世界の変化見据えて日本の「基軸」打ち立てよ

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舟山康江・参議院議員に聞く

「自国中心主義」の背景に国民の声

 今、世界の情勢が大きく変わりつつあると感じています。その一つはアメリカでのトランプ政権の登場です。イギリスのEU(欧州連合)離脱や、欧州各国での極右政党の台頭など、これらの状況に対し、日本政府はもっと真剣に、現状や背景にある世界の流れなどを正確に分析し、対応すべきだと思います。
 安倍政権は「保護主義はダメだ。自由貿易をもっと進めるべき」と言っています。総論はそうかもしれません。ただ、この間の国際状況の変化について、これらを単に「内向き、保護主義」と見るべきではありません。
 TPP(環太平洋連携協定)に代表されるメガFTA(自由貿易協定)は、「自由貿易」とは似て非なるものであって、独善的な、グローバルスタンダードを振りかざして、「強者の論理」で推し進められてきました。そして、国民の側は、「自由貿易で自分たちにも恩恵がある」と期待しましたが、立ち止まってみたら、「雇用はなくなった」「賃金は下がった」等々、「こんなはずではなかった」というありさまです。
 トランプ政権に代表されるような「自国中心主義」の背景にはそのような各国の国民の不満があります。国として自国の利益を守るのは当たり前で、その意味ではトランプ大統領の主張も理解できます。

TPPでの過ちを繰り返すな

 TPPのようにルールを統一化する、企業の利益を国家よりも重視することに拍車をかける「グローバル資本主義」とは別に、自由貿易の在り方を見直すという方向を日本は提言すべきだと思います。
 ところが、「むしろ、日本が自由貿易の先陣を切るべきだ」と言わんばかりに、EUとのEPAではとにかく「妥結」を重視して、「大枠合意」に突き進みました。日本は何の成果を得たのでしょうか。日本製の自動車にかかる関税について、「8年目に撤廃」となりましたが、それがどれだけのインパクトをもつものなのでしょうか。

 そして、農業に関しては、TPPでも約束していなかったソフト系チーズの低関税での輸入枠を「最終年度に3万1千トンにまで抑えた」と、これは国内生産量よりも多い数字ですから、結構なインパクトです。そのような説明もないままに「国内対策をすればいい」というのは論理のすり替えです。
 今回のEUとのEPAはその中身を見ると、相当多岐にわたって、私もまだまだ分からない部分もあり、国民に十分、情報が開示されているとは思えません。また、見逃せないのはSPA(戦略的パートナーシップ協定)がEPAとセットとして協議されたことです。これは外交・安全保障についての協定ですが、日本国内ではほとんど報道されていません。中身を十分に分析して、反対する国民運動を広めなければなりません。
 そもそも昨年末のTPP協定の国内承認が間違いのはじまりでした。結局、アメリカが離脱して発効もしないTPPに日本がお墨付きを与え、このレベルまでは日本は確実に妥協するというメッセージを他国に与え、今回のEUとのEPA交渉のスタートラインになってしまいました。結局、農業に関してはTPP以上の妥協を強いられてしまったのです。しかも、「大枠合意」で先送りされた課題も多々ありました。ISDS(投資家対国家の紛争解決)や、情報管理のセキュリティの問題などは先送りです。合意しても、結局、失うものばかりが先行し、TPP協定の国内承認の失敗が尾を引いているのです。

アメリカ追随で国益失われる

 以前は、WTO(世界貿易機関)でも、2国間のさまざまな交渉でも、経済・貿易と安全保障は別のものという認識でした。それがTPPの議論のときに、「TPPは安全保障上も重要だ」ということを安倍総理がアメリカ議会で言ってしまいました。「安全保障のために経済連携が必要だというなら、安全を守ってやるから経済の面で譲れ」ということになりかねません。事実、アメリカから無理難題を押し付けられても、「ノーと言えないニッポン」にますますなっています。アメリカに追随することばかりやっていて、どんどん国益が失われているというのが現状ではないでしょうか。
 EUは自立しています。メルケル独首相は、「EUのことはEUで決めるのだ。とやかく言わないでくれ」と明確に言っています。あれほどトランプ大統領が「アメリカの利益第一主義」を掲げているにもかかわらず、日本だけが、それでもなお追随していくという滑稽な姿をさらけ出している気がします。

