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平成15年7月8日
衆議院議員各位 様
参議院議員各位 様
各大臣 様
元防衛庁教育訓練局長
新潟県加茂市長
小池清彦
1 イラク全土は、常にロケット弾攻撃、自爆テロ、仕掛爆弾攻撃等の危険が存在する地域であり、戦闘行為が行われている地域であります。このことは、米国による戦闘終結宣言によって左右されるものではありません。
2 「戦闘行為」を「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」と定義し、1に掲げる攻撃が「戦闘行為」に当たらないとするイラク特措法の考え方は詭弁であり、強弁であります。
3 イラクは、全土において、前線も後方もありません。イラク全土がいまだ戦場なのであります。
4 このような地域へ自衛隊を派遣することは、明確な海外派兵であり、明らかに憲法第9条に違反する行為であります。イラク特措法が定めるような海外派兵さえも、憲法第9条の下で許されるとするならば、憲法第9条の下でできないことは、ほとんど何もないということになります。
5 憲法第9条は、もともとアメリカによって押し付けられたものであることは事実でありますが、しかし、同時に憲法第9条は、終戦後今日までの58年間、日本及び日本国民が国際武力紛争に巻き込まれることを固く防止して来たのであります。また、憲法第9条の存在によって、日本人は世界中の人々から平和愛好国民として敬愛され、今日の地位を築くことができたのであります。さきの大戦において、祖国のため、戦火に散華された英霊が望まれたことは、祖国日本が再び国際武力紛争に巻き込まれることがないようにとのことであり、日本国民が再び戦場で斃れることのないようにということであったはずであります。私達は今一度大戦中の苦い経験をかみしめ、昭和20年8月15日の原点に立ち還るべきであります。
6 イラク派兵がひと度行われるならば、平和愛好国民としての日本人に対する世界の特別の敬愛は消滅し、日本は普通の国となって、多くの災いが降りかかって来ることになりましょう。
7 イラク国民は、決して日本国自衛隊の派遣を求めてはおりません。中東諸国の国民も自衛隊の派遣を求めてはおりません。自衛隊は招かれざる客なのであります。
8 自衛隊の本務は、祖国日本の防衛であります。自衛隊員は、我が国の領土が侵略された場合には、命をかけて国を守る決意で入隊し、訓練に励んでいる人達でありますが、イラクで命を危険にさらすことを決意して入隊して来た人達ではないのであります。「国から給料を貰っているのだから、イラクへでもどこへでも行って命を落とせ」とか、「事に臨んでは危険をかえりみない職業だから、どこへでも行って命を落とせ」ということにはならないのであります。自衛隊員の募集ポスターやパンフレットには、「希望に満ちた立派な職場だ」とのみ書いてあるのであって、「イラクへ行って生命を危険にさらせ」とは書いてないのであります。
9 私は市町村長の一人として、毎年自衛隊入隊者激励会に出席し、防衛庁・自衛隊の先輩の一人として、「自衛隊はすばらしい職場です。どうかこの職場ですばらしい青春を過ごし、意義ある人生を送って下さい。」と祝福し、励まして参りました。もし、イラク特措法が成立して、私が激励した人達が、招かれざる客として、イラクに派遣されて、万一生命を落とすようなことになったら、私は今度は自衛隊入隊者激励会において、何と申し上げたらよいのでしょうか。私は言葉を知りません。
10 自衛隊は、現在は不況下のため隊員の募集難は解消しておりますが、つい先日までは、著しい募集難の中にありました。今後の少子化によって、自衛隊は近い将来再び大きな募集難の時代に入ることになると予想されます。このたびの自衛隊のイラク派遣は、戦場への派遣でありますので、犠牲者が出る可能性は、大きなものがあります。もし、イラクで犠牲者が出た場合、自衛隊は職場としての魅力を失い、大募集難が到来することになりましょう。隊員が集まらなくなった自衛隊は、その根幹が崩壊するのであります。その時は、徴兵制が取りざたされることになり、ファシズムが台頭する危険さえ出て参ります。
11 イラクで犠牲者が出た場合、自衛隊員の不満は大きなものとなり、国内に大きな衝撃を与え、極めて好ましくない事態が起こってくることを危惧するものであります。
12 「兵は妄りに動かすべからず」。古今の兵法の鉄則であります。兵を動かすことを好む者は、いずれ、手痛い打撃を受けるのであります。それは、やがて国民を不幸に陥れることになるのであります。安易に兵を動かしてはなりません。アメリカに気兼ねして、イラク国民と中東諸国民が欲せぬ派兵をしてはなりません。
13 防衛政策の中核である防衛力整備をおろそかにして、海外派兵のことばかり考えることは、大きな誤りであります。国土が侵略されたとき、現在の自衛隊の防衛力は、独力でどの程度まで祖国を防衛することができるのですか。極めて不十分な防衛力ではありませんか。この程度の防衛努力しかできない国が、イラク派兵に狂奔するなど、「生兵法大怪我のもと」であります。今こそ日本は、海外派兵重視の防衛政策から防衛力整備重視の防衛政策に転換すべき時であります。名刀は鍛えぬいて、されどしっかりと鞘の中に収めておくのが剣の道であり、兵法の極意であります。
14 以上に鑑み、21世紀の日本及び日本国民の安泰を祈念し、イラク特措法は廃案とされるよう、強く要望するものであります。