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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年6月号
昨年七月、政府税制調査会は「わが国税制の現状と課題・二十一世紀に向けた国民参加と選択」(中期答申)を発表した。税制の基本である応能負担の原則を否定し、赤字財政などを理由に消費税などの大増税を示唆した答申である。五月二十二日、中期答申を国民の視点から議論する税制シンポジウムが開催された。主催は、全国公団住宅自治会協議会、全建総連、日本生協連、不公平な税制をただす会など八団体による実行委員会。パネリストは経済評論家の熊澤通夫氏、明治大学助教授の星野泉氏、主婦連合会会長・政府税調委員の和田正江氏、東京中小企業家同友会常任理事の阿部敏夫氏。コーディネーターは関東学院大学教授の湖東京至氏。以下、シンポジウムの要旨を紹介する(文責編集部)。
【問題提起】
熊澤通夫氏(経済評論家)
政府税調の中期答申の概要を説明したい。中間答申は出発点として、(1)所得税と住民税、法人税の最高税率を国際水準まで下げた。(2)国と地方の公債残高は先進国中で最悪。(3)国民負担率(社会保障費と租税負担率)は三六・九%で先進国中で最低と強調している。
答申の目的として、(1)日本を競争型社会(自己責任型社会)に改革するための税制の構築。(2)財政危機から脱却する増税の選択メニューを提起。国や地方の公的サービスと負担(税や社会保障費)のかい離が財政赤字、これを埋める「広く公平な税負担」を強調している。
改革のための税制原則は公平、中立、簡素。公平の原則には(1)能力に応じて負担する垂直的公平(応能負担)、(2)同一所得同一負担という水平的公平、(3)世代間公平があるが、世代間公平をもっとも重視すべきという。現世代と次世代では今生きている人々に増税を行い、現役世代と高齢者世代では高齢者に税負担のウエイトをかけるという。経済活動に障害を与えないような税制が中立の原則といい、累進税率ではなく比例的税率がよいという。簡素の原則では、所得税の諸控除を整理し広く課税する。三つの原則の例外として国際競争力の重視が指摘されている。
所得税で注目すべきは課税最低限の問題。これまでの「所得再配分」「最低生活費は非課税に」という議論を無視し、給与所得控除の大幅引き下げをはじめ、諸控除を圧縮。
相続税は小規模宅地の優遇税制を圧縮し、広く課税する。一方、お金持ちの相続税は国際的に高いので引き下げるという。
国際的に税率が低い消費税は、税率の引き上げを示唆。そのために免税事業者と簡易課税制度の圧縮、滞納整理強化、内税化が書かれている。
支払賃金に課税する外形標準課税が提示された。選挙後には早晩、地方交付税の減額とからめて外形標準課税の浮上が出てくると思う。
納税番号制は賛否を議論する段階ではなく実施の検討に入るという。参加と選択として「財政赤字を縮減するには公的サービスの歳出を減らすか、増税によって歳入を増やすか、その組み合わせにしかない」と書かれている。
星野泉氏(明治大学助教授)
財政には(1)税金を集めて公共サービスを行う資源配分機能、(2)所得の再分配機能、(3)景気対策としての公共事業や減税など経済安定化機能があるが、国際競争の時代は公共部門の簡素化が必要といわれている。
一九七四年まで所得税の最高税率は七五%だったが、七〇%→六〇%→五〇%、そして現在は三七%。最高税率の段階は八千万円以上から千八百万円以上に。つまり、高額所得者には大減税がされた。この減税で税収が約五十兆円に落ちたのに、税収を上げるために消費税の増税という議論は間違っている。国税たる所得税を充実させることが重要だ。地方分権の議論の中では、住民に近いところで所得課税を行うという方向で所得税の抜本改正が必要だ。
和田正江氏(主婦連合会会長、政府税制調査会委員)
厚生労働省の調査によると、低所得者と高所得者の格差は十年前の六・七倍から七・九倍と格差が拡大した。所得税減税の結果である。
日本の課税最低限は夫婦と子ども二人を標準世帯として比較しており、実態に合わず納得できない。
消費税は廃止すべきと主張しているが、税調の中では消費税は重要な税金だ、答申に税率引き上げを明記すべきだ等の意見が多数です。税調には特別委員を含めて四十数名いるが、消費税率引き上げ反対の委員は私以外にほんの数名です。日本生協連の調査では、年収四百万円未満の世帯では消費税の負担が三・四三%、一方年収千六百万円以上の世帯では一・七三%と、低所得者ほど収入に占める消費税の負担割合が高く重い逆進性がある。
地方への財源の委譲は必要だが、国からの財源を一律に削減するのは問題。無駄な公共事業や地方自治体の塩づけ土地の見直しが必要。
四十数名の税調メンバーの中で消費者団体の立場というのは私一人。普通の庶民の納税感覚をもっている人がきわめて少ない。改革が必要だ。
阿部敏夫氏(東京中小企業家同友会常任理事)
不況の中で、赤字企業まで課税する外形標準課税を導入すれば税収は上がらず、逆に悪くなる。外形標準課税の導入は中止を。
私は独立して以降、節約に節約を重ねて、いい機械を買うために預金したために修正申告をさせられた。中小零細企業を育てる哲学がない。法人税の応能負担、つまり累進的多段階の税率(所得千五百万円までは一五%、所得五千万円までは二五%、所得五億円までは三四・五%、所得五億円以上は四〇%)に変更することを提案したい。
