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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年11月号
回復の見通しない日本経済
テロ事件が起きる前から日本経済はどんどん下火になっています。
TOPIXとは、株式の東京市場における全体の価格を表したもので、今年二月は一七一一ポイントでした。最近は一〇〇〇台で、半分近くに下がっています。
バブル崩壊後、政府は景気を良くしようと国債発行を続け、昨年度末には中央と地方を合わせて六百六十六兆円の借金を抱えました。一年間に日本国民がつくりだすサービスとモノが約五百兆円ですから大変な借金です。世界でこれほどの財政赤字国は、日本とイタリアです。しかしイタリアについては、欧州の経済統合の中で財政赤字を小さくする努力がされてますので、これだけの借金がある先進国は日本だけです。将来、この処理は大変なことになります。そう簡単にいくものだとは思いません。
最近、小泉さんが「特殊法人を改革する」といっていますが、特殊法人には、六百六十六兆円に入らない借金が約百兆円あるそうです。小泉さんが言うほど簡単ではありません。国債を出している一方で金利を下げていますが、こんなことをしていたら解決できません。皆さんが預けている貯金や保険の状態はどうですか。保険会社だっていくつもつぶれています。
東京三菱銀行は今年の春、ひどいことをしました。以前は、低い金利で中小企業に貸し出すという方針でしたが、今度は不良債権を処理しろという圧力がかかった。東京三菱銀行は中小企業に対して「今度方針が変わりました。以前に約束した金利より高い金利で払って下さい」としました。そんなことを言われて「はいその通りでございます」と払える中小企業がありますか。以前、銀行が「ぜひとも低い金利で借りてくれ」といって押しつけたのを「方針が変わりましたから」では冗談じゃない。そこで銀行とケンカすると、「おたくは満足な金利を払ってくれませんから、正常な取引先ではございません。一ランク落とします。要注意先です」。「要注意先」は「懸念先」にランクを落としていく。ランクを落とされた中小企業が融資を頼んでも、「おたくは悪い企業ですから金は貸しません」。だから中小企業はどんどんつぶれます。これが日本で一番いいといわれた東京三菱銀行で、他の銀行も同じことをやっています。ですから金利は下がったが、中小企業の資金にはなっていないというのが実態です。金利を低く借りられるのは大金持ちと大企業です。
不良債権について、以前は二年ぐらいで処理しますと言っていましたが、今年、金融担当大臣は「この二、三年は不良債権の額は横ばいです。七年ぐらいたったら半分になるでしょう」と言っています。ぜんぜん解決していません。前述のように良い企業がどんどん悪い企業にされるし、景気も悪いので、払えない企業が多くなっているからです。加えて、ペイオフがあります。来年の四月から、銀行がつぶれた場合、皆さんがその銀行に預金していた場合、一千万円プラス利子だけは返してくれますが、それ以上預金していても返ってきません。そうなると、危ない銀行からお金を下ろして、確かな銀行へ預けるようになり、銀行がどんどんつぶれます。来年は大きな銀行でも、一つ二つつぶれるでしょう。このペイオフがありますから、銀行はなんとかもうけを多くして、基礎を固めようとするので、中小企業にとってはもっとつらくなります。
時価会計という言葉があります。時価とは「その時の価格」。普通、帳簿には買ったときの値段が書いてありますが、会計法が変わり、銀行は今年九月から、市場で流通している価格、時価で計算することになりました。かつて高かった株も安くなり、金利も低くなってますから、いろいろなものが安くなっています。そうなると銀行の利益は減ってしまう。損が多くなります。
また、自己資本比率という言葉をお聞きになったことがあると思います。自己資本比率とは大ざっぱに言って、分母を貸出金、分子を資本金その他これに類するものとして計算したものです。これが、外国と取引する場合には八%、国内の場合は四%なくてはならない。この自己資本比率を高くするには、分母の貸し出しを少なくすればいい。貸し渋りは、こういうことが基底になっているわけです。含み益、あるいは含み損という言葉がよく出てきますが、買った時の価格よりも上がれば含み益、下がれば含み損です。この含み益・損が分子の資本金の計算に含まれます。さらに国債・公債は分母の貸出金には含まれず、国債・公債をいくら持っていても貸出金は増えません。銀行は、自己資本比率には影響がなく都合がいい国債を買っています。しかし国債は、最後まで持っていれば額面のまま返ってきますが、途中で売る時には、ほとんど額面では売れません。今国債の金利は非常に低く、いつか景気が良くなれば金利は必ず上がります。金利が上がれば国債の額は低くなる、金利が下がれば国債の額が高くなる、逆の関係になります。そうなると国債は暴落します。この暴落の危険が今あちこちでいわれています。株で損して、不良債権を処理した次には、国債が暴落して銀行の不良債権は増えることが予想されます。
