│国民連合とは│月刊「日本の進路」│地方議員版│討論の広場│集会案内│出版物案内│トップ│
経済同友会は四月二十五日、小泉内閣発足の前日、「平和と繁栄の二十一世紀を目指して―新時代にふさわしい積極的な外交と安全保障政策の展開を―」と題し、次の七項目を外交・安全保障政策の課題として提言しました。
(1)対アジア政策
(2)情報収集・分析機能の強化
(3)有事法制の整備と周辺事態時の体制整備
(4)日米同盟の真のパートナーとしての自己改革と体制整備
(5)ODAの再検討
(6)集団的自衛権行使など国際的秩序形成過程への積極的参画
(7)二〇〇五年憲法改正
経済同友会は、経団連、日経連、日本商工会議所とならぶ経済四団体の一つで、財界が望んでいる政策を提言として明らかにし、政府や与野党にその実行を促してきました。今回の提言は、財界が求める外交・安保政策を小泉内閣に示したものです。小泉内閣はすでに集団的自衛権の行使を声高に論じており、この提言にそった外交・安保政策を進めていくと思われます。
提言の内容は、アーミテージ(現米国務副長官)らが昨年十月に発表した報告(『日本の進路』二月号に全文掲載)に歩調をあわせたものです。アーミテージ報告が日本に要求している「集団的自衛権の行使」「有事法の制定」、「新日米防衛協力指針の着実な実施」、「ミサイル防衛協力の拡大」、「情報能力の改善」、「開かれた市場」、「構造改革」が、そのまま経済同友会の提言にうたわれています。
沖縄では、女子中学生わいせつ事件、連続放火など米兵犯罪の頻発に県民が怒り、自治体が次々に海兵隊の削減・撤退要求を決議しました。県民の反対で、名護市に新しく米軍基地を建設する計画は暗礁に乗り上げています。しかし、提言は「沖縄の安全保障上の負担をこの先どのように分担してゆくかという問題についても、以上のような視点からの真摯な検討が改めて必要であろう」と、きわめて冷淡です。「以上のような視点」とは、「日米同盟の真のパートナーとしての自己改革と体制整備に取り組まなければならない」という視点です。沖縄県民は米軍基地の重圧に不満を言わぬよう「自己改革」しろということでしょうか。
今、歴史をわい曲する教科書問題がアジアの国々の激しい反発を呼び、外交問題に発展しています。提言はこうした問題についても、「日本とアジア諸国との間には、先の大戦中の不幸な歴史とそれ故の誤解や外交上の困難が未だ介在している」と、「誤解」の問題にしています。そこには過去の侵略戦争や植民地支配に対する反省の姿勢は微塵もありません。
特に注目すべきことは、集団的自衛権行使に関する政府見解の変更を求め、その障害にもなっている憲法について、「遅くとも二〇〇五年までには憲法改正に必要な手続きがとられるよう、調査期間を現在の五年から三年程度に短縮する」と要求していることです。
「平和と繁栄の二十一世紀をめざして」日本がなすべきことは、日米安保条約を終了させ、日本全土から米軍基地を撤去して、自主・平和・民主の進路に転換することではないでしょうか。(編集部)
平和と繁栄の二十一世紀を目指して
新時代にふさわしい積極的な外交と安全保障政策の展開を
経済同友会
一、はじめに
第二次世界大戦後、連合軍の占領を経て国際社会に復帰した日本は、新憲法の下、「平和国家」として新たなスタートを切った。以来およそ五十年、日本は冷戦下の国際秩序と日米安全保障体制の枠組みの中で、まずは経済的復興を図りつつ、国際協調主義を基軸に自らの平和と繁栄の基盤を確保し、その下で国民生活の向上と経済の発展を成し遂げてきた。このようなわが国の外交・安全保障政策は、戦後日本の安定と繁栄に大きく寄与してきた。
しかし、新世紀の到来にあたって、わが国が蓄積した力、地域・世界に占めるに至った地位、求められている責任に鑑みて、これまでの外交姿勢が引き続き有効性を発揮するか否かは疑問である。戦後日本が国際社会で追求しようとした理想とその成果を踏まえつつも、今こそわれわれは世界にあって自らが担ってゆくべき役割について改めて考え、真剣に国民的議論を行うべき時を迎えている。
