国民連合とは月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場集会案内出版物案内トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年9月号

近づく米軍のイラク攻撃

日米安保終了こそ
日本の平和と安全を守る道

広範な国民連合事務局長  加藤毅


 ブッシュ政権は、アメリカの新たな世界戦略、「悪の枢軸」論にそって、フセイン政権を転覆するため、イラク攻撃の準備を進めている。これに世界中から批判や反対の声があがっている。明確な支持を表明しているのは、イギリス国民の多くが「ブッシュのプードル犬(飼い犬)」と揶揄(やゆ)するブレア政権と、パレスチナ民衆の血にまみれたイスラエルのシャロン政権だけである。
 小泉政権は国民に明らかにしないまま、ブッシュ大統領にイラク攻撃への支持・協力を明言し、事実上の対米公約をした。ブッシュ政権に追随し国益を損なう小泉政権に、支配層の中にさえ不安が広がっている。
 わが国に対米従属国家の刻印を押し、自主的な選択を阻んでいる日米安保を終了させることが、日本と世界の平和に貢献する道である。


 ブッシュ政権の世界戦略

 ブッシュ大統領は今年一月二十九日、就任後初の一般教書演説を行い、イラク、イラン、朝鮮民主主義人民共和国を名指しで「悪の枢軸」と激しく非難し、「国家の安全を確保するために、必要なことを行う」と宣言した。これに先立ち、国防総省は一月九日、「核体制の見直し」を発表したが、その非公開部分では、イラク、イラン、朝鮮民主主義人民共和国に加えて、中国、ロシア、リビア、シリアを核兵器使用の対象国にあげていた。
 米外交の大御所的存在であるキッシンジャー氏は、ブッシュ演説に反発する欧州諸国を批判して次のように述べている。
 ――米国とその同盟諸国にとっての危険とは、大量破壊兵器を使用する意思を示したことがあり、米国ないし同盟諸国に対する敵意を公言したことがあり、そして国内制度上の制約を受けない政権が、大量破壊兵器を手に入れることである。欧州は「米国は軍事的手段にとらわれている」と批判するが、軍事的手段に代わる効果的な具体的選択肢はないではないか。深刻な試練に直面しているのは、むしろ欧州の指導者たちである――
 イギリスのブレア首相の外交顧問であるロバート・クーパー氏は、ブッシュ演説を理論化し、先走って新たな帝国主義を唱道している。
 クーパー氏は言う。文明国が遅れた国を啓蒙するという意味で、十九世紀の帝国主義的な植民地政策も必要性は大きかった。だから、イラクなどのテロ支援国家に欧米が軍事介入できる理論として新しい帝国主義を認めるべきだ。テロ支援国家が国際社会の脅威になった場合に、民主的国家がテロ支援国家を軍事制圧し、その国民に民主主義や人権主義を啓蒙する。それが新帝国主義だ、と。
 アメリカ主導のグローバリズムは、弱肉強食の市場原理主義で、世界的に貧富の格差を拡大した。特に「遅れた国」での貧困、飢餓、差別はすさまじく、さまざまなテロや民族間の対立を激化させ、ついにアメリカの中枢を直撃することになった。その根源にあるグローバリズム、貧困、飢餓、差別の解決をはかるのではなく、もっぱら軍事力で抑え込む。アメリカに逆らう国には核兵器使用も含めて軍事力の行使を辞さず、アメリカの世界支配秩序を維持しようとする。それが「悪の枢軸」論、ブッシュ政権の世界戦略といえよう。

