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神奈川

第2回医療危機を考える懇談会

公立病院が赤字で何故いけないのか!

文責 編集部

 5月23日神奈川で、昨年12月に続き「医療危機を考える懇談会」が医師、医療従事者、議員、労組役員などの共同で開催された。今回は、全国で地域に深刻な影響を及ぼしている「公立病院の民営化の動き」に焦点を当て、「公立病院が赤字で何故いけない!」をテーマに、熱心な討議が繰り広げられた。
 この懇談会の代表の一人で、横須賀市議会議員の原田章弘さんが司会進行をつとめ、同じく代表で横浜市金沢区で産婦人科、内科を開業している池川明医師が、この問題の背景など問題提起を行った。
 これに続いて、1.「指定管理者制度と闘っている横須賀市民病院から」横須賀市職員労組の森田洋郎さん、2.「独立行政法人へ移行を迫られている神奈川県立足柄上病院等の声」を県会議員の日下景子さん、3.県立病院の民営化への動きに対して、幅広い県民とともに地域医療を守ろうと闘っている三重県職員労組から事例報告が行われた。
 日下景子・神奈川県議は、「県立病院は6病院(横浜の5つは専門病院、松田町の足柄上病院は総合病院)ある。6病院とも黒字なのに県当局はバラ色の将来を描いて独法化を急いだ」「地元の南足柄市議会は『足柄上病院の直営を求める意見書』を採択して県に突きつけるなど各方面から反対の動きが起こった。私自身も足柄上病院の助産師・看護師、足柄上医師会会長、病院労組、開成町長などから聞き取り調査を行ったが、独法化への不安と直営を望む声だった」「それでも県当局は独法化を急ぎ、県議会で決定した」と報告した。
 問題提起と3つの事例報告を受けて、討議が行われた。
 紙面の都合上、「問題提起」と三重県の報告の概略を紹介する。

[ 問題提起 ]

