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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年3月号

日本育英会は廃止 銀行ローンへ

高野ゆう子


 昨年暮の、小泉内閣閣議決定「特殊法人整理合理化計画案」のなかに、日本育英会の廃止がはいっていたことに気づいた人は少ない。
 育英会労組にいる人からの訴えで、奨学金制度が危機にいたっていることを知った。

 奨学金拡充はまやかし

 二〇〇一年は、国会でも非常に頻繁に奨学金問題がとりあげられた。例えば十月の衆議院予算委員会、十一月の参議院本会議では首相・文科相そろって「保護者の失職や倒産などの家計急変に対応」して、「無利子で貸与を行う緊急採用奨学金を用意」し、「希望者に貸与するのは十分可能」と大見得をきっていた。
 しかし、十二月十八日には臆面もなく肝心の育英会を潰す閣議決定をした。「拡充」とか「十分」といわれると、安心してひきさがってしまう野党の甘さもあきれたもので、肝心の無利子貸与は二〇〇二年度予算から一万六千人分も削ってしまった。総額は増えたけれども、それは「きぼう21プラン奨学金」と名づけられた有利子貸与分を増やした、ということなのだ。
 この奨学金は、「貸与額が自由に選べるし、審査もかなり緩い」という。例えば大学で三万円から十万円。無利子奨学金貸与額が、国公立で自宅外生活者に四万八千円一律貸与に比べると限度額は二倍以上となる。大学院博士課程になると最高額十三万円も借りることができる。
 しかし、返済条件は格段にきつくなってしまった。一般会計からの投入が年々減額し、二〇〇二年度は九十九億円(二〇〇一年度は千四十六億円)。これに対して財政融資資金、つまり郵便局からの借り入れをドンドンふやし、いまでは一般会計分の二倍を超す有様。加えて財投機関債という金融業からの融資を二〇〇一年度から百億円導入し、二〇〇二年度は一挙五百六十億円にして、これらの返還利率を容赦なく返還利率に跳ね返している。三%を上限にしているとはいえ、毎月変動する利率をならして、個人の返還率を決めるという金貸業を、すでに育英会ははじめている。最近はおおむね〇・七%だが、預ける場合の定期・定額預金に比べ、大変な高利ではないか。育英会内部でもこれは「絶望21プラン」と名づけて、自分の子どもがこの罠にはまらないようにといっているとか。私はこれを「棄望21プラン」と名づけたい。

 独立行政法人に移管されたら

 二年後の春には日本育英会は閉じられ、奨学金事業は新たに設立される独立行政法人に移管される。これと同時に、制度は変わり、奨学金の性格は全くかえられてしまう。
 (1)現行の無利子貸与は廃止。利率をあげる。(2)これまでの研究職・教職者に行っていた返還免除廃止。猶予は一切なし。(3)民間委託などにより厳しく取り立てる。―などの方向づけが既に行われている。
 独立法人として、一般会計からの繰り入れをなくし、民間からの寄付もないとすれば、あとは郵便局や銀行からの借り入れとならざるを得ない。利率はあがり、育英会のような猶予もなしに延滞金がドンドン加算され、取り立てが厳しくなれば、もう奨学制度とはいえなくなる。
 更に、石原行政担当相などは首相の本意を汲んで「育英奨学金は民間ローンを圧迫している」とまで発言しているのだから、そちらに誘導されることは明らかである。

 現実無視、消滅する奨学金制度

 寒風の中で、青年たちは交通遺児・がん遺児、さらに自殺遺児への援助募金を叫んでいる。理事の不祥事が発覚する以前から、公的な支援の薄いことに怒りをもっていたが、いまや、まったく公的支援など考えない事態になってしまった。
 育英会には「自己破産のために返還不能になった」と申告してくる例が確実に増え、一九九六年には八百人弱であったのに、二〇〇〇年度には三千八百人余りとなった。恐らく二〇〇一年は格段に加速しているに違いない。
 「二割も未回収がいる(非効率だ。温情はけしからん )」と改革派は攻撃するが、昨年度の未返還は無利子・有利子含めて約三百億円。七兆円を越すともいわれる不良債権、超巨額な公的資金投入を忘れての発言か、といいたい。育英会の返還率のよさは、要返還者の真面目な資質にもよるものだろうが、基本的には無利子・低利率で、失職その他の事情による猶予もゆるやかだからこそ、事情が好転すれば、また返済を始めるからではないかといわれる。
 一月遅れても延滞金を加算し、事情を配慮しない取り立てなど、市中金融業方式に投げ込まれた青年たちはどうなるのだろうか。
 担保とか、保証人とか、これまでには想像もできなかった障害やトラブルが噴出するのではないか。経済の低迷期にこそ、次世代をしっかり支えるという発想が必要だろう。
 いま、育英会労組を中心に「育英会の廃止に反対し、奨学金制度の拡充を求める署名」運動が行われている。是非、協力してあげてほしい。
〈連絡先〉日本育英会労組 電話/FAX 03(3269)6096