そんな状態ですから、世界的に日本の銀行は信用がありません。政府も特別検査をやってもう少し厳格に不良債権を計算しようといっています。それからIMF(国際通貨基金)も日本の銀行の内容を調べてみようといっています。
そこで自民党は、インフレターゲッティング政策をやろうとしています。これは何かというと、今物価がどんどん下がっている。それを下がらせないようにするために、通貨をたくさん出してインフレにしようというのです。しかし、いまだかつて、そういうふうにしてデフレを直し、成功した政策は世界にありません。インフレをおさめるためにターゲッティング政策をして成功した例はありますが、反対はありません。この政策をとれば、インフレになってしまうでしょう。これは一般の人にとっては大変なことです。
このように、おそらくまだまだ日本の景気は良くなっていかないでしょう。失業率も高くなっていくと思います。
米国経済の低迷にテロが追い打ち
日本がもっとも頼りにしている米国の景気はどうでしょうか。米国の景気は、去年の夏からIT関係がガクッと落ちました。株価はだいたい半年後の景気を表すといわれていますが、株価もどんどん下がっています。六%あった公定歩合はテロ事件以降、二%まで落としました。
アメリカは多くの国から輸入しているので、ドルが多くの国へ行く。アメリカに輸出すれば、日本にドルが来るわけです。そのドルはアメリカに投資されていました。また、アメリカの金利が高ければ、金はアメリカへ流れていく。今までアメリカに世界中から金が流れ込み、アメリカでは株が高かった。アメリカ国民は、資産の一五%ぐらいを株で持っています。株価が上がれば、国民の消費も上がってきました。ところがアメリカが公定歩合を下げたとなると、世界中から金が集まりません。逆に、今回のテロもあって、アメリカから資金が逃げ出しています。そうするとアメリカの株価は上がるわけがありません。株価が下がれば、アメリカの国民は消費を減らします。これからクリスマス商戦です。アメリカの消費の落ち込みは日本に大きく影響します。
日本政府は不景気を切り抜けるために円安にして輸出を増やそうと考えています。最近も日銀は何十億ドルという為替介入をして円安にしました。しかしアメリカも景気は良くない。アメリカの景気を良くするには、円高ドル安にすればいいわけです。これまでは「ドル高はアメリカの国益だ」といってましたが、最近ではアメリカの各種の経済団体が、「ドル高はもうごめんだ、ドル安にしてくれ」と要求しています。
おそらくアメリカの景気が回復するには大変時間がかかる。ある研究者は、アメリカは湾岸戦争で勝ったけれども経済力は落ちた、今度はもっと落ちるだろうといっています。アメリカの経済力はだんだん落ちていくでしょう。「大国の興亡」という本を書いたポール・ケネディは最近、「歴史は転換点に来たようだ」と言っています。今までのアメリカの一国主義のやり方はもうだめだろうということになってきました。
テロ事件の背景
アメリカのテロはなぜ起きたのでしょうか。
「グローバルスタンダード」という言葉があります。「世界的な基準」。その内容は規制緩和、貿易のバリアフリーです。為替の自由化、金融の自由化、関税をなくす、という規制緩和をアメリカはこの十年、世界中でやってきました。日本に対しても、途上国に対しても為替の自由化をやってきました。そして何か問題が起きれば、IMFが乗り込んで、タイや韓国、インドネシアやフィリピンに対して、「俺の言うとおりにやれ」と押しつけました。その後に入ってくるのは、ヘッジファンドです。アメリカにはヘッジファンドが三千ぐらいあって、みんなの金を集めて、外国の株の売買で金もうけをする。もうかれば、その国の経済がどうなろうとお構いなし。九七年、タイの経済はめちゃめちゃにされました。韓国もそうです。マレーシアではヘッジファンドに規制をかけました。ヘッジファンドは世界中を荒らし回っています。一年間に貿易によって動くお金は約五兆ドルですが、ヘッジファンドは一日だけで一兆五千億ドルもの金が動いています。大変な額です。日本の低金利の金も、おそらくヘッジファンドがかなり借りています。ヘッジファンドにとって日本は大変いい国です。アメリカの投資会社にリップルウッドというのがあります。日本長期信用銀行がつぶれてできた新生銀行をリップルウッドがたった十億円で買いました。国は長銀の借金をなくすために二千八百億円も投入し、さらに新生銀行が引き継いだ債権が赤字になった場合は、日本政府が保証すると決めました。リップルウッドは経営破綻した宮崎のシーガイアも、日本コロンビアも買いました。またマイカルも、アメリカのウォールマートという会社が安く買おうとしています。