取引先から今年も一〇%の値引き要求があった。三年連続の一〇%値引き要求。あまりにも大きすぎる。物をたくさん売ろうと思えば、安くする。ところが国の所得税、あるいは消費税は税収を上げるために上げようとする。これでは税収が伸びない。消費税率を上げれば消費が低迷し税収も伸びない。悪循環だ。
いま中小企業の経営者は後継者にどうやって会社を譲るかで悩んでいる。事業を後継者に継承できなければ、長期的に事業税も入らない。
《討論》
【和田】 所得税の課税最低限を比較するときの基準、例えば世帯構成の問題もある。実際は必ずしも高くない。それを構成している諸控除をきちんと見直しすべきだと思う。
【星野】 扶養控除は、所得税率が高いほど大きな減税となる。したがって、少子化対策というなら児童手当のような手当が効果的であり公平である。また地方税は国によって大きく違う。国際的に比較するのであれば、国税は国税として比較すべき。
【湖東】 国税である所得税の最高税率が三七%という水準は国際的にはかなり低い。しかも千八百万円以上が三七%となっている。
【和田】 生協連の家計調査によると、年収八百万円未満の中低所得者は明確に増税になっている。所得税・住民税の累進税率は緩和しすぎている。累進税率を上げることも選択肢の一つ。やはり基幹税として所得税を位置づけることが大事。
税調では多くの委員から「消費税率のアップは国民的理解は得ている」「消費税にもっとウエイトを置くべき」という意見が出ている。
【星野】 どうしても財源が不足しているのであれば、まず所得税を検討すべき。所得税減税をして消費税を上げていくというのは理屈に合わない。
【阿部】 消費税の引き上げには反対。税収が増えるとは思えない。景気を後退させる悪循環になる。また消費税は全部は転嫁できていないと思う。
【湖東】 消費税は転嫁できずに相当に滞納がある。二桁税率になったら、どうなるのか。消費税の欠陥である。
【阿部】 外形標準課税の導入反対です。消費税の段階で延滞が起きるということは、外形標準課税になれば、納税したくてもできない状態が起きる。
【星野】 中小企業に十分な配慮を行った上で、低額の外形標準課税を考えてもいいのではないか。いま現状では、地方の財源になるものがない。
【熊澤】 外形課税の方法はいろいろあるが、所得にかけることが問題である。
《会場から発言》
◆小泉内閣の支持率が高いが、改革の中味は国民に負担を押しつける改革だ。直間比率はまったく見直す必要はない。消費税は逆進性という決定的な欠陥がある。直間比率見直しという言葉に国民はだまされた。小泉人気も同じではないか。言葉の一人歩きを見抜かなければならない。
◆中小企業を育てる税制を。とくに法人税は応能負担原則で累進的多段階の税率を。外形標準課税は第二の消費税であり絶対反対です。
◆税調委員の人選で答申の中味が大方決まってしまうのではないかと心配だ。誰が人選しているのか。
◆私が住んでいる公団住宅は五千七百世帯あり、六十五歳以上の人たちが約千五百人いる。介護保険が始まり、年金から保険料が天引きされる。第二の税金だ。利用料が払えないので多くの人が介護保険を使っていない。お金持ちのお年寄りは多くないと思う。病気になれば高額医療費で苦しむ。営々と働き、きちんと税金を納めてきたのに、なぜいじめられるのか。消費税引き上げさせないために一緒に頑張っていきたい。
【和田】 税制委員の人選は財務省。人選で大方の中味が決まる。はっきり言えば政策決定の隠れみのにすぎない。外での世論を高めることが一番重要。
五段階の介護保険料の一番高いところは所得金額が二百五十万円以上です。累進的になっていない。一方、月額一万五千円以上の年金からは問答無用で取る。非常に問題だ。
厚生労働省の調査で高齢者世帯の半分以上が二百三十万円以下。年令に関係なく、所得が多いのであれば課税をすればいい。
【湖東】 小泉内閣は「痛みを伴う改革」というが、すでに痛みがあり、もっと痛みをというのが小泉流。もっとも顕著にあらわれるのが税制や介護保険料などだ。財政再建にアメリカの例は役に立つのか。
【熊澤】 いま言われている構造改革は、過剰人員、過剰設備、過剰負債を解消するということ。業種では流通、建設、不動産、および金融。三つの過剰を解消する決め手として不良債権処理があるが、大量の失業者が発生する。労働力の流動化で解消するという意見があるが、容易ではない。例えば建設業の労働力は高齢だし、地方では雇用機会が非常に少ない。わが国の雇用情勢に深刻な影響を与えるだろう。
アメリカの財政再建の要因は(1)大幅な軍縮、(2)好景気、(3)好況時に所得税の最高税率を上げたこと。それに対して、日本は最高税率を下げる減税を行い、軍縮を行わず、公共事業費の浪費を行ってきた。その上、財政再建はすべて国民がやるというのではひどすぎる。
【湖東】 アメリカの場合は消費税がなく、景気に与える悪影響がなかった。
主催団体の湊正義氏
(全国公団住宅自治会協議会代表幹事)
日本生協連、消団連、公団自治協などで消費税ネットワークという組織をつくっている。消費税が三%から五%に引き上げられたとき運動が分散した反省から、国民的な運動をめざしてつくった。今日の企画は、公団自治協と全建総連が発案し、八団体の実行委員会主催の取り組みになった。参議院戦後には、消費税引き上げがやってくると思う。これに反対する運動を広く広げていく必要がある。今回の税制シンポジウムの取り組みをステップにして、国民運動を作って、消費税引き上げを阻止したい。