「基軸」失う日本

「保守」とは何か

 私は、「保守とは何か」ということをもう一回しっかりと考える必要があると思うのです。「保守」というのは単に右傾化し、軍国主義化して過去に戻っていくことではありません。日本の農村風景、独自の文化的背景を勘案しながら、「日本らしさ」をどう維持するのか。守るべきものを守るという「基軸」がないと、外国との交渉でも揺さぶられ、妥協に妥協を重ね、ルールもアメリカ化し、農村もなくなり、「日本とは何なのだろう」ということになりかねません。そのうち、「日本語も非関税障壁だ」と言われて、英語を中心とした語学教育も押し付けられるかもしれません。もうそのような動きが始まっています。
 確かに、「グローバル化」というのは、否定しようにもできない流れです。各国とグローバルなお付き合いをしていくのは大事です。しかし、日本の「基軸」として、独自の言語、文化があった上にプラスアルファとして外国語も習得していくというのが筋です。とりわけ小学生はもっと国語に基礎を置いて物事を考えることが大事です。そこをなくして、単に技術としての英語だけが上手になったところで、外国人に何か質問されても答えられるはずがありません。英語教育の若年化ばかりが進められているのが実態です。しかも、学校の授業時間が限られているなかで、英語を増やすということは、別の教科が減るわけです。それが国語であれば後々大変なことになってしまいます。
 日本としての「基軸」がないから、国際交渉でも大幅に譲ってしまい、外交でも「基軸」がない国だと思われてしまうのです。
 「保守」の意味をもう一回、国民全体で再確認する必要があります。アメリカ追随の軍備増強が何故、「保守」なのでしょうか。
 分別なくグローバル化を受け入れ、歴史に根ざした国内ルールの変更をやみくもに進め、地域から人も活力も奪う政策を進めることは保守とは言えません。

アメリカから自立した外交こそ

自主的な安保政策議論を

 安倍政権は「目には目を、歯には歯を」というような古い考え方の外交を展開しようとしています。もちろん核・ミサイル開発、拉致問題など北朝鮮の行為は正当化できるものではありません。ただ、それに対して、力で封じ込めることだけでは、解決できないと思います。
 日本はもう少し上手に、「アジアの一員」としての立ち位置のなかで振る舞っていたと思います。
 また、中東諸国との関係でも、欧米とは違い、民族的、宗教的、歴史的なあつれきがないなかで、良好な関係を保っていたわけです。イスラムの諸国も、日本を敵視していなかったのです。日本がアメリカと組んでしまったがために、「同列」視されてしまい、「なんだ、日本も欧米と同じになってしまった」と、敵視されるようになってしまいました。
 私は日本の特殊性を生かして、平和外交を進めるべきだと思いますし、それは中国、北朝鮮、アジア諸国との関係でも同じだと思います。北朝鮮も経済的に成立しなければ生きていけないので、経済外交のなかでうまく対話をしながら、核・ミサイル開発などの諸問題の解決策を見いだすべきです。決して「理想論」ではありません。日本が強硬な態度に終始しているから拉致問題の解決は、ますます遠のいていくのだと思います。
 外交は、軍事を中心とした「ハードパワー」と併せて、経済や文化などの「ソフトパワー」も必要です。その「ソフトパワー」の面で、「日本を敵に回したら、もう生きていけない」と思わせるような外交を展開すべきです。アメリカから距離を置いた、独自の立ち位置のなかで、対話をしていくということが大事です。そして、「アメリカから離れる」という意味では、日本の防衛、安全保障についても、自主・自立の在り方の国内議論が必要だと思います。
 私は、アメリカから「自立」したからといって、「核武装せよ」とか、「軍備増強せよ」とかいうことではなくて、憲法9条の枠組みの中で生きていくという考えもあると思います。現段階でも、最低限の自衛のため、防衛力をもつことはできるわけです。真の「安全保障」というのは敵をつくらないことだと思うのです。
 ところが安倍政権はアメリカと一緒になって、どんどん敵をつくっています。日米安保条約を今すぐに破棄して自主防衛をすべしということではありません。少しずつ、日米地位協定の見直しなど、「ダメなものはダメ」という方向性をもっておかねばならないと思います。
 アメリカからは在日米軍の駐留経費の増額も求められ、沖縄の海兵隊のグアム移転でも、アメリカの都合で移転するのに、移転費用まで出すことが進められています。アメリカから足元を見られて、結局、おカネだけ払わされてしまうわけです。日米安保は、あくまで「自国のことは自国で」が基本にあるべきなのです。

