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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2002年2月号
BSE 牛海綿状脳症
昨年九月、牛海綿状脳症(BSE)に感染した牛が発見されて以来、日本の畜産・酪農は危機に瀕している。昨年十月から、出荷される牛肉の全頭検査が実施されているが、消費は低迷を続け、枝肉価格は前年比三割から八割も低くなっている。これまでに感染がわかった三頭はいずれも搾乳を終えた乳牛(乳廃牛)だったため、乳廃牛の価格は特に下落。「感染牛を出したくない」との思惑から、と畜場で乳廃牛の受け入れを自粛する動きも広がっており、四万四千頭の乳廃牛が出荷できずに停滞しているといわれる。埼玉や熊本では乳廃牛が捨てられる「捨て牛」騒ぎも起きた。
BSE発生の影響は農業だけでなく、流通、食肉などの関連産業にも及んでいる。一月十五日には、食肉加工販売会社のサンミート(名古屋市)が、百二十四億円の負債(BSE倒産では最大)を抱えて経営破たんした。全国で焼き肉店の閉店・倒産も起きている。
そうした状況を打開しようと一月二十四日、東京で「畜産・酪農経営危機突破全国代表者集会」が開かれ、全国から畜産・酪農の生産者など千人が集まった。主催は全国農業協同組合中央会(JA全中)と全国農業者農政運動組織協議会(全国農政協)。集会では全国の畜産・酪農家から「すでに限界に近い危機的状況だ」、「一夜にして奈落の底へ突き落とされた」、「このままいけば半数の畜産農家がつぶれる」などと窮状が訴えられ、「国の責任を追及しながら、日本の畜産を継続させていく戦いだ。農水省に対する損害賠償を含めて、考えられる全てのことをやっていかなければならない」と闘う決意も出された。また、「農水省の危機管理のあまさ、発生後の不手際が問題を深刻化させた責任は大きい」、「責任はEUから受けていた警告を無視した国にある。国は責任を認め、国民に対してわびてほしい」などと、政府・農水省を批判する声も相次ぎ、「政府は全責任をもって、一刻も早く万全の対策と新たな畜産・酪農政策の確立をはかるべき」とする決議を採択した。
集会での生産者の発言(一部)と、会場で聞いた参加者の声を紹介する。
北海道JAべつかい
丹羽忠文氏(酪農)
北海道にとってBSEの影響は計り知れない。不安に押しつぶされそうになりながらも、懸命に頑張っているが、すでに限界に近い。
農水省の危機管理のあまさ、発生後の不手際が問題を深刻化させた責任は大きく、国の責任で徹底的な原因究明をしてほしい。BSE発生国から輸入された肉骨粉が国内でどのような流通経路をたどり、最終的な販売先になったか。徹底した捜査とともに、その情報についてただちに公開してほしい。
現在、全頭検査を実施しているにも関わらず、消費者はいまだ不安を抱えて消費の減退が続いている。生産者の不安も大きく、特に酪農家はBSE患畜を出すと経営破たんにつながる不安がある。
価格暴落で大きな所得の減少となっている。管内のあるJAの試算では、一戸あたり二百万円程度の所得の減少となるとの報告もある。今後の酪農・畜産農家の経営安定を十分対処し、新たな経営安定対策を構築してほしい。
群馬県JA館林市
木村一成氏(酪農)
昨年十一月、私どもの会員の中からBSEの認定を受けてしまった。降ってわいたような災難の中で、あんなにまじめな酪農家が、重大事件でも起こしたような騒ぎの中に巻き込まれ、悲惨極まりない状況だ。一方では、畜産物の価格が暴落を来たし、いまだかつてない危機の中に直面している。これは、EUから再三にわたり警告を受けていた国が、それを無視した結果だ。国は私たちに、責任を認め、国民に対してわびてほしい。
私どもも沈みかけているが、必死にもがいて立ち直ろうとしている。一日も早く、安心して継続的な畜産・酪農経営に専念できる日が来ることを祈る。
富山県JAあおば
舘幸男氏(酪農)
四十七年間、牛飼い一筋にやってきた。当初は米を作りながら乳を搾っていたが、転作が取り入れられ、水田を牧草畑にして今日まで続けてきた。搾乳を終えて食べられていく牛を年間約四十頭出荷している。と畜場に通うたびに、「今日で酪農経営が終わりか」「明日は首をつらなければいけないか」という思いをしている。
この損失はすべて、原因者(国)が補てんすべきだ。国は今回の対策で巨額をかけたというが、私ども末端の農家には何の直接的な恩恵もない。BSE発生以来、約二百万円の損失をした。(発生前の)八月には枝肉で四百二十キロの牛が二十三万円だった。年末に同じく四百二十キロの牛を出荷したが、見舞金の二万円だけ。一頭出すごとに二十一万円の損害だ。これを直接補償されないならば、全国の同志と一緒に国会賠償責任を追及したいという気持だ(会場から拍手)。
安い乳価に耐えて、いろんな苦労をしてここまで来た。命がけで、腰の曲がりかけた女房と、息子の朝晩の手伝いを頼りにしながら四十七年間も続けてきた。もっと続けていきたいが、このままではまったく先の見通しがたたない。大変な危機的な状況だということを訴えたい。
JA宮崎中央
日高道夫氏(肥育)
いま、畜産農家が置かされている立場は、死活問題だ。先日、肉牛三頭で七十八万円だった。以前は一頭七十八万円。三分の一に落ち込んでいる。全頭検査体制が整ったのに、いまだにこの状況が続いているということには問題がある。消費者が肉離れをしている。先日、都会に住む友人が「うちの近くじゃ牛肉を食べるやつはいない」と言っていた。肉が安全だということを徹底的に消費者にアピールすることが一番大事ではないか。
福島からの参加者
何から話したらいいかわからない窮状だ。問題は経営が維持できるかどうか。すでに赤字なんてものでない、エサ代もない。このままでは自殺者がでる。まず資金が必要。(対策の一つである)「BSEつなぎ資金」は一年で返さなければいけないが、返せる見込みはまったくない。返せないからと資金を借りない人もいる。借りずに今離農しても借金が残るだけだし、悩んでいる人が相当いる。
マスコミはまだ煽り立てる雰囲気が絶えない。消費者はいまだに、「牛を食べると狂牛病になる」と思っている。そういう報道がされている。正しい知識を紹介してほしい。「怖いものじゃない」とは言わない。怖いものだ。ただし、「怖いものだけど、現実はこういうものだ」と正しい知識が広がることが重要。消費拡大のためには、BSEはどういうものなのか、消費者によく知ってもらわなければいけない。