冷戦終結後、加速するグローバリゼーションと情報技術革命と共に国際的相互依存が進む一方、さまざまな課題がいっそう複雑化する世界にあって、これからの日本の外交と安全保障政策は、従来のような懸案処理・状況対応型を超えたものにならねばならない。また、それは日本のみならず世界各国にとっても望ましい国際社会の創造と、その円滑な運営に貢献するものでなければならない。
政治的には自由と民主主義を、経済的には市場経済と自由貿易体制の推進を掲げる日本にとって、その存続と国益の基盤は世界の平和と繁栄である。しかし、平和や繁栄は、これを願望するだけでは確保することはできない。これを担保し、希求するそれらの価値を現実の世界により確かなものとするには、引き続き国際協調主義を基軸におきながらも、日本自らがより主体的、建設的に世界の諸問題に取り組む積極的外交と安全保障政策の展開が強く望まれるのである。
二、新しい時代の外交と安全保障政策の課題
われわれは戦後日本外交が立脚してきた諸原則を踏まえつつ、新たな時代の国際関係において国民の平和と繁栄を維持すべく、主体的な外交を推進していくべきである。そのために日本が取り組むべき課題として、近い将来を視野に入れつつ、以下七つの項目につき提言したい。
(一)アジアにおける地域的パート ナーシップの構築、信頼醸成と歴史的関係の客観的調査・研究作業の推進
a.地域的パートナーシップの構築 と地域の民主化に向けた取り組み
冷戦後の世界にあって、最も注目すべき現象の一つは、民主主義と市場経済の理念が世界的に広がりつつあることであろう。今後日本としては、これらの価値観に基づく地域的なパートナーシップを積極的に育成し、日米同盟と並ぶ地域の安定化メカニズムとして活用して行くべきである。
具体的には、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ARF(アセアン地域フォーラム)、ASEAN+3などの現存する枠組みの強化・活用に加え、政治、経済、安全保障、環境、資源・エネルギー問題をも視野に入れ、将来的には予防外交・紛争処理をも担いうるような総合的、重層的地域フォーラムの構築に向けて、いっそうのイニシアチブを発揮して行かなければならない。
また、これから本格的な政府間交渉が期待される日本・シンガポール間あるいは日本・韓国間などの二国間ベースでの経済緊密化に向けた地域取り決めの動きも歓迎したい。加えて、重要なプレイヤーとしてますます台頭しつつある中国には、大国としての国際的な役割をしっかりと担うことを期待する。
今後、孤立路線からの脱却が期待される北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)には、いわゆる拉致問題、ミサイル問題等の懸案事項の解決に真摯に取り組むことと、開放政策に向けた動きをよりいっそう進め、国際社会へ参画して行くことを促したい。
b.アジアにおける信頼醸成と歴史 的関係の客観的調査・研究作業の 推進への取り組み
外交・安全保障の基本である国民の安全・生命・財産の保護のためには、日本と周辺地域の「有事」を未然に防ぐことがまずは求められる。日本は、紛争を予防し、地域の安定と平和を確保するための相互理解と信頼醸成を推進する諸国間対話・交流にいっそう積極的な役割を担うべきである。
日本とアジア諸国との間には、先の大戦中の不幸な歴史とそれ故の誤解や外交上の困難が未だ介在している。過去半世紀にわたる幅広い交流を通じて、状況は徐々に改善されて来てはいるが、変化をいっそう後押しするための努力の余地は依然大きい。各国との経済的・文化的・人的交流のさらなる促進を通じて、戦後日本の発展と繁栄に裏付けられた成熟した民主主義・平和主義への理解を更に求めて行くことが必要である。加えて、日本とアジア諸国との歴史的関係について、客観的事実に基づく調査・研究作業を積極的に推進することが、未来志向の地域協力と信頼醸成の基盤として重要である。
(二)主体的外交の展開を支えうる 情報収集・分析機能の強化
