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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年1月号

日中国交回復30周年、21世紀の日中関係

神奈川県日中友好協会会長  久保 孝雄


 二〇〇二年は日中国交回復三十周年です。中国は急速に変化し、世界の中で政治的にも経済的にも存在感を増しています。しかし、日本は歴史認識で誤りを続けているだけでなく、変化・発展している中国の現実認識でも立ち遅れています。
 二十一世紀に日中新時代を切り開くには、過去の歴史認識と中国の現実認識を同時に深め、誤りをなくす努力をすることが緊急の課題です。

 「世界の工場」となった中国

 中国のGDPは八〇年代以降、平均一〇%という急成長を続け、二十年間で十六・五倍(実質六・五倍)となり、九八年には米、日、独、仏、英、伊に次いで世界七位になりました。八五年と九八年の輸出額を比べると、事務用機器千二百十四倍、通信機器百二十八倍、電器機械百二十五倍、機械製品全体で六十九倍になります。昨年は、家電などのハイテク製品十二品目中九品目で日本を上回り、鉄鋼、セメント、化学肥料などでも世界一の生産国になりました。世紀の交代とともに「世界の工場」は日本から中国に移りました。
 中国は世界の頭脳センターをめざす動きも強めています。国家レベルの高新技術産業開発区が全国に五十三カ所あり、省レベルも含めると百カ所以上になります。なかでも、北京市高新技術産業開発区は「中国のシリコンバレー」と呼ばれ、百平方キロの地域に七十の大学、二百三十の研究所、六千のハイテク企業、三十八万人の研究者・技術者を擁する世界屈指の研究開発地域です。IBM、マイクロソフトなど世界のハイテク企業も、ここに研究開発拠点を設けています。
 光が強ければ影も濃くなります。中国は国営企業改革、環境問題、人材問題、エネルギー・食料問題、内陸部との格差など、一歩誤れば深刻な社会亀裂を生む困難を抱えているのも事実です。しかし、中国政府はその困難を明確に意識して解決を図っています。食料問題はかなり解決しつつあり、西部大開発がこれから始まります。環境対策にGDPの一%を使うことも決めました。
 中国はこうした困難を抱えながらも、WTO加盟を「機会と挑戦」ととらえ、「十三億人経済の離陸」という前人未踏の大事業に不退転の決意で取り組んでおり、世界の経済地図を塗り替えつつあります。

 利点を生かさない日本

 「世界の工場」となった「昇龍・中国」とどうつきあうのか。これが二十一世紀日本の生存戦略にとって根本課題の一つです。
 世界銀行の報告書は、「中国のWTO加盟による最大利益国は日本」と分析しています。中国の市場がよりオープンになれば、日本は隣国という利点を生かして日中貿易を拡大できますし、日中経済が一体化の方向に進む可能性があるからです。
 そうなっていないのは、アメリカの意向を気にし、欧米崇拝・アジア蔑視にとらわれているからです。山峡ダムのタービンや新幹線問題のように、欧米企業がその間隙を突いて中国に展開しています。
 ケ小平氏が来日して日産座間工場を見学した時期に、中国政府は日本の自動車メーカーに「中国に来てください」と懇請しましたが、日本側は断りました。いま中国で爆発的に売れているサンタナという自動車は、元々は日産座間工場で作っていた車です。フォルクスワーゲンが日産から買い、上海工場で中国仕様にして作っているのです。日本は自分で判断できず、アメリカが動かないと動けないのかと、中国は見ています。
 日本政府はネギ、生シイタケ、畳表の輸入急増でセーフガードを暫定発動し、中国側は自動車、携帯電話、空調機に特別関税を課す対抗手段をとりました。その間に、欧米の自動車や携帯電話が入り込みました。

 台湾問題

 過去の歴史をゆがめる人たちは、中国脅威論や中国崩壊論を唱えて、現実についてもゆがんだ見方しかできません。中台危機論も現実を見ない中国脅威論の一環です。
 台湾と中国大陸の経済関係は、もう切っても切れない関係になっています。中国大陸で働いている台湾の人は百万人。以前は単身赴任が多かったのですが、今では家族ぐるみで移住しています。台湾から中国大陸への投資は約五百億ドルで日本の二倍近くあります。台湾資本が中国大陸で雇用している労働者の数も五百万人にのぼります。
 中国にとっても台湾は絶対に必要ですし、台湾にとっても中国なしには経済が成り立たない関係になっています。経済面から見れば中台一体化が急速に進んでいます。これを壊すようなことは、中国側も台湾側もしないし、できないと思います。
 日本は中国、台湾、ワシントンが何を言ったかと、外交上の言論戦に目を奪われて、中台危機だとすぐに殺気立ちます。もちろん、表面上の中台危機はこれからも起こると思います。アメリカが外交上の計算から中台危機を演出する可能性がありますし、李登輝の動きなど台湾の政治的動向で中国が硬化することがあるかもしれません。しかし、少なくとも経済面で見る限り、中台一体化を止めることができず、ますます強くなることは確かですから、中台危機は起こらないと思います。

 日中新時代の課題

 日本と中国は隣国で二千年来の交流があり、しかも、産業構造では日本の方が高度化していますから、相互補完の関係が成立しやすいという有利な面があります。しかし、歴史認識も含む中国への偏見、脱亜入欧論以来の欧米崇拝・アジア蔑視、外交的にはアメリカへの気兼ねによって、有利な面を生かせず、対中ビジネスに大きな影を落としています。
 何よりも日本には対中戦略、対アジア戦略がなく、アメリカの戦略の変数の一つに過ぎなくなっています。二十一世紀の日本と中国の経済関係はどうあるべきなのか、どうしたら共生の関係、相互補完の関係がつくれるのか、日本は自分の戦略を持つべきです。
 近代の日本は、中国に二千万人をこえる人的殺傷と千億ドルの物的損害を与えました。中国政府はこれに対して、「軍国主義者の責任で日本人民に責任はない」と国家賠償を放棄しました。日本はドイツがヨーロッパで行ったように、徹底して中国を支援し、揺るぎない信頼関係を築くべきです。そして、将来的には日中韓を軸にした「東アジア共同体」のようなものを展望していくべきだと思います。それがアジアと共に生きることであり、日中国交回復三十周年を迎える日中新時代の課題ではないかと思います。
 これからの日中関係を考える上で次の三点をしっかり自覚することが大事です。
 第一は、明治以来、日本はすべての面でアジアのナンバーワンでしたが、その時代は終わりました。いずれ中国が日本をしのぐ経済大国になることは明らかです。これを冷静に受け止め、日中共生の新たな関係を構築し直す必要があります。
 第二は、かつての米ソが対決し、中国が自力更生をめざしていた時代は、資金も技術も日本が頼みでした。しかし、今日の中国は改革開放で世界中と経済関係を深めており、日本はオンリーワンからワン・オブ・ゼムに変わりました。関係を強化するためには、日本の相応の努力が必要です。
 第三は、世界に責任を負う大国である日中両国が、不和・対立を先鋭化すれば、アジアと世界の秩序を根本から揺るがします。決してあってはならないことです。日中友好はアジアと世界の平和と安定に対する日中両国民の義務です。これは、百万の大軍で侵略し、二千万の中国人を殺傷し、自らも五十万の兵を失った「日中十五年戦争」の血であがなわれた教訓です。
        (文責・編集部)