 失敗に帰した中東和平工作

 この世界戦略にそったブッシュ政権の当面の攻撃目標は、大量破壊兵器所有の可能性があり、アフガニスタン武力侵攻に国家として明確に反対し、米国に「敵意を公言した」イラクである。今年に入って、ブッシュ政権の世界政治はイラク武力侵攻の準備を軸に展開されてきた、と言ってよいだろう。
 パウエル国務長官は二月十三日、議会でイラクのフセイン政権を転覆するためにあらゆる選択肢を検討中と証言した。国防総省が二十万人の兵力でクウェートから侵攻する案を検討中と報道され、アメリカ国内では五月軍事行動開始説も流れた。
 大規模な兵力を投入してイラクに軍事侵攻するためには、サウジアラビアなどアラブ穏健派諸国の基地が必要である。そこで、ブッシュ政権は三月にチェイニー副大統領をイギリスに派遣し、その後中東諸国を歴訪させて、中東和平、イラク包囲網の形成を企てた。
 しかし、ブッシュ政権の支持を受けるイスラエルのシャロン政権が、この機に乗じて二万人の兵力を投入して自治区を不法占領し、抵抗闘争の壊滅をはかってパレスチナ民衆を殺りくした。抵抗闘争が激化し、アラブ民衆は反イスラエル・反米感情を燃えあがらせた。足元が危うくなったアラブ穏健派諸国は三月二十八日のアラブ首脳会議でイラク攻撃反対を宣言した。
 チェイニーのイラク包囲網形成は失敗に終わり、それに続くパウエル国務長官による四月の中東歴訪、中東和平工作も失敗した。
 業を煮やしたブッシュ政権は六月、和平失敗の原因はパレスチナ自治政府のアラファト議長にあるとして、アラファト議長の退陣を条件に、パレスチナ暫定国家の創設を柱とする新たな中東和平方針を決定した。アラファト排除という身勝手な方針は中東諸国はもちろん、欧州諸国からも反発を受けた。シャロン政権による武力弾圧、パレスチナ民衆の抵抗闘争で流血の惨事はつづき、サウジアラビアを基地にするイラク侵攻のシナリオは困難になった。
 だが、パウエル国務長官は「必要な場合には単独で行動する」と述べている。ブッシュ政権は包囲網ができなくても、軍事行動を辞さないかまえだ。

 着実に進むイラク攻撃準備

 ブッシュ大統領は六月にウェストポイント陸軍士官学校で、七月にフォートドラム陸軍基地で「最大の防衛は攻撃だ」と演説し、対イラク先制攻撃を辞さない姿勢を示した。兵士たちは興奮して「サダムを倒せ」と歓声をあげた。
 国防総省が八月十五日に公表した二〇〇二年国防報告には、ブッシュ演説を受けて、テロ攻撃からアメリカを守るために「先制攻撃が必要だ」と盛り込まれた。また、「敵は米国があらゆる手段を用いることを知るべきだ」と、核兵器の使用も辞さない姿勢が示された。
 イラク攻撃に向けた軍事的準備も進んでいる。六月二十日、ラーソン国務次官は議会で、イラクへの軍事行動でエネルギー不安が広がるのに備え、日本やEU諸国は石油備蓄放出の準備が必要だと証言した。
 七月五日、米紙は、米軍がブッシュ大統領に報告したイラク攻撃の具体的な作戦計画を報道した。機密情報漏れに激怒したラムズフェルド国防長官は「リークした者は監獄に行くべきだ」と、国防総省職員の事情聴取を開始した。報道が正確だったのだろう。
 兵器産業界は、レーザー誘導爆弾、全地球測位システムを使った精密誘導爆弾、巡航ミサイル・トマホークなどの増産を急ピッチで進めている。
 在日米軍基地を利用した戦争準備も進んでいる。八月二十二日の毎日新聞によると、米陸軍は、米本土に保管中のタグボート、はしけ、舟艇約三十隻を、今後一年以内に横浜ノースドッグに輸送し保管すると発表した。イラク攻撃をにらんだ作戦行動の一環で、米軍は「今後の作戦行動の際、米本土から輸送するより、横浜から輸送するほうが短期間で輸送できる」と説明している。

