道民に寄り添わない鈴木知事、官邸の露払いか
北海道議会議員 北口 雄幸
知事の初動対応で混乱拡大
北海道内で最初の感染者が確認されたのは2月14日。次の確認は2月18日であり、この時鈴木直道北海道知事は道内出張中であり、先に発表したのは札幌市であった。そして北海道の発表の仕方が、その感染者の居住地や感染経路などを一切発表しなかったことから、道民の不安はさらに増幅されたのである。
以降、ほぼ毎日複数以上で発生し、3月18日現在153名が感染し6名の方が亡くなられた。
官邸の意向をうかがう知事の動向
このような深刻さを増す状況で鈴木知事は2月26日、突然、北海道道内すべての小中学校に一斉休校を要請、道内のほとんどの学校は翌日27日から休校された。
さらに、2月28日には緊急事態宣言を発し、不要不急な外出を控えるよう訴えた。しかし、この緊急事態宣言も、法的根拠や科学的知見に基づくものなのかなどを明らかにせず、さらにそのことによる影響なども考慮しないで行ったものであった。
また一方で安倍総理は2月27日、小中高校すべての学校を3月2日から春休みまで一斉休校とすることを発表。これは専門家委員会にも相談せず、政治判断とのことだ。また安倍総理は2月29日、緊急の記者会見で、「これからの1~2週間が瀬戸際。国内の感染拡大防止にあらゆる手を尽くす」と話すものの、初動の遅れを挽回しようとしての会見であることは、国民が見抜いているのだ。
このように、鈴木知事が先に小中学校の休校や緊急事態宣言をし、世論の反応をうかがい、その後に総理が発表するという手法をとっている。鈴木知事の手法は、官邸の「露払い」や「観測気球」、「リトマス試験紙」などと揶揄されており、道民に寄り添った対応とはなっていないのである。
学校現場意向無視で休校宣言
道内各地の教育委員会や学校では、子どもたちをどのようにこのウイルスから守るかとの視点で、さまざまな課題についてすでに取り組み中であったにもかかわらず、突然の知事からの休校要請で、学校をはじめとする教育現場も混乱を続けた。
さらに、鈴木知事が緊急事態宣言を行うのであれば、そのことによる影響を想定し、その影響が最小になるよう細心の注意を払いながら行い、同時にその影響を低減する対策も一緒に発表するべきであったが、「自粛」だけを要請するそのやり方で、北海道経済は瀕死の重傷となっている。
全道統一行動を要請する異常さ
小中学校の卒業式では、子どもたちの晴れ姿を一目見たいのが保護者の希望である。ある市の教育委員会では、保護者を含め、時間差による卒業式を計画。しかし、北海道教育委員会は、保護者の参加を認めず、知事部局からも含めたあらゆる圧力をかけ、保護者のいない卒業式を強く求めた。このことなどは、教育委員会の独立と政治の不参加の精神からも大きな問題である。
医療現場にも甚大な影響
突然の休校を要請したことにより、特に小学生の児童を持つ保護者たちは、預け先を確保することに翻弄され、預けられない保護者は、仕事を休まざるを得なくなり、その家庭の生活にも直結したのだ。特に医療現場では混乱が激しい。感染症指定医療機関として指定されている帯広厚生病院では、休校によって看護師確保が困難となり、外来診療を見合わせたり、ひとつの病棟を閉鎖したりする事態にも発展した。
さらに、マスクや病衣などの医療材料のほか、手術の診療材料なども入らなくなり、地域医療は崩壊寸前である。
疲弊する北海道経済
また、インバウンド客がほとんど来道しなくなり、さらに国内観光客も自粛した結果、観光産業や飲食店などへの影響はより深刻である。道内有数の観光地である函館の函館山ロープウェイの乗降客は3月に入って1日から10日までで9割も減少したと報道されている。また私の選挙区である温泉地で有名な層雲峡温泉は、1月から4月までで延べ2万4000泊以上のキャンセルがあり影響額も2億円を超えているという。さらに、宿泊のキャンセルのため、これらの影響は、大震災以上と口をそろえる。
6月まで続くと3680億円の影響と試算
北海道は3月16日、このような状況が6月まで続けば、道内の宿泊者で約900万人泊分が減少し、その影響は約3000億円と試算。さらに日帰り旅行で850万人が減少し、680億円の影響があると試算した。合計で3680億円の影響であるとしている。
この影響額は、2018年の北海道胆振東部地震による被害額である356億円の10倍にあたり、この年の北海道全体の観光消費額1兆6000億円(推計)の23%にあたる金額である。
しかしこの試算には、道民の日常の生活による自粛による影響は加味されておらず、これから人の異動が多くなる時期であり、そのことによる歓送迎会などの影響を受ける飲食店関係は含まれていないのである。
おわりに
鈴木知事就任後、菅官房長官に対し「国の省庁から3人の官僚を道に派遣してほしい」と要請。実際に要請どおり、3名は道庁の局長クラスに就任した。
新型コロナウイルス感染症による観光への影響(試算)
北海道経済部20.3.16
1.影響の試算(影響が6月まで続いた場合)
宿泊延べ数の減少 <北海道全体> 約900万人泊
<うち札幌市> 約350万人泊
影響額 <北海道全体> 約3,000億円
<うち札幌市> 約1,200億円
日帰り旅行の影響 【人数:850万人、680億円】
今回の新型コロナウイルスに関わり、これら国の官僚たちが官邸とのパイプ役を果たし、鈴木知事も菅官房長官と頻繁に連絡をとり、意見を求めていち早く小中校の休校、緊急事態宣言、不要不急の外出の自粛要請を判断し記者発表した。
行政のトップである知事が発した緊急事態宣言は道民意識へ大きなインパクトを与え、179市町村全ての教育委員会で休校を実施。週末だけではなく、平日にも街の中の人通りが激減し、さらに「北海道は全国で一番感染者数が多い。政府は北海道を新型コロナウイルス感染症のモデル地域として手立てを講じてほしい」と知事が発言をしたことによって、風評被害が広がり、全国の都道府県で唯一、ロシアサハリン州政府やマレーシア政府、および台湾などが北海道を渡航自粛地域に指定したのだ。
また、新型コロナウイルス感染症の専門官3名の派遣を政府に要請。派遣された専門官は増大する感染者数を抑えるため、PCR検査の厳格化を現場に要求し、医療機関の検査実施に少なからず影響を与えた。
鈴木知事は、「緊急事態宣言およびさまざまな要請における政治的責任は全て自分にある」と発言しているが、休校や休業などの逸失利益の損害賠償などについての議会質問には、賠償責任は負わないと断じたのだ。
一見、新しいリーダーとして脚光を浴びているが、道議会の与党議員には「菅官房長官と相談して決めた。前例のないことをやる」と高揚した様子で話していたと聞く。
一自治体の行政の長という立場にありながら、緊急事態宣言などという超法規的なことを行い、責任は全て私にあると言いつつ、責任逃れをしている知事の姿を、残念ながら多くの道民は知ることなく、賛辞を送っているのだ。