雇用と地域経済 東京
労働者の大量解雇が地域経済に打撃
東京・三多摩地区で聞き取り調査
広範な国民連合・東京事務局長
菅谷 琢磨
東京の三多摩地区(二六市・三町・一村)には、高度成長期の一九六〇年代から大工場の集積がすすんでいました。その後、地方や海外への生産拠点移転があり、かつてほどではなくなったものの、首都の東京でありながら、二三区とは別の産業構造が現在も残っています。
アメリカ発の金融不安は、三多摩地区も襲い、最初にその影響が出たのは、多くの金融機関が集まっている立川市(人口十七万人)で、来年度(〇九年)の法人市民税は十六億円の減収が見込まれています。
日野自動車で大量解雇
更に深刻なのは製造業を多く抱える自治体です。なかでも日野自動車(本社・東京都日野市)の工場がある羽村市(人口5万6千人)は、日野自動車羽村工場が市総面積の一割を占めるほどで、その存在は大きく、来年度の法人市民税(今年度=十五億円)は六億円の減収になると見込まれています。羽村工場には、昨年八月の時点で千三百人の期間従業員が在籍していました。日野自動車は、トヨタグループの一員でトラックなどの業務用自動車のメーカーであると同時に、トヨタブランドのクルーザー車なども生産しています。羽村工場にはそのラインがあり、北米向けの生産が主流といいます。八月まで生産ラインはフル稼働で二交代制勤務が行われていましたが、九月のリーマンブラザースの破綻により状況は一変し、今年一月一日現在では、半数の六五〇人の期間従業員が、「契約期間満了」の名目で解雇されています。昼夜を問わず稼動していた生産ラインは、昼間だけになり、ひと月のうち三日の休業日が設定されるようになりました。休業日は、有給が充当させられ、休暇がない人には三割の賃金カットが行われています。しかし、日野自動車は昨年十一月時点でも全国で期間従業員の募集を行っていて、すでにこの時点でたくさんの期間従業員を解雇していたのに、面接者に羽村工場を勤務地として紹介しているのです。羽村工場の担当者は「今後も業績が回復しなければ、契約期間満了の従業員の更新はなく、毎月一〇〇人ほど退職する。」といいます。自動車業界の業績回復はまったく見通しが立たない状態ですから、残りの期間従業員もいずれ解雇は必至でしょう。解雇しながら新規募集したことについては「応募しても賃金の高い夜勤がなくなったり、条件が悪くなったために辞退者が多くなったので、新たに入った人は少ない」と弁明しました。これは事前に本社人事部から聞いたこととはかなり食い違っています。
本社の人事担当との面会
日野工場(本社工場)では、年末までに二八〇人の期間従業員が解雇されました。それに先立つ十二月中旬に本社人事部と会い、状況を聞くと共に解雇の見直しと処遇の改善を要請しました。ここでは、羽村工場の担当者がいった「辞退者が多く、入った人は僅か」という弁明と違う事実を確認しています。本社の人事部担当者は「状況の変化が急だったため、募集の中止が間に合わず、十二月に新たに赴任した人がいます。しかし、半数は説明会を開いて就職を断った」と、本人の辞退ではなく、いわば「内定取り消し」をしていたことが分かりました。工場近くの寮で期間従業員の方にその辺の事情を聞いたところ「期間工でも何回か契約を更新するといくらかは時給がアップするから、新しい人を雇って安い賃金で使いたいということだったんでしょう」と会社の魂胆を見抜いています。
なお、日野自動車は昨年三月の決算で三〇〇億円の最高利益を計上し、最近、茨城県に新工場を建設するための用地買収をしています。将来のアジア市場をにらんだ新工場の建設費は数百億円と見られています。労働者を路頭に放り出したうえで、儲けた金は企業の将来のために湯水のように使うというのです。
動きの鈍い行政の対応
三多摩でも製造工場を多く抱える自治体(八王子・羽村・日野・昭島)に、事情を聞いて回りました。どの自治体でも深刻な問題であるのに、解雇の状況についてはとくに調査していないだけでなく、労働行政は基礎自治体の業務ではないと考えています。地元自治体の対応の遅さと無関心さに不満を覚えると同時に、企業誘致には熱心であっても、そこに働く労働者の境遇に無関心な産業振興政策のあり方には大いに疑問を感じました。
自治体が用意した緊急雇用は、どれも短すぎる期間、安すぎる賃金のためにほとんど応募がなく大空振りに終わりました。かつて政府は失対対策として国鉄などに職のない人を吸収し、自治体も現業に多くの人を雇いました。いま国から定数削減を迫られる各自治体は臨時職員でカバーしています。臨時職員の状況は官製ワーキングプアと呼ばれる低待遇であり、これが行政の対策を限定的にし、緊急雇用対策でのミスマッチにつながっています。
正社員の雇用も危機に
三多摩で一番古く大きな市である八王子は他の自治体と少し事情が違い、量産工場から開発・試作へと移行しているところが多いのですが、それでも大量解雇の問題はあります。OKIセミコンダクタ社は、昨年一〇月に沖電気から分社・社名変更をし、同時にローム社(本社・京都)に譲渡されました。ところが、ひと月後には六〇〇人のリストラ計画を出してきました。労働者の解雇問題は派遣切りから始まり、期間工の解雇、そして正社員への肩たたきへと発展しています。ただ、正社員の場合その多くは希望退職という「社内問題」としてすすめられているため、その実態がつかめません。そこで、状況を知るため、地元の市会議員の皆さんと一緒に市の産業振興担当者にこの問題についてヒヤリングをしました。最初、市の担当者は企業の内部問題であり、行政が関知するものではないという態度でしたが、話し合いの結果、ことの重要性を認め調査・報告を約束しました。その後も八王子ではビクターやケンウッドといった大企業の解雇計画が公表され解雇問題は拡大の一途です。
超党派の自治体議員懇談会が始動
年末年始は「派遣村」が全国の目耳を引き付け、非正規労働者の大量解雇は一気に大きな社会問題となりました。一方で、三月までの非正規雇用労働者の解雇予想は大きくなるばかりです。広範な国民連合・東京は年頭に世話人会議を開き、この問題を討議し、さし当たって自治体議員のネットワークを活用して東京全体の雇用・地域経済問題に取り組むことになりました。
一月二八日、都内十三自治体から、超党派の区議会・市議会の議員が集まり懇談会を開きました。この会合には正月返上で派遣村を支えた全国ユニオンの安部事務局長も出席し、大量解雇問題への議会からのアプローチを討議しました。その結果、都知事への要請書提出、東京都産業労働局には、実態調査と対策強化を申し入れることが決まりました。
世界的不況は出口がまったく見えません。解雇問題はこれからが正念場で、年度末の三月がひとつの山場と思われます。全国で同じ問題が起きていますから、情報を交換し大きな闘いへ発展させる必要があります。