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広範な国民連合第24回全国総会 [ 記念講演]脱「大日本主義」を掲げて

アメリカ依存から自立の新しい国のモデルを

鳩山 友紀夫 東アジア共同体研究所理事長(元内閣総理大臣)

■激変迎える世界、そして日本

 広範な国民連合の第24回全国総会に足をお運びの皆さん、こんにちは。鳩山友紀夫でございます。
 もう、皆さんは「政治の世界から足を洗って、悠々自適の生活をしている」と思っておられるかもしれませんが、今回、このような機会を与えていただいたことに心から感謝を申し上げます。
 かつて三原朝彦先生(衆議院議員)とは一緒に自民党を飛び出し、私は(自民党に)戻らず袂を分かったところもありますが、久しぶりにお目にかかることができて大変うれしい思いです。また、かつて民主党でともにがんばってきた篠原孝先生(衆議院議員)、舟山康江先生(参議院議員)などとも今日はご一緒していただけました。大変うれしく思っております。
 先ほど山本事務局長からお話があったように、私も、今の日本のみならず世界がまさに激変の時を迎えているにもかかわらず、日本の政治・経済はそこにどこまで気がついているのか、その姿があまり見えてきません。
 こうしたなかで、この数年間に2冊の本を著しました。その一つは『脱・大日本主義』という本です。日本がかつての「大日本主義」を復活させるのではないかと思われるような行動を見せていることに対する警告の書です。もう一つは、それでは日本の政治、あるいは世界の政治はどういう哲学をもつべきかという思いで、『次の日本へ』という本を出しました。これは首藤信彦さん(元衆院議員)と一緒に書かせていただいたものです。この本では「共和主義」という新しい発想が世界の中には生まれてきているなかで、果たして日本はそうした考え方に基づいた政治をめざすべきなのか、あるいはめざしていないのであれば、いかがなものかという思いを書いた本です。
■中国、韓国、アジアの現実の姿をしっかりと把握する
 私は今年も中国をすでに20回以上訪問していて、昨今は韓国に行く機会も増えて、今年は10回程度行くことになっています。
 少なくない国民の皆さんの心にある、「中国、けしからん」とか、あるいは韓国に対して「嫌韓」感情をもつという気持ちが全く分からないわけではありません。しかし、現実の中国や韓国の姿をしっかりと把握することは大変重要だと思います。
 私は先月、中国の福建省にある媽祖という海の安全を祈る神様が祭ってある湄洲島という島に、フォーラム参加のため行ってきました。人口4万人の小さな島です。びっくりしたのは、ハンドルもなく、運転手もいない自動運転の実験車両が動いていました。私も乗せてもらいましたが、どっちが前か後ろかも分からない車です。この島全体には5G(第5世代移動通信システム)が張り巡らされ、例えば人が道路を渡ろうとしてその無人の車を遮ろうとすれば、すぐに停まるシステムができているというのです。
 「中国はまだまだ日本に後れを取っている」という話を信じている方もいるかもしれませんが、地方でも5Gが張り巡らされているというようなことは、ご理解をされるべきではないでしょうか。「中国は脅威だ」というばかりではなく、この国とどう付き合うかということをもっと真面目に考える必要があろうかと思います。
 昨日、韓国がGSOMIA(日韓の軍事情報包括保護協定)の「破棄」を「しばらくの間停止する」という結論を出しました。この問題はまさに日本が韓国を追い込んだ結果、生じた問題です。だから、もう「大丈夫だ」と思っていていいのか、韓国の立場に配慮した振る舞いというのを日本はしっかりともつ必要があるのではないでしょうか。
 私はこの世界の平和を脅かすものは大きくは二つあると考えています。
 その一つは言うまでもなく、戦争とか紛争です。それと同時に地球環境も、平和を脅かす大変大きなパワーになってきているということは紛れもないことです。私どもは「安全保障」と一口に言っても、「食料の安全保障」等々、多面的に考える必要があります。そして、「地球環境の安全保障」ということをもっと真面目に考えなければいけません。私たちはあのグレタさんの怒りをしっかりと胸にしながら、今までのような生きざまでこれからも暮らしていくことが必ずしも可能ではない、地球環境に関してはそうでない、ということも自覚しなければならない時を迎えているということを申し上げたいと思います。
