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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年11月号
九月十日、国内初の狂牛病(牛海綿状脳症=BSE)が発見された。農水省や厚労省の無責任、失政によって畜産関係者や食肉関係業者など深刻な被害が広がっている。各地の農業団体や自治体などが原因究明、安全対策、関係者への支援策を求める行動を起こしている。長野の小池孝一さんに現場の声を聞いた(文責編集部)。
国の失政で畜産農家は存亡の危機
肥育牛を百二十頭飼っています。九月十日の「日本でも狂牛病発生」という発表以来、われわれ畜産農家は大変な状況です。いまの状況が半年続けば日本の牛農家はつぶれるでしょう。三十数年間牛を飼ってきたが、こんなひどい状況は初めてです。責任のない私たち生産者が、なぜこんなひどい目にあわなければならないのか。責任は国にあります。危機管理がまったくできていない。公害やHIV問題などでも、後手後手の国の対応が国民の犠牲、被害を拡大させました。イギリスで狂牛病問題が確認されたのは一九八六年です。イギリスからヨーロッパ各地に感染が広がり、牛を原料とした肉骨粉が感染源だといわれて久しい。日本政府は「日本は大丈夫だ」と言い続けるだけで、感染防止策を打たなかった。なぜ肉骨粉の全面輸入禁止をしなかったのか、また肉骨粉の使用状況の調査を行い、禁止徹底をしなかったのか。行政が農家に指導に回ってきたのは、事が起こってからです。国の対応に憤慨します。
消費者に誤解を招く報道にも怒りを感じます。イギリスの狂牛病にかかった牛の映像を繰り返し放映するテレビの影響は非常に大きかった。九月十六日、NHKスペシャルで報道されました。私は十七日に市場の牛の販売立ち会いに行っていましたが、朝から小売や問屋さんで牛肉のキャンセルが広がっているという情報を聞きました。せりが始まる前から、「今日の相場は成り立たない」と言われ、その日から相場は大きく崩れました。牛肉の消費が三割程度まで落ち込んでいます。
さらにアメリカやオーストラリアの輸入牛は安全で、国産牛は危ないという報道にも憤慨します。輸入牛肉のすべてが検査されているのかどうか。それなしに「輸入牛は安全」という言い方ができるのか。
十月十八日から全頭検査が始まりましたが、十九日だけ相場を戻しただけで、翌日から下がったままです。以前の相場の半値くらいまで落ちています。このままだと出荷してもエサ代にもならず、先が見えない不安でいっぱいです。
徹底した安全対策で消費回復を
消費低迷、価格の低迷が長期間続くと、国産牛の農家は大方がつぶれると思います。生産者として、生産者団体として国の責任を追及したい。
生産者や自治体の努力だけでは問題は解決できません。個人の意見ですが、生産者として国に要求したい。第一に、落ち込んだ牛肉の消費拡大対策を打ち出してほしい。そのためには、徹底した安全対策と正しい情報公開で消費者の不安を解消することです。狂牛病の感染ルートの究明もきちんとしてほしい。第二は、全頭検査前の在庫を国の責任で買い取ること。卸や肉屋さんが、抱えている検査前の肉の在庫を国が買い取ること。そうしないと、消費者の不安はなくならないし、価格も戻ってきません。第三は、存亡の危機に立たされている農家に対して、小手先ではなく補償も含めた抜本的な対策をしてほしい。
国の責任で起こった問題なので、国の責任で徹底した安全対策と正しい情報を流してほしい。安全な国産牛のためこれまで以上に頑張りますので、消費者のみなさんのご理解とご支援をお願いしたいと思います。
現場の怒りの声(日本農業新聞などより)
◇八六年に英国で狂牛病が発生、EUに広がっても農水省は九六年まで肉骨粉の輸入を禁止しなかった。狂牛病と診断された牛を「焼却処分した」と発表しながら、実は肉骨粉に加工されていた。信じられないことばかり。行政の失敗が、なぜ農家にしわ寄せされるのか。(岩手酪農家)
◇このままでは農家の七〜八割はつぶれる。損失補てんなど徹底した対策をとってほしい。狂牛病発生を農家のせいにしているのではないか。対策を怠った国の責任だ。(生産者)
◇(日本での)発生前から対策をとるよう国に申し入れていたはず。動物性たんぱく質で飼養せざるを得ないような構造自体が問題だ。(消費者団体)
◇牛枝肉価格の急落、当面の出荷停止…「もう肉牛の先はないかもしれねえなあ」と息子が言う。そう言いながら朝早くから夜遅くまで、昼休みも取らず作業に追われている。こんな生産者の苦しみ、怒りをどこにぶつけたらいいのだろう。お偉方が「これは大丈夫」と牛肉を食べるパフォーマンスを先日テレビで見ました。そこまでバカにするのかと腹が立つ。そんなことより、原因究明と安全確認を徹底してほしい。(農業)
◇英国の狂牛病発生から十五年。一九八八年に英国政府が国内での肉骨粉の使用を禁止したという情報が正確に伝えられることが大事だったはず。農水省の責任は重大だが、これだけの情報社会なのだから、今になって大騒ぎする報道関係者だって、その時点で情報を伝えることが役目だったと思う。
安全対策と農家支援を
◇全国市長会は十月十日、農水省や厚労省に対し、@感染ルートや発生原因を解明し、法的規制も含めて発生防止と安全確保に万全を尽くすA正確な情報の明示と風評被害防止B生産農家、食肉関係者らへの支援は国の責任で実施C肉骨粉などの焼却処分は国の責任と負担で、などの緊急要望書を提出した。
◇十月二十六日、北海道は狂牛病問題で、農業団体、消費者団体、流通業界などと意見を交換する「狂牛病対策推進会議」の初会合を札幌市内で開いた。北海道農民連盟の信田邦雄委員長が「消費者を安心させるためには、国や道が徹底して原因を特定して発表すべきだ。安全宣言は意味がない」と批判。「効率優先ではなく、国内の自給を高めるような農業政策をとってほしい」と要請した。流通業界の代表は「牛肉の売り上げは半減している。会議をもっと早く開いてほしかった。情報公開しないから消費者の不安がなくならない」と指摘した。また、道食品産業協議会は「食品加工業界はほとんどが零細企業で大変な痛手を被った。風評被害がひどいのは対策が途切れ途切れだから。工場を閉鎖した企業もあり、雇用対策をとってほしい」と述べた。JAの代表は「枝肉や生体の市場価格が暴落し、損失額は膨大。牛肉の価格を回復し、農家の経営安定を図ることが課題だ」と訴えた。佐呂間町町長は「狂牛病対策への財政支援をしてほしい」と要望した。
◇JA広島中央会とJA全農ひろしま、生協ひろしまの三者は十月二十九日、中区の県民文化センターで「狂牛病のないくらしを!生産者・消費者協同集会」を開き、二百人が参加した。「生産者と消費者が声を一つにし、国産牛肉に対する不安を払しょくすべく行政に対策の確立を強く求めるとともに、風評に惑わされることなく、一致協力して窮状を打開していくことを宣言する」という共同声明を採択した。また、生協ひろしまは同日、情報公開など七項目の要請書を県に提出し、約三十万人の組合員を対象に、狂牛病問題で被害を受けた生産者への支援募金を始めた。