第15回全国地方議員交流研修会 第一分科会
「地域経済の現状と課題、打開の道」――その1
第15回全国地方議員交流研修会が7月25~26日、山形市で開催された。4つの分科会が行われたが、本稿はそのうちの第1分科会の要旨報告である。残りの第2~第4分科会の報告は順次掲載する。(文責編集部)
北海道議会議員
座長 北口雄幸
第1分科会は、地域農業、循環型地域経済をどう進めていくのかを含めた、農業を通じて地域をいかに元気にしていこうかという集まりでございますので、よろしくお願いしたい。自己紹介の後、事例発表ということで、地元置賜の取り組み、それから兵庫県の今井さんの方から所得補償の問題提起をしていただき、私も種子条例など報告させていただきます。
事例報告1
「置賜自給圏の活動について」
置賜自給圏推進機構常務理事
菊池富雄
私は百姓ですので、まとまった話ができるかどうかわかりませんが、よろしくお願いします。私が自給圏について大ざっぱに話し、渡部共同代表に突っ込んだ説明をしてもらいます。
自給圏に至る田舎の事情ですが、地域はここ15年から10年で大きく変わってきました。グローバル化によって大店舗法の廃止などいろんな問題が起こりました。地元の商店は廃業し、誘致企業はより安い労働力を求めて中国、ベトナム、ミャンマーなどに移転し、地域の職場はなくなりました。この延長上に地域の将来はないと多くの人が考え始めました。それが自給圏という考え方を後押ししたのではないかと思います。
私たちはTPPについてもかなり勉強しました。TPPが単なる貿易の問題ではないことがわかりました。日本人が、どういう基準の食べ物をどういうふうに食べるのか、どういう医療制度を保つのか、社会的弱者をどうするのか。そういう当たり前の権利、国家の主権をアメリカ主導=多国籍企業主導のTPPに委ねていいのか。今ですらアメリカの属国と言われている日本が、アメリカ主導の基準に従い、さらに主権を差し出そうとしている。そうしたTPPの勉強も引き金の一つになっていたと思います。
自給圏の考え方は、自立し持続可能な地域循環型社会を置賜につくることです。地域には元々、アメリカや東京や大企業に牛耳られていないというか、従属しないものがあったわけです。それを生かしたい、生かしていこうという思いです。そのようなことを考えているときに、3・11東日本大震災で、福島から来ている電気が全部止まりました。新潟から来ているところは電気がついていました。この経験からも、いろいろ考えさせられました。
豊かさとは何かという問い直しが必要なんだと私自身は考えました。地方が東京以上の便利化、物質的豊かさを求めても、東京に追いつけないし、追いついたと思ったら、もっと上を行っている。いつも欲望をあおられている、この社会のありようを問い直さなければならない。今は大規模化・企業化で、能力のある者がその能力を発揮し、化学肥料を使ってやるのがいいのだ、それが新しい農業のやり方だと政府は言っていますし、それを推進している県もあります。
しかし、私の地元を振り返ってみますと、水路の草刈りやいろんな作業は最低5人から9人くらいの共同作業が必要になります。私たちが生き残っていくためには、同じくらいの経営規模の人を10人くらい確保しないと、村は成り立たないということです。
国が言っているように、大企業が来て田んぼはやっても、村の祭りや行事であるとか、水路であるとか、企業はたぶんやらないでしょう。日本でコメが採れたから、あるいはいろんなものが採れたから、農業は大丈夫だと言うのはおかしい。
1人で100ヘクタールをやったとしましょう。私の家族は食べていけるし、安い給料で10人くらい雇用すれば何とかなるかもしれません。しかし、家族経営が10戸あった方がいいわけです。競争ではなくシェアをしながら、みんなで生きていくという。それが豊かさにもつながるものであり、そういうことを大事にしていかないとだめだと思います。
私のところは200軒くらいあるのですが、明治の初めにも190軒ありました。ほぼ同じ状態で150年続いたわけです。しかし、20年後を考えてみるとどうなるか。今60歳以上で1人暮らしや2人暮らしの家庭が30軒くらいあります。子どもがいる家庭もあるのですが、子どもたちは全部、山形市や東京へ出ている。
