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平成15年10月22日
内閣総理大臣様
内閣官房長官様
防衛庁長官様
外務大臣様
元防衛庁教育訓練局長 新潟県加茂市長
小池清彦

自衛隊のイラク派遣を行わないことを求める要望書


1 イラク特措法は、形式的には成立いたしましたが、憲法違反の法律であります。

2 イラク特措法第2条第3項は、「戦闘行為」を「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。」と定義しております。そして政府は、「国際的な武力紛争」とは、「国又は国に準ずるものの間の武力紛争」であって、「国に準ずるもの」とは、せいぜいで交戦団体であると説明しておられるのであります。しかし、「交戦団体」であり得るためには、相手方がこれを承認することが必要ですから、「交戦団体」というものは、めったに存在するものではありません。

3 従って、イラク特措法においては、国家間の武力紛争における戦闘行為のみが戦闘行為と定義されているのであります。即ちイラク特措法においては、正規軍の戦闘行為のみが戦闘行為なのであって、不正規軍との戦闘行為即ちゲリラ戦は、戦闘行為ではないのであります。これは、戦時国際法上の「戦闘行為」の概念とは全く異なるものであり、イラク特措法は、戦時国際法にも違反する法律であります。

4 このように、イラク特措法では、不正規軍とのゲリラ戦の戦場であるイラク全土が非戦闘地域なのであって、イラク全土が自衛隊を派遣できる地域となっているのであります。

5 本年7月23日の党首討論において、民主党の菅代表の「イラクのどこが非戦闘地域なのか言って下さい。」との質問に対し、総理は「私に分かるわけがないじゃないですか。」と答弁されました。しかし、これは完全にごまかして答弁されたものであって、イラク特措法によれば、「イラク全土が非戦闘地域であります。」というのが正確な答弁であったはずであります。

6 現代の武力紛争即ち戦争は、ほとんどが不正規軍とのゲリラ戦であります。従って、イラク特措法の論理に従えば、自衛隊を世界のほとんど全ての戦場に派遣することが可能となるのであります。

7 ゲリラ戦の戦場に派遣された武装した部隊である自衛隊は、不正規軍であるゲリラから攻撃を受ければ、これに応戦し、戦闘が行われ、武力が行使されることになります。即ちゲリラ戦の戦場への自衛隊の派遣は、不正規軍であるゲリラからの攻撃を受ければ、さらには攻撃を受けそうになれば、自ら武力を行使することを、その派遣の目的の一つにしているのであります。

8 一方、「「武力を行使する目的を持って、武装した部隊を海外へ派遣すること。」即ち「海外派兵」は、憲法第9条に違反する許されざる行為である。」というのがこれまでの日本国政府の一貫した憲法解釈であり、このことは現在も変わっておりません。しかるに前述のとおり、ゲリラ戦の戦場への自衛隊の派遣は、「武力を行使する目的を持って、武装した部隊を海外へ派遣すること」であり、明らかに海外派兵であります。従って、イラク特措法は、明確な憲法違反の法律であります。

9 このような憲法違反の法律に基づく、憲法違反の自衛隊イラク派遣は、厳に慎むべきであります。

10 本年5月1日のブッシュ大統領の戦闘終結宣言から10月20日までのわずか半年もたたない間のゲリラ戦における、米軍の死者は200人、英軍の死者は18人、その他の国の軍隊の死者は4人といわれております。負傷者の数は、その5倍近くにのぼるものと推定されます。これは、米英軍の攻撃が開始されてから米大統領の戦闘終結宣言までのイラク軍との戦闘期間中における米軍死者139人、英軍死者33人の合計を大きく上回るものであります。これらは、アメリカの民間団体が米国防総省、中央軍司令部及び英国防省の発表に基づき集計した結果をインターネットのホームページに掲げている数字であります。これは、イラク全土が、ベトナム戦争やチェチェン紛争と同様の泥沼化したゲリラ戦の状態になっていることを示しております。政府が陸上自衛隊の派遣を計画しておられるというイラク南部も、決して安全ではありません。イラク全土が不正規軍によるゲリラ戦の戦場なのであります。航空自衛隊の航空機の派遣を計画しておられるというバグダッド空港に至っては、ゲリラ戦の戦場の中心部であります。輸送機に鉄板を貼ったくらいで、飛行中のミサイル攻撃や駐機中のロケット攻撃を防げるものではありません。

