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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年9月号
失業者(男性46歳) 労働者の痛みがわかるのか!
失業者(女性45歳) 「耐える人」が違うんじゃない?
失業者(男性58歳) もう、キレる寸前だ
中小企業 経営者 『痛み』は死ねということ
高 齢 者 「金」か「命」か
農 家 これが自民党の農政だ
農 家 改革すべきはアメリカ従属
小泉内閣は「構造改革断行」を大義名分に、犠牲を国民に押しつけようとしている。「多少の痛み」というが、国民の痛みをわかっているのだろうか。構造改革の柱である不良債権処理では、中小零細企業の倒産を招き、失業者が百万人増えるという調査もある。川崎市のハローワークや町の中小企業などで小泉改革に対する声を集めた。(編集部)
失業者 男性46歳
労働者の痛みがわかるのか!
建設現場でとび職を十五年くらいやっていた。腰を痛めて仕事をやめ、一カ月たった。労災は会社がかけてなかったから適用されなかった。毎日仕事さがしをしている。
小泉改革といってもなんにも変わらん。失業率ももっと上がるだろう。
求人票には一カ月二十万円から二十五万円ですと書いてあるけど、実際に面接に行くとこれだけの金をもらえない。仕事をやっていない人間からも税金などをとるという考えがおかしい。
労働者になって働いてみてはじめて、その人間の痛みがわかるはずだ。人の税金食っている連中が俺らの痛みなんかわかるはずがない。選挙で当選するために金をばらまいて、誰か逮捕されたけど、みーんな自分ことしか考えていない。
川崎の高橋(市長)にしたってよ、国から来た人間。働いて税金を払ってきた労働者を大事にしないで、くだらないものをそっちこっち建てることを考えている。
小泉や竹中が偉そうに痛みをあと三年待てというが、誰があと三年待てるというんだ。女房と、部屋代が払えないのなんのと頭きてケンカして、別れるかどうかというところまで来ているのに、何が痛みもへちまもないだろと言いたい。小泉なんかおいらの痛みがわかるのか。てめえが表にでて汗かいてやってみろっていうんだよ。俺らはあかの他人様がやった糞までなめるような仕事をやってきているんだよ。そういうことを小泉もやってみろというんだ。他の大臣とくらべたら貯金が四十五万か五十万しかありませんと偉そうなこといってるけど、人の税金で給料だのボーナスだの食ってるんだろう、ふざけたこと言うな。
建設業は大変な不況で、他の人たちも困っている。ここに仕事をさがしに来ている人というのはみんな困っているはずだよ。うちのおっかあだってでっけい会社に勤めているよ。それでもボーナスが半分カットになっているんだから。はっきりいって、もうちょっと政治家に労働者の気持ちをわかってほしい。毎日こうやって仕事さがしながら汗かいて生活する人間がいて、そして市民税はとられる。健康保険だってどうだこうだと払うしかないないんだから。働いていなくても、おいらなんかより元気な人間もいるよ。そいつらも市から金もらって酒は食らうバクチはやる。そういうことをやっていても市役所の人間はなにもしない。暑いからとボケーと市役所の中のクーラーにあたりお茶を飲んだりしているだけだろう。俺らから言わせると一番俺らが馬鹿くせいというんだ。そんなこと川崎の高橋も小泉もわかりゃしないよ。
失業者 女性45歳
「耐える人」が違うんじゃない?
