弁護士 冠木 克彦
「大阪都構想」とは大阪市を解体し、より独裁的手法でもって吸い上げた資金で大型投資とギャンブルを起こし、医療・福祉・生活切り捨てと教育・労働を反動的に再編しようとしたものでしたが、大阪市民は見事に阻止しました。
第1.橋下市政の最後の「賭」けの化けの皮がはがれ、橋下の引退へ!
- 2011年12月28日、橋下市長の施政方針演説は大阪市公務員労働組合に対する攻撃と大阪都構想を2本柱にしていた。「大阪都構想の実現、大阪の統治機構を変えるということに、これから執念を燃やしていきますが、それと同時に、組合を適正化する、ここにも執念を燃やしていきたい」「ギリシャを見てください。公務員、公務員の組合という者をのさばらしておくと国が破たんしてしまいます…」。事実、橋下市政は、労働組合への思想抑圧ともいうべき強制アンケートを行い(2012・2)、行政財産の労働組合事務所の使用を不許可(2012・3)とし、以後、労働組合費のチェックオフの廃止等の攻撃を行い、これらは7件の不当労働行為の申立事件と2件の裁判所での訴訟事件となり、橋下市政はそのすべてにおいて敗訴(確定はアンケート事件)したが、それでも、労使関係条例を作って労働組合に対する便宜供与を禁止して弾圧を続けている。
- もう一本の柱が大阪都構想であるが、要するに大阪市を解体して5つの特別区にして、大阪市という巨大な自治体は「言うことを聞かない」ので解体し、政令指定都市として保っていた権限をなくして、単なる「特別区」という大阪府の行政区(区議会など自治機構は残っても小さいから無力な機能)におとしめることである。ブレーンの上山信一氏がいみじくも語っているが「市議会がなくなれば民営化は一気に動きます」(2015年4月16日付朝日新聞夕刊)というように、地下鉄民営化をはじめ、新自由主義政策による医療・福祉・生活の切り捨てがやすやすと可能になるというわけである。大阪市の資金を吸い上げて巨大投資やカジノ設置で独占体の資本活動を進める一方で、市民の暮らしが切り捨てられ、教育、労働における権利つぶしと強権的支配を狙っている。
- 橋下市政は組合に対する攻撃は上述のようにことごとく敗訴しているが、しかし、政治的にはまだいすわっており、最後の起死回生をねらう「大賭」として都構想にかけた。しかし、見事に「化けの皮がはがれた」。
第2.個々の問題の解説と確認
- 「二重行政解消」は完全なデマである。 もともとのキャッチフレーズがこの「二重行政の解消」で、はじめの宣伝は都構想にすれば「毎年4000億円の財源が生まれる」と主張したが、よく検討すると、せいぜい「年1億円」となり、橋下もこれを認めて「効果額なんて大した問題じゃない」と開き直った。橋下は大阪市を解体すること自体に目的があるから本音でもあるが、人心を惑わす「4000億円」のデマの責任は取らないままである。 二重行政の点でいうと、逆に「七重行政」になりそうだと言われている。大阪市を5つの特別区に分割しても、介護保険、健康保険、水道事業、システム管理、施設管理などは5分割して区で管理など不可能だから、新たに設立される「一部事務組合」が担う。これは予算規模が6000億円を超える巨大なもので、堺市の全会計にも匹敵する。
この巨大な行政組織を設立することで、府―一部事務組合―特別区の「三重行政」になり、さらに5特別区がバラバラに施策をするとなんと「七重行政」という笑えない悲劇が起こることになる。 - 行政形態をいじっても「金が生まれるわけがない」 上記の「4000億円の財源」などそんなことがありえないことであるのに、当初まことしやかに主張された。
それより深刻なことは、もし、都構想が実現すると、逆に特別区にするための無駄な費用がかさむ。加えて、特別区はこれまで市税の柱である固定資産税や法人市民税が府に奪われ、直接入る税収は試算で6300億円のうち1600億円と4分の1になる。もともとは、「中核市並みの権限を持つ基礎自治体」といわれたのに、今の現実は、府の事業を条例によって権限移譲する事務処理となるため、通常の市町村並みの権限もない。
都を意味する府は、「財政調整交付金」を特別区に「交付」できるとあり、これは特別区の権利ではなく、「与えてもらう金」であるから、都のトップ(橋下になると)の自由自在に支配できるわけである。
このあたりのカラクリを橋下らは当然知っているから、彼の宣伝は「自分の夢」を振りまく宣伝となっているが、市民にとってはデマにすぎない。 - 「一人の指揮官」で「スピーディーな政策運営」「2200億円の吸い上げ」 大阪市議会という巨大な自治体決議機関がなくなれば「一人の指揮官」が好き勝手に「スピーディー」に施策がなされるだろう。これこそ「独裁」ではないか。
現在の試算では、大阪市を解体して、毎年大阪市の財源であった資金から2200億円分は大阪府に吸い上げられる。いったん吸い上げられた金が特別区のために使われるはずはない。そうであれば大阪市を解体するメリットはないわけだから2200億円は大阪府の施策優先の上で使用されることは明白である。
今いわれていることは、大型投資とカジノ設置であるが、おおよそ大阪市民の生活を改善するような使われ方ではない。 - 民営化と医療・福祉の切り捨て 橋下は知事時代「財政再建プログラム」を策定し、生活関連予算2300億円を削減した。この中味は、福祉障害者団体の運営補助金や特養ホーム建設補助金を廃止したり、ドーンセンターへの補助金削減、大阪センチュリー交響楽団への補助金を削減し、最終的には廃止した。
大阪市長になってからも、上下水道料金の減免廃止、民間保育所職員の給与改善費廃止、学童保育補助金廃止、大阪市音楽団など文化事業補助金の廃止などを進めた。市立病院の廃止と府立病院への統合、市立大学と府立大学の統合を進め、地下鉄、上下水道ゴミ収集の民営化も計画している。
これら、きめ細かい福祉や生活に密着した事業は、これまで大阪市という巨大な自治体の財源や権限でなされてきたが、これが5分割されれば、単独の特別区では何ひとつ実行できないものとなって切り捨てられていく。 - 「大阪市解体」は「労働組合」の解体にもなる。
現在大阪市の職員で組織されている労働組合員は約30000人いるが、5分割されると、これら組合の組織も分断される。個々的には連絡会など一定の共同行動は可能であろうが、現在のような「統一と団結」は保ちがたくなるであろう。その狙いも大きなものである。
第一のところで述べたように、橋下の施策の二本柱が労働組合の解体と大阪市の解体であるから、大阪市の解体が進めば同時的に労働組合の解体攻撃がなされることは明らかである。 - 利益を得るのは一部巨大独占体とそのおこぼれに群がろうとする一部橋下らの為政者グループである。
本来の主権者である住民市民には全くもって何の利益もないばかりか、損ばかりする羽目に落とし込められる。この実体について推進する橋下らは何も詳しい説明をせず、あたかも「バラ色の社会」がくるかの如きデマ宣伝を行っているが、もし、これにだまされて大阪市が5分割されると、大阪市がこれまで保ってきた財源や権限を失い、全く輝きのない寂れた大阪市というあわれな姿をみることになるであろう。
第3.「阻止」の最大の成果は、橋下政治の拒否と安倍政権への打撃
テーマは「都構想」であったが、その中味は極めて分かりにくく、市民の判断は橋下信任か否かであった。それで「NO」を宣言した効果は、大阪府・市の政治状況を揺さぶっただけでなく、安倍政権へも揺るがしている。私たちはこの成果を高く評価して前進しなければならない。