私が大変気になったのは、ワシントンでの日米首脳会談の後、ブッシュはこう言いました。「日本は銀行の不良債権を処理するのに大変ご苦労のようですね。私の方も八〇年代に経験しました。専門家はアメリカにたくさんいる。できたらその専門家をやりましょうか」。専門家の中にはヘッジファンドみたいなのがたくさんいると思います。
アメリカのグローバルスタンダード、あるいは市場原理主義というのは、政府はあまり手をつけるな、市場に任せておけということです。そのため自由競争が激しくなり、貧富の差が世界中で広がりました。いま先進国の中で所得格差が一番大きい国はアメリカです。日本もそれにならおうとしていますから、所得格差がどんどん広がっています。鉄道に飛び込む、あるいはホームレスになって公園で寝ている、そういう人が多くなりました。国際的には、富める国は大変富み、アフリカや南アジアはますます貧しくなる。アメリカのグローバルスタンダードによる格差の拡大がテロの遠因を作っていると思っています。
一昨年、シアトルでWTO閣僚会議があった際、大規模なデモがありました。アメリカのグローバルスタンダードに反対する声は世界の声になっています。今回のテロも一朝一夕に起きたわけではない。おそらく今後、世界でアメリカの信頼はだんだんなくなってくる。今度のテロに対する報復が長引くほど経済もだめになる。アメリカは、貿易と財政の双子の赤字といいます。テロが起きて、法人税がぐっと減る上に、戦費四百億ドルを議会決定しましたが、それでは足りなくなるでしょうし、航空会社の赤字に対しても政府がテコ入れするなど、財政支出の要求は非常に増えてきます。また、ブッシュが理解・協力を求めているアフガニスタン周辺国が後に「うちの国の経済を頼みます」となった時に赤字のアメリカは果たしてその金を出すでしょうか。そのつけはおそらく日本に回ってきます。
小泉の構造改革は夢
小泉さんが三十兆円の国債発行枠は守りますと言いますが、守れないでしょう。アメリカからの要求だとヘイヘイということをきくと思います。景気も悪いので、十二月の第二補正予算で三十兆円は超えるでしょう。不良債権処理はだめ、特殊法人改革は簡単にいかない、国債発行枠も守れない。ゼロ成長はしないと言ってきましたが、今年はゼロ成長、来年もマイナスでしょう。そうすると小泉さんは何をやるんですか。公約を守りそうもない人になぜ七五%も支持があるのか不思議です。小泉政権は一年持たないでしょう。
アジア、特に中国との共生
二〇〇八年の北京オリンピックで中国はどうなるか。三井物産戦略研究所に沈才彬さんという中国の研究家がいます。この人の調べでは、ソウルオリンピックと東京オリンピックの開かれた前後十五年間、韓国と日本の経済はだいたい七〜八%ぐらいの成長をしました。今、中国は七〜八%で成長しています。七〜八%の成長が十年間続くと、経済はだいたい二倍になります。十年間で二倍です。中国は北京オリンピックに二千八百億元(日本円で四兆二千億円)を投資して飛行場拡大、地下鉄・道路の建設、情報インフラ整備、そして北京・上海間の高速鉄道を造るといいます。たかが四兆二千億円と思うかもしれませんが、日本よりも土地代、賃金が安いのでこれは大変な額です。こういう仕事があるのに、小泉さんは靖国神社に参拝した。伊藤忠などは中国でネギやシイタケをたくさん作って輸入しています。それに対してセーフガードを暫定発動して、ネギ、生シイタケ、畳表の税金を高くしました。
中国と日本がどう住み分けるかが非常に重要だと思います。今、中国の市場には外国資本がどんどん入っています。かつて中国では、国際的な企業の中で日本企業が一番生産力が高かった。それがどんどん落ちています。例えば今度の北京・上海高速鉄道なども、JRの高い技術で中国の人と一緒に作ることができるように、国際的な環境を良くしていくことが必要です。ところが小泉さんは靖国参拝してしまう経済音痴です。ああいう人を長く首相にしては日本経済がだめになると思います。
中国は公式発表で、二〇一五年までに世界で第三番目の経済国になる、二〇二五年には日本を抜くといいます。中国の国土は日本の二十六倍ぐらい、人口は十三億人で日本の十倍です。これがどんどん伸びていく。その中国と靖国問題や教科書問題でケンカする小泉さんでは日本は将来、小国になって動きがとれなくなってしまいます。二十五年たって、中国が日本を超えた経済国になった時に、話も聞いてくれなくなる。もっとアジアの国々と仲良くして相通じていくことが重要です。できたら通貨も一緒にしてほしい。円、元、ウォンをアジアの共通通貨にしたらどうでしょう。欧州はすでに新しい通貨にしています。欧州の中心になったドイツとフランスは、十八世紀は戦争ばかりやっていましたが、仲良くなって共通通貨を作りました。ドイツが第二次戦争について謝り、過去を改めたことが今日のEUの成立につながった。日本は謝っていません。日本と中国だってできると思います。
今までのような、アメリカのいうことは何でもきくという姿勢を変える時期に入ってきたと思います。アメリカが世界で「何でもできる」という経済力は衰えていきます。もう新しい時代に入りつつあります。(文責編集部)