今日は再就職に役に立つようにパソコンの講習を受けようと、応募に来ました。
前は味の素関連の工場に勤め、包装部門で、「ほんだし」のパッケージをしていました。一年半ほどいて、とてもきつくて体が疲れちゃって、四十五才過ぎると正社員にしてくれそうもないし、六月末でやめました。
やめてすぐ、東京の会社に就職できたけど、一カ月の試用期間の後、やめるように言われました。そこではコンピューターを使った経理が必要だったらしいのですが、私はそういう経験がない。最初と話が違うなと思ったんだけど、何にも言えないまま、帰って来るしかありませんでした。正社員のようにボーナスがほしいから正社員にこだわっていたんですけれど、ちょっと無理かな、もうパートでもいいかなとか、ちょっと揺れ始めています。
今まで準社員で社会保険に加入していたんですが、今は国民健康保険にも入っていないので病気などになったときどうしようか不安です。国保は高いし、夫とも相談して、夫の会社の保険に入るかどうか決めたいと思っています。
小泉首相の米百俵とかよく分からないんです。何だそれは江戸時代じゃないぞ。耐えろということでしょうが、耐える人が違うんじゃないでしょうか。「痛みを伴う改革」といっても言葉に惑わされて何したいのかわかりません。
富士通がすごいリストラやるといっていたでしょう。エーと思ってさらに失業者が増えるなと思って。しかも、男性の五十歳代、四十歳代といったら本当に仕事がないでしょう。子どもが学生とか家のローンだとか一番お金がかかるとき。どうなっちゃうんでしょうね、本当に。
夫はお酒のディスカウントショップの営業なんですが、いつリストラされてもおかしくないという状況です。フランチャイズといって、もともと酒屋さんだった人が企業からお金を借りて無理に拡張してやるわけです。そうするとうまくいかない店舗もいっぱいあって。この前、その中のオーナーさんが自殺して夫あての遺書があったそうです。夫は大変なショックを受け「もう俺は嫌だ」と会社のやり方を批判していた時期もありました。そういう中で給料もらって暮らしているから、どうにかうまくやっていくしかありません。自殺とか夜逃げとかけっこう聞くんで、なんか厳しいですね。
それに最近、日本じゃないみたい。殺人事件など異常でしょう。毎日こわいなと思います。やはりそういのは失業などで、みんなが金がなくなっているところから来ていると思います。そういう根元にあるものをどうにかしなさい、雇用を増やしなさいと言いたいですね。
失業者 男性58歳
もう、キレる寸前だ
不二サッシで働いていたが一九九七年、五十五才の頃に失業した。一年ぐらい失業保険をもらった。それでメッキの会社に行ったんだけど、一族支配の強い会社で前の給料の半分以下に下がった。給料は息子の方がいいくらい。一週間に三日ぐらいしか仕事をさせてくれない状態が続いて、生活できない状態になった。
稼ぎがないから女房にも頭が上がらない。小遣いくれとも言えないし、やりたいことが全然できなくなった。趣味の釣りも、カメラもやめた。パチンコもたまにやってたけど、それもやめた。だからどこで不満を発散したらいいか、いまパニック状態でキレる寸前だ。
小泉は痛みを伴う改革といっているががまんできるかどうかわからない。できなければアレ(自殺)しかないし、この世にいるかどうかわからない。何やるか分からない。何でもいいんだよ仕事があれば。あればいいんだけど、俺なんか免許はガスだの玉掛けだの持っているんだけど、普通車の免許がないと駄目だ。今になってとっておけば良かったと後悔している。
この前会社で手を機械にはさまれちゃって指が曲がらない。本当は労災で金がおりるんでしょう。前の不二サッシでは同じように手が曲がらなくなって百万円近く出た。(今の職場では)十万円ぐらいもらって首でしょう。仕事がなくなればやめろ、だ。十何年もいた人にも退職金は出ない。同僚が仕事終わってくしゃみしたら、鼻血が出始めて止まらなくて、疲労か職場の薬品の関係か電気分解で出るガスでやられたみたいだった。あっちこっち電話して結局は市立病院に連れていって血圧しらべたら二百以上あった。その人は翌日も会社休んだけど、私が会社に行ってもご苦労さんも言わない。
家庭では俺以外は皆働いているから、家族には頭が上がらない。だから酒も飲めなくなった。前三杯飲んでいたのが今は一杯だけ。仕事のこと生活のことを考えると夜も眠れない。どうやっていったらいいか。(首くくる真似をして)最後にはコレになってしまうよ。コレまではしたくないけどね。みんなそういう思いを持っているんだ。この前働いていたところはメッキ屋だから、危険物がいっぱいある。青酸カリ飲んで死んだ人もいる。