国は国民の健康に責任を持て

池川クリニック院長池川 明氏

 公的病院の改革はどこから出てきたかと言えば、2001年小泉内閣時代の坂口厚生労働大臣が行った「社会保険病院の3割程度の統廃合を検討する」という発言に端を発すると思う。官から民への大合唱の中で誰も異論を唱えることができなかった。民業を圧迫する公的病院の役割は終わったとの宣伝が蔓延し、厚労省が整理合理化計画を策定した。
 新型インフルエンザが発生しただけで大きな病院にかかれないという状況が起きている中で、今、この施策が正しいか見直しが必要な現実にあるが、見直しは行われない。
 私は産婦人科医だが、元々産科医療と小児科医療は採算性がよくない。産科診療だけでは多分お手上げとなると思う。「効率よく」という病院をめざせば不採算部門は当然切り捨てられるから、産科と小児科は止めてしまえということになる。そういう不採算部門を引き受けていたのが公的病院だったのではないか。
 2007年6月に自治体財政健全化法が成立して、病院や下水道などの赤字を自治体が補填していた事実が表面化した。実質公債費比率など4つの健全化指数の公開が義務づけられ、基準を満たさないと「早期健全化団体」に指定され、数値が悪いと「再生団体」になる。再生団体では国の監視下に置かれて人員整理、給与削減が迫られる仕組みである。
 これまで公的病院が抱える赤字は政策的医療交付金で充填されてきたがこれができなくなった。全国で自治体病院は1018施設あり、全体の11%を占める。病床数は全体の14%であるが、政策医療である救急救命センターの38%、地域災害医療拠点の45%、へき地医療拠点の72%などを自治体病院が受け持っていて、その比重は高いが、全体では8割の自治体病院が赤字で累積額は1兆8736億円に上る。
 2007年12月24日に出された「公立病院改革ガイドライン」はリストラによって黒字化を図れと言い、そのポイントとして、1.経営効率化、2.再編ネットワーク化、3.経営形態の見直しの3つ挙げている。
 公立病院の経営危機は、研修の充実と引き替えに生じた大学による研修医の引き上げによって医師が不足したことも一因である。また、公立病院では院長に最も権威があると考えられてきたが、今は、事務長が最も力を有していて、ここから種々の問題が発しているように思われる。
 病院経営は診療報酬の操作によって左右されるが、看護師配置数との関係で見るならば5段階に分けられている。そのうち患者7対看護師1ならば14日以内の入院で1日19,830円の患者負担、15対1未満ならば1日8,750円の負担となる。言い換えれば看護師が確保できない病院は収入減となり、入院日数が長くなれば病院は収入減となる。民間病院も看護師が集まらなければ閉鎖に追い込まれ、公立病院との棲み分けが崩れてきている。公立病院が独立法人化して採算性を求めるようになると、患者の選別が始まり、社会的弱者である患者追い出しになる。
 医者はこれまでも目一杯働いてきたが、病院が効率化を追求するようになれば、さらに医者を働かせるよう圧力がかかる。医者が「これ以上働けない」と言うと、規制改革会議の人たちは「医者にモラルがない」などと平気で言う。残業が当たり前の日本は世界の非常識で、ILO基準を満たせない。そもそも日本の医療は効率抜群で、これだけ安い費用でこれだけ高い医療水準を維持している国は他にない。
 日本の医療の社会保障制度はしっかりしているが、これがしっかりしていると困る人たちがいて、そこで儲けようという人たちには具合が悪い。利益にするためにはどうしたらいいか、医療費そのものは高くして、公的保障は低くするのがいいという。アメリカ商務省の対日要求は米国企業が儲けるために日本はどうあるべきか、の一点に絞られている。郵政民営化によってほとんどすべての要求が実現し、残るは医療と弁護士だけになっている。規制改革会議の人たちが賛成することでどういうことか起こるかが判る。
 「国の一般会計80兆円、医療費33兆円」という宣伝で、いかにも80兆円のうちの33兆円が医療費に使われているとの勘違いが定着しているようであるが、実は国が出している医療費は8兆円に過ぎない。規制改革会議の人たちのいうことは「医療費の8兆円は減らせ」「混合診療を入れて自分たちに儲けさせろ」ということだと思う。
 本当の意味の医療荒廃とは人心の荒廃だ。一度モラルハザードが起きれば元には戻らない。一つは、「小さい政府が景気を良くする」とレーガンやサッチャーがいい、小泉改革が真似をした。しかし、いま市場経済が崩壊してしまった。
 もう一つは社会保障の問題。皆で困った人を助け合うのが本来の社会保障で、憲法25条で国が保障している。しかし、国は憲法改正で「国民の健康に国は責任を持たない」方向に変えたいと考えている。社会保障はみんなが稼いだお金で困っている人たちを助け合おうという哲学だ。どちらを選択するのかが今問われているのではないか。
 この社会保障の考え方の最先端にあるのが公的病院だと思う。公的病院は税金を使って、弱い人たちを助けて早期の社会復帰を実現するための施設であるのだから、なぜ赤字で悪いのか、と私は思う。

[ 事例報告 ]

幅広い県民の声を結集して、地域医療を守る闘いを進める

三重県職労副委員長田中智也氏

 県職労は労働組合ですから、組合員の生活を守る運動が第一義的な取り組み課題であることは当然ですが、こと病院問題に関しては、地域医療を守ることを前提に運動を進めている。三重県の県立病院は4つあるが、すべて地方公営企業法の全部適用で運営されている。

 こうした状況の中で、県職労は県立病院改革の問題に立ち向かっている。県は2006年から県立病院の運営形態を含めた経営効率優先の見直し論議を実施に移し、2009年2月、総務省のガイドラインに沿う形で民営化を進める趣旨の考えを発表し、4病院それぞれの姿を提起した。  この間の論議などの経過は次のとおり。

 

 県職労は、地域の医療を守る視点に立ち、医師不足、看護師不足の三重県において今のままでできることをやろうという基本的な考え方で取り組んでいる。独立法人化など運営形態を変えるだけで問題が解決するとは思えないと考えている。広範な住民運動を巻き込んでいくことが肝要だという思いから、「県民の生命と地域医療を守る会」を立ち上げた。
 これまで2009年2月に三重県人権センターで中央シンポジウムを開催し、300名以上の参加を得た。今後、伊勢、志摩、伊賀などでの地域シンポジウムを開催し、一志地区などでの地域住民との懇談会を行って住民の理解を深めていきたい。また、できれば県下全域で政策ビラを配布し、署名活動を展開して知事への要請行動を組織していきたい。これは県民の医療を守る正義の闘いだと考えている。


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