もっと地元の中で地元の金を使い、地元の金が地元で循環していく社会をつくっていかないと、あるいは東京の豊かさを捨てるという覚悟がないと、成り立たないだろうと感じています。安倍政権と真逆になるのですが、そういう分配を大事にして、つまりグローバル化よりローカル化を大事にする。
そういうことで自給圏は取り組んでいます。今後の課題については渡部共同代表に譲ります。
置賜自給圏推進機構共同代表
渡部務
自給圏は、多少高くても地元のものを買って、お互いが支え合って、地域の中で経済回しをしていくことが基本だと思います。
一つは、われわれの生活の中で大きいものは何かと言えばまず食料、農産物で、これは100%ありますから問題ない。しかも、農協の直売場7カ所と民間のもの、三セクなどを含めて、置賜自給圏は3市5町で21万人の人口があり、その中で約12億円ほど直売場の売り上げがあると言われており、これが年々伸びています。そういう顔の見える関係というのが、少しずつ出来上がってきている。これをさらに強化していく必要がある。そして、菊池君から報告があったように、まさに学校給食、これは当然のことです。それから病院食、福祉食、いろんなところにこういうものを供給していくというシステムを行政が中心になってつくり出していく必要があると思っています。
もう一つは燃料、エネルギーの問題です。光熱費の全国平均は1戸あたり25万円だそうです。積雪地帯の置賜はそれより数段高い。そのエネルギー代の行き先は中東あるいは東北電力です。地域の中でエネルギーを作り出せば、そのお金は地域の中に回っていきます。これをやろうと思っています。
第2分科会で、置賜自給圏の別の事例発表が行われています。仲間の「おひさま発電」の社長が報告者ですが、メガソーラーが2つ、小水力発電、そして今計画しているのが、菊池君が飼っているような米沢牛の糞尿を利用したバイオマス発電です。さまざまな研究者あるいは企業とタッグを組んで県も力を入れながら、なんとか成功させようと動き始めております。売電だけでなく、副産物として出る液肥を地元の農業に還元することを目的として、今、立ち上げているところです。地元にある資源を生かしながらエネルギーを作り出して地域の経済を回す。幸いに電力の自由化が始まっていますので、それも生かしながら取り組んでいきたいと思っています。
電力については、福岡県のみやま市などを勉強させていただきました。置賜3市5町の地方自治体の公的施設などに利用してもらう。私もそうですが、家にソーラーを上げている人がけっこういます。そういう人たちからも電力を買って、それを地域で回していく仕組みをつくれないか。自分たちの資源を自分たちで生かしていく。さまざまな取り組みをすることによって出た余剰を外側に売っていく。そんなことも考えているところです。
北口座長 置賜自給圏の運動について、食料の自給から、エネルギーの自給もしていこうというお話でした。『日本の進路』4月号の10~12ページにも、渡部共同代表の原稿が掲載されていますので、お読みいただければと思います。
事例報告2
「個別所得補償」
兵庫県宍粟市議会議員
今井和夫
宍粟市は兵庫県の西の真ん中で、岡山県と鳥取県に隣接した山の中です。面積は淡路島よりちょっと大きく、兵庫県では2番目に大きい。人口は3万7千人くらいで、7月6日の水害では宍粟市もかなりの被害が出ています。
私は明石市出身で、農業とは関係ないサラリーマンの家庭でした。平成元年に、新規就農で農業をしたいと思って、宍粟市千種町に入植しました。何も知らず「補助金をもらう農業はダメだ」というマスコミのつくった世論を真に受けていました。それで自力で生活できる農業として自然養鶏(放し飼い)による高価格の鶏卵と鶏肉を直にお客さんに売る「特別な農業」で30年やってきました。
しかし、このような「特別な農業」では地域を守れないことに気がつきました。近所の人が同じことをやれば、競争になって売れなくなります。特産品・ブランド化・輸出、これらはみな競争です。「どこかが成功すればどこかがダメになる」。農水省が薦める成功事例は競争で勝った事例です。われわれはそういう競争をさせられ、競争に負けたところは「努力が足りないからだ」と言われるのです。共に成り立つことができないものです。
