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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版6号
 

板橋区の介護保険制度
介護保険の主体は利用者


東京都板橋区議会議員  遠藤千代子
        


 不安だらけの介護保険

 私は板橋区議会で介護保険問題を担当する健康福祉委員会の委員長をしています。板橋区では、住民の代表者、学識経験者、保健医療関係者、社会福祉関係者などで構成する介護保険事業計画作成委員会が介護保険の計画を練っていますので、この作成委員会も常に傍聴してきました。
 介護保険で第一の不安は、この制度が高齢者の方にどれだけ知られているかということです。一人住まいでほとんど情報が入っていない方もかなりいます。板橋区では出張所ごとに説明会、夜にも説明会をやっていますが、それでも会場に来るのはせいぜい100人です。板橋区の人口は51万人で、援助を必要とする方は1万2千人と言われていますが、何らかの形で登録されて連絡できるのは8千人です。4千人の方には情報が伝わっておらず、未申請の方もいると思われます。いずれ申請するだろうといっても4月を過ぎれば、施設介護には人数の枠がありますから、認定されてもサービスを受けられるか心配です。
 もう一つの不安は、サービスの低下です。サービスの低下には、今までよりもサービスの範囲が狭くなるというのと、無料が有料になったりして同じサービスを受けても負担が重くなるということがあります。月額1万5千円以上の年金を受けている方は、年金から保険料を天引きされ、サービスの一割負担となります。低所得者はたいへんです。自自公の軽減策も選挙めあての一時的措置に過ぎません。
 また、福祉制度が保険制度に変わったため、保険料を払わない方にはペナルティがかけられます。払えるけれども払いたくないという方はともかく、生活保護を受けず自立してギリギリの生活をしていて払いたくても払えないという方が、全額自己負担、納めなければ償還払いを迫られます。保険料も払えないのに、全額自己負担の償還払いなど出来るわけがありません。
 このような危惧は考えればたくさんありますが、2ヶ月後には実施というところまで来ています。だから、今までやってきた福祉サービスをできるだけ低下させないようにするため、あらゆる所にきちんと手を打たせていくことが大事になっています。

 「おとセン」と苦情相談室

 高齢者施策はそれぞれの自治体で特徴がありますが、板橋区は早くから老人福祉施策の推進に力をそそいできた自治体の一つです。その特徴は何といっても「おとしより保健福祉センター」にありました。略しておとセンと言っています。
 おとセンは医師、看護婦、言語療法士、ケースワーカー、保健婦、介護福祉士などの専門スタッフをおき、訪問看護婦や登録ヘルパーを派遣して、老人の保健・福祉・医療サービスを総合的に行ってきました。今は各地域にある在宅介護支援センターのセンターという役割をしています。4月から介護保険の実施で、区はヘルパーの派遣事業をやらなくなりますから、おとセンの登録ヘルパーも講習を受けて二級、三級のヘルパー資格をとり、サービス業者に振り分けられていきます。それで、おとセンの機能は大きく変わります。
 今まではヘルパーを受ける利用者から、例えばヘルパーがダメだとか、ヘルパーに直接言えない苦情や相談がおとセンにきて、医者などを含むケアカンファレンスの協議会で解決してきました。これからは業者がヘルパーを派遣するわけで、利用者は苦情が出しにくくなります。窓口をおいても、どのように解決するかというのが問題です。あっちに行きなさいこっちに行きなさいとたらいまわしにならないか、苦情や相談を持ちかけてきた方が納得いくような政策を取れるのか、ということになります。
 そこで、板橋区はおとセンに昨年の10月から介護保険苦情・相談室を設けました。この相談室が利用者の代理人として、サービス業者への指導も含めて、問題を解決するわけです。厚生省は今ごろになって、福祉オンブズマンを言い出していますが、板橋区ではすでにこの相談室で始めています。
 今のところ、介護申請の窓口は介護支援センター、健康福祉センター、福祉事務所などです。新聞で見たのですが、松本市では町会や民生委員など千人以上の人が地域で介護保険制度を紹介したり、介護保険の相談を受けたりするのを市全体で取り組んだと言うのです。その点で板橋区は追いついていませんが、地域の中で、身近に住んでいる方に聞けば、介護保険について教えてもらえるというのは必要なことだと思います。

 北欧の高齢者福祉

 私は97年に、福祉が進んでいると言われるスウェーデン、デンマークを個人視察しました。向こうは家族についての考え方が違い、子どもが18歳になると自立させようとするので、一人暮らしや夫婦だけの世帯が普通になっています。ところが、1988年に特別養護老人ホームを作るのをやめ、その代わりにグループホームを推進したり、一般住宅の中に高齢者住宅を8%か入れなければ建築許可を降ろさないという建築法を作っていました。(デンマーク・ファールム市)
 また、高齢者が虚弱体質になると、倒れる前にヘルパーと保健婦がペアで訪問します。身体の機能はどれくらいか、段差など住宅の状況はどうかチェックして、身体に合わせた住宅の改造をプラニングします。そして、本人がそれにOKを出すと、予防策として住宅を改造すると言うのです。日本の場合は、倒れてから、動けなくなった方に対して、住宅改造の補助金を出すという対応策です。発想が全く違うわけです。
 デンマークの担当者は、私たちもかつては寝たきりの人にどう対応するかということを考えたが、今ではどうやったら寝たきりの人をつくらないようにするかを考えている、と言っていました。予防対策として、住宅問題、医療機関の診察問題が重要だということでした。
 さらに、デンマークでは定年を過ぎた高齢者のボランティアをものすごく組織化しており、高齢者のボランティア組織が国会に対して提言できるようになっています。日本の場合は、ボランティアに行政の行き届かないところを補ってもらうという形です。
 介護保険の創設に当たって、予防対策をどう立てるかということと、利用者側に立った提言を国の施策にどう位置づけるかという点が、とても重要だと思います。利用者が主体だという考え方が確立されて初めて、この制度が本当の意味の選択制になるのではないかと思います。
 そういう意味で、今の介護保険制度は良いスタートをきれませんでした。移行期間も法律ができてからわずか二年でとても短く、急カーブをきった上に、政治家による政治的な目先の対応策にふりまわされるという最悪の状態でのスタートでした。それでも始まるわけですから、これを良くしていくために、私のような地方議員は地方議員の目から見て、介護を受けている方は受けている立場で、もっと多くの声を出す必要があります。
 今までは措置されているということで、無料の見返りとして口封じされる面がありました。しかし、これからは保険料を払わされますから、良質の介護を受ける権利があるわけです。保険料と引き替えに良質の介護を提供されなければ、何のために保険料を払っているのかということになります。どんどん声を上げて、介護制度をもっと良いものに変えさせなければなりません。そうして、誰もが人間らしい生をまっとうできる社会にしていく必要があります。
                         (談・文責編集部)