二〇〇七年十二月に総務省は「公立病院改革ガイドライン」を全国の自治体に通知し、公立病院を抱える全国の自治体に対して@経営効率化A運営形態の見直し(民営化)B再編・ネットワーク化について、二〇〇八年度中にそのガイドラインに沿った改革プランを立てるよう義務づけていた。そのため、全国の地方自治体三月定例議会では公立病院の改革プランをめぐって論争が行われ、全国各地で地域住民から公的医療を守れという声が高まっている。
その中で三重県、沖縄県、千葉県・銚子市の最近の動きについてふれてみたい。
三重県には現在四つの県立病院がある。@総合医療センター(四日市市、北勢地域の中核的な病院三次救急医療施設、医師数68名、看護師数271名、許可病床数四四六床)Aこころの医療センター(津市、精神科救急システム・後方支援病院、医師数15名、看護師数135名、許可病床数400床)B一志病院(津市、一次救急医療施設、医師数5、看護師数23名、許可病床数90床)C志摩病院(志摩市、二次救急医療施設、医師数三〇名、看護師数一六五名、許可病床数350床)である。現在は四病院とも地方公営企業法全部適用(「全適」)病院である。二月一八日、野呂知事が改革プランにあたる県立病院改革の基本方針を発表した。
この基本方針は総務省のガイドラインの沿って民営化を推し進める内容となっており、経営形態の見直しが必要として総合医療センターは「一般地方独立行政法人化」(非公務員型)とする。一志病院は県立病院を廃止し民間に移譲する。志摩病院は指定管理者制度を導入し公設民営化する。こころの医療センターについていは「全適」でいくが病院長が事業管理者として責任と権限を明確にして期限を区切って改善に取り組み、成果が上がらない場合は指定管理者に移行することが適当。また、県立病院を統括していた病院事業庁(県立病院経営室)は4つの病院をそれぞれの組織(法人)として分離させ、廃止・縮小させるという内容である。
二月二八日、津市では「県民の生命・地域医療を守る中央シンポジウム」が開催され県下各地から三百人以上が参加した。このシンポジウムは県民医療を守ろうと、医療関係者だけでなく地方議員、学者、弁護士、労組などが集まり「県民の生命・地域医療を守る会」の準備会を結成し企画された。シンポジウムでは主催者を代表して西塚宗郎県議会議員と土森弘和・連合三重会長があいさつ。「県の方針は病院の経営面、財政的見地だけから出されており問題だ。地域医療を守るため大きな県民運動を起こそう」と訴えた。
今後、県内各地でのシンポジウムの開催、政策ビラの配布、署名活動(50万人目標、五月中に第一次集約等)、県知事への要請など計画されている。
また、当該地域の自治会など、各方面から批判の声が上がっている。
県職員労働組合もこの基本方針に強く反対している。三月二五日開催された「労使協働委員会」の平成二十年度第四回会合で大西康文中央執行委員長は、出席した野呂知事に対して「『全適』による運営継続の検証がされていない。今後の診療科目など、具体的な方針も見えない」と反対の意思表示を行った。
今後さらに県民各界各層が参加するよう運動を広げ、民営化・医療切り捨ての野呂県政と闘おうとしている。県議会健康福祉病院常任委員会は「見直しに伴う将来の医療体制への不安が払拭(ふっしょく)されていない」などとして、地元住民や学識経験者らの意見を聴く公聴会を開催することを決めた。公聴会は四月二二日午後一時から、県議会全員協議会室で行われる。
沖縄県立病院は (1)北部病院(名護市、許可病床数327床) (2)中部病院(うるま市、許可病床数5,500床) (3)南部医療センター(南風原町、許可病床数434床) (4)宮古病院(宮古島市、許可病床数309床 ) (5)八重山病院(石垣市、許可病床数296床) (6)清和病院(南風原町、許可病床数310床)の六病院である。沖縄県では総務省が出した「公立病院改革ガイドライン」に沿って沖縄県医療審議会(県立病院のあり方検討部会)で昨年八月から審議が行われて来た。この審議会では経営形態を見直して一つの地方独立行政法人化の方向を打ち出した。その動きに沖縄全域で公立病院を守れという声が高まった。(月刊「日本の進路」三月号掲載の奥平一夫県議の「沖縄県立病院の存続を求め地域医療を守るたたかい」参照)。
三月七日「県立八重山病院の地方独立行政法人化に反対する八重山郡民総決起大会」(八重山市町会、八重山市町議会議長会主催)が石垣市健康福祉センターで開催された。石垣市、竹富町、与那国町の住民約五百人が集まり、「独法化は地域医療の切り捨て」などと訴えた。主催者の八重山市町会会長の大浜長照石垣市長、八重山市町議会議長会長の入嵩西整石垣市議長と地域住民の母親らは自らの体験から地域医療の重要さを訴え独法化に反対の決意表明を行った。
三月二五日、沖縄県議会では県医療審議会の答申に対して仲井真弘多知事が拙速な判断を行わないよう求める「県立病院のあり方に関する決議」を全会一致で可決した。
知事は三一日年度内の方針決定を断念した。しかし「年度にはこだわらず、審議会の答申を尊重しながら、早いうちに方針を出したい」としており、予断を許さない。大浜長照石垣市長は、決定見送りについて「危機感を持って立ち上がった離島住民の声に配慮した」としながらも、独法化の準備を進めていく姿勢に変わりがないことを踏まえ、「県議会も財政問題だけを取り上げるのではなく不採算部門は必要経費ととらえて議論してほしい」と注文した。
独法化に反対する要請決議案を可決した宮古島市議会の下地智議長は、「知事はもっと時間をかけて判断すべきだ。独法化に不安があり、見直しを求めたい」と話した。多良間村議会の西平幹議長も「独法化して離島医療がどうなるか不安だ」と述べている(以上三氏発言は四月一日の沖縄タイムス記事より)。
沖縄県内では与野党問わず公的医療を守れという声が高まっている。
銚子市立総合病院の休止をめぐり、岡野俊昭市長の解職の是非が問われた三月二九日の住民投票結果、解職請求(リコール)が成立し、岡野市長は失職した。岡野市長は、昨年七月財政難を理由として突如銚子立総合病院の休止を決定した、入院者も含め患者は「医療難民」となって、周辺の病院への転勤、通院を余儀なくされた。10月23日、この暴挙に怒った市民七百名が結集し「岡野市長リコール決起集会」が開催された(「日本の進路・地方議員版」〇八年一一月号参照)。
11月からリコール請求署名運動が開始された。そして署名数は法定2万229人を3千人上回る2万3405人 (2009年2月5日現在) を集めて住民投票となった。
今回のリコール成立は安易に公的医療・市立病院を潰す首長は許さないという市民の激しい怒りが背景にあり、公立病院改革ガイドラインと自治体財政健全化法による圧力で安易に公的医療を切り捨てる首長に対して厳しい審判を下したものである。
銚子市で市長の失職によって、いよいよ市長選がスタートする。今回の市長リコール運動は何とかしよう銚子市民の会が中心を担ってきたが、その会の代表である茂木薫氏が市長選に立候補を表明した。