何としても今の政治を変えないと。今は銀行は救済しても中小企業は救わない。ひどい話だ。この一、二年で変わったね。この近くでも、知っているだけでパチンコ屋が五、六軒はつぶれている。川崎駅前の銀柳街商店街でも昔からあった店がほとんど店じまいしている。
これだけ不満がたまっているわけだから自民党の政治は三年ももたないんじゃないの。中高年に対する失業対策がせめて六十五才までは必要。この前新聞に出ていたけど役人の天下り連中、五年間であんなに退職金が出るのかね。一億五千万だの二億だの、ふざけているよ。たいして仕事なんてやっていない。そういうところに金を使うより、もっと失業者や中小企業のところに金がいく仕組みが必要だ。これからキチンとした手をうたないと自殺者は増え続けるだろう。政府への要望はまず仕事を保障せよと言いたい。
中小企業経営者 55歳
『痛み』は死ねということ
バブルが崩壊して一番驚いたことは、銀行の豹変ぶり。国の税金で助けてもらっていた銀行が、中小零細企業に対して、手のひらをかえしたようなやり方をするというのが俺は納得できない。
商売やって十年、一番いいときに年商八億円だった。その時は決算書に毎年累積黒字額が出て、一億二千万円ぐらい。それ見たら銀行が「なんぼでも金使って下さい」って言うわけ。ところが去年の決算で二千二百万円の赤字を出したら、突然銀行から電話で呼び出された。
俺は単名手形(注)で金利だけ払えばいいのを一年間に四千万円借りる。そのかわり、二千万円の定期を担保代わりに出していた。呼び出されていくと、「四千万円返して下さい」。俺は最初何言ってるかわからなかった。「何ですか」って言ったら「単名の四千万円を返してもらいたいんです」。「そうですか。四千万円は返すが、担保として預けておいた二千万円は解約する」と言ったら「そうして下さい」、そういう言い方です。
今まで手形割引の枠として三千万円持っていた。銀行は「もう手形の割引もやりません」と。「何を言っているんだ。金は貸さない、金は返せ、手形は割らない。一番大変なときだぞ」といっても「でも、会社の方針ですから」というだけ。次の日、また行ったら担当者が変わっていた。「前の人が何言ったか知りませんけど、とにかくだめです」。自分の担保に入れた自分の土地と家は、女房との共同名義になってるから、女房と銀行に行って、サインして印鑑証明出した。「はい間違いありません」。まるで犯罪者みたいな扱いする。
うちのメインバンクははじめは別の銀行だった。隣に今の銀行ができて、支店長が毎日頼みに来たから、メインバンクを変えたわけ。バブルの頃はしょっちゅう支店長が来て、一千万使ってくれないか、二千万使ってくれないか。そのつど、必要ないのに使ったよ。つきあいだと思うから。それなのに帳面だけ見て×か○かだけつけていくってやり方は、非常に人間的ではないよね。
日本の九七%が中小零細ですよ。その九七%の人間を銀行はいじめている。一流企業には何百億だって貸すけど、今一番必要としているのは、必死の思いでこらえている中小零細企業。だけどそういう声はね、社会に出てこない。うちの会社には十五人いてね、それぞれ三人家族だとしたら四十五人ですよ。その命預かってるんだから、簡単に会社をつぶせるわけがない。
俺たち、もうかった時に何千万という税金を払っているわけで、困ってるときぐらい何か助けたらどうだって思う。つい先月の十五日、同じ業種の人が首つって死んじゃった。十三日の手形をおとせなくて、十五日の手形にあてようと十四日にどうにか銀行から二百万円借りたけれども、街金で借金していたらしくて、十四日の夜にヤクザが来て、脅かして現金を持っていった。そうしたらそいつ、もうどうしていいかわからなくなっちゃった。息子に電話して「俺これから死ぬ」って。息子が飛んで来たときには会社で首つってた。それが現実なんですよ。その友だちだって、二十年も商売しているんだから街金に手出すようになったらおしまいだってわかってる。だけどやらなきゃいけない状況にある。年間の自殺者が三万何千人という統計が出てますが、交通事故で死んでる人間よりはるかに多い。中小零細企業の経営者は毎月そういう思いで過ごしているんですよ。ほとんどの経営者はそういう話を聞いたときに、はぁ、俺もそうかなって考えてると思う。身につまされてると思う。死んだ友達も、金額なんかわずか五百万とか、その程度の話なんですよ。その程度で命なくしちゃうんですよ。理不尽だと思うんですよね、そういうことが。
六月二十日に十七年来の友だちが、突然会社から「悪いけど七月いっぱいでやめてくれないか」って言われた。十七年間勤めていきなりですよ。「構造改革」で国は三十万人の失業者が出るって言ってるけど、そんなもんじゃきかないですよ。目の前にいっぱいいるんだから。国は失業保険を長期にして、救済処置をするっていうけれども、これは間違いですよ。リストラされた人が何が一番つらいかって、朝起きて何もやることがないこと。金さえ出せばいいって、そういうもんじゃないでしょう。経済を活性化するということに対して力を注ぐべきで、消費税を五%から三%に落とせって言いたいよ。