 国際的孤立、米国内でも慎重論

 アフガニスタンへの武力侵攻では、イラクを除けばこれに公然と反対する国はなく、世界の主要国は不承不承でもこれに同調する姿勢を見せた。だが、イラク攻撃については、イスラエルとイギリスを除けばこれを公然と支持する国はない。
 イラク攻撃の出撃拠点となる中東諸国は、すでにふれたように、イラク攻撃反対を宣言した。この八月七日にも、サウジアラビアのサウド外相はあらためて、アメリカがイラク攻撃に踏み切った場合、サウジアラビアを出撃拠点として使用させないと言明した。サウジに代わる出撃拠点と目されているカタールのハマド外相は八月二十六日、イラク攻撃に反対する考えを示した。
 イギリスを除く欧州諸国もイラク攻撃に反対だ。ドイツのシュレーダー首相は八月に入って、「イラク攻撃にドイツは参加しない」とくりかえし表明し、湾岸戦争で日本と同じように多額の財政支援をした「小切手外交」からの絶縁も宣言した。これに不快感を表明したブッシュ大統領の親書についても、「非難される理由はない」と一蹴した。ドイツの世論調査では、国民の七〜九割がイラク攻撃に反対している。
 イギリスのブレア首相は、ブッシュ大統領と同じように、イラクに対して武力行使も辞さぬ強硬姿勢だが、その足元は大きく揺らいでいる。八月十二日の世論調査では、七八%がイギリスの参戦に反対し、五四%が「米国の飼い犬」というブレア首相批判は適切と答えた。与党・労働党の下院議員も三分の一がイラク攻撃反対の署名をしている。
 ロシアのプーチン大統領は今年二月、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」演説直後に、イラク攻撃反対を表明したが、八月二十二日、ロシア外務省第一次官が「イラク攻撃は受け入れられない」と、改めて反対の立場を明言した。中国の唐家セン外相は八月二十七日、イラクのサブリ外相と会談し、「イラク問題は国連の枠組み内で政治・外交手段を通じて解決すべきだ」と述べ、イラク攻撃反対を表明した。
 アメリカ国内では、イラク攻撃を基本的に支持しながらも、ブッシュ政権の強硬姿勢に不安を感じ、民主党を中心に「議会の承認が必要だ」との声が上がっている。米紙の今年八月の世論調査によれば、イラク攻撃支持は昨年十一月の七三%から五三%に減少した。そんな中で八月二十五日、ベーカー元国務長官が国際的孤立を恐れて、アメリカ単独でイラク攻撃をすべきでない、新たな国連決議を採択し、国際社会を巻き込んでフセイン政権を打倒すべきだと主張し、米国内の波紋をよんだ。


 イラク攻撃支援は対米公約

 ブッシュ政権のイラク攻撃計画は、国際社会で孤立し、また国内では昨年のテロ事件直後のような熱気はなく、足元を揺るがす経済(『日本の進路』八月号参照)などで容易ではない。だが、イラク自身を除けば軍事的に直接刃向かう国はなく、戦争準備は着々と進んでいる。ブッシュ大統領が決断すれば、いつでもイラク攻撃は始められるのである。
 ブッシュ大統領は、イラク攻撃の決定は必ずしも年内とは限らないとする一方で、必要と判断すれば予告せずに軍事行動に出ることも示唆している。さらに、「イラクの体制交代は世界の利益だ」と、フセイン政権打倒の意欲を表明している。内外の情勢を見ながら、決断の時期をうかがっていると言えよう。
 このような情勢の中で、日本はどのような選択をするのか。
 今年二月十八日、東京で日米首脳会談が開かれ、ブッシュ大統領は「われわれが関与するのはアフガニスタンだけではない。機会をとらえて行動を起こす」と述べた。明らかにイラク攻撃を示唆した発言ではあったが、イラク攻撃を明言したものではなかった。したがって、小泉首相の「テロとの戦いで日本は常に米国とともにある」との発言も、イラク攻撃への支持を示唆するものだが、国民はイラク攻撃への支持・協力を対米公約したものとは受け取らなかった。
 だが、日米外交当局が公表を伏せていただけで、この会談でブッシュ大統領は小泉首相に「我々はイラクを攻撃する。間違いなくやる」と明言していたのである。六月になって、日米外交筋の情報として、このことが明らかになった(六月九日、毎日新聞)。
 小泉首相の発言は、イラク攻撃を明言した大統領発言に応えるもので、イラク攻撃への支持・協力を対米公約したものと言えよう。少なくとも、アメリカ側は将来のイラク攻撃に対する日本の支持・協力を取りつけたと理解した。
 テロ特措法を拡大解釈して支援するのか、新たな法律を準備するのか。外務省は二月下旬、さっそく幹部協議を行い、ブッシュ政権がイラク攻撃に踏み切ればどんな対米支援ができるか、本格的な検討を開始した。
 このように、二月の日米首脳会議で、国民に明らかにせぬまま、イラク攻撃支持・協力の対米公約がなされていた。小泉政権に残されている選択の余地は、どんな具体的支援ができるかということだけである。

