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『日本の進路』地方議員版19号(2003年5月発行)

第27次地方制度調査会

「基礎的自治体」と「地域自治組織」に再編

地方自治を踏みにじる「中間報告」

地方議員版編集部


 4月30日、第27次地方制度調査会の「今後の地方自治制度のあり方についての中間報告」(以降「中間報告」)が明らかになった。(資料要旨参照)この「中間報告」は5月6日に首相に報告され、11月に最終報告としてまとめられる予定である。
 この「中間報告」では全国の市町村を一定の権限と課税権など財源を保障された「基礎的自治体」とその下位に位置する事務作業を受け持ち課税権など全くない「地域自治組織」にふるいにかけることになる。
 「基礎的自治体は住民に最も身近な総合的な行政主体として、国や都道府県との適切な役割分担の下に、自立性の高い行政主体となることが必要であり、これにふさわしい十分な権限と財政基盤を有し、高度化する行政事務に的確に対処できる職員集団を有する必要がある。」また、「住民自治を強化するために、「地域自治組織」を「基礎的自治体」の判断に応じて設置することができる方策を検討する」として「地域自治組織」が組織される。
 この「地域自治組織」は2つのタイプに分けられる。(1)「行政区的なタイプ」は「基礎的自治体」の組織の一部として事務を分掌する。機関としては長と諮問機関を置き長は「基礎的自治体」の選任で諮問機関は公選による選出を「可能とすることも検討」とされ事務局をおくことができる、(2)「特別公共団体とするタイプ」は法人格を有する。当該地域の共同的な事務を処理する。「基礎的自治体」の補助機関の地位を兼ねる。この設置にあたっては都道府県知事が関与する。議決機関は公選とするが長は「基礎的自治体」の選任とすることを中心に検討。事務局を置くことができるがその職員は「基礎的自治体」からの派遣または兼務を原則とする。臨時職員を採用できる。財源は当該「基礎的自治体」からの移転財源。課税権と地方債の発行権は認めない。地方交付税は「基礎的自治体」に算定し交付される。地方自治組織が移転財源に見合う事務以外の事務を行う場合は住民から何らかの負担を求めることができる。としている。

 さらなる合併推進と強化される知事の権限

 「基礎的自治体」の構築に向けて「合併推進法」として、合併特例法が期限切れとなる、2005年3月31日以降は新しい法律を作り、さらに合併を促すとしている。「合併の障害を除去する特例」を法的に保障するとしている。
 「都道府県知事は小規模な市町村を対象として、当該市町村を単位とする地域自治組織を設置し、包括的な『基礎的自治体』を形成すべきことを勧告できる」
 また、合併協議が整わなかった市町村では「地域自治組織」となることを都道府県に自ら申請できる。都道府県知事は申請があった場合関係市町村の意見を聴き、当該都道府県議会の議決を経て同組織になる決定をしうる。

 道州制も視野に

 現行の地方自治法は都道府県の自らの発議による合併は想定していない。「中間報告」では都道府県の発議で「合併する途を開くべき」としている。また「道州制」は「国の出先機関の性格を有しない、公選の首長と議会を擁する地方公共団体を設ける制度」と位置づけ「道州制の導入に際しては、一定の国の地方支分部局の機能を道州に移譲することが前提となるべきであり、まず地方支分部局の管轄区域の見直し・統合等について当面の課題として取り組むべきである。また、都道府県合併等により、道州に移行する条件が整った団体を先行的に道州に移行させることもあり得る」としている。

 全国町村の訴えを真っ向から否定

 昨年第27次地方制度調査会・西尾勝副会長は合併しなかった町村は人口規模に応じて権限を縮小するいわゆる「西尾私案」を発表し、全国の町村から猛反発を受けた。
 2月25日に全国町村会と同議会議長会は結束して「自治確立総決起大会」を開催。そして下記決議を採択して政府への要請行動を行った。地方の立法と行政機関がその垣根を越えて存亡の危機に際し、手を携えて国に異議申し立てを行ったのである。それだけ切実な要求である。
 「中間報告」はこの全国町村の要求を真っ向から否定するものである。全国の市町村をその能力、規模で「基礎的自治体」と「地域自治組織」とに再編するということは、現在の横並びの市町村を上下関係に置き換えることであり、合併せずに生き残った町村は常に都道府県知事や「基礎的自治体」の「関与」を受け続けることになる。
 確かに全国町村会は「地域自治組織」を各市町村のもとに創設を提唱していた。しかし、内容はあくまで「住民自治を充足させる」ためであり「中間報告」のそれとは全く正反対のものである。「中間報告」のいう「地域自治組織」には地域住民による長の公選制もなく、財源保障もない。そこにあるのは市町村の自治権を剥奪された「自治組織」とは名ばかりの事務執行・住民管理システムでしかない。

 地方自治の存亡の危機、広範に連携を

 いま、人口規模の小さい市町村や財源に乏しい市町村は自治法が保障した自治体としての地位が奪い去られようとしている。
 統一地方選では神奈川県平塚市や大阪府高石市ではいずれも合併反対の市長候補が合併推進派の現職を破り当選し「衝撃」を与えた。離島や山村だけでなく、都市部でも安易な「平成大合併」に批判を持つ市民が多いことを示している。
 今回の「中間報告」が提起している「地方制度」の改革は全国町村会の要望を踏みにじるだけでなくわが国の地方自治制度を根底から揺るがしている。まさに地方自治、存亡の危機である。
 多国籍化した大企業の論理・市場原理で中小商工業や障害者(児)・高齢者の福祉、医療・教育の切り捨てが進み、多くの人々が痛みを感じている。この痛みを感じている人々が広範に連携し闘うことが求められている。

自治確立総決起大会決議

 過疎化、少子高齢化が進行する中で、我々町村は、食料の供給、水資源の涵養など重要な国家的な役割を果たすとともに、景気の低迷による税収の落ち込みや借入金の増大など厳しい財政状況下にあっても、住民福祉の向上、地域社会の発展に懸命の努力を重ねてきている。
 このような町村の実態を直視し、困難な環境の中でも、創意と工夫によって独立した自治体として、引き続き重責を担おうとしている町村については、その自主性を尊重し、町村自治確立に向けた支援のための行財政措置を講じるべきである。
 国土の多様性を考え、農山村の多面的価値を守るためにも多様な自治体が共存しあえる地方自治制度を構築すべきであり、そのことが地域の自主性を尊重して個性豊かな地域社会の実現を目指すとする地方分権推進の理念にも合致するものと考える。
 よって、下記事項について国に強く要請する。

                     記

一、合併の強制や、人口が一定規模に満たない町村の権限を制限・縮小したり、他の自治体へ編入 することは、絶対に行わないこと。
一、税源移譲等により、町村税財源の充実確保をはかるとともに、地方交付税の持つ財政調整機能、 財源保障機能を絶対堅持し、必要な総額を確保すること。
 以上決議する。
   平成15年2月25日            全国町村議会議長会・全国町村会