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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年5月号

激痛をともなう緊急経済対策

広範な国民連合神奈川代表世話人    竹田 四郎


 末期症状の森内閣は本年四月六日、日米両国の株価大暴落に恐れおののいて、緊急経済対策を決めた。死に体の森前首相は日米首脳会談でブッシュ新大統領から、金融機関の不良債権処理を強く要求されたようだ。六カ月以内に目処をつけると国際公約してしまった。小泉新首相も「構造改革は景気回復の前提だ」「不良債権処理はやる」といいきっている。銀行や自民党支持層救済のため改革を先延ばししてきが、にっちもさっちもいかないところに追い込まれてしまった。小泉新内閣は強行するだろう。担当大臣も留任している。
 金融機関の不良債権は景気回復の障害のひとつになってもいる。その他にも来年四月からペイオフ解禁となると、預金者は信用度の高い銀行を選択する。また本年度から国際会計基準、とくに時価会計が適用になると、バブル時代に取得した高価格の有価証券を多く持っている銀行は資産評価が劣化する可能性がある。国際的にも国内的にも競争上体力強化が要求され、先送りが許されなくなった。政府自民党は、きたる都議選、参議院選挙に勝つために総理総裁の看板換えと同時に、不良債権処理を、他の銀行保有株式買上機構創設や都市再生、土地の流動化とともに緊急対策として掲げる必要に迫られた。
 打ち出したはよいものの、どさくさ紛れにつくったもので各方面との調整が済んでいない。政策の主要対象となっている金融機関すら、十分納得していない。買い上げ機構に出資する腹もできていない。政府の大臣間でも、金融相と自民党政調会長とも基本的考え方で一致していなかった。官僚も傍観している。実施時期も明確さをかいている。こういう状態で世界中が注目している金融機関の構造改革がきっちりと実施できるかどうか危ぶまれる。できないとなると、国内外の信用は失墜し、経済は混乱し低迷する。しかし、その悪影響、とくに勤労者や弱者にとって激痛となって襲いかかってくる。

 銀行保有株式買上機構なども最後は税金でカバーすることとなり、国民の負担になるが、紙幅の関係で『不良債権の抜本的処理促進』を中心に述べてみよう。勤労者の日常生活に直接に厳しい影響が出てくるだろうから。『主要銀行は破綻先(倒産など法的整理をした企業)、破綻懸念先(営業はしているが破綻の可能性が高い企業)債権を二〇〇三年三月末までに処理し貸借対照表から消去』、『新たに発生した破綻先、破綻懸念先債権は三年以内に処理』、『処理実績を決算期ごとに公表させ、金融庁が点検』するとなっている。産業再生法で再建計画が認定された企業向け債権を放棄した場合は、銀行に対して無税償却を認める。二年間に直接償却すべき不良債権の金額は十二兆六千六百億円で、普通の三分の一以下の短期間に銀行のバランスシートから落としてしまえということである。

 直接償却の方法は、(1)貸出先企業に対する債権放棄、(2)採算部門を残し不採算部門を整理させるなどで、放棄部分は銀行のバランスシートから落とす。通常銀行は毎期貸倒引当金を積み立て、貸出先が破綻したとき、それで、不足すれば業務利益を足して、あるいは保有株を売却した利益を加えて、赤字決算にならないように会計処理する。これを間接償却という。銀行は赤字決算を嫌うし、普通政府も認めない。今回の直接償却による赤字決算を金融庁は認める。赤字決算をすると配当支払いができず、公的資金を投入した政府は普通株主同様に経営介入できる。銀行側はそれを嫌って赤字決算をできる限り避けたい。しかしバブル崩壊後、地価株価が大幅続落し、長期不況で貸出先の経営も悪くなり、不良債権は増えるし、銀行の業務利益も大幅増加を期待できない。積み立てられている引当金は十三兆円近くあるが、金融庁が不良債権と認める債権は四十八兆円あり、主要銀行だけでも年間六兆円も増加する。地価の値下がりがつづく現状では担保価値の下落もあり、不良債権は増えるばかり。銀行は関係の深い貸出先に対しては債権放棄(徳政令)をして再建に力を貸すが、そうでないところに対しては貸出金を引き上げたり、取引をやめてしまうだろう。企業は倒産に追い込まれる。

 業種別に見ると、不良債権の多いのは建設、不動産、流通である。富士総研の調査によると、二〇〇〇年三月末の全産業の過剰債務は六十四兆円、前記の三業種は四十六兆円を抱えている。過剰雇用は百十万人のうち六十万人に達する。日本総研の山田久氏によれば、破綻先債権、延滞債権を処理した場合、百三十万人が失業し、完全失業率は二月の四・七%から一・九%増の六・六%くらいまでなるだろう。失業保険の拡充、住宅ローンの軽減、労働派遣法の整備など賃下げへの対策が急がれると述べている。労働者のみならず、破産する中小企業者へのセーフティネットの強化を急がなければならない。この面での政府対応はゼロに等しい。二年間に十二兆六千六百億円の、さらに今後発生する不良債権を短期に償却すれば、国民各層に激痛を与える。これだけの大手術をしないと構造改革も景気回復もないかもしれない。手術にかかる前に従来の制度を見直し、対応できるセーフティネットを構築しておかなければならない。最近自殺者や刑法犯罪の増加が伝えられ、市民の日常生活さえ脅かされている。また日本産業経済のグローバルな、とくにアジアにおける役割や地位についても、国民に展望を明示するのが政府財界の役割である。関連団体も不良債権処理への対応とセーフティネット構築についての提案を示すべきだ。

緊急経済対策の概要
(1)金融再生と産業再生の一体解決
■不良債権の最終処理に年限設定
・主要行の「破綻懸念先」「破綻先」などの不良債権が対象
・既存案件は2年、新規案件は3年以内に最終処理
・実績を毎期公表し、金融庁が進ちょく状況を点検
■債権放棄の円滑化
・金融機関と取引企業の調整円滑化へ官民へガイドラインを策定
・産業再生法の認定を条件に、政策融資・財政面で支援
・預金保険機構など公的金融機関の債権放棄も容認
■銀行の株式保有額を自己資本の範囲などに規制
・基準を越える株式は一定期間内に処分
■「銀行保有株式取得機構」の創設
・買い取り資金に預金保険機構など公的支援を検討
・対象銘柄は株価指数の構成を考慮
・一定期間後、投資信託などの形で投資家に売却

(2)証券市場活性化策
■金庫株の解禁、株式投資単位の引き下げ
■現物出資型の上場投資信託(ETF)の導入

(3)都市再生・土地流動化
■首相を本部長とする「都市再生本部」を設置
・環境、防災、交通基盤に重点を置いたプロジェクトの推進
■不動産の証券化の推進、都市計画の柔軟な運用
■PFIの積極活用、公務員宿舎跡地の再開発

(4)雇用の創出とセーフティネット
■中高年層の失業者を雇用した企業への奨励金の延長
■IT、医療、介護など新規分野で規制緩和

(5)税制改正
■証券、土地関連税制の早急な検討