「アジアの一員」を再認識すべき

 北朝鮮はこの間、頻繁にミサイルの試射を行っていますが、ここまで過剰に騒いでいるのは日本ぐらいです。G20(主要20カ国・地域首脳会議)でも結局、北朝鮮問題は首脳宣言に盛り込まれませんでした。日常的に北朝鮮と対峙している韓国でさえ、文在寅大統領になって、北朝鮮に平和的な対話を呼びかけています。
 いま話題のAIIB(アジアインフラ投資銀行)についても、加入を渋っているのは日本とアメリカぐらいです。安倍政権はいまだに「きちんとした運営がなされるかどうか様子を見たい」と言っていますが、多くの国々はAIIBへの関与を強めており、日本は置いていかれています。アメリカも、場合によっては、AIIBとの関与を強めようと考えていると思います。日本だけがかたくなに世界の流れに逆行しているのが実態です。一方で、「グローバル化の流れについていかなくては」とさまざまな国益を捨ててまで流れについていっているのに、世界の大きな流れとは歩調を合わせずに、アメリカの顔色ばかりうかがっているというところがとても危ういと思っています。
 鳩山民主党政権のときに、「東アジア共同体構想」がありました。鳩山政権の評価は別として、日本も「アジアの一員」として、連携の枠組みをつくっていくべきです。これまでの、いわば欧米型のような、多様性もなく全部画一化して、一本のルールにまとめていく方向ではなく、多様性、柔軟性をもち、持続可能で、各国の様々な違いを認めながら、それぞれの利益を尊重した緩やかな枠組みづくりに動くべきです。日本はアジアに基軸を置き、しっかりとしたリーダーシップを取りながら、中国や韓国などと協調して、ルールをつくっていく。このことこそがこれからの日本の生き方だと思います。
 RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の基本的構想には、「多様性」「柔軟性」という言葉が入っています。しかし、今のRCEPは、日本が「高いレベル」「例外を認めない」という方向に向かっているので、最初の構想とは違ったものになっています。だから、RCEPの交渉も今ストップしているわけです。日本は逆に、どんどんアジアから浮いています。RCEP参加国からは、「なんで、日本はアメリカと同じことを言うのか」という声が聞こえてきます。

「議会の危機」乗り越えよ

必要な立法府によるチェック機能

 日本国内の政治状況でいえば、「議会の危機」が問題です。今の議院内閣制の下では、政府と与党が一体で、三権分立の原則はしっかり機能させなければなりません。総理を中心とした行政府に対して、立法府である議会は独立し、政府を牽制し、意見を言うべきなのにそれが機能せず、物事がどんどん決まっている現状は大きな問題です。
 今、参議院の在り方が問われていると、私もその一員として感じています。衆議院とは違う参議院の役割、一般的に言われる、「良識の府」として、どうあるべきかということを考える必要があると思います。選挙制度の見直しについても、それを単なる「一票の格差」を縮める方向だけでなく、例えば地域代表的な意味合いを意思として示すことが肝心です。憲法改正に踏み込まなくても、参議院の選挙制度の見直しは十分できると思います。しかし、安倍政権の下で、政府が決めたことに与党議員が、単なる「賛成要員」になっているということが異様です。これは議会の危機だと思います。