 広がる対米従属外交への不安

 小泉首相は、日中国交正常化三十周年に当たって九月に予定していた訪中を見送り、九・一一テロ一周年の追悼式典にあわせて訪米し、ブッシュ大統領と会談する。
 この公表に先立ち、小泉首相は橋本、中曽根、宮沢らの元首相を招いた八月八日の懇談で、中国が靖国神社を参拝するなと言うから訪中を見送ったことを明らかにした。元首相たちは言葉につまり、橋本氏は困惑の表情を見せたという。
 その席で、予想されるイラク攻撃も話題になった。中曽根氏は「日本も大変厳しい状況になる。米国にブレーキをかける必要があると思えば率直に言った方がいい」と述べ、宮沢氏も「イラク攻撃に大義はあるのか」と語り、アメリカに冷静な対応を求める意見が相次いだという。
 アジアの反発など一向にかまわず、ひたすらアメリカに歩調をあわせる小泉首相に、中曽根氏のような人物も含めて首相経験者たちは不安を感じたのであろう。
 八月二十四日、小泉首相が出席して、「対外関係タスクフォース」の会合が開かれた。岡本行夫内閣官房参与が座長で、北岡伸一・東大教授、小此木政夫・慶応教授、張富士夫・トヨタ自動車社長、西原正・防衛大学校長など六名を委員とし、外交政策について首相に助言する機関である。この会合でも同じような光景が見られた。
 委員側は「米国のイラク攻撃の可能性はかなりある」との見方で一致し、「どうして武力攻撃なのか」、「アラブ諸国の反応も厳しくなる」、「国民の理解を得ることは難しい」などの意見が相次いだ。特に、新たな法律をつくっての支援は困難だ、対米支援には慎重な検討が必要だとの意見が大勢を占めた。これに対し、小泉首相は「米国とよく話をしないといけない」と述べるにとどまった。
 かつて政治のトップにあって対米従属外交を推進してきた人物、あるいは日米安保堅持を主張している保守的な論客や財界人でさえ、アメリカのイラク攻撃に追随することに不安を抱いている。もっと地方や現場に近いところでは、保守層を含む広範な人々の中に、アジアに背を向けひたすらアメリカに追随する対米従属外交に不安や不満が広がっていることは想像に難くない。有事法制に反対あるいは慎重審議を求める自治体決議があいついだのは、その表れでもあろう。

 日米安保終了は全国民の課題

 年内か来年か、その時期は予測しがたいが、遠からずイラク攻撃が始まるというのが大方の見方である。ブッシュ政権がイラク攻撃を決断すれば、小泉首相がイラク攻撃への支持・協力を約束している以上、日本はイラク民衆を大量殺りくする大義なき戦争に巻き込まれざるを得ない。
 そうなれば、たとえ直接的ではないにしても、日本人の手はイラク民衆の血にまみれることになる。今はまだよいと言われるアラブ諸国・民衆の信頼を失い、テロのほこ先が日本にも向けられることになろう。アジア諸国・民衆は日本が行った侵略戦争を思い起こし、日本への不信を強め、アジアの共生はさらに遠いものとなろう。多額の戦費負担、原油確保の問題もふくめて、今でさえ深刻な日本経済は大きな打撃を受けることになろう。
 なぜ、そんな百害あって一利なしの選択、日本の国益を損なう選択を、嫌だと思いながらしなければならないのか。その根源は、対米従属外交を余儀なくさせている日米安保条約である。日米安保条約はブッシュ政権の軍事一辺倒の世界戦略、「悪の枢軸」論でいっそう危険なものとなっているのである。
 国民の暮らし、日本の平和と安全を守り、世界の平和に貢献しようとすれば、日米安保条約を終了させる以外に道はない。日米安保終了は、保守・革新の違いを超えた全国民の課題なのである。