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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版12号(2001年8月発行)

小泉改革と地方自治

小泉構造改革の焦点

元参議院議員 竹田四郎


 小泉内閣の経済財政諮問会議の基本方針が6月20日、政府・与党政策懇談会で了承された。その基本は市場原理主義・競争原理(強い者勝ち)に基づいて、民間主導の経済を目指すものになっている。『聖域なき構造改革』のバイブルともいうべきものだとしている。
 大略7項目に分かれている。当面の課題として、(1)不良債権の処理、(2)国債発行30兆円以下、(3)公共投資予算の縮減、道路特定財源等の見直し、(4)老人医療費の伸びの抑制、(5)補助金、地方交付税の再検討、(6)雇用機会の創出、雇用の流動化、(7)特殊法人など公的機関の民営化、などである。

 不良債権処理はスタートしている

 小泉『構造改革』の重点項目もそのつどそのつどかわっており、また具体的内容が不明確なので、真の狙いがどこにあるのか判然としない。バブル崩壊後の『失われた十年』、無策無為の長い不況で沈滞してにっちもさっちもいかなくなった日本経済。国民の支持を失った森前内閣から引き継いだ企業の不良債権処理は、日米首脳会談をはじめ国際諸会議でも公約となっている。首相の声は当初とくらべ小さくなり、柳沢金融相も当初の措置範囲をかなり縮小したが、日本政府の国際信用にかけて、目に見える形で実行せざるを得ない。
 金融機関のもつ不良債権額がいくらなのか、計算の仕方や期間によっていろいろな推計数字がでているが、00/3月期、問題債権額、約151兆円、うち要注意債権額117兆円、不良債権額34兆円、破綻懸念先債権額21兆円、実質破綻先、(破綻先債権総額13兆円)と金融庁は発表している。01/3月期の全国銀行協会発表ではリスク管理債権額30兆円となっている。これらの数字は不況の進展や担保物件価格の下落があればその数字はさらに巨大化する。
 処理の方式は債権放棄による直接償却であり、銀行のバランスシートからカットする。債権放棄をした銀行に対して、その額に応じた法人税は無税となる。貸出先企業が再建、再生が可能かどうかの審査が行われ、可能な場合銀行は企業に対し、債権を放棄する、あるいは企業の一部を切り離すことにより再生できると見込まれるときは、再生期待部分には債権放棄をする。それ以外のものは倒産整理対象となる。もちろん債権放棄を受けた企業も再建計画に基づいて徹底的なリストラがおこなわれる。長年取引関係にあった部品、下請企業に対しても、企業内労働者にも過酷な条件が強要されよう。これにたいして通常行われてきた間接償却は事前に債務者区分に応じて税引後の利益から貸倒引当金を積み立てて不良債権に対応する。有税償却の税金は倒産の法的処理が終了した後で返還される。
現在不良債権が多い業種は、建設、不動産、流通の三業種で、全体の5割を占めるといわれている。注目された熊谷組、フジタ、飛島建設、長谷工、ハザマなど準大手、中堅ゼネコンはこの一年各メーンバンクから債権放棄をうけ、身軽になって業界で安値受注の過当競争に走り、他のまじめ業者を悩ましている。銀行との関係がうまくいっているところは債権放棄(徳政令)の恩恵をうけ、問題あるところはつぶされる。中小企業が圧倒的につぶされる対象にされる。旧来の公共事業が減額される建設業、民間消費が伸びない流通業はすでに金融機関の不良債務整理の方針で、倒産が進んでおり、リストラによる完全失業者数も増加している。朝日新聞6月6日号によると東京三菱銀行は不良債権処理の『聖なる旗』のもと、ゼロ金利で調達した資金をかつて低金利、長期の融資をおしつけた企業にたいし、今回新しく厳しい条件に変更を求め、受け入れないときは債務者区分を格下げするなどの債権処理をしてあまりにもひどいと評判になり、政府筋はこれが他行に影響しないよう警告した。結果的には大企業は経営基盤を固め、市場支配をつよめ、中小企業は『構造改革』の大波の底に沈没する構図になる。犠牲を強要された被害者に対する救いの手となるセーフティネットは全然見えていない。失業者は100万人の規模で増加するとの民間シンクタンクの計算も出ている。激変によるストレスで精神異常をきたし、自殺をする者、犯罪に走る者が多発し、社会秩序はびん乱する可能性を高める。これに対して政府は530万人の雇用を今後5年間にわたって創出するといっているが、具体的方策は何ら示されず、早急な実現は危ぶまれている。『骨太の方針』を造った竹中平蔵経財相は「基本は自助努力で構造改革を乗り切るべきだ」として、塩川財務相の「きめこまかい雇用保障」とは異なり、気乗り薄である。