情報技術革命の進展という急速かつ複雑な変化の波への対応は、経済・社会面はもとより、国の外交・安全保障に関しても死活的な重要性を有する課題である。また、変化の激しい国際情勢において、主体的かつ迅速な判断と政策決定を可能とするためには、日本独自の情報収集・分析機能のさらなる強化が不可欠である。
そのためには、IT革命とその影響に対する国家的なビジョンに基づいて、政府部内における総合的情報機能のいっそうの拡充・一元化や、情報衛星の有効活用のための人材育成・効率的システムの構築等の施策を進めることが急務である。同時に、情報化に伴い発生する新たな危機への対処、情報管理の徹底も重要な課題である。
(三)緊急事態に即応出来る法的枠 組みと体制の整備
将来直面する惧れのある国内外のさまざまな緊急事態に対し、平時においてこそ十分な検討と議論を重ね、法治国家にふさわしい体制を整備しておくべきである。
具体的には、緊急時に国家が必要な行動を取ることを法的に担保しうる有事法制の整備と運用体制の確立、及び周辺事態発生時における日米共同行動の実効性を確保するための体制整備が急務である。さらに、サイバーテロなど新しい形の脅威に対する備えにも万全を期す必要がある。
(四)日米同盟の真のパートナーと しての自己改革と体制整備
基本的価値観と地域的関心、利害関係の多くを共有する日米二国間の関係は、近い将来においてもわが国にとって最も重要な二国間関係であり続けよう。日本の安全保障の要として、そして地域の安定装置として、日米同盟を真に効果あるものとするためには、両国の協力に基づく「再調整」が必要である。そのためにもまず、日本自身が主体的に米国のパートナーとしての役割と責任を果たし得るように、自己改革と体制整備に取り組まなければならない。
具体的には、日本自身の有事に際しての対応能力を強化すると共に、地域情勢に対する主体的判断と密度の濃い日米二国間交流を確立すること、有事に際して実効性を発揮しうる、ある程度の双務性を有する役割分担を明確化することが不可欠である。
また、BMD(弾道ミサイル防衛)の共同研究・開発、衛星情報を含めた情報面での緊密な連携も極めて重要である。沖縄の安全保障上の負担をこの先どのように分担してゆくかという問題についても、以上のような視点からの真摯な検討が改めて必要であろう。
(五)日本外交の目標と経済協力原 則に即したいっそう効果的な経 済協力
開発途上国の民主化と市場経済化の促進によって政治的安定と経済成長を後押しすることは、地域の安定と平和を確保する上で重要かつ有効な方策である。自らの経済力と経験を活かしたODA(政府開発援助)など経済協力の推進は、これからも日本の外交と安全保障政策の根幹をなすものであり、その重要性は引き続き高い。
しかし、新時代にふさわしい経済協力を実行するには、新しい視点からそのあり方と手法を再検討する必要がある。具体的には、それをいっそう日本の外交目標と経済協力の原則に沿ったものとし、かつ相手国の経済発展に真に資するよう、より効果的なものとしなければならない。またその実行にあたっては、NPO、NGOなど市民社会との協調も視野に入れた、透明性の高い柔軟な運用が必要となろう。
(六)国際的秩序形成過程への積極 的参画
第二次大戦後、政治、安全保障、経済、社会、文化などの分野において、さまざまな国際システムが構想され、具体化されて来た。国際連合、IMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機構)などはその代表的なものである。しかし、その完成までには依然多くの困難と長い道程がある。これからの日本は、官民の有効な協力の下、人類共通の資産である国際システムにより主体的・積極的に関与することによって、その強化・充実に取り組まねばならない。
a.集団的自衛権行使に関する政府 見解の再検討および軍縮に向けた イニシアチブ
