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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年8月号

長崎の憂鬱と市民の活動

全国被爆二世団体連絡協議会会長
広範な国民連合長崎代表世話人 平野 伸人


 元気な長崎の平和運動

 長崎は今年被爆五十六年目を迎えようとしている。被爆者の高齢化や被爆体験の風化がいよいよ現実化してくるなかで、昨今は長崎の平和運動は歴史的な転換期を迎えているといわれている。被爆者中心の平和運動から、戦後世代とりわけ被爆二世、三世の世代中心の運動へ転換を迎えている状況がそのことを物語っている。
 昨年十一月には、NGO地球市民集会と銘打った核兵器廃絶を求める大規模な集会が開かれ、長崎の反核平和運動は大いに盛り上がった感があった。
 さらに今年に入ってからは、高校生による平和活動が盛り上がりをみせている。高校生による「核兵器の廃絶と平和を求める高校生一万人署名活動」が開始され、市民の圧倒的な支持を得た。署名は目標の一万人をはるかに超える一万五千人の高校生の署名を獲得して成功裏に終わろうとしている。高校生一万人署名は、八月末に「高校生平和大使」によってジュネーブの国連欧州本部に届けられる。この高校生平和大使は、広範な国民連合長崎も積極的に参加している「ながさき平和大集会実行委員会」を中心に過去四年間にわたって高校生を国連に派遣しているもので、長崎のみならず国内外で注目される活動となっている。
 六月二十三日に行われた「ながさき平和大集会」は今年で十三年目を迎えたが、今年は明らかに大きな変化があった。それは、高校生を中心とした若い世代の参加が多かったことである。企画も司会も高校生の手で行われ、新鮮で感動的な集会は市民の高い評価を受けた。
 このように、長崎の平和運動は大いに盛り上がっている。
 しかし、長崎の反核平和運動の盛り上がりをあざ笑うかのような状況が立て続けに起こっているのが現在の核兵器廃絶運動の現状である。

 アメリカの横暴

 それは、アメリカ・ブッシュ政権の自国の利益しか考えないといっても過言ではない「アメリカ中心の単独主義」にある。アメリカは七月のミサイル迎撃実験の「成功」を受けて、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の改廃を意図するに至っている。さらには、包括的核実験禁止条約(CTBT)の死文化方針を打ち出し、新たな軍拡競争を生み出そうという危険な道を進もうとしている。
 アメリカはこれまで核兵器の独占をもくろみ、核拡散防止条約(NPT)体制を作り上げてきた。インド・パキスタンの核実験の衝撃もあって、世界はアメリカ主導の「当面の核軍縮」を受け入れてきた。アメリカはNPT体制のもとにCTBTを主導し、インドやパキスタンの核実験を厳しく非難してきた。しかし、そのアメリカはみずからはCTBTを批准することもないばかりか、CTBTに抵触しないとして臨界前核実験を続けてきた。さらにはCTBTの死文化方針を打ち出し、CTBTからの離脱をもくろむに至っている。
 まさに「世界はアメリカのためにある」と言わんばかりのやりたい放題の状況が続いている。

 対米追従の小泉政権

 このような「アメリカの一方的外交」に世界の危惧と批判が高まっているにもかかわらず、小泉政権は沖縄の米兵事件や京都議定書問題での対米追従の姿勢そのままに、ミサイル防衛構想やCTBT問題でもアメリカの「最大の理解国」となっている。さらには、これまで朝鮮民主主義人民共和国の「テポドン」事件を口実にTMD(戦域ミサイル防衛構想)に一九九九年から日米共同研究に着手している。TMDとNMD(米本土ミサイル防衛構想)が一体化して「ミサイル防衛構想」となっている現在、日本政府は米国の最大の軍事的協力者となっている。
 このような小泉政権の外交中枢として存在する田中真紀子外務大臣もまた支離滅裂の言動を繰り返している。五月には「ミサイルの脅威というが、本当にミサイル防衛が必要なのか。日本と欧州はアメリカに対して『やりすぎるな』と言うべきだ」と発言している。さらに「アメリカは中国の経済的、軍事的脅威に対抗したいがためにミサイル防衛構想を推進しているのだろう。武力で対抗してはならない」とミサイル防衛構想を強く批判していた。
 ところが、その舌の根も乾かない七月には「アメリカのミサイル防衛構想を支持する」と発言している。状況に何の変化もないのに、ミサイル防衛構想を批判から、一転して支持するとは一体この人は何を考えているのか。支離滅裂とはこのことだろう。しかも、日本政府はこれまで「アメリカが計画を検討していることは理解している」との立場を表明していた。田中発言は、この日本政府の姿勢をも逸脱している。沖縄の事件の時も「女性にも問題があった」という発言をしたり、外務大臣としての資質にかけると言われても仕方がないのではないか。
 小泉政権は、教科書問題や靖国神社の公式参拝問題などでは強硬な姿勢を崩さず近隣諸国軽視、米国追従という姿勢が明確になってきている。

 長崎の矛盾と憂鬱
 そして私たち市民の活動


 長崎では、若い世代の平和活動への参加という状況とは裏腹な世界や日本の動きに矛盾を感じざるを得ない。実際にTMD研究参加は長崎において進められている。前述の地球市民集会における集会アピールにおいても「ミサイル防衛構想」に対する明確な反対は盛り込まれなかった。「被爆地長崎」として核兵器廃絶といった大目標については発言しても、平和を脅かす諸問題については具体論に乏しいといわざるを得ない。
 しかし、そういった矛盾を乗り越えようという市民の活動もまた重要な意味をもってきている。高校生平和大使の活動はすべて市民のカンパによって支えられている。在外被爆者問題では連続四日間の座り込みが長崎駅前で行われた。ピースウィークは今年十五年目を迎えようとしている。沖縄事件では、地位協定の見直しへ向けての運動も進みだしている。教科書問題では、市民ネットワークが作られて活発に活動している。
 今年五十六年目の八月九日を迎えて長崎は、市民の力で危険な道への歩みは許さないという決意に満ちている。