「地方と個人の暮らし守る」ことが対抗軸

不安を感じる「小池現象」

 森友・加計問題を契機に、国民が「おかしい」とブーイングを始めた途端に、メディアも安倍政権に対して批判的になりました。本来は、どんな状況であれ、メディアは健全なる批判精神をもって報道するのが大きな仕事のはずです。その役割を果たさないままに、ズルズルここまできたというのは少し怖いと思います。
 安倍政権に対し、ここで一定程度、歯止めがかかり、国民も冷静に考えるようになったのかなと思います。ただ、都議選での「小池現象」を見ると、一抹の不安も感じています。
 小泉政権の「郵政解散」も似たような流れでした。なんだかよく分からないが、「郵政民営化に反対する抵抗勢力と戦う小泉首相」というイメージばかりが前面に出ました。今回の都議選でも、「既得権益にしがみつく都議会自民党」に対して、さっそうとジャンヌ・ダルクのように「改革」を旗印に現れ、都知事になった小池さんとの戦いという図式になりました。「小池さんが言うのであれば」ということで、「都民ファースト」個々の議員や候補者が何を主張しているのかはともかく、みんな、「都民ファースト」を名乗れば当選してしまうというところがありました。そこで残念ながら他の野党、とくに民進党は埋没してしまいました。

野党に必要な対抗軸

 それでも、自民党が大打撃を受けたことは、まぎれもない事実です。この局面にあって、やっぱり民進党を中心とした野党がどのように対抗軸を示していくのかが本当に問われています。
 国際的には、他国との貿易ルール、経済関係では、今までのようにグローバル化一辺倒という方向ではなく、多様性を認め合いながら、柔軟性をもったルールをどう主導していくのか。
 日本の農業や、それに基づいた地域社会、これまで積み上げてきたルールをどのようにして守るかということが大事です。同時に、アジアに軸を置いた連携の在り方を柱に据えた外交政策が必要です。
 内政でいえば、「アベノミクス」のような金融緩和と財政出動の延長線上における競争原理でいくと、「地方創生」といった掛け声ばかりで、実際は東京中心になってしまいます。2020年オリンピック・パラリンピックということで、東京は建設ラッシュに沸いていますが、相も変わらず、地方はますます大変な状況、実質賃金も上がっていません。
 かつて民主党で活動していた当時、「企業・団体の利益ではなくて、個々人の利益を大事にするのだ」ということを強調していました。「地方、農業を大事にする」「みんなで支え合う社会をつくる」ということです。その象徴が年金と農業、子育て重視のの政策です。
 これらの政策は多くの国民から評価をいただいたと思うのです。
 ここで原点に立ち戻って、「地方と個人の暮らしを守る」という基軸のなかで、民進党など野党は政策の対抗軸を打ち出すべきではないかと思っています。
 対抗軸の中には、原子力に依存しない、安全で持続可能な、自立した自主的エネルギー政策も重要です。来年は、日米原子力協定の期限切れです、こうした原子力政策での主権が奪われている現状を続けてはならないわけです。
 対抗軸を明確にして、国民世論に働きかけることが基本だと思います。

【ふなやま やすえ 1966年、埼玉県生まれ。参議院議員(山形県選挙区)、無所属、一般社団法人 置賜自給圏推進機構 常務理事。北海道大学農学部から農林水産省入省、2004年、民主党で山形県選挙区から立候補するも惜敗、07年、初当選。12年民主党離党。13年参院選は惜敗するも16年選挙で344、356票を獲得し2期目当選。文責編集部】

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