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『日本の進路』地方議員版5号
「原発はノー」住民の意思を忠実に実行
新潟県巻町長 笹口孝明
今日に至る経過
巻町では原発問題が数十年来の課題になっていました。
佐藤前町長は原発について、1期目は「慎重」そして2期目は「凍結」と公約して当選しましたす。ところが94年3期目になって「推進」という形で立候補しました。選挙結果は佐藤さんが当選しました。しかし、「凍結」と「反対」を主張した他の二人の候補者の得票数を合わせると、佐藤さんの票よりも上回っていました。佐藤さんは原発問題で果たして住民の信任を得られたと言えるか疑問でした。
原発問題は町の将来、一人一人の将来、さらには子どもや孫にとって極めて重大な問題です。
そこで住民投票をやって貰いたいと私たちは要望したわけです。自分たちの将来は自分たちで決めようと「巻原発・住民投票を実行する会」が結成されました。原発問題は住民の重大問題であるから、住民の意見を尊重し、住民の意見を聞くために住民投票をやって欲しいと要求しました。町がやらない以上、私たちが自らやろうと自主管理の住民投票を行ったわけです。有権者の45%の方が投票し、その95%の方が反対という結果がでました。直後に行われた町議会選挙では原発反対の方が多数を占め議席が逆転しました。ところが議会工作があって結局推進派の方が多数になったわけです。
しかし、住民投票条例は推進派の1人が間違い投票をするというハプニングもあり、運良く成立しました。
佐藤前町長は、住民投票条例と原発建設予定町有地の売却は関係ないんだという姿勢を崩さず、町有地を東北電力に売る可能性が出てきました。そこで町長リコール運動を展開し勝利しました。結果的にその運動を進めてきた仲間の中から私が立候補し、町長に選ばれたという経緯があります。
住民の意思は原発建設反対
私の選挙公約は、第一が住民投票を実行すること、第二はその結果を最大限尊重すること、第三は町民一人一人が大事にされる町政を実現すること、この三つでした。公約に従って住民投票を96年の8月4日に実施しました。
住民投票の結果は投票率88.29%、原発建設反対が60.9%(12,478票)、賛成が38.6%(7,904票)でした。町民ははっきりと原発反対を選択しました。
住民投票の結果に基づいて電源立地課を廃止するなど原発推進の諸政策をなくしました。そして、今年8月に原発建設予定町有地を民意尊重派に売却したわけです。マスコミは反対派と言っていますが、民意尊重派です。
そういうわけで二つの公約を実践しました。もう一つの公約、住民一人一人が大切にされる町政ということでは、出来るだけ情報公開する。具体的にはまちづくり懇談会とかテーマ別懇談会とか住民の声を吸い上げるシステム作りを行いました。非常に遅れていた役場庁舎内の女性職員の地位向上の問題など成果があったと思いますが、達成半ばです。
変化した町民の意識
巻町に原発はありませんが、それに対する色々の思惑があって、やはり原発問題を口にするのはタブー視されている状態でした。西蒲原郡の選挙は「西蒲選挙」と呼ばれ有名です。飲ませ食わせ、買収、地縁・血縁、義理人情を絡ませる。そういう「西蒲選挙」の中でも、巻町は特に目立った町だったわけです。マスコミが原発問題について取材しようとしてもなかなか取材に応じてくれない状況がありました。自主管理の住民投票では、昼間は投票に行きづらくてマスクをしたりとか夜になってから行くとか、あるいはご主人は勤務先である会社の関係から投票しづらくて、両親と奥さんだけが投票するというようなこともありました。
それが8月4日に行われた住民投票では大きく変わりました。マスコミの皆さんのお話ですと10人のうち8人は取材に応じてくれるという状況に変わってきました。自主管理の住民投票、町議会選挙、町長リコール、そういったプロセスの中で、住民自身が自分たちの意見を明確に示さなければと変わってきました。原発反対は自分だけじゃない、多くの味方がいる、自分の意見は少数派ではないんだ、ということが分かってきたわけです。
東海村の臨界事故などで正しさ確信
原発建設が予定されている自治体は人口が段々減っていくような過疎地が多いと思います。巻町は段々人口が増えている地域なんです。西蒲原の郡都と言われ西蒲原の中心都市であり、新潟市の通勤圏でベッドタウン化も徐々に進んでいます。自然と調和した町です。そういう意味で原発を作っていかないと局面を打開できない町ではないわけです。町長選挙で「原発推進」というと落選するパターンがずっと続いてきたんです。その背景にはこのような町の成り立ちと変化があります。
基本的な意識として、原発は困る、要らないと考えている多くの町民がいます。それが基本的にあって、チェルノブイリの事故が起きたり阪神大震災があったり東海村の臨界事故があった。やはり自分の考えは間違いじゃなかったんだ。そういう事件を契機に自分の考えが変わったんじゃなくて、自分の考えは間違っていなかったと確信を深めていったと思います。
住民投票の結果を尊重する人が町長をやりませんと「原発はいらない」という町民が示した結論を保障できません。そういう思いを強くして再度立候補を決意しました。町有地を民意尊重派の方に売却したことによって、かなり原発建設は難しくなったと思います。
