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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版4号

 

周辺事態法への協力を拒否するために



  政府は7月、「周辺事態法(自治体・民間の協力)解説(案)」を発表した。
 周辺事態法第9条は、次の三項目からなる。
 (A)政府は自治体首長に「協力を求める」ことができる。
 (B)政府は民間と自治体首長に「協力を依頼する」ことができる。
 (C)協力による損失は保障する。
 以下、解説を検討してみよう。
 

  1.自治体に対する協力の求め
 

 (A)の協力は、首長が法令に基づいて持っている権限の行使を求めるもので、例として次のような権限があげられている。

 イ.自衛隊や米軍の艦船が自治体の管理する港湾に入港する場合、首長が港湾施設の使用を許可する権限(港湾法に基づく条例)
 ロ.自衛隊や米軍の飛行機が自治体の管理する空港に離着陸する場合、首長が港湾施設の使用を許可する権限(航空法に基づく条例)
 ハ.国が燃料貯蔵所を新設する場合、首長が危険物貯蔵所の設置を許可する権限(消防法)
 ニ.米軍、自衛隊、避難民の傷病者の救急搬送(消防法)
 なお、自衛隊による火薬庫の設置は通産大臣の権限であり、米軍・自衛隊の車両は車両制限令の適用除外だから、これらは政府が勝手にやると述べている。

 これらについて、「協力を拒否できるのか」と問うて、「権限を適切に行使することが法的に期待される」、「許可を行う義務が生じるということではない」、「正当な理由があれば拒否できる」、「正当な理由にあたるか否かは、その権限を定めた法令に照らして判断される」と答えている。
 さらに、「協力拒否に制裁措置がとられるのか」と問うて、「罰則等は設けていない」、「法令に基づく対応がなされる限り、制裁的措置がとられることはありえない」と答えている。ただし、「協力拒否が他の法令に違反する場合、国が停止・変更命令を出せる規定があれば、この規定による措置がとられる」と述べて、政府が首長の措置をくつがえせるようにしている。
 自治体の反発を緩和しようとして、義務ではなく制裁措置もないかのように述べているが、「法令に基づく限り」という条件つきである。事実上は義務となり、拒否すれば関係のない国庫補助金を認めないという制裁措置がとることが予想される。
 

  2.民間、自治体に対する協力の依頼
 

 (B)の協力は、民間業者や民間医療機関などに対する依頼である。自治体に対しても「権限の行使」以外のこと、例えば自治体がバス事業や病院事業を営んでいる場合には、協力依頼の対象となる。

 民間に対する協力依頼の例として、次のようなことがあげられている。
 イ.人員、食料品、医薬品、武器、弾薬、傷病者などの輸送(日本の領域内だけでなく公海上の輸送も含まれる)
 ロ.米軍、自衛隊の廃棄燃料、医療関連廃棄物の処理
 ハ.米軍、自衛隊、避難民の傷病者の民間病院受け入れ
 ニ.民間企業が持っている燃料、通信機器、事務機器などの物品の一時的貸与や売却、あるいは倉庫や土地の一時的貸与
 ハ.港湾・空港の使用許可を得ている船会社や航空会社に対する使用変更の要求

 自治体に対する協力依頼の例は次のとおり。
 イ.人員や物資などの輸送(バス事業を営んでいる場合など)
 ロ.米軍、自衛隊、避難民に対する給水や新たな給水管の敷設
 ハ.米軍、自衛隊、避難民の傷病者の公立病院受け入れ
 ニ.自治体が持っている通信機器、事務機器などの物品、未使用の土地や建物の一時的貸付
 ホ.教育委員会が管理する体育館、公民館などの施設の目的外使用の許可

 これらについても、「協力を拒否できるのか」と問うて、「できる限り協力してくれることを期待しているが、何ら協力義務は発生しない」、「協力依頼された側が自らの判断に従って対応する」、「制裁措置がとられることはない」と答えている。民間も自治体も協力依頼を拒否できるということである。
 しかし、そうは言っても、強力な政府の圧力に抗して、民間や自治体が拒否を貫くことができるものか。例えば、政府が路線開設などの許認可権を持っているため、航空会社が拒否するのは困難で、実際には半強制的なものとなろう。
 

  3.どうすれば協力を拒否できるか
 

 「協力の求め」も「協力の依頼」も、理論上は協力拒否も可能であるかのようになっているが、実際には容易なことではない。今日でも、マスコミが北朝鮮に対する敵意に満ちたヒステリックな世論を煽っていることを考えると、実際に米軍が日本周辺で軍事行動を起こした場合に、どんな世論が意図的につくられるかは想像に難くない。そんな状況になってから、米軍の戦争への協力を拒否することはさらに困難となろう。
 では、どうすればよいのか。
 第1に、多くの自治体が、すでに平和都市宣言や非核自治体宣言をしている。そして、日本にはまだ平和憲法がある。
 第2に、多くの国民は、周辺事態法が日本の平和と安全のためだなどとは信じておらず、アメリカの国益のための戦争に協力させられることだと感じている。
 第3に、ほとんどの自治体が不安を感じており、できるならば協力したくないというのが本音であろう。
 第4に、政府による周辺事態法解説では、「協力の依頼」については「何ら協力義務は発生しない」と明確に述べている。「協力の求め」についても、あくまで「法令に基づく対応」をうたい、「法令の枠を超えた対応を求めるものではない」と明言している。さらに「港湾法及び条例に基づき、許可権限を適切に行使することが期待される」と述べていることからも、法令には条例も含まれる。
 従って、国民がまだ冷静な判断ができるこの時点で、地方議会は平和都市宣言や非核自治体宣言、あるいは平和憲法の精神に基づいて、港湾や空港の平和利用、燃料の貯蔵所、公営のバスや病院、水道の給水、自治体の物品や土地・建物、体育館や公民館等々の平和利用、あるいは平和条項などを盛り込んで、条例を改正したり新たに制定するべきではなかろうか。
 そうした条例をつくっておけば、首長も条例に基づく適切な対応の結果、その意に反して米軍への協力を強いられることに歯止めがかけられる。また、条例を改正したり制定する過程の中で、自治体や議会、地域住民の中に戦争への協力を拒否する姿勢が形成され、戦争協力をあおる世論を押しとどめる力となる。
 政府の解説は米軍への協力について、事実上の強制を意図しながら、自治体や国民の反発を恐れて、タテマエとしては強制でないと言い張っている。それは政府の弱さ、自信のなさの表れでもある。タテマエを盾にして、それぞれの自治体を自主的な平和の拠点にしていくことが求められている。

資料−周辺事態法(自治体・民間の協力)解説(案)