信用保証協会の保証を政府が資金を出した、あれは国が行った政策の中で最大のヒットでしょうね。我々中小企業にとって一番問題になるのは保証人の問題。書類上、第三保証人を付けなきゃいけない。あの特別融資枠は社長の個人の保証で五千万円まで借りられた。あれで生き延びた中小企業は多い。ところが融資の金が銀行に入金されたら、銀行がその金返せって言ってくる。かなりの部分が銀行にバックされた。
今、中小企業が一番助かることは、もう一回あの特別融資枠をやることでしょうね。それと銀行にくぎをさすこと。それを返済にあてちゃだめだと。銀行救済じゃないんだから。
小泉さんのいう、多少の痛みがしょうがないって意味合いはわからないでもないんですよ。だけども、人間としてね、道を歩いていて、今にも死にそうな人間が横たわっていたときに、黙って見すごしていけますか。そんな人間になっちゃいけないと俺は子どもに教育しています。それと同じことでね、死にそうになっている会社をなんとか助け上げて立ち上がらせてやらなきゃいけないんです。国ができること、それは金をぼんと出してやることですよ。そうしてね、会社が持ち直して利益上げて、税金が増えればいいわけですよ。
中小企業に「痛みを我慢しろ」っていったら死んじゃうことだからね。痛みなんかじゃないの。生きるのか死ぬのかって問題だから。俺はもう遺言書書いてある。俺が死んだら保険金が入るから全部返済にあてて、残ったら全部女房にやってくれと。「多少の痛みは伴う」、冗談じゃない。多少どころじゃない、死ぬか生きるかだぞ! 議員さんがそんな甘っちょろい言葉で、構造改革やるなら、それこそ議員の数を減らすとか、議員の収入を減らすとか。銀行だって我々の税金投入されて、俺たちの同年代の給料よりもずっと多い。そんな馬鹿な話ある? あたかも日本の国は銀行中心に動いているような言い方するけれど、それは違う。やっぱり俺たち中小企業が世の中を活性化させてるんですよ。労働者も働いてるのは圧倒的に中小企業だし。活性化させてるところがヨタヨタになってるから景気が悪くなる。景気が悪くなるからデフレになる。デフレになるからもっと景気悪くなる。
同業種、いろいろな業種のやつ、話をします。みんなつらいって言う。お互いに最後に交わす言葉は「大変だけど今我慢するしかないぞ」って。ひたすら我慢してる。蒙古襲来じゃないけど、ひょっとしたら何か間違って神風が吹くかもしれないぞ、なんて思ってるわけ。だから小泉の支持が高いというのは、自民党の中では反勢力だからひょっとしたらやるかもしれないってのがある。ほとんどがそういう気持で自民党って書いたと思う。だけど結局はやらないんだよ、自民党員なんだから。従来の既得権益持ってる連中はそう簡単に自分の金づる手放さないですよ。ぜったいつぶしにかかりますよ。
小泉さんが本気でやるんであれば、もっと金融機関に対して資金を供給するから、その資金を末端の中小企業に流しなさい、血液なんだから循環させなさいと、そういう指示を小泉自身が出さないとだめですよ。まあ、出すとは思わないけど。
(注)単名手形 借り手を振出人、銀行を受取人とする約束手形によって行う貸付で、手形上の債務者が一人であることから単名手形と呼ばれ、商業手形割引と共に銀行貸し出しの中心となっている。
高齢者 全国老人福祉問題研究会名誉会長 中川 晶輝
「金」か「命」か
昭和十七年十二月三日付で「厚生大臣小泉親彦」名義で「医師免許証」を授与されている。つまり人の「命を救う」ための「免許証」である。ところが、純一郎は「金」のために「命」を犠牲にする「構造改革」にうつつを抜かしている。「痛みを伴う構造改革」といっているが「痛み」とは「医療費の抑制」すなわち「命の抑制」、換言すれば「殺人」である。その意味で「小泉内閣」は「殺人内閣」である。
動物の世界は「弱肉強食」の原則によって支配されているが、少なくても「万物の霊長」であるべき人間社会は逆に「強肉弱食」つまり強者が余りある肉の一部を弱者に食わせることにより共に生きる「社会連帯」でなければならぬ。小泉の「社会保障削減」はまさしく人間社会を「弱肉強食」の「動物社会」へと転落させる方向性をもつ「殺人」志向というべきだ。
農家 元農事試験場技官 升沢克哲
これが自民党の農政だ
