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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年1月号

農家の暮らしとWTO農業交渉

JA全中農政部WTO対策室室長 今野 正弘


WTO閣僚会議決裂以後の状況

 一九九九年十二月、新しいラウンド(多角的貿易交渉)を立ち上げようとしたシアトルのWTO(世界貿易機関)閣僚会議は、各国の対立やNGOの反対運動によって決裂しました。その結果、新ラウンドの目処はたっていません。しかし、WTOの規定で閣僚会議は二年に一度を開くことになっていますから、二〇〇一年秋には、いずれにしろ閣僚会議が開かれます。
 一方、ウルグアイラウンドで合意したWTO農業協定二十条は、実施期間(九五〜〇〇年)終了の一年前から農業交渉を始めると定めています。そのため、二〇〇〇年三月にジュネーブで開かれた農業委員会特別会合で農業交渉がスタートし、六月、九月、十一月と四回開かれてきました。これまでのところ、各国が十二月末までに交渉提案を出し、二〇〇一年三月までに追加や修正提案を出すことが決まっています。
 しかし、農業協定二十条では、交渉の期限は決まっていません。アメリカは二〇〇二年に交渉を終了させようと提案していますが、日本もEUも農業だけでなく他の分野もいっしょに新ラウンドで包括的に交渉すべきだ、と提案しています。したがって、二〇〇一年秋のWTO閣僚会議で新ラウンドが立ち上がるかどうか、それが今後のポイントです。
 農業交渉自体の提案は、アメリカが六月に包括的な提案をしました。十一月の段階では、EUやケアンズグループ(オーストラリアなど輸出補助金なしの農業輸出諸国、十五カ国)は、まだ部分的な提案しかしていません。日本は十二月の関係閣僚懇談会で提案をまとめたところです。
 日本提案は、九九年のシアトル会議の前に、政府、自民党、農業団体が一緒になってつくった提案がベースになっています。JAグループはWTO農業交渉の課題等について組織討議を行って、われわれの主張を日本提案に反映すべく努力してきました。各地からの意見で最も問題になったのは、米のミニマムアクセスと一般セーフガードです。

米のミニマムアクセス

 ウルグアイラウンドでは「例外なき関税化」が原則となり、関税化する場合にも最低限の輸入(ミニマムアクセス)の機会を提供する制度が決められました。ミニマムアクセスは初年度(九五年)が国内消費量の三%、六年目(二〇〇〇年)が六%です。しかし、特例措置として関税化しなかったため、初年度が四%、六年目が八%(毎年〇・八%ずつ増加)に加重設定されました。
 特例措置を選択した日本の米は国が一元的に輸入するため、ミニマムアクセスは輸入機会の提供ではなく輸入義務となっています。特例措置を続ければミニマムアクセスが増え続けるので、九九年四月から関税化に移行しました。その結果、現在は約七%に下がっています。それにしても、七十万トンの輸入は米どころの新潟県の生産量を大幅に上回る数量です。
 UR合意以降、米の価格は一五〜二〇%も下落し、一方で豊作による在庫が増え、来年度は一〇一万ヘクタールの生産調整に取り組まねばなりません。この面積は全国の水田の約三八%にもなります。
 国内の稲作農家は二重三重の苦しみを受けています。生産調整しながら、なぜ輸入しなければならないのか。農家から疑問や怒りが噴出しました。JAグループは、ミニマムアクセス制度を見直し、大幅に縮減することを要求しています。

野菜の輸入急増と一般セーフガード

 生鮮野菜はここ数年、国内の生産量が変わっていないのに、輸入が急増しています。これまでは、国内の端境期に輸入するのが通例でしたが、最近は恒常的に輸入されているのが実態です。その結果、産地での価格が下落して、農家の所得が減少し、再生産もおぼつかない状況です。
 例えば、平成九年度と十一年度を比較すると、ネギの輸入量は九・一倍になり、その結果、国内出荷量は二%減り、卸売価格は一二%下落しました。生しいたけは平成九年度と十二年度を比較すると、輸入は一・六倍、国内出荷量は一〇%減、卸売価格は一一%減です。い草(畳表)も輸入が二・四倍になり、国内出荷量は四六%も減りました。野菜農家は大変な状況です。
 各地のJAで対策を求める声が高まり、かなり多くの県議会がセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動を求める決議をしました。
 政府は今回、生しいたけ、ネギ、い草の三品目について、WTOの一般セーフガード(緊急輸入制限措置)という制度に基づき、調査の開始を決定しました。十二月二十二日から調査を開始し、今年三月二十二日が証拠の提出期限、四月二十七日が証拠の閲覧や意見表明の期限となっています。こういう手続きを経て、政府が発動するかどうかを判断します。産地の現場からは、もっと迅速にできないのかという声があります。
 日本の場合、工業製品も含めて一般セーフガードを発動した実績がありません。しかも、一般セーフガードは、貯蔵ができる工業製品と季節性があり腐りやすい農産物とを同じように扱っており、これには無理があります。WTO農業協定には、農産物を対象とした自動発動できる特別セーフガードがありますが、これは、米、麦、でんぷん、乳製品など、ウルグアイラウンドで関税化した特定の農産物に限られています。
 このように一般セーフガードについては改善すべき点があります。農産物については、特別セーフガードと同じように、一定の基準を設定しておいて、その基準をこえた場合は自動的に発動できるようにすべきだと要求しています。

多面的機能について

 ガット時代から、農業交渉の流れはアメリカなどの輸出国主導の論理で来ています。しかし、自由化一辺倒の路線では各国の農業は生き残れません。どこかの国の農業だけが生き残ればいいということではなく、世界の国が共存できるような農業貿易のルールにすべきだと思います。これまでの自由化路線の流れに歯止めをかけていかなければなりません。それが多面的機能の提案です。 それぞれ国の農業は、農産物を生産するだけでなく、その国の自然環境を守り、国土を保全し、あるいは農村を活性化するなど、多面的な機能をはたしています。こうした多面的機能は輸入できるものではありません。各国に農業が存続しななければ、発揮できない機能です。
 農業協定にも「交渉において非貿易関心事項を配慮する」と明記されています。日本もEUも、この非貿易関心事項の中に多面的機能が含まれていると主張しています。そういう関心事項に配慮しながら、各国が共存できる農業貿易のルールをつくろうというのが日本の提案です。
 アメリカやケアンズグループは、多面的機能の概念や定義が明確でないと主張しているので、WTOの機関だけでなく、OECD(経済協力開発機構)など、他の機関でも多面的機能について国際的な概念づくりに協力してもらっています。
 幅広い国民各層がこうした考えを支持し、日本の農業を共に守ってほしいと思います。(文責編集部)