地方分権時代ということで地方分権一括法が成立しましたが、国と地方は対等だなんていいながら地方自治体が持っている町有地を強制収用する可能性ががないわけじゃない。 住民投票という形で、示された巻町住民の最高意志決定をなし崩しにしようとしているのが、国のエネルギー政策であり、電力会社であり、議会関係者の一部の方です。巻町は推進派の方が議会で多数を占めているわけです。原発問題は終わったんだから、これから国や県とのパイプを太くしていこうとか、町長選では争点ぼかしが行われる可能性があります。巻町はこれまで補助金を貰うのに困ったことはなかったんですが、そういった架空のイメージ作りなどが予想されます。
推進派が町長の椅子に座るようなことになったら、議会でも多数派ですから、町有地が東北電力に売られるかもしれません。
この4年間で住民投票をやり、電源立地課を廃止し、建設予定地の町有地を民意尊重派に売却しました。この成果を守らなければなりません。
世界の原発事情も大きく変わりつつあり、国も電力会社も原発建設に手が出せないと言う状況にするうえで、今後の4年間という時間の経過はかなりのウェイトを占めるのじゃないかと思います。
私は企業出身ですから企業経営のノウハウそういうものを生かしながら、前回の町民へのアピールで訴えたように、町民の意思にあくまで忠実に、なおかつ町民の中の弱者の方々に優しい町政の実現めざして頑張ろうと思います。
(文責・編集部)
(資料1)巻原発問題の経緯
1965年ころ〜土地ブローカーが「保養地造成」「観光施設建設」などの触れ込みで用地の買収を始める
69年 4月 「新潟日報」のスク一プで町民が巻原発計画を知る
70年10月 「原発反対決議」をしている巻町漁協が東北電力の第一次海象調査に同意する
71年 5月 東北電力が新潟県に対して原発建設ヘの協力を正式に申し入れる
77年12月 巻町議会が「原発誘致」を決議する
80年12月 巻町、間瀬両漁協が漁業補償交渉(39億6千万円)に合意し、「原発反対決議」をしていた巻町漁協はれを取り下げる
86年 4月 チェルノブイリ原発事故
8月 佐藤莞爾「原発慎重」を公約して町長に初当選
90年 8月 佐藤町長「原発凍結」を公約して再選
91年 8月 二つの原発推進団体がー本化し「巻原子力懇談会」を結成
93年10月 佐藤町長がフランスヘ原発視察旅行
94年 8月 佐藤町長、「原発推進」を唱えて三選
10月 巻町議会がフランスヘ原発視察旅行
「巻原発・住民投票を実行する会」発足
11月 「住民投票で巻原発をとめる連絡会」結成
12月 高速増殖炉「もんじゅ」事故
95年 1月 阪神・淡路大震災
「実行する会」が自主管理の住民投票を実施
2月 町有地売却のための臨時町議会が流会
4月 町会議員選挙
6月 住民投票条例可決
10月 同条例の改変を可決
12月 「実行する会」と「連絡会」が町長リコールの署名を提出
佐藤町長辞職
96年 1月 「実行する会」の笹口孝明氏が町長に当選
8月 住民投票を実施
97年 4月 巻町役場にあった電源立地課が廃止される
9月 条例制定の公約を破った坂下志議員がリコールされ解職
99年 4月 町議会議員選挙原発推進派多数派に
8月 笹口町長計画予定地の原子炉炉心部建設予定町有地を「実行する会」に売却。原発建設は事実上困難になる
(資料2)巻町民へのメッセージ
巻町民のみなさんへ
本日、巻原発の建設について、町民の賛否を問う「住民投票」を、平成8年8月4目に実施することを告示致しました。
巻原発が建致されるか否かは、巻町にとって、また、町民にとって、きわめて重大なことであり、「住民投票」は、町民のみなさん、一人ひとりに賛否の意思表示の場を提供し、住民の意思を明らかにし、民意をもって、民主的な行政を実現する為に実施するものであります。
1.「住民投票の意義」について
地方自治にあって、きわめて重大な判断を必要 とする場合、主権者であります町民自らの判断を仰ぐことは当然であり、町民総意で将来の道を選択する必要があります。
2.「町民選択」について
町民のみなさんは、巻原発の問題について十分な情報を得て、知識を養い、勉強してまいりました。また、27年間という長い時間をかけて、考えてきております。
熟慮の結果、一人ひとりが原発建設に関し、十 分な判断力がそなわっていると考えられます。従いまして、町民のみなさんは、適確な判断をされると確信しております。
3.「住民投栗の結果」について主権者であります町民自らが、十分な判断力を 持って示されました結論は、絶対といっていいほどの効力があります。
賛成多数であれば建設の方向に向かい、反対多数であれば町有地を売却せず、建設は不可能 になることは当然であります。
主権者自らの判断が下された以上、今後の行政にあっては町長、議会もまた、その結論を重く受け止め、その意思に従っていかなければなりません。
以上、「住民投票」についての考え方を申し述べてまいりましたが、町の方向を決めるとても大切な「住民投票」であります。
巻町民のみなさん。
必ず、住民投票に出かけて一票を投じて下さい。巻町の将来は、巻町民、みんなで決めて下さい。
平成8年7月25日(住民投票告示日)
巻町長 笹口孝明