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最悪の日韓関係 ■ 打開を考える [1]

日韓関係は1965年の国交正常化以来の「最悪」と言われる状況となっている。「アジアの共生」へ、隣国と永遠に敵対してわが国がやっていけるはずがない。打開のための真剣な努力が求められる。マスコミ報道に登場した識者の見解と、知識人を中心とした「韓国は『敵』なのか」の緊急アピールを紹介する(アピール署名人は8月15日現在で8404人に上る)。編集部

元外務省国際情報局長 孫崎 享

韓国に対する〝経済報復〟という安倍政権の強硬策は、徴用工問題の解決が目的ではない。政権浮揚のために、世論の反韓感情をあおる手段として徴用工問題を利用しただけです。それは、参院選の直前に半導体素材の輸出規制を打ち出したことからも明らかでしょう。安倍政権は、韓国側の主張は国際法に反していると一方的な正義を振りかざしていますが、国際法がどうこうとは次元が違う話で、支持率のためにナショナリズムをあおっている。根本的な問題を解決する気はないから、韓国側が話し合いの場を持とうとしても、取りつく島もない居丈高な態度に終始してきた。自らの支持率のために、外交や経済を犠牲にしているのです。(「日刊ゲンダイDIGITAL」8月23日)

元外務審議官 田中 均

参議院選挙が終わった今、日本の外交戦略を冷静に見直すべきだと思う。
選挙前には選挙での勝利を意識して、世論を念頭に置いた⾏動をとりがちで、それが日本の国益に沿わない結果をもたらしてしまう場合も多い。
特に韓国との関係については世論を巻き込んで泥沼に陥りつつある。本来、政治家は国民の負託を受け国家のためにあるべき姿を追求し、国民に説明をするという使命を持っているはずである。
ところが最近では、世論を煽り、世論に乗っかって相手国に強い措置をとり、国民の拍手喝さいを浴びるが、外交には資さないと思われる場面に遭遇する。
日本の外務大臣が駐日韓国大使を呼び出し、メディアの前で相手の説明を遮って「無礼だ」と叫ぶ姿を見て、とても悲しく思った。
これは何のためにやっているのだろうかと思ってしまう。メディアに対し、外務省は弱腰ではなく相⼿に強く当たっている姿を見せるためなのか。
しかし、大使は相手国を代表している訳で、これに尊敬の念を示すという最低限の礼儀も「怒り」の前に投げ捨てるという事か。(「朝日新聞・論座」7月24日)

政治評論家 森田 実

世界中で格差社会が広がり、鬱屈した不満がガスのようにたまっているため、何かが起きると火が付きやすい。右翼的な政治家はそこに非寛容ナショナリズムや排外主義を持ち込み、火を付けて支持を得る。その典型がトランプ米大統領と安倍首相であり、今回の韓国の件もその流れにある。韓国と国交断絶だ、戦争だ、なんて声がワンサカと出てくる異常な状況なのに、与野党や経済界、大マスコミからは安倍政権の政治手法を問う声がほとんど出てこない。理性が失われて狂気が支配するのが戦争ですが、今はまさにその時代に戻りつつあるかのようです。(「日刊ゲンダイDIGITAL」8月23日)

元外務政務官 武井 俊輔
(自民党・衆議院議員宮崎1区)

昨日(29日)も1泊2日で韓国に行ってきました。今回の輸出管理措置に反発が強まっている。日本のビールは飲まない不買運動、観光客足の低下、姉妹都市交流の停止と民間にも対立が広がり始めた。反日、反韓をビジネスにしている人たちが動画などで両国民を煽るので、溝がどんどん拡大しており、青瓦台(大統領官邸)も苦慮している。
日本政府は徴用工問題と今回の輸出管理は無関係と説明しており、そのこと自体は私も支持しているが、韓国側がそう受け止めていないのも事実だ。もっと韓国民に対し働きかける必要がある。自民党議員も外交部会で外務省の役人を責めるだけでなく、自分で隣国に足を運んで、実際に韓国民と接して理解を求めるのが与党議員の務めではないか。双方とも自分の国民だけを気持ちよくさせておくことだけではダメだ。
部会でもそう主張しているが、周りはいわゆる勇ましい発言が多いと感じる。文在寅政権のやり方は確かによくない。だが、隣国との関係を冷静に未来志向で考えるべき政治家が真っ先にそういうことに加担、煽るのか。韓国には何を言ってもいい、という憂慮すべき風潮だ。下手をすると日韓関係の底が抜けてしまう、との危機感もある。
この時期に韓国に行った、というだけで売国的、利権屋とネットで叩かれる。事務所にも抗議がある。ハイリスク・ローリターン、関わっても身を削られるだけという徒労感はある。ただ、トンネルの先には必ず出口がある。その時のために、関係改善のリソース(資源)は残しておきたい。若い人、地域同士の交流を絶たないこと、航空路線の直行便といった交通手段を保持しておくことだ。
わが郷土宮崎県の偉人に小村寿太郎がいる。日露戦争終結のポーツマス条約締結時の外相だ。出国時は期待されたが、帰国時は石を投げられた。ロシアから賠償金が取れなかったためだが、後で振り返ると、当時の日本の国力としては素晴らしい外交成果だった。外交というのは一時のナショナリズムに煽られ激しい意見に翻弄されることがあるが、政治というものは冷静さ、矜持をもってそれを制御する役割もある。(「サンデー毎日」8月6日、毎日新聞・倉重篤郎氏が7月30日取材)