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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年11月号

国の役割と責任を明確にした展望ある米政策を

JA全中食料農業対策部水田農業対策課長 馬場 利彦


 小泉内閣の「痛みを伴う構造改革」は農業分野にも及んでいる。「規制緩和と市場原理」「株式会社の農業参入」などの検討とともに、日本農業の柱である米政策の改革が議論されている。米改革について、JA全中の馬場利彦・水田農業対策課長にお話を伺った。文責編集部。

全国の水田の四割が減反

 日本人の主食である米の需要が低下し、米が余りだしたため、生産調整(減反)が始まって三十年が経過しています。現在、全国の水田面積の約四割(三八%)も生産調整しています。生産者の間では、「減反しているのに米価が下がりっぱなしだ」「これ以上の減反は限界だ」「減反をやっていない人もいて不公平だ」という声が渦巻いています。米需要が減少しているわけですから、生産調整しなければならないというのは生産者も分かっている。それにしても限界感や不公平感があり、今のままの仕組みでは続けられない。したがって、米改革が必要となっています。

 国の責任放棄は容認できない

 そういう中で食糧庁が昨年十一月「生産調整に関する研究会」をつくり、議論が始まりました。六月に研究会の「中間とりまとめ」が出されました。それは、米づくりのあるべき姿を描き、それをめざして進もう。生産者が展望をもち自らの課題として生産調整をやれるような仕組み、そのための条件整備はいったい何なのかが議論されてきました。
 研究会は十一月下旬に米改革を取りまとめることになっています。それを前に先日、食糧庁から「改革案」なるものが出されました。四つの案がありますが、生産調整における国による配分を「即座に廃止」「三年後に廃止」等、どれも「国による配分の廃止」が前面に出ています。つまり、これまで国の責任で進められてきた生産調整から国が手を引くという姿勢です。
 六月の中間取りまとめの範囲を逸脱していると考えています。中間取りまとめでは、需給調整を国の支援のもとにやっていく、その条件整備とは何か、具体的に検討するという内容でした。国が生産調整から撤退する、手を引くというのでは、生産現場が混乱するだけです。現場からは反発の声が相当上がっています。
 今年五月に農水省が発表した「食と農の再生プラン」には、最終的には米政策の大改革、政治決着と書いてあります。「国による配分廃止」が政府の考える米改革、構造改革ということならば、到底容認できません。国としてこういう支援策をやるから生産者・生産者団体も頑張ってくれとやるべきで、はじめに配分廃止ありきでは、現場に混乱と不安を与えるだけです。
 国は「生産者の主体的な取り組みを支えるのが新農業基本法だ。需給調整、つまり生産調整は生産者や生産団体がやりなさい。それを国は支援する」という考えです。しかし、新農業基本法の中には、「不測の事態を含めて将来にわたって、国民の食料を安定供給を図る、それが国の役割」と書いてあります。生産調整から国が手を引くなどと、生産現場を混乱させ、さらに生産過剰になれば米価はさらに下落し、担い手は確保できなくなり、結果として安定供給の確保ができなくなります。安定供給の確保のために、国の役割と責任を果たすべきです。
 とくに現在の農家は兼業農家が圧倒的に多い。ですから、われわれとしての米改革の提案をしています。米の安定供給を確保するためには、計画生産を基礎に、地域ごとに水田農業の展望ある将来像を描きつつ、担い手をつくる。農地の集積や集落営農など地域で集団的取り組み進めていくと提案しています。そのための条件をつくろと考えています。
 食糧庁案には、担い手の経営安定化対策などの具体策が書かれていないし、集落営農についても具体的にどう進めていくのかが出されていません。「国による配分廃止」などという考え方は撤回して、計画生産を前提にした現場が希望をもてる仕組みと具体策を打ち出すことが、本当の改革です。
 現場では「減反しているのに、なぜミニマム・アクセス米(=MA米、※注)を大量に輸入するのか」という不満があります。大幅な生産調整をしているのに、七十万トン以上のMA米が入ってくることは大きな矛盾です。
 現在行われているWTO(世界貿易機関)農業交渉で、MA米の削減が日本の一つの課題になっています。同時にMA米は国の管理ですから国内需要や国内価格や影響を与えないよう国の管理を徹底させるべきです。現在は、加工用(米粉、あられ、せんべいなど)にMA米が使われています。米をはじめ農作物は豊作・凶作があり、どの国にも豊凶対策があります。ですから、豊作になった時の余剰米を加工用を使うよう提案しています。加工用にMA米ではなく国内米を使うべきだと提案しています。「加工等備蓄機構」という農産物の豊作対策の制度が必要です。それがMA米対策にもなり、豊作対策にもなります。

 食料の安定供給のために

 私たち生産者・生産団体は、食品産業や消費者とともに、より一層安全・安心、安定供給を基礎に自給率向上に取り組みたいと思っています。農業を取り巻く厳しい環境の中で、どうやって担い手をつくるのか、水田を活用して、機能を維持して、米だけでなくて米以外の麦や大豆や飼料作物など国内自給率をどう向上させるか、そういう努力をしていきたい。そのためには、どうしても国の支えが必要です。それが将来にわたっての基本的食料の安定供給の確保につながるわけです。そのためにも主食である米政策の改革の行方は大事です。「国による配分廃止」などと生産者の混乱と不安をあおるやり方は、水田の機能を破壊し、結局、食料の安定供給は崩壊させるものです。消費者、国民のみなさんに、ご理解いただきたいと思います。(文責編集部)

(※注)ミニマム・アクセス米
 世界貿易のルール(GATT=WTOの前身)によって、一九九五年から毎年少しずつ量を増やしながら、国内の米が余っていても義務的に輸入されている。最近の輸入量は年間約七十〜八十万トン。