国際資本の餌食

 『骨太の方針』の中で、首脳会談や国際会議で『日本からは世界同時不況を起こさない』と国際公約にまでなり、注目を集めているのは、金融機関の不良債権処理対策である。世界経済とくに米国経済が急落している状態で、日本政府の対応は急がれている。今年中、9月中間決算ころまでには処理の実績を世界に示さざるを得ないだろう。2年間で約12兆円の処理額は、大手行だけで、その他の金融機関は含まれない。しかも大手行は引当金や証券売却益や業務利益でカバーできるもので、大手行の存立を脅かすものではない。柳沢金融相の構想も尻すぼみになってきた。こんなに小規模不徹底で国際的な競争に太刀打ちできる力を持った銀行になるかどうかは疑わしい。
 小泉は『構造改革』とほえにほえたが、日米首脳会談でブッシュ米大統額が覗かせたのは違った面であった。規制緩和・競争政策、財政・金融、直接投資、貿易の四分野での高官協議の場を設定するとともに、大統領は不良債権処理促進のために、外国からの直接投資の必要性を強調した。米企業の中には「不良債権処理をとおして日本企業をはじめ日本の資産を低価格で買収して、日本進出を果たす好機が到来した」との認識が強く、最近の報道からは米官民から不良債権処理の専門家を送り込んで、徹底化を図ろうとする動き、あるいはヘッジファンドなどのM&A(吸収・合併)の動きが活発になったという。日本長期信用銀行の再生した新生銀行を買収したリップルウッドは、ここ3、4、5月と続けて、ナイルス部品(日産系)、日本コロンビア、宮崎のシーガイアを買収している。不良債権処理が完了するころには、日本企業の相当部分に外国資本が入ってくることが予想される。日本のための『構造改革』ではなくて、国際金融資本に奉仕するための改革であり、激痛であったことが明らかになるのもそう遠いことではあるまい。

IT化は東京集中を激化する

 小泉政権の経済再生の基本戦略はIT化である。Aクラスビルの空室率が東京は0.8%だが、大阪は6.0%で適正水準の5%を上回っている。近畿の4月の完全失業率は6.6%と全国平均を超えている。本社機能などの東京シフトが起こっているという。関西系大手商社が本社機能を東京に移してから久しいが、最近も金融ホールディングスUFJが名目の本社は大阪市だが、人員の殆どは東京。関経連調査でも関西事務所を閉鎖したものが回答1847社の内11%あった。IT関連にこの傾向が強い。他の経済圏についても同様な傾向が見られるという。IT化の落とし穴の一つかも知れない。
 その他の改革については特殊法人にしても、地方交付税、道路特定財源にしてもバリアが高くてお題目におわってしまいそう。医療、福祉については保険料、自己負担額がおおくなり、弱者が改革の犠牲になりそうである。証券関係税や法人税は下がっても、消費税率は大幅に引き上げられるだろう。改革の必要性は認められるにしても、しっかりとしたセーフティネットの具体的方針を国民に明示して初めて改革は推し進められる。