■かつて、「大日本主義」と別の道があった
 私が先ほど申し上げたように、「脱・大日本主義」というものを唱え始めたのは、日本がかつて「大日本主義」の時期があったからです。
 明治維新当時、さまざまな議論がありました。明治維新の結果、何が起きたかというと、「欧米列強に負けるな」ということで日本の植民地主義が、とくに東アジアの国々を席巻しました。台湾や朝鮮半島などが続々と植民地支配されていったわけです。同時に、「欧米列強に伍していくために、強い兵力、武力をもたなければ」という発想で、「殖産興業」「富国強兵」を国家目標としたわけです。
 ただ、その当時、別の考え方もありました。横井小楠(※1)などの方々は「富国強兵ではない。富国であっても、有徳の国をめざさなければならない」「平和な国をつくらなければいけない」と唱えていました。そして、「議会も二院制にして、あらゆる人たちを加えられるような環境を整備しなければ」「幕府も倒せばいいのではなくて、幕府も、朝廷の側からも人を入れて、みんなで協力して新しい日本をつくろう」という動きが一時あったわけです。そういった考え方がある意味、「共和主義」の原点だと思っています。横井小楠などの方々は残念ながらすべて殺戮され、結果として、薩長連合などが勢いをもって明治維新の体制がつくられたわけです。
そして、その結果として何が起きたかといえば、ご承知のように第二次世界大戦にまで突き進み、アメリカにも戦争を仕掛けて、大敗北をするという結果を生んだわけです。
■敗戦経て、アメリカ依存の日本に
 この敗戦によって私どもは「もう二度と軍事大国をめざすのはやめて、経済的な大国をめざそう」と変わったはずでした。実際に日本が経済的にはアメリカに次ぐ大国になった時期もありました。しかし、人間というのはやはり欲が出てきます。経済大国になれば、政治的にも大きな主張をする立場を得たいということで、軍事的な大国という考えも頭をもたげてくるわけです。例えば、「原子力の平和利用」という美しい言葉で彩られた原発政策の推進も、核兵器に転用できる技術を日本は持ち続けていないといけないという発想があったのも事実です。原発はその意味においても、日本の中から早くなくさなければならないものだと思うわけです。
 日本はアメリカ、あるいは米軍に守られながら、発展を遂げてきた面は否めません。しかし、いつしか、米軍、あるいはアメリカに依存する日本になってしまいました。当時の日本では、日本が立ち直れば米軍は必要もなくなるので撤退させることになっていたわけです。それが、朝鮮戦争などが起きて、残念ながら米軍は撤退するどころか、むしろその基地は拡大をしていくということになっていきました。
 「米軍にはしばらくの間いてもらうのは仕方ない」という考えから、今はむしろ「米軍にいてもらわなければ困る」「日本の安全を守れるのは米軍のおかげ」などという発想になってしまったと思います。
 しかし、在日米軍の存在はご承知のとおり、日本のためというよりも、むしろ米国のためであり、米国のアジア、中東方面へ展開する上で大変重要な基地だということで存在しているわけです。「日本のため」よりも、アメリカのために日本に米軍が存在をしているわけです。
 私も事実を確認はしていませんが、昨今トランプ大統領が日本に対して、在日米軍の駐留経費を全額負担しろ、さらにそれに50%上乗せしろと言っていると報じられています。また韓国にも同様に現在の5倍ほどの基地の経費負担を求めていると聞きます。「思いやり予算」は米国が支払うべきものであったものにもかかわらず、ここまで拡大してしまったわけで、本来ならばゼロに戻すべきです。それを「4倍、5倍にしろ」などという、とんでもなくむちゃな考えがトランプ政権から出てきているようです。
 こういうときに日本側から「分かった。『4倍にせよ』と言うなら、基地を4分の1に減らせば今までの負担額で済む」という議論を起こすべきだと、真面目に私は思います。日本における「米軍の必要性」を最初から「当たり前」みたいに思うのではなくて、本当に何のために必要なのかという議論をしっかり行えば、将来的に在日米軍の撤退ということも展望できます。このような、危機をチャンスに変えていくような発想が必要ではないかと私には思えるわけです。
■「日中雪解け」のなか、なぜ自衛隊増強
 これからそれぞれの国に関して少しずつ申し上げていきたいと思っていますが、まず、日中関係に関して述べてみます。