11 日本国憲法の下で自衛隊法第52条(服務の本旨)には、「隊員は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、・・・事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを期するものとする。」とあります。ここには、自衛隊の使命は、「わが国の平和と独立を守る」ことだとはっきり明記してあるのであって、外国のゲリラ戦の戦場に赴くことだとは書いてないのであります。さらに自衛隊員は、「服務の宣誓」の中で、この条文に定めてあることに加えて、「日本国憲法を遵守」することを宣誓しておりますので、憲法違反の海外派兵に参加してはならないのであります。

12 重ねて申し上げますが、自衛隊員は、日本国憲法の下で祖国防衛のために自衛隊に入隊して来た人達であって、イラクを始め世界のゲリラ戦の戦場に赴くために入隊して来た人達ではありません。それなのに「国益」の二文字を以て、外国のゲリラ戦の戦場で、自衛隊員の命を危険にさらし、命を犠牲にすることを強いることは、憲法違反の行為であることはもとより、政府の契約違反行為であり、甚だしい人権侵害であります。国民一人ひとりの幸福を離れて真の「国益」はありません。

13 貴台は、理不尽なる海外派兵によって自己の崇高なる祖国防衛の志に全く反して、遠く異境のゲリラ戦場に派遣され、一つしかない生命を危険にさらされることに対する24万の自衛隊員とその家族の無念と悲痛な思いが全くお分かりにならないのでしょうか。

14 日本国政府は、アメリカを支援し、イラク復興のため諸外国に比して極めて多額のお金をお出しになるとのことであります。この要望書においては、お金を出されることについて、深く論ずることはいたしません。初回分として15億ドル(1,565億円)のお金をだすことは、その是非は別として、それだけで十分アメリカ政府を満足させるものであることを指摘するにとどめておきます。一方、人を出すということは我が国の存亡と国民の幸せに対し、極めて重大な好ましくない結果を生むのであります。フランス、ドイツ、ロシア、中国は、金も人も出しておりません。イスラム教国は、いずれも派兵しておりません。アジアで派兵しているのは韓国のみであり、この国は朝鮮戦争でアメリカに大きな恩義がある特別の国なのであります。この度のイラク戦争は、歴史的にみるならば、千年以上にわたるキリスト教徒とイスラム教徒の熾烈な戦いの延長との見方も成り立つのであります。そのような戦場に人まで派遣し、火中に飛び込む栗のような行動を取ることは、取り返しのつかない結果を生む外交、軍事上の大失策となるでありましょう。

15 平和憲法の下で、イラク派兵が強行されるならば、もはや、憲法の歯止めはなくなります。現在は、世界の戦場のほとんど全てが不正規軍とのゲリラ戦の戦場なのであります。かくて、世界の警察官としてのアメリカの行くところ自衛隊は世界のほとんどの戦場に派兵されることになります。その時自衛隊に入隊しようとする人は激減し、徴兵制を敷かざるを得なくなりましょう。その結果再び日本人は、海外の戦場で命を落とすことになるのであります。先の大戦で散華された英霊が最も望まれなかった事態となるのであります。また、現在の自衛隊における明るく民主的な気風も、やがて荒れすさんだものに変って行くことを危惧いたします。

16 憲法第9条が存在しているがゆえに、日本国民は、朝鮮戦争にも、ベトナム戦争にも、その他多くの戦争に参加することから免れることができました。今後とも、憲法第9条の持つ意義を十分にわきまえて、海外派兵を慎むべきであります。日本は、海外派兵中心の防衛政策から祖国防衛中心の防衛政策に転換すべきであります。そのことは、「剣は磨くべし、されど用うべからず。」という古今の兵法の鉄則、日本武士道の本義にも合致することであります。みだりに兵を動かさず、自衛隊員の命を大切にして、24万の自衛隊員とその家族をいつくしみ、渾身の勇を振るってアメリカの圧力から自衛隊員とその家族を守ってこそ、真の為政者であり、大和もののふであると確信いたします。冷酷なる為政者として日本歴史に名をとどめるようなことは、決してなさらぬよう心からお願いするものであります。

敷島の大和心を人問はばイラク派兵はせじと答へよ

7月8日 イラク特措法案を廃案とすることを求める要望書