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7・15講演会・講演要旨(2)

東アジアの平和と日本外交

─制裁重視は平和をもたらすか─

政治評論家、森田塾塾長森田 実 氏

総選挙の分析について

 昨日の夜は週刊朝日の座談会でした。相手は野上さん。共同通信の政治部記者で、福田赳夫氏の時からずっと清和会番記者でした。優秀な記者です。安倍晋太郎、三塚博、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫等々、OBになった今も町村派の取材をしている人で、長年、自民党主流派を内部から見てきた人です。

 これまでの座談会では野上さんと私では若干意見が違いました。野上さんは民主党が単独過半数を取ると分析、私は単独過半数は難しいという意見でした。昨日は意見が一致しました。それが現実になるかどうかは分かりませんが。例えば、北海道は12選挙区のうち、自民党は1議席ではないかと一致しました。武部勤氏、イタリアで泥酔記者会見した中川昭一氏も厳しい。当選しそうなのは町村氏のみという状況です。

 自民党選対委員長を辞めた古賀誠の福岡7区。古賀氏の秘書だった野田国義氏が古賀氏とけんかして八女市長になった。この野田氏が民主党から古賀氏の対抗馬として立候補する。どちらが勝つか五分五分です。

 先日の東京都議選で一番注目されたのは7つの1人区で、自民党は1つしか勝てなかった。全国を調査してみると自民党が勝てそうなのは、ほとんどが島や半島など隔絶された地域です。例えば房総半島の先端の館山市、市議会の政党別構成を聞くと全部自民党です。岐阜県は5選挙区のうち民主党が勝てそうなのは3区だけ。群馬県の山間部も自民党が強く、福田康夫と小渕優子が強い。

 島化していない所は民主党の大きな波に席巻されるのではないか。05年の郵政選挙では東京で25区の選挙区のうち24で自民党が勝利したが、今度はそうはならない。毎日新聞は、都議選の自公の票と民主の票を衆議院選挙の25選挙区に振り分け、自公が10議席、民主が15議席と予想しています。しかし、総選挙で公明党が自民党のために死に物狂いでやるか。公明党が自民党に付き合うのは8月30日まで、公明党はおそらく1年くらいかけて自公から民公へ、を考えていると思います。他方で、自民党と民主党の大連立構想を模索する動きもある。

 2005年の郵政解散。参議院が郵政民営化法案を否決したことに、小泉首相は納得できないと衆議院を解散した。これは憲法違反でした。日本のテレビや新聞は広告料で成り立っている。郵政の簡保をねらうアメリカの保険会社から巨額の資金が日本の大手広告会社を通してマスコミに流れた。日本のテレビ、新聞の広告を使って日本国民をマインドコントロールした。「郵政民営化は善」「官は悪であり、民は善」「民営化こそ正しい」などとテレビ、大新聞を通じて繰り返し大宣伝した。そして、郵政民営化が実現しました。

 7月12日の東京都議選で起こった事態が、8月30日に全国で起こる。麻生政権の不支持率は70%以上、これほど不支持率が大きい首相で選挙をせざるを得ない。自民党は300の小選挙区で120程度、180の比例区で50前後ではないか。つまり05年総選挙とまったく逆の結果が出る方向へ動いている。

日朝問題について

 先日、全米商工会議所東京会議の講演に招かれました。同席していたアメリカの元外交官いわく「オバマ政権にとってアジアで関心があるのは中国だけだ。中国に米国債を買ってもらいたいのだ」と。さらに「次の関心は北朝鮮だが、遠くからじっと見ている」と言っていた。

 拉致家族会が負の役割を果たしたのではないか。北朝鮮と話し合いもせず拉致問題を解決することはできません。日朝間の話し合いのパイプを切って、制裁だ、謝れと騒いでも何一つ解決しない。国交正常化前の中国に対しても、裏では様々なミッションを送ってパイプを作っていた。日本国内で、中国と国交などとんでもないという意見が出ても物ともせずにパイプを作った。高崎達之助氏はじめ国交正常化以前から陰で日中関係に尽力した人びとがたくさんいた。それが田中訪中、日中国交正常化へとつながった。北朝鮮との関係でもそういうことをやらなければ前進しません。蓮池さんの主張、まったくその通りだと思います。

政権交代で何が変わるのか

 日米軍事同盟でやっていきますという点では、自民党も民主党も一致しています。憲法改正という点でも自民党と民主党は一致しています。防衛力増強でもほとんど自民党と民主党は一致しています。例えば海賊対処法を政府に作らせたのは民主党の長島昭久議員です。昨年、政府に対して執拗に「ソマリア沖の海賊対策になぜ自衛隊を出さないのか」と追及した。長島議員個人ではなく民主党執行部の意向です。法案成立の時には、政府を追及して「海賊に向かって銃を使うことは憲法違反ではい」「海賊と間違って武器を使用しても憲法違反ではない」と憲法解釈を変えさせてしまった。

 自民党政権が終って民主党政権ができても、外交政策はほとんど変わりません。国内の経済政策では、民主党内に依然として小泉構造改革、その背景にあるアメリカ的な自由競争主義者が相当います。それに対して反対する議員もいますが、民主党内でそれを主張したらつぶされるので黙ってやっています。いまの状況を考えますと、政権交代しても政治路線は変わらない。

 その上政界再編の議論が起きています。たとえ衆議院で民主党が単独過半数を獲得しても、参議院では民主党は過半数に足りない。社民党や国民新党を加えてやっと過半数になる。連立政権です。もしも、社民党や国民新党との連立が分裂した場合には、どうなるか。一つは公明党の動きです。各地で創価学会が中立化する動きが起こっています。一部では民主党支援の動きもあると言われている。自公から民公への布石でしょう。もう一つは民主党と自民党の大連立です。自公から民公、あるいは大連立も含めて政界再編の動きが水面下で活発化しています。すぐにやると国民から批判が出るので、来年の参議院選挙後に大きな動きがあるのではないかと予想されます。

 大連立が実現すると憲法改正問題が浮上します。「国民投票で憲法9条は守れる」との護憲運動をやっている人たちの考え方は正しいと思います。ですが、大学紛争以後、大学には左翼はほとんどいなくなり、現在のマスコミはほとんど右翼です。一年がかりで「憲法改正は善、護憲は悪」とマスコミでキャンペーンをやられたらどうなるか。郵政民営化と同じです。これを阻止するのは国会しかない。3分の2を与えない。そのためには大連立になったときに、それを拒否するグループがないといけない。来年の参議院選挙後は3年間、国政選挙がありません。この選挙がない3年間が歯止め、ブレーキの利かない時期になる危険性がある。私は非常に危惧しています。

 政治の目的に対する定義は古今東西いろいろ言われてきました。20世紀で2つの戦争をやって、一度目の戦争ではヨーロッパだけで3千万人、二度目の戦争では1億人近い死者が出た。そういうことを経験した以上、政治の定義は、「政治は最悪の事態の回避である」と変更すべきです。最悪の事態とは第1に戦争、第2に独立の喪失、第3に大失業、第4に大インフレ、第5にモラルの喪失です。最大の問題は平和です。核兵器の時代ですから、絶対に戦争をさせない、日本は憲法9条の精神を守り抜くべきです。護憲派のグループ同士が対立している状況では国民はついてこない。市民運動、草の根運動の盛り上がりが重要です。政治勢力がまとまって力をあわせれば9条を守れると思います。

 オバマ政権は経済再建とアフガンなど中東対策に手一杯で、日本どころではないという状況です。ともかく歴史的な変化の時代がやってきています。日本国民にとって大勝負の時だと思います。

(文責・編集部)


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