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公立病院改革ガイドラインの何故
佐賀県議会議員
太田 記代子
保健・医療・福祉の充実は国民の幸せの必須条件である。


 30年余り、保健所勤務医の立場で保健・医療行政に携わった者として「公立病院改革ガイドライン」を再考してみる。
 平成19年12月24日、総務省が示したこの「公立病院改革ガイドライン」(以降「ガイドライン」)は15頁に及ぶ文章と4枚の別紙からなる。その労は犒(ねぎら)う。
 しかし医療システムの重要な役割を担う公立病院のガイドラインを何故、厚労省ではなく総務省が出されたのか不思議に思う。
 厚労省と連携しての「ガイドライン」であるのか?読み進んで大きな疑問にぶつかった。果たしてこの「ガイドライン」で公立病院改革が本当にできるのかという疑問である。
 勿論、妙案だと思える文章もある。
 例えば(2)公立病院の果たすべき役割の明確化の中で、公立病院の期待される主な機能を具体的に例示し「@山間へき地・離島など民間医療機関の立地が困難な過疎地帯における一般医療の提供、A救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門に関わる医療の提供、B県立がんセンター、県立循環器病センター等地域の民間医療機関では限界のある高度、先進医療の提供、C研修の実施等を含む広域的な医師派遣の拠点としての機能などが挙げられる。」と謳われている。
 確かに、この文章では理想を掲げて立派である。しかし現実は逆の結果を生む危険を孕んでいよう。そして何か大切な心が抜けていると感じる。
 具体的に例があった方が分かり易いので我県の場合を具体例に掲げる。
 佐賀県には前記のB県立がんセンターも、県立循環器病センターもなく、県立病院のみがあり、この県立病院好生館は明治維新時の藩主、名君で有名な鍋島閑叟公が藩民のために作った公的病院である。それが、この「ガイドライン」に則り独立行政法人化への準備が進んでおり県民の中には強く反対している人も多い。
 「殿様・閑叟公は民のために病院を建てたが現在の知事は独立行政法人化して体よく切り捨てようとしている。」と評されてもいる。
 また佐賀県武雄市で市立病院が民間譲渡と議決され市長リコール運動にまで発展し市長が辞任したことは全国に報道されたのでご存知の方も多いと思う。
 武雄市も市立病院の経営面と医師不足の心配で民間譲渡という選択になったようであるが、それで問題が解決するのか、否であろう。ここにこの「ガイドライン」の問題点が存すると危惧する。
 公立病院の経営問題や医師不足は経営形態を変えて解決する程、簡単なものではない。根本的な問題の解析が不足していると言われる。先ず「ガイドライン」を読んでみよう。
 「第1、公立病院改革ガイドライン 1、公立病 院の現状と課題 公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、地域医療の確保のための重要な役割を示しているが、近年、多くの公立病院において、損益収支をはじめとする経営状況が悪化するとともに、医師不足に伴い診療体制の縮小を余儀なくされるなど、その経営環境や医療提供体制の維持が極めて厳しい状況になっている。
 加えて第166回通常国会において成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」の施行に伴い、地方公共団体が経営する病院事業は、事業単体としても、また当該地方公共団体の財政運営全体の観点からも、一層の健全経営が求められることとなる。以上のような状況を踏まえれば、公立病院が今後とも地域において必要な医療を安定的かつ継続的に提供していくためには、多くの公立病院において、抜本的な改革の実施が避けて通れない課題となっている。」

 以上がガイドラインの書き出し部分である。
 要約すれば公立病院の経営安定と医師不足のためのガイドラインで、公立病院を独立行政法人化したり民間譲渡するようにすすめられている。短絡的と評される所以である。
 再び、ガイドラインから抜粋する。
 「第2、地方公共団体における公立病院改革プランの策定 1、改革プランの対象期間…平成20年度において後掲のとおり当面の検討・協議に係るスケジュール等を掲げるにとどめ、後日改革プランの改定により実施計画を追加し、おおむね平成25年度までの間での実施を目指すことも妨げないものとする。
 2、改革プランの内容
 (1)当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方(2)経営の効率化(3)再編ネットワーク化(4)経営形態の見直し@経営形態の見直しに係る計画の明記A経営形態の見直しに係る選択肢と留意事項
 ・地方公営企業法の全部適用・地方独立行政法人化(非公務員型)・指定管理者制度の導

 ここまで読むと「ガイドライン」のみでは改革がおぼつかないという問題が判然として来る。医師不足に関しては、卒後研修の義務化で加速したとされている。平成16年から医学部の卒後研修制度改革で魅力ある研修先に研修医が集中し大学の当局の医師が不足し関連病院から医師を呼び戻し、医師不足の病院が増した。
 武雄市立病院の場合は民間譲渡の情報に医師達が驚いて大学に戻ったと聞いている。
 それのみでなく日本の医師の絶対数が不足しているのが根本的問題であろう。厚労省の資料では100床あたりの医師数、アメリカ63.9人、ドイツ35.6人、日本12.0人である。アメリカの5分の1でドイツの3分の1。いかに日本の医師が少なくて無理をしているかを示していよう。看護師も然りである。100床当たりアメリカ197人、ドイツ92.9人、日本41.8人、アメリカの5分の1、ドイツの2分の1の数の看護師である。過重労働というべきである。
 日本は、それでいて健康満足度世界1位と評価が高い(WHO指標)医療者が必死に働いているからである。
 「ガイドライン」では公立病院が赤字経営が多いから独立行政法人化や民間譲渡と明記してあるが公立病院の赤字経営は健康保険の点数が低過ぎるのも一因である。平成18年度の経常収支で黒字達成の公立病院は全体の4分の1程度である。これらの病院は医師も看護師も他のスタッフも超人的な働き方を強いられている。大体、医療費削減という言葉に誤解が生じ易い。現在、現に日本の医療費は諸外国に比べて非常に低い。
 OECDの統計では医療費がGDPに閉める比率が日本は世界で第17位である。つまり安価な医療費で健康満足度、世界1位をなし遂げ世界一の長寿国になり健康保険で医療を受けられる恵まれた国であり公立病院の医師、看護師その他のスタッフもよく働いていると世界的評価が高い。この事を念頭におかず、拙速に公立病院の集約化と経営形態変容を急いでは日本の医療行政に大きな禍根となろう。折角築いた外国に羨まれる医療行政がくずれては国民の不幸である。急いでは事をし損じるの言葉を噛みしめるべき時である。
 財政の視点からのみ公立病院を考えることは厳に避けるべきである。さもないと医療格差が出そうで心配である。もともと日本の社会保障費は先進国では低い上に2200億円の圧縮が決定されている。これでは病み、弱い立場の人の人権が守られない。人権の父とされる江藤新平や、自分は倹約して、公的病院好生館を作り西洋医学もすすめ患者の人権も守った名君閑叟公の佐賀にて保健・医療・福祉の充実で真に住みよい国になるよう切に願う。 今まで公立病院が果たした役割は大きく計り知れない。経営形態は公立のままで改善すべきところは改善し存続という道もあろう。

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