具体的に、安全保障面では、国連安全保障理事会の改革と常任理事国としての参画、国連平和維持活動等へより積極的かつ有効な協力を果たすための世論形成や体制整備が求められる。特に、わが国においては、憲法の制約の下その行使が否定されてきた集団的自衛権行使に関する政府見解を再検討する必要がある。この問題をいたずらに危険視することなく、今後国際社会において日本が同盟国や地域的パートナーとともに果たそうとする責任・役割に照らして、改めて政治的判断を行うべきであろう。
また、不確実性の増しつつある冷戦後の世界にあって、核兵器などの大量破壊兵器、生物・化学兵器とその運搬手段の開発・拡散は、人類に対する深刻な脅威であり、憂慮せざるを得ない。日本は、先の大戦による悲惨な経験に鑑みて自ら非核三原則を掲げ、核兵器の拡散防止に尽力して来た。今後も、核軍縮、戦略兵器拡散阻止に向けた国際的なコンセンサスと規範の確立のために、日本としていっそうのイニシアチブを発揮すべきである。また、目覚ましい発展を遂げる生命科学技術が、人類社会の倫理的発展と国際社会の規範に背くことなく、正しく活用されるよう国際的な努力をして行くことも重要である。
b.国際的経済秩序構築への貢献
経済的には、IMFやWTOを始めとする国際的ルール・標準策定の場への積極的関与が求められる。近年、貿易・投資分野を中心に国際的な秩序形成過程における民間の役割が益々重視されつつある。このような中、われわれ経済人としても、その知見や機会を積極的に活用してそのような動きに参画すると共に、官民の有効な協力関係を構築しなければならない。
c.構造改革などによる開かれた魅 力ある日本の構築
国際システムの強化・育成のためにも、またそれらとの調和を図るためにも、日本をよりいっそう世界に開かれた魅力ある市場とすべきであることは改めて指摘するまでもない。思い切った規制改革の実行と内需主導型経済への構造改革はその第一歩である。さらにこれからは、少子・高齢化社会の到来に備え、日本の経済・社会のさらなる活性化に向けて労働市場を開放することも一定の限度で必要となろう。また、自由化の進む世界にあって、食糧安全保障の視点をも踏まえた日本農業の国際競争力強化に向けて真剣な議論も必要となろう。これらがどれほど厳しい挑戦をわれわれにもたらそうとも、長期的には日本自身の繁栄と活力に資するものであると確信している。
また、環境問題、情報格差、人口問題への対応などの地球規模での新たな挑戦に対して他国に先駆けて取り組み、それらの課題を豊かさと活力を生むメカニズムに転換する方策を模索し、各国と知恵の共有を図ることも日本にふさわしい世界への貢献である。
(七)二〇〇五年憲法改正に向けた 論議の促進
昨年、国会に漸く憲法調査会が設置された。しかし、そこでの審議のペースは激動する世界の動きに比していかにも遅く、また必ずしも国民的論議の高まりにつながるものともなっていない。衆参両院における調査会の活動を、国民レベルでの活発な議論を促す方向に向けていっそう活性化し、加速することが必要である。
そのための具体的なステップとして、国民的合意が得られることを前提に、遅くとも二〇〇五年までには憲法改正に必要な手続きがとられるよう、調査期間を現在の五年から三年程度に短縮することが望まれる。
三、おわりに
日本の存続と国益の基盤は世界の平和と繁栄であり、それはわれわれ自身のみならず、各国のたゆまぬ努力と協力をもって達成すべきであることを、二十一世紀を迎えた今、改めて確認する必要がある。
国際社会が新たな時代にふさわしい世界を模索し、同時に大きな試練に直面している現在、世界の平和といっそうの繁栄に向けて、自らの地位と持てる力を充分に活用し、より積極的な役割を果たすことは、全世界に対する日本の責任であろう。
その上で重要なことは、日本の外交と安全保障は一部の専門家のみに委ねられるべき課題ではなく、広い国民的議論に支えられた責任ある政治的リーダーシップの発揮によって、初めて有効に取り組まれるものだということである。そのために、われわれ経済人としても、それぞれの立場から最大限の努力を惜しむものではないことをここに改めて示したい。
以上