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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年2月号

ホリエモン報道で隠されている真実

マスコミが沈黙する米国の圧力

京都大学教授 本山美彦


 ショッキングな話題を追い求める、貪欲なテレビのワイドショーは、昨年の晩秋から今年の一月十六日までは、姉歯建築士による耐震強度偽装設計問題一色で染め上げられていた。その報道ぶりは、どのような娯楽番組よりも面白く、視聴者は、大いに笑い、大いに怒り、大いに登場人物をけなしていた。
 しかし、次第に人々は、不安になりつつあった。生け贄が狼狽している様を、にやにやと見ていた視聴者は、もしかして自分が住んでいるマンションも危ないのではないかとの疑惑をもつようになり始めた。事実、マンションの売れ行きに赤信号がともった。不動産関係会社が動揺しだした。せっかく日本経済が長いトンネルを抜けるかも知れないとの淡い期待をもっていた経済界と政界は、この事件が日本経済に強烈な一撃を与えるのではないかとおびえるようになった。マンション市場は巨大なものであり、日本経済復興のシンボルである。そのように重要な市場が、耐震強度偽装設計に関するマスコミの大騒ぎ、国会喚問のワイドショー化によって、吹き飛んでしまう恐れが日々強くなっていた。
 タイミングを計ったかのように、今年の一月十六日、ライブドアと堀江貴文社長の自宅に検察による強制捜査が入った。例によって例のごとく、マスコミは新しい獲物に一斉に飛びつき、テレビは長時間のワイドショーを組んだ。報道は過熱状態を呈することになった。その反動で、耐震強度偽装設計問題はかすみ、テレビへの登場回数が激減した。結果的に人々のマンション不安の蔓延は阻止された。ホリエモン逮捕による経済的打撃は小さい。いずれ崩壊することがあきらかであったITバブルを、少し早めに生じさせただけのことであり、人々がホリエモン問題の背後にある黒い影に気付かなければ、バブル状態に入りつつあった株式市場の過熱を冷やす効果がある。経済界と政界は、大きな毒を小さな毒で制することができたのである。そうしたことがたくまれたのかどうかは、不明である。よしんばたくらみがあったとしても、真相は永久に歴史の闇に葬り去られるであろう。しかし、結果的には絶妙のタイミングであった。
 人々がホリエモン問題の背後にある黒い影に気付かなければと、いま、私は言ったが、ホリエモン問題のマスコミの取り上げ方のいかがわしさに、私たちは一刻も早く気付くべきである。昨年九月十一日の衆院総選挙で、ホリエモンを時代の革命家として称賛していたテレビの評論家たちは、一転して、ホリエモンのもつ、いかがわしさを、口々にはやし立てるという節操のなさを示している。しかし、それが問題なのではない。評論家諸氏は、ことの真相を懸命に隠そうとしている。本当に彼らの骨柄は卑しい。
 彼らは、株式分割と株式交換自体は合法であるという、まさにこの一点において、権力の意向を代弁することに腐心しているのである。それは、かつて、ニッポン放送問題で、大量の同社株を時間外取引で取得したホリエモンの行動は合法であると擁護した精神と寸分変わらないものである。
 法に違反していなければ合法的行為として許されるという姿勢ほど唾棄すべき嫌らしい論理はない。人倫にもとる法があれば、その法こそが廃棄されなければならないものであるし、悪法の乱用を制限する判例を積み上げるべきである。そうしたことを語らずに、悪法も法なりという姿勢から、世の中がよくなることは絶対にない。もし、仇討ちによる殺人が認められる法が、ひょんなきっかけから成立してしまったら、法に則って殺人を冒す合法的人間が出てくる前に、社会はあわてて法を廃棄する行動にでなければならないはずである。それが成熟した市民社会の掟である。法よりも人倫を高い次元に置くことが社会の神髄である。
 株式交換とは、現金を使わずに、株式の時価総額の大きさを生かして、買収したい相手先企業の株と交換することである。つまり、株式が現金と同じなのである。買収をあくどくやるためには、粉飾決算など平気で行う、買収をつぎからつぎへと成功させるライブドアのような企業株は、実態がなんであれ、マスコミにはやされて高騰する。高騰するから人々はその企業株に群がる。他者を買収しようとせず、コツコツと地道に仕事をし、社員に手厚く報いる企業は、純利益が小さいといって、証券アナリストたちが低い評価を下し、その評価がその企業の株価を下げ、買収を命とするライブドアのような会社に乗っ取られてしまう。株式とは、その企業の社会的価値に共感する人々によってもたれるべきものである。しかし、ホリエモン現象は、株はただ金儲けのために売買されるだけである。それは、地道に社会に奉仕しようとする心を人々から奪う。
 株式分割にいたっては詐欺である。株式分割とは、たとえば、百分割すれば、新株は百分の一に価格が下がるはずのものである。ところが、新株が印刷されるまでの間、まだ出回っていないはずの新株が架空で取引される。その途中に、例えば、「近鉄を買収する意向がある」などの話題を作りさえすれば、架空株は暴騰し、実際に新株が発行された後は、株価が下がるが、それでも百分の一にならず、それよりもかなり上位の数値を示す。結果的に株式の時価総額(発行株式価格の総額)が大きくなり、さらに次の買収ができる。ホリエモンにはそのさい、新株を貸し出したとの疑惑がある。高騰した架空新株が新株の現実の出回りによって、値が下がるのであるが、株式を借りて、それを空売りすれば逆に儲かる。底値で実際に株式を買い、それを借りた人に返却すればいいのである。こともあろうに、ホリエモンは自社株をそうした手口の投機家に貸し出したのではないのかという疑惑である。こうした詐欺である錬金術師を、小泉規制緩和改革の申し子であると自民党幹部は豪語したものである。
 人々が気付くべきことは、姉歯事件にせよ、ホリエモン事件にせよ、直接のきっかけは米国の圧力によって、強制的に作成された悪法を根拠としているということである。
 一九九八年に建築基準法の改定があった。この改定は、米国からの圧力によって行われたものである。多くの日本人は、一九九五年の阪神淡路大震災の経験に照らして、建築基準が強化されたのだと思っていた。真実は逆であった。建築基準は米国なみに甘いものに変えられてしまった。一九九九年、それまでは行政側の建築主事にしかできなかった構造検査などの一連の建築検査業務が民間に開放されることになった。建築場所を管轄する行政による全国一律の基準、一律の検査料金であった検査業務に競争原理が導入された。
 そして、同じく、一九九九年十月、株式交換制度が米国の要求で成立し、二〇〇一年四月、会社分割が可能となった。会社が切り売りされるという制度がこれも米国の圧力で創設された。そして、今年、日本にいる米国の子会社が米国本社の株式を使って日本企業の買収が可能になる。日本が米国に切り売りされる「法」が続々と成立している。目覚めよ日本人!

※本山美彦氏の「株式交換に関する米国の圧力」・月刊『日本の進路』2004年5月号を参照して下さい。