 来年4月に習近平主席が国賓として日本を訪れるようになったことは、日中関係を改善させていく上で非常にいいことだと率直に評価をしています。また、昨年5月に李克強首相が日本を訪れ、安倍総理と会談して、日本が「一帯一路」構想に対して協力をするということが決まったことも良かったと理解しています。その後、経済的な面で日中関係が協力を高めつつあるということは、いいことだと思います。
 ただ、心配なのはその一方で、南西諸島など沖縄にある島々で自衛隊の増強が行われていることです。そして、そこにミサイルを配備するという構想も出ているように聞いています。私も実際に石垣、宮古島などを訪れ、また与那国島もそうですが、自衛隊の増強の話を聞いてきました。なぜ、日中関係が好転している矢先に、中国と目と鼻の先にあるようなところに自衛隊を増強させなければいけないのでしょうか。
 日本の大きな安全保障像を描くなかで、本当に自衛隊の配備が必要なのかという議論を行うべきです。なぜ日中関係が雪解けムードになっているときに、わざわざ南西諸島に自衛隊の配備を強化させるのか、国政のなかでしっかりと議論が交わされるべきではないかと思っています。
■アメリカの制裁に同調すれば北方領土で前進はない
 日露関係についてですが、私はクリミア半島に一度訪問しました。クリミアの状況をご説明すると相当時間がかかるので割愛しますが、ソ連時代のロシアとウクライナの間で、その移管について歴史があり、フルシチョフの時代(1953年~64年)にロシアの領土であったクリミアをウクライナに譲ったという経緯があります。
 しかし、クリミアに住んでいる人の大半はウクライナ語よりもロシア語を使っていました。ウクライナでは、親ロシア派の大統領が追い払われて、親欧米派の大統領になった結果、ロシア語を公用語として使ってはいけない、ウクライナ語を話せない者は公務員として採用しない、などの差別的政策が行われ、クリミアの人たちはそれに大反発し、ロシアへの編入の是非を問う住民投票が行われ、圧倒的にウクライナよりもロシアに帰属したいという結果が出て、ロシアへの帰属が決まったわけです。
 それが事実ですが、アメリカなど欧米がさまざまな手練手管を使って、「ロシアが一方的に編入した」ということで、経済制裁をロシアに強いたわけです。そしてその考えを、日本を含め国際社会の多くが支持しました。クリミアには日本人も住んでいますが、制裁の影響でパスポートが下りず、日本に帰れない状況になってしまい、かわいそうだと思っています。
 こういう状況で、どう考えてもプーチン大統領が、制裁を加えている国との領土問題に対して、前向きな言葉を出すはずもないということは明らかです。北方領土問題では、一時何か解決しそうな状況が見えたときもありましたが、もはや、そんな状況には全くないということは申し上げておかなければなりません。
■対米関係で本質的議論こそ
 それでは、アメリカとの関係は本当にうまくいっているのでしょうか。安倍首相からすれば、トランプ大統領と何度もゴルフやっていますから、「トランプさんの心は全部分かっている」と思っているのかもしれませんが、そんな簡単なことではないでしょう。
 トランプ大統領はその就任のときから、2期目もどうやったら当選するかということばかり考えていると聞きます。そして、その結論はやはり、自分を大統領に押し上げた自動車産業の労働者、農業従事者など、彼らをいかに味方にし続けるかということです。これが彼にとってすべてだということですね。だから、中国に対して厳しい条件を提示しているのでしょう。
 そのトランプ大統領ですが、中国と同様とは申し上げませんが、同じように日本をターゲットにしていることは明らかです。「日米関係は順風満帆だ」と思っていると、とんでもないことになります。「イージス・アショアも買ったし、F35戦闘機もたくさん買う。だからトランプ大統領は私の言うことを何でも聞く」と思っていたら、とんでもないということを私たちは理解しておかなければなりません。そもそもイージス・アショアやF35などこんな高いものをこのご時世で買う意味がどこにあるのでしょうか。こうした根本的なところを本当はもっと議論しないといけない話ではないかと思っています。
■日本は米朝関係改善のサポート役に
 また、こういうなかで、北朝鮮と韓国のことについても若干話を申し上げなければと思っています。
 日朝関係について先に申し上げます。2017年暮れくらいまで、トランプ大統領、そして安倍首相も同調して、「北朝鮮は危ない。核・ミサイルの実験をやめない」ということで、北朝鮮への警戒を強くして、最大限の経済制裁をやるという状況でした。
 私はその頃、アメリカに行ったときに、「ブラッディ・ノーズ(鼻血)作戦」というのを聞きました。「鼻づらを叩くぐらい北朝鮮をやっつけろ」というものです。しかし、とんでもない話です。私は「そんなことをやったら、金正恩委員長が反撃しないはずがない」と申し上げました。ところが、17年11月に北朝鮮がアメリカにも到達するような能力をもったICBM(大陸間弾道弾)の実験を成功させたことを受けて、アメリカにおける大きな戦略の変更、転換が起きたのではないかと思っています。
 そもそも、金委員長の祖父である金日成主席の時代から米朝はご承知のとおり、今でも戦争状態です。「休戦」とは言っても、戦争が続いている状態です。北朝鮮の立場からすれば、これを有利に終わらせるためには、強大な核・ミサイルをもっているアメリカに伍していかなければならず、そのためには、自分たちも何らか対抗するものをもたなければいけないという発想に立ち、核・ミサイルをつくろうという結論になった。そして、彼らとしてはICBMの実験成功を受けて、アメリカに伍していくパワーをもち、これならばアメリカと対等に交渉ができるはずだと思ったんではないでしょうか。
 ちょうど韓国では文在寅大統領が誕生し、大統領は就任1年以内に何としても南北の首脳会談を開きたいという希望を表明していました。そして、18年5月に文大統領は金委員長と握手をして、首脳会談を行ったわけです。
 トランプ大統領も、金委員長との間で何らかのうまいディールを結んでやりたい発想を今でも続けているんでしょう。だから、その直前のG20大阪サミットのときにいろんな工作をして、今年6月に3回目の米朝首脳会談が開かれました。今年2月のハノイでの2回目の首脳会談が「失敗」と盛んに言われていましたが、私はそのときにも「失敗ではない」ということを申し上げていました。なぜなら、大事なことは「継続は力」というか、首脳会談をとにかく続けているというその状況が大事であって、すぐに1回、2回だけの首脳会談で米朝が終戦宣言をして、両国で平和条約が結ばれるという簡単なものではないわけです。
 そのためには北朝鮮が核を捨てるということだけで終わるわけではなく、むしろ、アメリカ、韓国にある米軍基地における核をなくし、武力をいかに軽減していくかということが同時に論じられなくてはならないわけであり、北朝鮮に一方的に核を放棄せよと言っただけではとても最終的な結論まで得られるわけがありません。
 そんな状況ですので、私はこれからも米朝首脳会談、あるいは南北首脳会談が何回でも開かれていくような環境をいかにして日本がサポートするかということが大事ではないかと思っています。
 どうも、安倍首相は、常に「拉致、核、ミサイル」という順番を言い続け、「拉致問題が最優先」でした。しかし、拉致問題の解決のためには、日朝関係が正常化していなければ、その糸口が簡単にできるはずもありません。日朝が首脳会談を開きながら、そして日朝関係が正常軌道に乗ったなかで、拉致問題を正式に議論して結論を見いだしていけばいいわけです。「北朝鮮は拉致問題で、何もやる気がない。ならば経済制裁だ」という方向を続けていれば、逆に拉致問題の解決がますます遠ざかってしまうのではないかと私は理解しています。
 安倍首相も「対話のための対話は意味ない」ということをずっとおっしゃっていたわけです。しかし、その一方で米朝首脳会談が開かれ、また南北首脳会談が開かれる。対話がされているわけです。実際には米朝、南北で対話が行われているのに、「対話は意味ない」と言うこと自体に意味がなくなってしまい、安倍首相もようやく「私たちは無条件で北朝鮮の皆さんと話をする用意がある」ということを言ったわけです。
 しかし、北朝鮮側は何も反応していません。するわけもありません。北朝鮮に言わせれば、「まだ、無条件じゃない。経済制裁やっているではないか」ということです。制裁を一方でやりながら、「無条件で」という言葉自体が無意味ではないかと彼らには聞こえるわけです。結果としてまだ残念ながら日朝首脳会談は開かれていないという状況が続いてしまっているわけです。
 現在も北朝鮮は短距離ミサイルの実験などを繰り返しています。私は朝鮮総聯のある方から、「朝鮮は日本を敵視しているわけではない。ミサイル実験もやっているが、それは他の方向に打ち上げることができないから、必ず日本の上空を通ってしまうんだ。別に日本をターゲットにしているわけではない」と聞きました。同時に「ただし、アメリカと戦うということになれば、当然のことながら日本にある米軍基地を狙うしかありません」と言っていました。
 そうなると、私どもは何をなすべきかと。つまり、米朝間で決して戦争にならないような状況をしっかりとサポートすること。これが日本にとっていちばん求められていることではないかと思うわけです。
 トランプ大統領のやっていることはむちゃくちゃなことが多いです。しかし、この北朝鮮の問題に関しては、トランプ大統領、それに文在寅大統領をもサポートをして、結果として経済制裁を解くようにするような方向を見いだしていくことが大事ではないかと思います。一方的に北朝鮮だけが核兵器を廃棄という方向ではなくて、日本も、米韓の側も何らかの温かいメッセージを北朝鮮に出せるような方向をつくっていかないといけないと私は感じているわけです。
■他国の干渉許さず、互いの努力で日韓関係改善へ
 さて、日韓関係についても少し申し上げなければなりません。先ほど申し上げたGSOMIAに関しては少し時間的な猶予ができたと思っています。
 皆さまはご存じだと思いますが、韓国では「三・一運動」がありました。その「三・一運動」というのは日本の植民地時代に独立をめざした運動です。この「三・一運動」では多くの人びとが当時の日本政府によって、厳しい弾圧に遭いました。
 韓国ではこの「三・一運動」をユネスコの世界記憶遺産に登録しようという運動があって、その運動を行っている団体から先月招待を受け訪韓しました。そこで、私が「平和大賞」の第1回目の国際部門の受賞者に選ばれました。「三・一運動」において日本は敵ですよ。その受賞者が日本人だというのは、彼らの心の広さに感じ入りました。私が何をしたかといっても、ただ、韓国に行って、徴用工の問題などを議論させていただいたくらいです。
 また、そのときの国内の平和賞の受賞者は柳寛順さんという方で、ご承知の方もいるかもしれませんが、西大門刑務所(※2)で獄死した方です。私も訪れ慰霊の気持ちをささげたこともあります。この刑務所はかつて植民地時代に日本がつくったもので、独立運動をしている人たちが収容されたところです。柳寛順さんはその刑務所に入れられて、18か19歳で獄死してしまった女性です。
 何を申し上げたいかと言うと、今、韓国では日本人は「敵だ」みたいに思われていると思っておられるかもしれません。でも、私が翌日教会に行ったときに、小さい女の子たちが、韓国の国旗と日本の国旗両方を振って、迎えてくださったんです。だから、今の韓国全部を「反日だ」と決め付けるべきではないということを申し上げたい。
 日本人ももっと大きな心をもって、この日本と韓国との過去の問題を見つめる必要があると思います。そこで内田樹先生がおっしゃっている「無限責任論」を私は支持したいと思っています。「無限責任論」というのは、戦争で危害を加え、苦痛を味わわせた国々の人たちに対して、彼らが「これ以上謝らなくていいよ」と言ってくれるまでは常に謝罪する気持ちを心の中に持ち続けるべきではないかということでございます。そのことを私は平和賞の受賞ときにも申し上げたら、彼らも「日本人がそういうことを言ってくれるのなら、私たちも日本人を許そうじゃないか」ということを大きな声で言ってくださっていました。
 こうした問題をめぐっては、すぐに「多額の賠償金を払わなければならない」という発想になってしまうのではなくて、それこそキチンとした気持ちを伝えれば、相手もキチンと応えてくれる、そういう日韓関係が実現可能だということを私たちはもっと学ぶ必要があるのではないかと思っています。
 徴用工の問題ですが、私は「ホワイト国」のリストの問題も、あるいは半導体の輸出「厳格化」などについて、日本は「安全保障、経済の問題。徴用工の問題と関係ない」と言っていますが、そんなふうには思えません。タイミング的にはあまりにも合い過ぎてしまっているだけに、そのように韓国が思えるはずもない。
 韓国側からすれば、それは徴用工の問題から起きているのであって、徴用工の問題さえ解決すれば答えが出てくるように思えてならないんです。徴用工の問題に関しては、1965年の日韓基本条約における請求権協定において、「解決済み」というふうに安倍首相は言っていますが、本当にそうなのでしょうか。91年に当時の柳井俊二外務省条約局長は、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と国会で答弁をしています。個人の請求権は「消えたわけではない」ということをもう30年近く前に答弁しているんです。その答弁をもう一度繰り返せばよかったんですが、そうではなくて「解決済みだ」と言い、韓国の主張を「国際法違反だ」と安倍首相は言っています。
 しかし、79年に日本も批准した国際人権規約や国際人権法の進展によって、個人の賠償請求権問題に関して、国家間の条約や協定によって制約を受けたり妨げられたりするものではないというのが国際的な常識になっています。
 本来なら国際人権法の精神に立ち戻れば、この問題は決して解決できない話ではありません。そのことはかつて日本政府も分かっていたはずなんですが、なぜかそういう話を持ち出さないということが不思議だと思っています。
 私は日韓が仲たがいすることは、両国にとって決して望ましいことではないと考えています。また、この日韓関係にアメリカがどういう策略をもっているかという議論もあります。もし、そうであれば、それこそ日本と韓国がお互いの努力のなかで、他国に干渉されないで関係をつくっていくことに努力をするべきではないかと思っています。
■「脱・大日本主義」を掲げて
 改めて私が申し上げたいのは、この国は「大日本主義」というものはやめるべきだということです。「大日本主義」などということは日本にとって決して望むべきものではないとそう思っています。本来ならば、「大○○主義」というものはすべての国がもつべきではないと思っています。「脱・大日本主義」で、その「大」が「小」でも「中」でもいいと思いますが、そうした国のモデルを日本が示すことで、他の国々から「日本って大したものだなあ」と尊敬の眼でもう一度見ていただけるような環境というものをつくることが求められているのではないでしょうか。
 また、併せて、これはグレタさんも言っているように、「何が何でも経済成長しなきゃいけない」という世の中ではなくて、これからは「成長から健常」ということで、健常な日本をどうやってつくり上げていくかということに、経済界も、あるいは政治の世界ももっと目を向けるべきではないかと思っています。そうした視点の考え方の一つが私の言う「共和主義」であり、そのなかで大事なのが「友愛」だと理解をしています。
 どうも経済成長だけを目的としてしまう世の中になっているんじゃないでしょうか。国家とか経済成長などというものは決して目的ではない。あくまで手段であって、大事なことは人間、そして、人間の幸福というものが目的でなければいけなくて、人間一人ひとりの幸福というものをどうやって得られるような環境をつくっていくのかが重要なメッセージではないかということです。
 そのためには「愛」が必要です。人間同士、自分自身を自立させながら、他者に対しても尊厳を認めていける、そういう社会こそ幸せな世の中ではないでしょうか。企業活動も経済成長のため、儲かるためではなく、人のために尽くすことにとことん徹することに結果として利益が生じてくるんだという哲学もあります。
 私たち、日本、そして世界が大きな岐路にさしかかっているだけに、このようなことを重視する世の中にしていかなくてはと感じています。
 以上、このようにとりとめのない話を申し上げたかもしれませんが、私の昨今の思うところを皆さま方に申し上げた次第です。
 皆さんがさらに広範な国民連合を大きくつくられて、日本の社会を変えていく原動力になることを心から祈念しまして、私からの皆さん方への講演といたします。ご清聴、長時間、ありがとうございました。
※1 横井小楠(よこい・しょうなん) 幕末の政治家、思想家、武士(熊本藩士)。明治元(1868)年に上京し、維新政府の参与に任ぜられたが、明治2(69)年1月5日、京都で攘夷論者の凶刃に倒れる。
※2 西大門刑務所 1908年に朝鮮半島の植民地化を進めた日本によって「京城監獄」として建設(23年に「西大門刑務所」と改称)。延べ数万人の独立運動家が投獄され、約4000人が獄死。「民族の抗日独立運動に対する日帝の代表的弾圧機関」(同歴史館)とされている。87年に刑務所が移転し、跡地は西大門独立公園として整備され、独立運動家の闘いを現代に伝えている。