自民党政治が続いて何年になるか。終戦後、吉田茂の内閣ができてから既に五十六年にもなる。この間、ほとんど保守党政治が続いたようなものだ。そして一時、保守と革新の連携時代もあったが、保守政党にすぐに変わった。終戦後、農地解放で小作人がやっと土地が自分のものになって安心して、なんとか土地を自由に利用し処分することができた。
しかし、昭和四十五年コメの過剰を理由に水田にコメ以外の麦、飼料作物、野菜その他の作物を作るように強制的に割り当てされ、減反しなければ部落からも村八分にされ、やむなく減反せざるをえないことになった。それ以来、農村の後継者の若者は一人減り二人減り、今や全国で千八百人足らずになった。
とくに東北は稲作の単作地帯で昭和二十年代、三十年代は農村にも後継者がおり、終戦直後は若者を受け入れてきたが、コメの減反政策が始まってから急に農村は変わった。米価闘争も減反政策が始まる前は全国どこでも農協の農政連組織を中心に農民組合も加入し米価を上げろとの叫びを各県市町村で大会をもちデモ行進もやり、さらに上京して中央でも米価上げろの闘いをやって、六十キロ当たり二万円まで上げてきた。しかし、ここ十五年間も米価闘争はぜんぜんやらんし、米価は一万五千円まで下がった。したがって今や水田十ヘクタール以上耕作しなければ生活できない現象になった。今やコメの減反は全水田面積の約三割の百六万ヘクタールにも拡大され、今年などは三万千ヘクタールも青刈りせよと強制され、農民は抵抗運動もやらずにしぶしぶ稲の青刈りをやっている。すなわち骨抜き農民になっている。農業従事者はすでに六十才以上で若者の姿は農村に一人か二人後継者がおる程度になり、六十才以上の農業経営者は「百姓は俺で終わりだ」と泣き言を言っている。
全国で耕作しない水田が年々増え、七十万ヘクタール以上もあり、転作面積の拡大で転作しても水田は荒れるばかりだ。いかに減反政策が稲作地帯の農村を衰退させたか、これが自民党の農政である。もう農民は闘う意思もなく、さらに海外から農産物すなわち野菜果物の大量輸入で国内の野菜果物の主産地も価格の下落で苦しんでいる。コメ過剰は二百八十万トンにも達しているという。食生活の変化、食べ物の飽食生活で粗末になり、残飯の過剰、ゴミの氾濫など国民は食べ物の有り難さをすっかり忘れている。昔は、ご飯一粒でも無駄にしてはだめだと親から叱られた。道徳教育もすっかりなくなり、親孝行をしなくなった。このまま世の中が進めば、農業も衰退し前途はきわめて厳しい時代になると思う。
農家 秋田 坂本進一郎
改革すべきはアメリカ従属
農民の立場で「小泉改革」を考えてみたい。
それを考える前に、まず「戦前と戦後はつながっている」ということを問いたい。私は今の日本は戦前とつながっていると思う。そしてそこに今日の不幸があるとも思っている。自民党の歴代の首相は、靖国参拝を行ってきたが、遺族会が票田ということもあるが、戦前を総括することができなかったせいである。ドイツのヒットラー政権が崩壊したとき、第三帝国の崩壊ということで生き残りの閣僚も罪を追及され、徹底的に排除された。だが日本は岸信介はじめ戦前の国家主義を推進してきた。おそらく旧閣僚の責任をあいまいにする背景には天皇制までつながる問題が横たわっているのだろう。
だが、ここまで戦前的国家主義が復活し、根付いてしまうと日本の敗戦は何であったのか、戦前の愚行を反省できなかったのかと問いたくなるが、その根強い戦前回帰運動が、今の日本の複雑なねじれ現象を起こしてしまった。小泉首相は自分の心情を晴らすために靖国に参拝するといい、マスコミも彼の判断にまかせたらいいとあいまいな報道をしている。これでは戦前の二の舞ではないか。一国の首相に心情は許されるのだろうか。靖国に参拝するということは、ドイツ人がヒットラーの墓に詣でるようなものではないか。小泉の背後には中曽根の思惑が見え隠れするのである。
次に農業も戦前とつながっている。戦前も農業つぶしをやってきたが、柳田国男はこれを見て「国の病」と嘆いた。戦後の高度成長の頃、「農業の曲がり角」論が言われたが、あれは農業(従って国民経済運営)をねじ曲げないで、まっすぐ伸ばしたいんだという気持ちがあったからであった。ところがいまや株式会社の参入がいわれだした。これは古今東西の歴史にもないことで、農水官僚の精神的堕落を感じる。
誰のための「小泉改革」か。農業で実例を示したように、グロバリゼーションとしアメリカの利益になるための基準づくりで、WTOはまさにアメリカに奉仕するためのシステムであった。われわれ農民は、「改革」の洗礼を受け、惨たんたる目にあってきた。失われた十年は、前川レポート(一九八六年)による農業つぶしに始まったことに示すように、今の「小泉改革」は、アメリカのグロバリゼーションの下請と大銀行・大企業を生かすためのものであることが、この頃見えてきた。「改革」すべきは、まずアメリカへの従属を断ち切ることであろう。