では、すべての農地を守るためにはどうしたらいいのか。それは、若者が当たり前に一生懸命に働けば、農業で田んぼで生活できる価格や所得を補償することです。それは欧米先進国が当たり前にやっていることです。基幹的な農業を「自力でやれ」と言っているのは日本だけです。イギリスやフランスの農家の所得の9割、工業国のドイツでさえ7割が税金です。いわば「半公務員」です。日本では2009年、民主党政権が基本的にすべての水田に10アール当たり1万5千円の直接所得補償政策を行いました。しかし、中山間地は平地と違い、1軒の農家では頑張っても平均3ヘクタールくらいの水田しかつくれず、45万円では暮らしていけません。このわずかな直接所得補償さえも、安倍政権は廃止しました。
1955年からの高度成長期以降、日本は急速に工業を発展させ、工業製品をどんどん輸出するようになりました。輸出の拡大と引き替えに、小麦、大豆、果物、豚肉、牛肉、乳製品、木材などの関税をどんどん引き下げてきました。食料を「第2の武器」と考えるアメリカ政府は農業へ莫大な補助金を出して大増産し、日本に輸入しろと圧力をかけ、日本政府はこれに従い、農山村は疲弊しました。その結果、日本の食料自給率(カロリーベース)は1965年の73%から2017年の38%へ激減し、先進国では最低となりました。農山村の若者たちは故郷を離れ、農村から都市への人口移動が急速に進みました。疲弊した農山村でも高齢者が頑張っているのは、年金があるからです。
安倍政権の所得補償の廃止は言わずもがな、民主党政権の失敗は所得補償の額が足りなかったからです。中山間地であろうと平地であろうと、生活できる所得補償額を支給すべきだと私は思います。中山間地ならば10アール当たり10万円、3ヘクタールで300万円くらいの所得補償が必要なのではないでしょうか。平地ならば1軒の農家で10ヘクタールとして、10アール当たり3万円、10ヘクタールで300万円です。これならば、「息子よ、おまえもやってみるか」と言えるし、若者も「農業をやろうか」となるでしょう。
農水省のホームページによると、全国の水田面積は242万ヘクタールで、中山間地の水田面積は97万ヘクタールですから総額約9700億円、平地の水田面積は約145万ヘクタールですから総額約4350億円です。飼料米の加算や畑作や畜産にも補助金が必要でしょうから、総計は3~3・5兆円と私は概算しました。これはあくまで目安です。実際にやるとなれば、専門家の人にきちっと計算してもらったらいいと思います。
この3~3・5兆円で新たに農業に参加する若い農家は、このお金を生活費としてそれぞれの地域で使うことになります。そうすれば、地元の商店や土建業などの仕事も復活し、子どもも増えます。以前は、毎年10~15兆円が公共事業費として地方に出ていました。だから地方は元気だったのです。この農林業への直接所得補償は現代版の公共事業です。これは敗者をつくる競争ではなく、すべての農地、すべての地方が成り立つ道です。
今の若者は、小さい頃から「農業では生活できない」と感じてきたので、1アール当たり10万円出すから言っても、なかなか農業をしようとはしないでしょう。だから、まずは若者を雇用する形から始めるのがいいかもしれません。そこで農業が安定した就職先であることを示すのです。そのための受け皿をつくり、そこにも同様の補助金を出し、雇用してもらう。農地を維持・管理する公務員として雇用する道もあると思います。しかし、農業として本当に効率がいいのは、機械などを共用しながらの家族農業です。ですから、家族農業と雇用農業の両立で進むのがいいと思います。
その財源ですが、政府にはお金がありませんが、あるところにはお金が有り余っています。例えば、2017年の大企業の内部留保は1年間で約30兆円増えたそうです。そこからもっと税金を納めてもらえば、このような農林業への補助金、最低賃金アップ、中小企業への助成、子ども手当、医療費補助、介護保険補助、教育費無償化など、さまざまなことが実現可能です。消費税増税は格差をさらに大きくする間違った政策です。
今のように、農林水産業を犠牲にして工業だけを発展させるのではなく、日本を農林水産業と工業がともに栄える国、自国の食料は自国で作る当たり前の国にしていこうではありませんか。
宍粟市の福元市長はこの考えを理解してくださり、「農地の維持には農業で若者の生活が安定することが大事だ」と言って、宍粟北みどり農林公社という三セクをつくりました。そして、そこに税金を出し、来春から若い職員を2~3人採用し、農業の後継者として育成しようと考えておられます。小さな一歩ですが、偉大な歴史的な一歩のように思います。市長は県の市長会などで所得補償を提案しているそうですが、本当にありがたく思っています。
私がここに来たのは、こういう考えを皆さんにも理解していただき、それぞれの皆さんのところでも広めていただきたいと考えたからです。先ほどの置賜自給圏の話も、私は素晴らしい取り組みだと思いました。それと一緒に、直接所得補償の考えも広めていただきたいと願っています。
私は農業者戸別所得補償実現全国地方議員連盟みたいなもの、あるいは戸別所得補償関連の情報を広げるメディアをつくっていけないか、私はそういう思いを持っています。それにつながる情報やきっかけがあれば、知らせてほしいと思います。よろしくお願いします。
事例報告3
「日EU・EPA、TPP11、種子法について」
北海道議会議員
北口雄幸
主要農産物であるコメ、麦、大豆の種子の品種改良、優良品種の生産、普及を都道府県の役割と明記した種子法が、一昨年4月に廃止されました。種子法の廃止についていろんな憶測がありますが、最終的にはモンサントなどアメリカの大企業が世界のタネを制すると言われています。
農家の皆さんは種子法の廃止を危惧し、北海道農民連盟は私たちと連携して種子法に代わる道条例の制定に動きました。農業団体も重い腰を上げて、道条例の制定を求めてきました。高橋はるみ北海道知事は経産省出身で、都道府県で条例をつくったら、国の方がどう思うかということばかり気にして、条例制定については前向きにはなっていませんでした。3月議会までは、要綱をつくって、とりあえず今までやってきたことはやるということだったんです。しかし、農業者の皆さんは要綱では心配でした。種子法を担当した職員がいる間はそれでやれるかもしれないが、人が代わったり、財政がさらに厳しくなったりしたときに、はたして財源的な裏打ちはあるのかと、3月議会で私たちも質問しました。
一方で全国的な動きとしては、新潟、埼玉、兵庫の3県が3月議会で条例化するということになりました。市町村議会からの意見書なども出されました。そんなことを受けて、高橋知事も6月議会の知事答弁で、条例の制定について検討すると言いました。たぶん、来年の日程で具体的な条例化というのは提案されるだろうと思います。
他の県の皆さんも、最終的には各県がこの条例をどうするかということになってくるし、市町村の皆さんも、県を動かすため、市町村でこういう議論をし、意見書を出していくということで、提案をさせていただきます。
TPP11、日EU・EPAの関係ですが、政府が去年12月に出した影響調査では両方とも、関税がなくなって、外国の農産物が入ってくれば、その価格が下がり、農家の皆さんの生産額は減少するが、国がさまざまな対策を打つので生産量は維持できると、書いています。私は第1回定例会の中で、「安い農産物が入ってきて価格が下がるということは、シェアを奪われることで、シェアを奪われるのに生産量を確保できるというのは理屈にならないのではないか」と質問しました。
私の家は60頭の搾乳をしている家族経営の酪農です。この日EU・EPAで3万1千トンのチーズを輸入するということになっています。3万1千トンのチーズを生産するには31万トンの生乳が必要です。TPP11では生乳換算で7万トンの乳製品が輸入されます。合計すると38万トンの生乳を輸入するのと同じことになります。国産の乳製品は、ほとんどが北海道の牛乳を加工に回しています。北海道の年間の生乳の生産量は380万トンですから、その1割に相当する生乳が外国産に置き換わることになります。私の家のように60頭の搾乳をしている家族経営の酪農家500戸で生乳30万トンになり、北海道の酪農家6200戸の7~8%に甚大な影響を及ぼすのではないかと思っています。
北海道の人口は535万人ぐらいで、高橋知事の15年間で33万人の人口が減りました。第2の都市が旭川市で約33万人ですから、その旭川市が15年間でなくなったということになります。一番影響を受けたのが農業で、農家戸数が5万9千戸から3万6千戸へ4割減少しました。国の農政が規模拡大で、農家の離農が進みました。農家の所得補償や自給圏も含めて、小規模農家でも持続していける農業の仕組みをつくっていかない限り、農業だけでなく地域も守っていけないと思っています。
討論
議員(参加議員発言。以下同)置賜自給圏のような活動を中山間地を中心に全国に展開していく。そういう連携が大事なんじゃないかなあと思いました。
渡部務 規模はどのくらいがよいのかという質問もありましたが、私たちは3市5町、21万人ですが、まだまだ構想段階と言いますかね、そういう段階なので具体的にお答えできるところはないんです。ただ自給圏のベースにあるのは、さまざまな取り組みをしてきた住民運動が根底にあるということです。私は43年くらい有機農業をやってきました。いわゆる大手資本が生み出すような化学肥料、農薬に頼った農業でなくて、目の前にある資源を生かすかことで、化学肥料、農薬を減らしていく、そして自分たちの取り分を増やしていく、都会の消費者との連携、提携関係をつくっていくことによって、農産物の国内の自給率を高めていこうというような趣旨で始めて43年になるんです。
菊池君の隣の長井市ではレインボープランと申しまして、生ゴミを堆肥化しまして、それを地域の田畑に戻して、それをまた市民が食べるとか、そういう循環型の農業をやろうというようなこととか、菊池君たちは林業の再生に向けて、いろんな取り組みをやっていますし、そういう人たちが集まって、とにかく地域の人で頑張ってきた情報共有をきちっとやりながら、さらにみんなの知恵を出し合って、その上に何ができるのかということを考えていきたいということで、今まで取り組みをしてきました。
組織の中には生活クラブ生協さんとか、いろんな消費者団体も入ってます。学校も入ってますね。産学連携とか、そういうことで、さまざまな専門分野からの助言もいただく。特に山形大工学部がエリアの中にありますので、そういうところの先生方の協力も。そういうことで、持っているいろんな能力をそこに集約して、地域のさまざまな課題の中でやれる分野を皆で力を合わせてやろうと、そこには市民の出資、さっきの電力の問題なども典型的なことだと思うんですが、市民の出資も含めて総掛かりでできるような仕組みにしようというふうに考えています。
この話は地元の信用組合にも通じているわけで、それはやるならば「半分くらいは出すぞ」と融資するから後は民間出資を集めろとかね、いろいろそういう助言もいただいているんです。民間の企業のノウハウも生かして地域総掛かりでやろうと、そういう構想の中で、自給圏としての仕組みは具体的にはまだありませんけれども、そういうふうな動きとかね、そんな思いを強く持っているということですね。
議員 「素晴らしいなあ」と思ったは、今も渡部さんの説明にあったみたいに、住民運動から、有機農業の農民運動から始まったものに対してさまざまな団体が協力し、企業や銀行まで協力し、議会や行政まで協力していて、そして国会議員、昨日の舟山先生みたいな方が協力しているという、その連携をつくり上げたことが、私にとっては想像の範囲を超えているのです。やはり、今言われた旧藩というのが大きいのでしょうか。
渡部 いろんな見方がありますけれども、確かに上杉藩という、そういうふうなことが根底に流れているのかなと言う人もいます。確かにそれもあるんだろうと思いますが、それとその地域の経済がそこまでかなり追い詰められているということなんだろうと、私は思うんです。
例えば、私が信組の理事長さんとお会いして、ちょっとしゃべったことがあるんですが、「経営が大変だ」と。もちろんそうですよね。自分の顧客である中小企業を見れば、商店街はシャッター通りだし、中小企業の経営が大変だということから言えば、当然、信金、信組さんの、まさに地域の協同組合としての役割から言えば、そのエリアを抱えている人たちから見れば、かなり大変な話だと思うんですよね。経営の状態が想像できますからね。私も農協の役員を25年ほどやりましたから。農協はまだ、自分で生産して、金融としてそれを受け入れながら、お金を回していますので、まだ何とかなるんだろうと思うんですけれども、信金、信組さんにとっては大変な話なんだろうと思います。ですから、そこまで地域の経済というものが疲弊してきている、ということだと思います。
敢えて言うならば安倍さんが「中央のもうけが地方に波及していく」と言う、そういう「おこぼれ状態」に甘んじていることで、地方は、日本は果たして良くなるのか。その自立心みたいなものを皆でどうつくっていくか。そこの危機感を持った取り組みなんだろうなと、私自身はそんなふうに思っています。
議員 私のところは、まだそこまで追い込まれていないということかな(笑い)。
渡部 私が有機を始めた時に、この月刊『日本の進路』4月号の中にも書きましたが、いわゆる近代化農業とか規模拡大が戦後の農政の方向でした。それがどうなったかと言えば、いわゆる「減反」になった。米価が下がって、1973年のオイルショックの時に私は牛を飼っていましたが大赤字でした。売る枝肉の値段が、買った子牛1頭と同じくらい、とんでもない時代ですよ。
その裏側に何があるかと言えば、自由化の問題。それから大企業が生み出す農薬、まさに「四つんばい」から解放されていく過程の中で、確かに農家はそれを取り入れて楽な作業ができるようになったけれども、裏側には何があったのかと言うと、まさに戦後の大企業が生み出した、チッソをはじめとする公害。大企業が作り出したものを、農家は何の矛盾も感じないでそれを取り入れてきた。ここの反省をしないとね、農民の自立はないんだろうということで、有機農業を始めた経過があります。
首長の姿勢が大きく地域を動かす
渡部 一つだけ申し上げますと、私どもの置賜自給圏の常任理事、舟山さんと同じ立場に、地方自治体の首長さんが一人入っておられます。置賜地域の3市5町の中で一番小さい、飯豊町という、7千人弱ぐらいの町の町長さんが、置賜自給圏の趣旨に賛同されてに入っている。そこの首長さんが素晴らしい取り組みをしている。最近この、企業が農村に入ってくるなんてことはなかなかないですよね。最近、ここに企業が入ってきたんです。それから電気自動車の整備の専門学校とかね。あるいは山形大学の蓄電池の研究施設も入ってきている。
だから、その町づくりの基本を、まさに循環型社会の基本にしようという町長さんの強い信念とリーダーシップによって、そういう施設が入ってくるんですよ。強い信念をもって取り組んでいる首長さんがおります。そういう人たちも重要だと思います。
北口 住民運動が発展していったら、地域を何とかしないといけない。地域を何とかしないといけないということになれば、町長や首長を代えていかなければならないという運動につながっていくんですね。
今井さんが言われたように、リーダーがいないし、私たちの地域では無理でないかというふうに考えがち。それは確かに難しいのかもしれないけれど、それぞれのできる範囲の中での取り組みの限界というか困難さというのは、それぞれの皆さんがすでに承知していると思うんですよね。それをもう少し横に連携を広げながら、どうやってもうちょっと打開していくか。首長を代えていくのは非常に重要だと思います。いろんな企業の皆さんだとか、団体の皆さんを巻き込んで、それをどう形にしていくのか。そのアイデアなり工夫なりがあればたぶん、今もいろんな形でそれぞれの地域での工夫はされているのじゃないかと思いますが。私もわからないことが多いのですが、そう思うのですけれども、どうですかねえ。
菊池 私は、皆さんすごいリーダーだと思いますよ(笑い)。
農業の多面的価値。今回、西日本の豪雨災害もたぶん農業の荒廃、林業の荒廃とかなり密接に関係している。私の村でいえば3億円かけて砂防堰堤をつくります。それは数年前にあった水害のためです。しかし、100ヘクタールに10万円払ったって1億円にしかならないんだから。
よく言われているのはEUでは農業は防衛問題。防衛に何兆円も使っているのかという話をしたら、農業を守る個人所得補償のために3・5兆円というのは決して高いものではない。そういう言い換えは理解が得られるのかなあと思います。今井さんを中心にして、その会をつくったらいいのではないかと、私は思っています。
今井 自給圏構想で自然エネルギーでの発電が第2分科会で議論されているので、そっちの話も聞かせてもらいたかった。電気が自給できるようになってきたら、これからは電気自動車になってくるような時代でもありますし、そうなってきたら食料と電気。熱は木がなんぼでもあるんで、それができたら中山間地は本当にバラ色ですよ。そこに所得補償が入ってきたらね、十分やっていけます。
北口 今の話のエネルギーの関係でいけば、小規模自治体の方がやりやすいと思う。大規模の例えば東京だとか、北海道で言えば札幌市内をエネルギー自給100%にしますと言ったって、これは無理な話。とりあえず小規模で、3千人、5千人、大きくても1万人の町を、エネルギー自給が今ゼロのところを10%、20%という目標を掲げながら、エネルギーを少しずつ変えていく。それは可能ではないかと思うんです。小さいところの方が逆に可能で、そのための資源もあるんではないかと思います。
渡部 あのう、小水力発電。おっしゃるように土地改良区が持っている水利権のなかにあるのが3つほどあります。その一つを、隣の分科会で発表している後藤さんという「おひさま発電」というところが一つ利用させてもらって、使用料を払いながら発電をしている。ですから、土地改良にとってもいい話だと思うんですよ。
菊池 30年前40年前だと、どこの家でも牛の1頭、2頭くらいはいて、自給飼料で十分間に合っていた。それが規模が拡大すればするほど、外国の飼料に頼らざるを得なくなり、糞尿が産業廃棄物になるというそういう構造です。そのバランスで言えば北口さんのところは60頭と言いましたけれども私は49頭ですが、そのくらいだと切り替えが利き、エサも粗飼料とか、私の場合は半分くらいは自給です。あまり大きくしない方がいい。
北口 酪農は今メガファームというのがはやっていますし、メガファームに対してはロボットによる搾乳に国の補助がつきます。だから、国はでっかくすることはいいことだ、のように言われていますけれど、ロボット1機3000万円、そして維持・管理も300万円と言われてますので、はたしてロボットを購入することがどれだけメリットになるのか。
じゃあ家族経営でやるためには分業もしながらやらないと。私の方の地元では酪農家23戸でエサを作るTMRセンターというのをつくっています。私の兄貴が社長をしていますけれども、だから今の酪農家はエサ作りをしなくていいんです。今、牧草だとかも含めて天候不順で大変なんですけれども、そのエサ作りは今まで農家が酪農しながら自分たちでやっていました。今ではそれを会社にして、その会社に自分たちの土地を貸し、会社が作ったエサを買って、それでその会社は成り立つのですけれども、酪農家は自分の牛の管理、搾乳も含めた管理に集中します。そのことによって今までの労働から少し解放されて、管理がしっかりできるのでコストも下がり、生産性が上がってきた。そのエサを作る会社で、次の世代を育てる実習牧場もやっています。当然、高齢でリタイアする方もいますから、そうやって全体の戸数は維持していこうという、そんな取り組みもやっている。そういう小規模経営、家族経営でどうやっていくか。そういう仕組みづくりも必要なんだろうなと思います。
個人所得補償
北口 個人所得補償を含めた今井さんの問題提起について。実は私の地元でも、所得補償が始まった時に、予期していなかった子どもさんらが帰ってきたんですよね。それでお父さんは慌てて「家も直さないといけないし、土地もちょっと増やさんといかんし、農機具もそろえないといけない」と、そんなうれしい悲鳴もあったんですけれども。将来を見通せる所得がきちっと確保できれば、次の世代が担えるようになってくるというのはその通りだと思います。そこを見通せるかどうかなんだと思います。
今井 今、たいがいのところで、農村を維持しようと思って集落化がされていると思うんです。年取ってできなくなった場所を、まだもうちょっと力ある者が引き受けてやっていく、そうやって集落化していると思うんですけれど、それも年金をもらっている。元気な農家の方がいるのが前提なんですよね。
その方々もいずれはリタイアされていきます。そうなった時に次がいないのが現状ですよね。あと10年もたてば、もう本当にあっちゃこっちゃが荒れてきますわ。10年もたてばそこに木が生えて、藪になり、空き家が朽ちてきて、本当に廃墟になっていく。
そこまでなったら、もしかしたら日本人も気づくかもしれないと思ったりもせんことはないんですけれど。そうなったら、田んぼなんかは元に戻らないですよね。年金があるということは、それが所得補償なんですよ。
宍粟市では、JAが耕作機関として持っていたたんぼを、「宍粟みどり公社」という形で市の三セクにした。そうなったら市はお金を入れられる。JAだったら私企業になってしまうので、個人も頑張っているところがある中でJAにだけお金を入れるわけにはいかない。
三セクになして、市でできることからやっていきましょうということで、今年はそこに2~3人募集して来年から雇っていく。それで市長と話した時には、「毎年3人くらいは入れて、18人くらいにしようかな」と言っていました。市の農地を全部それで賄うとしたらちょっと大変ですが、しかしすぐにはいらなくて、荒れていくところから順番にそういうふうにしていったらいいんですから。私が勝手に、市長にもぽろりと独り言として、100人はいりますと言って、1人300万円で3億円、なんとか市がそこにつぎ込んで、そしたらそれしかないなと周りにアピールできるから、国を動かせるかもしれへんと言ったりはしているんですけれども。市長はとりあえず20人くらいまでは入れようかなあとなっています。20人ではなかなか、事態を変えるところまではおぼつかないというのが現実です。
議員 第三セクターをつくって、そこに市の金を入れ、若い人を雇用して農業をやってもらう。私はすごいと思います。単に若い人の生活を保障するだけでなく、水田を維持し国土保全等の多目的のために公金を出すからです。それはまさに国土を守る仕事、自衛隊と同じようなものです。それが全国に伝播していく。今井さんはすごいことをやったと感銘しました。
種子法廃止に反対し条例で対抗を
荒井武志長野県議 種子法について、長野県の状況を報告します。私どもは条例化すべきだと言ってきたんですが、長野県は要綱でやってしまいました。私どもはその後、「普及センターとか原種センターを維持して活用すべきだ」、「高齢化している種子生産農家の世代継承もやるべきだ」、「それを盛り込んだ条例をつくるべきではないか」と申し入れました。
知事も「いろんな声がある」、「農家からもそういう声を聞いている」と応じ、「条例化に向けて取り組んでいきたい」と答弁し、議会の質疑の中でも、担当課の方で条例化に向けて取り組んでいきたいと答弁をしています。
北口 種子法の条例化は、各地域で声を上げることが大事だと思います。
今井 所得補償はいろんな出し方を考えないといけない。金額的なことを出すためにこういうふうにしただけで、皆さんと一緒に考えていくべきだと思っています。マスコミはこういう所得補償的なこと、雇用だとか半公務員にするとか、そういう形で農業を守ろうとは絶対に言わない。言ったら彼らは困るんです。だから、マスコミに対抗し、少しでも一般の国民に伝えていく方法を、私らは考えなければいけないと思います。
うちの市長もいっぺんにやったら反発もあるから、3人からいくと言ってます。一般の国民の方や地域の方に、ブランド化や特産品では無理だ、所得補償で若者がやっていく形にしないとだめだという世論づくりを皆さんでやる。それも大きなテーマではないかと思います。
北口 大規模化をめざす農家がいたら、それはそれでよい。だけど小規模でやれる農業をどうつくっていくかということが大切と思います。これ以上農家戸数を減らさないという視点の中で、小規模でもやれる農家を、県や市町村と連携しながら支えていく。そうしないと地域が衰退していきます。
議員 物事は多面的に考えなきゃいけない。特産品で一生懸命やる人もいるわけで、全部敵に回すのではなく、それはそれでいい。そういう生き方があってもけっこうだ。だけどそれだけでは日本の国を守れない。こういうふうに、多面的にやった方がいい。
今井 特産品やブランド品のところは、ボーナス的な部分と考えたらいいと思います。ただし、それで成功している農家は、「補助金はいらん」という農家が多く、農政審議会に出てきて「そんなのはいらない」と発言する。しかし、条件の悪い農地をやるわけではない。それでは日本の農業はつぶれるんです。そこのとこだけはわかってほしい。
議員 そこはそれでいいんですよ。私が言っているのは、そうでない部分があるわけだ。それは、その人たちも含めてね、国土を守っていくという観点から言えば共通なんですよ。それはそれで生きて、成功した人はそれでいいんですよ。だけど、おまえさん、ぽつんと孤立して生きているはずはないんで、この日本の国土の中で守られて生きているんだ。そのための、こういう投資なんだよと言えば納得するよ(笑い)。
北口 条件のいいところだから、面積も広いし、コストも低減できるし、ということなんだと思うんですよ。だから、そこの部分じゃないところにどうやって、やはりそこに直接支払いのような仕組みも含めて、環境保全、多面的機能を守っていくか。私はそこだと思うんですよね。条件の悪いところも含めて、全部大規模化と競争だけだったら、だんだん、そういうところはもう耕作放棄地に、まさしくなっていくと思うんですよ。条件の悪いところは。
約束の時間になりましたので、第1分科会を終了させていただきたいと思います。皆さんのご協力に心から感謝します。