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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年10月号

対米追随外交から自主外交に

日朝正常化こそ日本国民の利益

大妻女子大教授  前田康博


平壌宣言の誠実な実行を

 小泉訪朝の発表は唐突感が否めなかった。それは首相就任早々、韓国や中国の猛反発を無視して靖国神社に公式参拝をし、アジアに理解を示す立場の政治家でないことを皆知っていたからだ。むしろ米国に従順な首相による突然の訪朝は、米国の対朝鮮政策のお先棒かつぎだという見方もあった。しかし日朝関係が正常な方向に向かうだろうと訪朝そのものへの期待が高まった。
 結果として吉と出たか、凶と出たか。これはまだ読めないと思う。
 日朝首脳会談の将来を占うと、具体的に国交正常化交渉が再開されれば、再開そのものが一つの成果だとも言えるし、再開してもすぐに物別れ中断となれば、訪朝は失敗だったとなるのではないか。そういう意味でも交渉再開が注目されている。
 平壌共同宣言が出された。しかし日本では、拉致事件で死亡者が八人いるという衝撃が強く、平壌宣言の内容が十分に評価されていない。拉致事件について予想以上の回答があり、一国の指導者が謝罪した。また核ミサイル問題や不審工作船の問題なども予想以上の回答を朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)側が宣言の中に盛り込んできた。金正日総書記の意志として、日本側の懸案に対して真剣に答え、前向きな回答を寄せたことを高く評価している。
 日朝平壌宣言について、米国が「こんなことでは生ぬるい、容認しない」といったり、日本の保守勢力が「北朝鮮は信用ならん」などという意見は無視してよい。誠実で率直な交渉しか和解の道はないし、和解しか友好と善隣の関係は築けない。
 拉致問題の解決は重要だが、この問題で朝鮮に対する不信感を募らせる悪しき世論は危険だ。当分は感情的な高ぶりは消えないだろう。しかし、冷静に外交問題としてとらえれば、平壌宣言に盛り込まれた内容は高く評価できるし、拉致被害者とその家族に共感して憤りをもつ多くの国民も、冷静な目で平壌宣言を読み返す時期が来ると思う。
 平壌宣言は、植民地支配から一世紀近い不正常な関係、朝鮮敵視政策を続けてきた関係を改善する重要な一歩になりうる。しかし問題はこの宣言を誠実に実行できるかどうかにかかっている。

 米国の戦略と小泉訪朝

 戦後も日朝間は不正常な関係が続き、敵意と憎悪を増幅させてきた。一九六五年に日韓基本条約を結んだ際、朝鮮半島の北半分については白紙で、大韓民国との関係正常化に限定されていた。米国は韓国を唯一の合法政府と主張し、北朝鮮敵視を続けた。米国による朝鮮分断政策に日本は明らかに乗り、北朝鮮敵視に加担した。欧州諸国は分断政策に乗らなかったし、百八十ほどの国が南北朝鮮と国交を樹立した。日本は一時期をのぞき自民党の政権で、これらの指導者、首相が優柔不断だった。なによりも対米追随外交に終始して、日朝正常化という戦後最後の外交課題を先送りしてきた。拉致などという不幸な事件も敵対と憎悪が生み出した産物であり、日本が米国に追随し、日朝国交正常化をせずに過ごした責任は大きい。
 小泉訪朝から三日後、ホワイトハウスは米国の国家安保戦略(ブッシュ・ドクトリン)を発表した。この説明にあたった高官は、「イラクに次いで北朝鮮が自分たちの対象となっている」とはっきり言った。これは米国の世界戦略の大転換である。この内容は、(1)他の国に一切の追随を許さない米国の圧倒的な軍事力の維持、(2)先制攻撃ができる政策に転換、(3)同盟国や友好国に協調は求めるが、それが得られなくても単独で攻撃する、つまり国連など無視する、というもの。つまり国際社会における一切の協調的な平和維持のメカニズムに米国はとらわれない、まさに一国主義を明確に打ち出した。
 このような米国の国益と日本の国益は明らかに違う。日本が日米軍事同盟の枠内でアジアと交流したり、まして日朝交渉をしようとするならば、それはまったくの筋違いだ。日本は日本独自の歴史を踏まえた国益を第一にしなければならない。米国は何をするかわからない。別の言い方をすると、たとえ日朝が国交交渉をしている最中でも、米国は独自の判断によって平壌に爆弾を落とすという意志を鮮明にしたということだ。そんな米国と日本が一緒にアジア政策を進めるのは明らかに矛盾である。今回の小泉訪朝もしょせんは米国の手のひらの上で、米国の戦略を有利に展開させるお先棒かつぎだという見方は消えない。

 日朝正常化こそ日本国民の利益

 日本の国益から考えれば、朝鮮で戦争を起こさせてはならない。例えば米国が北朝鮮を丸裸にした上で壊滅する政策をとった場合、韓国も壊滅し、膨大な難民が日本に押し寄せ、日本経済も破綻してしまう。また、核戦争の可能性もある。これにはどんなことがあっても反対しなければならない。
 ニクソン政権下で国防長官だったキッシンジャーは、朝鮮の「クロス承認論」を国連で主張した。それはいま韓国は日米に国交がありながら、中国・ソ連とも国交をもっている。ロシアや中国から見ても、南北、二枚のカードがある。日本はアジアで唯一、カードが一枚しかない。米国は朝鮮と交戦国の関係であり、事情が違う。日本は一九四五年以前の過去を精算をすれば、米国よりずっと簡単に国交を回復できるし、南北朝鮮に二枚のカードを持って初めて、アジアでまあまあ一人前の外交ができる。
 今年は日中国交正常化三十周年。日中間には問題もあるが、友好関係は深まった。日中と同様に日朝間が心からの親善友好、永久の平和を誓うのにどれくらい時間がかかるのか。それは日本人の朝鮮に対する意識の変化にかかっている。しかし日本のマスメディアは善意よりも敵意をあおることで売ろうとしている。こういう低レベルのマスメディアが存在する限り、日朝関係を感性から理性にもっていく作業は難しい。
 日本人にはいまだにアジア蔑視がある。しかしいまや中国や韓国は経済、科学技術、あるいは貿易高や外貨の保有高でどんどん日本を追い越していく。携帯電話やパソコンも、日韓間の貿易高を中韓間の貿易高が追い越していく。それが日本にとってどれだけ深刻な問題か、日本人は自覚してない。
 日朝国交正常化は北朝鮮だけにメリットがあるという世論が多いが、とんでもない。米国に追随する国、過去の清算もできない国、北朝鮮と国交も持てない国は誰からも尊敬されません。ましてやアジアのリーダーとしての資格などない。日朝関係を正常化し、南北統一に日本が貢献しなければ、アジアの一員になれないし、アジア経済圏の中に日本は入っていけなくなる。
 また、日本で安全保障といえば日米安保をさし、金で軍事力を持つことと思いこんでいる。しかし真の国家安全保障は、他国から攻撃される可能性が少なくなるよう、世界から尊敬される国となること。
 日本は五兆円を超える世界第二位の軍事費を計上している。なぜ国家財政が困窮しているときに巨額の国防費が必要なのか。防衛白書には、北朝鮮の脅威に備える必要であるかのように書かれている。しかし日朝が和解、親善と進めば、膨大な税金を防衛につぎこむ理由はなくなる。北朝鮮を仮想敵としない、日本の敵対国をなくす、そのただ一点絞って行動するだけで、いかに国民にメリットが戻ってくるか。それは難しい論理ではない。対米追随外交から自主外交に転換し、日本国民の利益になる日朝国交正常化を実現すべきである。(文責編集部)