用者と共同して機能阻害行為を行っている場合は対象となるとする。しかし家族や友人・知人が共同して阻害行為をしているかどうかは調査しなければ分からない。結局、最初から調査対象となるのである。もちろん、家族や友人・知人は区域内に居住している必要はない。また、「家族」の範囲も、誰が「友人・知人」であるのかも、政府が判断することになる。こうして誰でも調査対象となるのである。

何を調査するのか

 土地規制法や基本方針では、調査項目は、氏名・名称、住所、本籍、国籍、生年月日、連絡先、性別としている。しかし、これらの情報で、機能阻害行為やそのおそれは判断できない。それを判断するには、職業、活動歴、交友関係などの思想信条に関わる情報が必要である。基本方針には「思想・信条等に係る情報を含め、その土地等の利用には関連しない情報を収集することはない」とある。しかし、そもそも思想信条等に係る情報は調査対象外ということかと問うても、政府はそうであるとも、そうではないとも答えない。つまり、必要であれば調査するということである。

何が規制の対象となるのか

 基本方針では、機能阻害行為に該当すると考えられる行為を7つ例示しているが、これに限らないとし、何が規制対象か分からない。また、機能阻害行為にはあたらないと考えられる行為も例示し、例えば「施設の敷地内を見ることが可能な住宅への居住」とある。しかし政府は、「施設の敷地内を見ることが可能な住宅に居住」して「施設内を見ること」は機能阻害行為にあたらないとは言わない。基地監視活動が機能阻害行為として規制されるおそれがある。普天間や嘉手納で爆音を測定するのも、航空機の飛行ルートを監視するのも、爆音訴訟の原告になることも、PFAS汚染の調査をするのも、反基地・反原発活動も、機能阻害行為とされるおそれがある。

萎縮せず土地規制法を
監視しよう

 土地規制法に対抗できる一番の力は、私たちの運動の正当性である。正当な運動が強く大きくなれば政府も容易には介入できない。監視されることに萎縮せず、介入には機敏に対応するとともに、政府の動きを監視し、自治体とも協力し、私たちが土地規制法を監視して縛りをかけていこう。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする