斉藤 ゆうこ
「都政大改革」を掲げた小池百合子氏が第20代の東京都知事に就任した。果たして291万票を投じた都民各層が安心して暮らせる都政になるのだろうか。そして「都民ファースト」とは「どの都民」のことなのか。
小池知事登場の背景
世界的な経済危機と停滞するアベノミクス。財界は東京を突破口にしようと考えた
今から17年前の1999年、石原慎太郎氏は「東京から日本を変える」と標榜して都知事に当選、以来13年間にわたり都知事の椅子に座り続けた。石原知事が掲げた「世界都市東京。アジアのヘッドクォーター構想」は「アジアで一番の国際金融都市」をめざして外資呼び込みを図ったが一向に成果が出ず、惨憺たる失敗に終わった。
日本経済全体も浮上しない状況が続いた。舛添前知事辞任が取り沙汰される頃、日本経済にとって大打撃となる英国のEU離脱問題が起きた。不安定要因が増す世界経済の中で、日本の多国籍企業とメガバンクが生き残りに危機感を募らせたことは想像に難くない。
財界は国際競争力強化の突破口を首都・東京に求め、国際金融都市の実現を小池候補に託した。そして小池候補は選挙第一声で「金融、経済で特区を活用してアベノミクスのもたついている部分を東京で実現し、日本全体を引っ張っていきたい」とこれに応えた。
猪瀬、舛添と続く不祥事で高まった都政不信。支配層は「都政改革」の必要に迫られた
舛添問題では連日マスコミで都政の悪口が続いた。都政にウンザリした都民が「変えてくれる」と期待を託したのは、増田氏でも鳥越氏でもなく、「都政大改革」を掲げた小池百合子氏だった。私の政治団体の女性は「普通の都民は訳の分からない候補より小池サンに人気。圧勝じゃないですか」と予見した。
政治筋では常識だった「都政のドン」こと内田茂・自民党都議、都連元幹事長の存在も明るみに出た。「ひと握りの人たちが決めてきた都政を変える」と小池候補は指弾し、都民の関心を引き付けた。
8月2日の日経新聞「検証・小池都政」は「金融センター構想は舛添氏も推進したものの都議会自民党が積極的ではなく、なかなか進まなかった」と書いている。あらゆる規制を取り払い、国際金融都市東京を急ぎたい勢力にとって、都議会の「抵抗勢力」一掃は至上命題だったのではないか。
また、かつて利権・汚職・腐敗で国民の怒りが爆発した時に政権は危機に瀕し、崩壊した。古い利権構造に浸かり、チェック機能を喪失した都議会と都政不信に危機感を持った支配層が、都政を「改革」する必要に迫られたことが見て取れる。今後は露骨な利権や放漫財政ではなく、「透明性」や「エコ」などの概念で利益を図る勢力が財界や支配層の主流になるかもしれない。「ちがう穴のムジナ」だ。
格差と貧困の克服は切迫した都政の課題
東京は日本の中でもっとも貧富の格差がある地域になった
640万余の東京の労働者は、石原都政によってさんざん痛めつけられた。過剰な民営化で公共サービスの安全性や技術の継承には危険信号が灯っている。猪瀬、舛添都政も同様で、さしたる回復はない。
都民の所得は減少を続け、2013年までの6年間に、5人以上の民間企業の月額給与は約3万円減少、地方公務員の年間給与は10年間で70万円も減らされた。
この間の特徴は、地方に働き口がないため流入してきた人たちが非正規労働者として安く使われてきたことだ。一部の富裕層が目立つ反面、格差と貧困が蔓延し、東京は日本の中でもっとも貧富の差がある地域になった。
保育園不足は女性が働かなければ食べていけない子育て世代の悲鳴だ。「女性が輝く」とか「一億総活躍」だとかの浮いた話ではない。
東京の「経済の主役」は中小事業者から海外で稼ぐ多国籍大企業へと変貌した
元来「中小企業の町」である東京の中小企業や地域の下請け事業者、商業者の所得も激減した。製造業が一定の地位を占めていた産業構造は激変し、10年間で都内の事業所数は4割近く減少。不況、コストダウン、規制緩和などで規模の小さい事業所は事業の継承が出来ずに倒産、廃業、没落を余儀なくされた。消費税増税も追い打ちをかけた。
私は、東京の地域経済を支えてきた中小企業や自営業者の零落や貧困化を実感している。かつて東京や全国の経済を下支えし、多くの税を納めて地域に貢献してきた層が、税によって助けなければならない側に回っている惨憺たる状態だ。地方議会に身を置き、つぶさに見てきた者として泣きたい思いだ。
東京の「経済の主役」は、中小事業者から、海外で稼ぐ多国籍大企業へと変貌した。都民の大多数を占める労働者や中小企業、商店街に「アベノミクス効果」はない。削減された医療や福祉の立て直しなど都民生活の課題は山積している。「勤労都民が豊かに暮らせる東京」は都政の切迫した課題だ。
小池都政に対抗する明確なビジョンと政策を持とう
小池知事の役割は「石原都政の継承と発展」
石原知事は膨大な都財政を使って秋葉原や汐留などの大都市再開発、環状3高速道路の建設、羽田空港国際化などを推進した。当時、激しい国際競争に勝ち抜くことを余儀なくされていた多国籍企業と金融資本の求めに応じ、大手ゼネコンと不動産業界を潤した。インフラ整備では「成果」を上げたと言えるだろう。
当時の野田首相(現・民進党幹事長)とタッグを組んで尖閣諸島を国有化し、こんにちの日中関係悪化で不利益をもたらし、日本の進路を危うくしたことも石原知事の「業績」だ。しかし、「国際金融都市」では失敗した。上海にも水を空けられて負け続け、国際金融都市としての地位は一向に上がらなかった。
小池知事はこの仕事を引き継いだ。しかし、「東京からアベノミクスを加速させる」と言っても、国と連携した国家戦略特区での規制緩和と財政出動がせいぜいで自ずと限界があるのではないか。
築地市場の豊洲移転は法的には暗礁に乗り上げた。「一等地の築地から魚市場をどかす」(石原知事)ことが出来なければ、国際金融センターの実現は不可能だ。小池知事はどうするのか。
さらに、「働き方改革」を掲げる安倍政権とどのように連動しようとしているのか、都政改革本部の上山信一氏の狙いは何か、国際競争力の強化として政府が掲げる「スーパーメガリージョン」(大々都市圏)など、追って研究し、議論に供したい。
勤労都民が豊かに暮らせる東京を
東京は年間総生産額90兆円以上の付加価値を生む国内で突出した地域だ。都の予算は一般会計で6兆円超、特別会計、企業会計を含め総計13兆円に及ぶ。誰がこれを握るのか、国政にも響く大きな問題だ。安倍政権はこの間の知事選で負け続け、地方との軋轢が弱点だ。47都道府県の知事を取ることは重要課題だ。
そのためには、対抗軸となる全体構想を都民に示すことが必要だ。そして真剣に政策を争うべきである。これが無いから負け続けてきた。最大野党・民進党や東京の労働者の最大のナショナルセンターたる連合東京の責任は大だ。
国民連合・東京は、小池都政の登場を機に、心ある各界の有志と共にこの課題を解決したいと願っている。
さいとう ゆうこ(広範な国民連合・東京事務局、荒川区議会議員)